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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
69/196

其の三十六 ジュウVSイシュブルグ

 同時刻。

 宮殿の中央広場。イャンクッドが戦ったその場所で、魔術士リリアナが倒れていた。

 絨毯に穴を開けられて飛行能力を半ば失いながらも、かろうじて致命的な墜落をまぬがれることができ、不時着したのである。


「……うぅ」


 うめきながら、ゆっくりと体を起こす。減速しながらとはいえ、体に受けたダメージは多大であり、全身が悲鳴を上げていた。

 おもむろに周囲を見渡し、地上にいることを確認したリリアナは、続けて空を見上げる。

 わずかな小さい黒点が動いているのが見えた。

 彼は―――ジュウは戦っていた。

 リリアナは少し離れた所に広げられた絨毯を見る。修復は不可能なほどに、ズタボロだった。

 『空飛ぶ絨毯』はかなり高密度・高技術の魔法陣と呪文によって創られている。それは先代から代々受け継がれてきたものであり、半人前のリリアナでは修復はおろか、その基礎構造を理解することさえ敵わなかった。

 他に空を飛ぶ術を知らない。再び、救出に行くことは不可能だった。


(………でも、どうせ、行ったところで……)


 行ったところで、どうにかなるはずもない。

 魔神イシュブルグは最強無敵。不死身の肉体。封印するしか生き残る道は無い。

 だからといって、ジュウの提案した策は無謀と言わざるを得ない。不可能と言っても良い。

 それでも、彼は確かに笑っていた。


(「やってみなきゃ、わかんねぇだろ!」)


 敗北を疑うことなく、信念のまま、勝利を信じて。

 彼は立ち向かった。最強無敵の魔神へ。

 リリアナは―――立ち上がった。

 彼女は、彼女自身のために、なにより、一人の友の為に立ち上がった。

 ここでへし折れている場合では無い。例えあの場所にいけなくても、ここから援護する手もあるはず。


(だけど……どうやって……)


 リリアナは空を見上げながら、あらゆる長距離攻撃用の魔術を脳内検索するが、どれも決め手に欠けた。複雑な準備と長い時間を要する上に、この距離ではまともに当てられるとは限らない。

 魔術師リリアナは考える。

 その時、彼女は初めて、その場にある巨大な噴水の存在に気付いた。

 広場中央。高さ数メートルまで水が吹き上げられ、空中で霧散する。カラカラに乾いた地方であるにも関わらず、その一帯だけはその噴水により、涼しげな湿った空気が流れていた。

 そして、


「…………!!」


 彼女は閃いた。

 少なくとも、魔神と互角の条件で勝負できる最善の策を。



 そして上空。ジュウVSイシュブルグ。

 ジュウはすでに何回立ち向かい、跳ね返されたか分からなかった。

 飛び掛かっては跳ね除けられ、偶然に頼るように近くの浮遊石に着地する。その繰り返しである。もちろん、魔神イシュブルグにダメージはわずかさえ無い

 しかもその度に、足場である浮遊石は、魔神によって破壊されていた。ジュウを標的としているより、浮遊石の破壊について重点を置いているようだった。

 じわじわと。いたぶるように。精神的にも、肉体的にも、窮地へと追い込む。


「無駄だ無駄。いい加減理解することだ。何百回。何千回。何万回拳を当てようと、ワシは倒れんぞ」


 魔神はクククと含み笑いをする。

 それは、明らかな事実だった。いずれ足場が無くなってしまうのは時間の問題。

 ジュウは一旦、攻撃態勢を解くと、「う~ん」と腕を組み考え始めた。

 そして、閃いた。

 ニヤリと不敵な笑みを見せると、

 その石から飛び降り、そしてその石を蹴飛ばした(・・・・・・・・・)

 自ら足場を失くしたのだ。


「…………… !?」


 突然の奇怪な行動に、魔神は一瞬度肝を抜かれたが、その狙いはすぐに分かった。

 飛ばされた石は、少し離れた石へぶつかり、さらにその石も他の石へ―――まるでピンボールのように、彼らを囲んでいた浮遊石がぶつかりあい、右往左往、縦横無尽に飛び交い始めたのだ。

 その最中、ジュウは、またもや偶然に頼るかのように、飛び交う石へと着地しては他の石へと飛び移る。

 いわゆる、撹乱作戦である。空中での素早い移動で、魔神を翻弄しようというのである。

 しかし、これには大きな欠点があった。

 ここは囲いの無い空中。どこにもぶつからない石は、その空域を脱してしまう。つまり、足場を急激に失ってしまうのだ。

 実際。周囲の浮遊石はみるみるうちに少なくなっているのが分かった。


(……ふん。所詮、子供の浅知恵か)


 イシュブルグが呆れて失笑する。その時、


「うおおおおおおおお !!」


 ジュウが雄たけびをあげながら、イシュブルグに迫った。

 それも真正面。足場ほどしかない大きさの浮遊石の上に立っていた。

 当然。イシュブルグは彼の存在に気付く。この時点で、撹乱作戦は全く無意味のものとなった。


「……少しは考えろ。小僧!」


 イシュブルグは苛つきながら、右手を大きく振り回す。

 すると、その爪の一つが剥がれ、さながらドリルのように変形しながら、高速で進んでいく。それは激しい回転をしつつ、ジュウの心臓めがけて向かった。

 いわば『爪弾』。一瞬のうちに、ジュウの胸の手前まで距離を縮めた。

 だが、ジュウはまるであらかじめ予期していたかのように素早く、足場(浮遊石)の下に潜り込み、それを回避した。

 両手でぶらさがるような姿勢。そのまま、なお、浮遊石は慣性に従って前進する。

 魔神とジュウ。両者の距離は、およそ5メートル。


「…………!!」


 ジュウのねらいは、撹乱ではなかった。

 今この瞬間。イシュブルグに接近することが目的だったのである。

 何十もの浮遊石がぶつかりあい、移動すれば、おのずと魔神に向かう石も出てくるはず。ジュウは周囲の石に飛び移りながら、そのチャンスを待っていたのだ。

 そして今、接近することに成功した。

 体が大きく、リーチが長いということは、そこに到達するまでの時間も長いということである。故に、センチ単位で接近されたり、足元にもぐりこまれた場合、対処しきれないという弱点が巨人にはあった。ジュウはそれを本能的に察知していた。

 今、ジュウはイシュブルグに対し、完全に死角の位置に居た。胸の前。浮遊石の下で、ジュウは左足を大きく振りかぶり、魔神の顎へ蹴り上げようとする。

 しかし、


「………… !?」


 ジュウは言葉を失った。

 突き出された左足。

 そこに、イシュブルグの顔面は無かった。

 空気を切る音だけが虚しく響いた。彼の眼前には広大な空が広がっていた。

 魔神の首から(・・・・・・)上が無かった(・・・・・・)


「残念だったな。小僧」


 低く。どす黒い声が聞こえた。

 その発声源は、ジュウの後ろ斜め下。

 魔神の厚い胸板から、生首が生えていた。

 ジュウがその顔を確認する前に、魔神は行動を起こす。口を大きく開けると、放射状に広がる炎を吐き出した。

 それは容赦なく、ジュウに襲い掛かる。


「うわあああああああ !!」


 直撃。体が炎に包まれながら、弧を描いて吹き飛ばされた。

 完全に無防備な状態。そして、イシュブルグの右掌が横殴りに迫り、再び彼を鷲掴みにした。


「フハハハ! だから無駄だと言ったのだ。ワシは、人間が想像できることならば、大抵のことは実現できるぞ! なんでも願いを叶えることができるのだからな!」


 胸に生えた魔神の顔が歪み、そして高らかに笑う。

 その生首が引っ込み、再びもとの位置に頭が戻った。


「ふむ。だがしかし、先ほどの攻撃でおまえの狙いは分かった。……確かに、可能ではある。相手がこのわしでなかったらな……!」


 ググッと、拳に力を込める。


「が、あああああああああああああああああ !!」


 折れた骨が、ヒビの入った骨が、さらに軋み、ひび割れてゆく。


「さて……そろそろ飽いた。こんどは確実に、息の根を止めてやる」


 そう言って、左手を掲げる。直後、その人指し指の表面にギザギザ状の歯が現れると、さながらチェーンソーのように、高速で回転し始めた。

 そしてそれを、右拳の上へ。ジュウの首の真横へ運ぶ。

 狙いは、首の切断。


「………ぐ……ぎぎぐぁ……ああ… !!」


 ジュウは必死に体をよじり、脱出しようともがくが、それも敵わない。

 銀色の残像が、死の面影を伴って目の前に迫る。


「さらばだ、小僧」


 最後にニヤリと、イシュブルグは今までで最高に歪んだ笑みを見せて、

 そして、その人指し指を振る。

 その時だった。

 突如。彼らの視界が真っ白になった。


「…………!?」


 白。一面真っ白。とはいえ、それは失明したというわけではなく、彼らの周囲一帯が、大きな白雲に包まれたのだ。

 しかも、それは本物の雲のような水蒸気でできた雲ではなく、明確な色を伴ったモノだった。

 さらにそれは、彼らを強引に下から押し上げていく。突然の現象に一瞬、イシュブルグはひるみ、その手を緩めた。

 ジュウはその隙を逃さなかった。最大の力でイシュブルグの手を内側から蹴り飛ばし、その反動で脱出した。

 イシュブルグがそれに気付き、再び捕まえようとするが、視界は不明瞭。その雲のなされるがまま、彼らは上へ上へと押し上げられる。

 そして、空が開けた。

 気付くと、そこは雲の上だった。

 四方1キロ程。真っ白な雲が広がっていて、その上にジュウは立っていた。


「うおおおお! なんだこりゃあ !?」


 ジュウは興奮し、大仰に辺りを見回した。

 広大な足場が出来ていた。

 イシュブルグも少し離れた所にいて、不愉快そうに顔をしかめた。

 そして気付く。

 この雲が、魔力を伴ったものであることを。


「まさか…… !?」



 彼らの5000メートル真下。

 そこで、大々的な魔術が展開されていた。

 中央庭園の噴水。それを囲むように、砂をなぞって描かれた簡易な魔法陣。さらに、その庭園一面を覆い尽くす炎があった。

 その炎の先からは、白い雲がモクモクと大量に噴出されていた。

 その魔術名は、『クラウディア・ステマ』。術者の想像する雲を創りだす魔術である。

 魔術は直ぐに発動できるものではなく、高度なものほどその時間は長い。しかし、ある代用物を使用すれば、短時間で発動できなくもない。

 その魔術の必要条件は『水』と『炎』と『風』。

 本来、この3つの要素を含む複雑な魔法陣を描く必要があるが、リリアナは『噴水』と、手元にあった燃える聖水『フレアリキッド』、急いで作り直した刃風扇によるカマイタチをそれぞれ、『水』『炎』『風』の代用とし、魔法陣を簡略化したのである。

 創りだす雲は『触れる』雲。ジュウの足場を作るために、彼女はこの魔術を発動したのだ。

 リリアナは庭園の直ぐ傍。屋内において、大量の熱を顔面に感じながら、長々と呪文を唱え続けていた。高度な魔術ながら、その呪文も膨大。間違えないように細心の注意を払いながら、彼女は唱え続ける。

 強く想うのはただ一つ。

 

―――ジュウを、死なせはしない!


 彼女は、遥かその先を見据えるように、空を見上げる。


(アタイができることはここまで。後は任せただわさ……!)



「……小娘の分際で。小癪なマネを………!」


 イシュブルグは歯をギリリと噛み締めながら、視線を落とす。魔神の魔術ならば、雲を透過して、衛星のごとく地上の様子を伺うことは造作も無いことだった。


「んん? なんかわかんねぇけど、これで互角に戦えるぞ!」


 ジュウは笑い、構える。

 半身を傾けた、素人のような構え。イシュブルグはそれを見て、フンと鼻で笑った。


「……まあいい。些少なことよ。足場があろうがなかろうが、このわしに勝てるものは存在せぬわ………!」


 そう言って、魔神は微笑む。

 体格差。絶対的能力。不死身性。

 足場が確保されたとしても、やはりそれらにおいて、ジュウは何一つ対抗する術を持たない。


「寿命がわずかに延びただけだ。小僧。今度こそ覚悟しろ」


 そして、圧倒的存在感をもつその巨大な足が一歩。踏み出された。

 その時、


「………んあ? なんだあれ………?」


 ジュウは、魔神の遥か後方から飛んでくる、あるものに視線を奪われていた。



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