其の三十八 現れた相棒
ジュウは最初、それは大きな鳥だと思った。
だが、接近するにつれて、それが間違いであることを悟った
三角型のボディ。銀色に光る機体。まるで無音のエンジン音。
シューティングゲーム『ゼノ×ストライク』。その戦闘機だった。
さらに、戦闘機と彼らの間には、形が違う別の戦闘機が並んでいて、その銀色の戦闘機と相対している。別系統の戦闘機はそれに銃弾を浴びせかけるが、銀色の戦闘機はそれを華麗に回避し、そして発砲。一発でそれらを地上に落としている。
「ん………なんだ…… !?」
背後に聴こえる爆音を聞いて不審に思い、イシュブルグは後ろを振り向き、そして仰天した。
全長10メートルの、得体の知れない鉄の塊が、すぐ目の前まで迫ってきたからである。
「なっ………!?」
その頭頂部はまっすぐとイシュブルグの頭部へと向けられていて、
そして、激突した。
ゴバアアアアアア!!
「ぐ、あああああ!」
さすがの魔神もたまらず、うめき声を上げて顔を抑える。爆炎がけたたましく燃えて、戦闘機の部品は跡形も無く木端微塵となった。
そして、その激突前。戦闘機から飛び出したひとつの影があった。
マッハに等しい速度。それでも、彼は勇気を振り絞って、操縦席の窓を開けた。
「ジュウウウウ !!」
その少年の名は、佐久間浩介。通称ナニワ。
「ナニワ…… !!」
ジュウは走り出した。戦闘機から雲まで高さ約10メートル。飛び降りて怪我をしない保障は無い。ナニワの着地点で、受け止めようと考えた。
しかし、
「このどあほ !!」
空中からの垂直ダイブキックが、ジュウの顔面に炸裂した。
メリメリッという効果音が聞こえそうな、見事な直撃。
「ごべはぶっ !?」
ジュウはたまらず、後ろから雲の地面に頭からつっこむはめになった。
ナニワは彼をクッションに、雲の上へ着地。
「い、いってえな! なにすんだよ! ナニワ !!」
くっきりと足跡が残った顔で、ジュウはおきあがりざまに叫ぶ。
ナニワは半泣き状態ながらも、怒りに眉をつりあげた。
「うっさいわ! なに俺をのけ者にしとんねん!」
「の、のけ者ってなんだよ! そんな怪我した体で、戦えるわけないだろ!」
「そのセリフ。そっくりそのまま、おまえに返したるわい! いつも人の話聞かんと、無茶ばっかりしよって! ちょっとは俺を信頼せえ!」
「…………… !!」
ジュウは思わず、言葉を詰まらせる。
ナニワの足は、震えていた。
人一倍怖がりの彼にとって、戦闘機から飛び降りるという行為は、彼の精神に大きな負担をかけていた。
でも、彼は動かずにはいられなかった。
「前回の冒険でも、俺はおまえに助けられてばかりやった。それこそ……割りに合わんやろ! だから、今度は俺が、おまえを助けたる!」
ジュウがナニワとのテレビゲームに付き合ったように。
ナニワは、ジュウの冒険に付き合う。
それが、友達だから。
「ナニワ……おまえ……」
その時、彼らの背後から、再びどす黒く、低い声が聞こえた。
「おのれ、次から次へと…… !!」
魔神。イシュブルグの顔は苛立ちに顔を歪ませ、怒りに燃えていた。
その顔には、火傷の跡すら無かった。大きな衝撃を持つ攻撃で、多少のダメージは与えられるものの、やはりすぐに再生してしまう。
「あ、あれでも効かへんのか !? ほんまに勝てんかいな!」
ナニワは恐怖に体を震わせる。そこで、
「……ナニワ。ちょっと耳貸せ」
ジュウはナニワの耳に手を当て、コショコショと小さな声で伝えた。
彼が先刻から狙ってる、唯一の勝機。
それを聞いてから、
「……まあ、確かにそれしか方法はあらへんかもやけど……ホンマ、無茶やでそれは」
と、やや呆れながら答えた。
しかし、ジュウはナニワの目を真っ直ぐと見据えて、言い放った。
「ナニワ。俺を助けてくれ」
「………… !!」
一瞬の間。ナニワは呆気に取られてから、
ニヤリと微笑んだ。
これ以上のない、信頼の言葉だった。
「……10秒や。10秒、時間を稼ぐんや」
そう言うと、ナニワはウエストポーチからGBN―――【臆病な英雄】を取り出した。
その時、強烈な光が彼らを眩しく照らした。
発行源は、イシュブルグの掌の上だった。
「何をごちゃごちゃ言っている。小僧共」
地の底から震え上がるような声。その右手の掌の上には、先刻、砂漠の一部を吹き飛ばした、大きな光の弾が作り出されていた。
それはさらに強く、輝きを増していく。
「もううんざりだ。これで、二人諸共、消し去ってやる !!」
そう叫んで、右腕を大きく振りかぶる。
目標はジュウと、その後ろにいるナニワ。直線状に並んだ彼らをまとめて消し去るつもりである。
およそ人間個人に向けられるべきでない、莫大なエネルギーを纏った一撃が、迫りこようとしている。
しかし、ジュウはひるまない。恐怖しない。
ただ一言。叫んだ。
「ナニワ! 俺がおまえを守る。だから、おまえは俺を守れ!」
「当然や! 相棒!」
掛け合い、そして、ジュウとナニワは、お互いの成すべき事を始める。
ジュウは、両手を前に掲げた。
ここで避けたら、ナニワにぶつかってしまう。ナニワを抱えて回避したとしても、その隙に攻撃を受けてしまうことは予想できた。
彼がとった選択は、防御。
両手で光の弾を受け止める。
ナニワはその行動を視界にも入れず、彼の目には【臆病な英雄】の画面のみが映っている。
そのゲームディスクは、先ほどの戦闘機ゲームのそれではなく、全く別のものに入れ替えられている。
ナニワは、ナニワの成すべき事を始める。
「フハハハ! 気でも狂ったか! そのまま、死んでゆけええええええ !!」
光の弾の輝きが頂点に達し、その弾が金色の尾を引いて、真っ直ぐにジュウとナニワへと向かっていく。
そして……