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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
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其の三十二 壊れた正義

 正義の眼前で、魔神は大きく舌を出し、馬鹿にするように、まるで威厳のない口調で、

 願いを断った。


「……なっ……なんだと…… !?」


 思わず、正義は目を剥く。耳を疑った。

 そして、魔神の容赦ない言葉は続く。


「まるで滑稽だよ。正義とやら。このわしが-----大魔神イシュブルグ様が、なぜ人間の言う事を聞かねばならんのだ?」


 口の両端を左右に引き伸ばし、邪悪に微笑む。


「な、何を言うんだ? 『三つ目の願い』だよ! それがおまえの能力なんだろう?」

「『三つ目の願い』なら、もう叶えた」


 間髪入れず、魔神は答えた。


「だから……何を言っているんだ? 訳が分からないよ。おまえはまだ、二つしか願いを叶えていないだろう……?」


 正義は顔をしかめて魔神を見上げる。魔神は愉快そうに笑うと、言い放つ。


「いや。確かに叶えた。一つ目に、『おまえを助け』、そして二つ目に、……『ちょっと待った』」

「……………ちょっと……待った……?」


 正義は思わず反芻する。

 嫌な予感が、胸をよぎった。


「ああ。確かにわしは聞いたぞ。『ちょっと待ってよ! 帰る前に、皆に挨拶しないと』……とな」

「…………っ !!」


 正義は言葉を失った。

 その台詞は、一字一句間違いなく、魔神が召喚された直後に正義が言った『願い』だった。

 それは、稲原他、二人に対して言った願いだった。しかし、魔神はそれを『次の願いを言うまで待て』というふうに受け取り、事実、稲原が『願い』を言うまで、ずっと黙って待ち続けたのだ。


「ば、馬鹿な……そんな、子供みたいな言い訳が……!」


 正義は頭を抱え、足元をふらつかる。目の焦点が定まらない。


「おまえには感謝をせねばならないな。三つ目の願いだけはわしも困っていたところを救われた。といっても、わしがランプの呪縛に抗って、分身体を弱く設定したり、わざと侵入者を見逃したりしなければ、こううまくいかなかったかもしれんがな」

「な……なんだって……!?」


 その言葉に、デカチョーが目を剥ける。

 急須の想具(アテラ)。【王様遊戯(キングローリー)】。

 なんでも願いを三つだけ叶える能力を持つが、その後、魔神が解放されるという条件があったらしい。

 そして、魔神自身も解放されることを望んでいた。

 最強無敵の力を誇る魔神の分身体が、一般の戦士を瞬殺できないのも、常に上空から監視をしているはずなのに、裏門からデカチョーが進入できたのも、全ては魔神のはからいだったのだ。

 『願いをかなえる』という制約―――一種の呪縛に抗い、自分に有利な展開へと進めたのである。


「まぁ。小娘など、見逃しても良い些少な存在であったこともあるがな」


 と、薄く笑って付け加えると、魔神は天井を見上げた。

 そして、勢い良く飛び上がって天井を突き破り、屋外へ。城の真上10メートルほどの位置で浮かび、静止した。

 天井の穴から、デカチョーは魔神を見上げる。

 魔神は上空から周囲を見渡していた。

 そして、邪悪な笑みをこぼした。


「さて……三つ願いを叶えて解放されたところで……この国を火の海にでもしようか…… !!」

「え……… !?」


 デカチョーは、耳を疑う。

 そして魔神の両手に、光り輝く巨大な球体が生成されつつあった。魔神の視線は階下の城下町にあり、その球体は、それらを滅ぼしうる破壊力を持つことが直感的に理解できた。

 彼女は、まるで現状を把握できなかった。

 突然の急展開に、ただ混乱するばかり。だが、脅威は刻々と迫っているのは事実だった。

 魔神は今にもその光の球体を投げようとふりかぶる。

 しかし、その時。


「…………?」


 魔神は眉をひそめると、両手の光を消して、遥か上空を眺めた。

 そこには、この世界に存在しないはずの、分厚い雲の層があった。

 魔神はじっとその先を見つめ、そして、その表情が次第に恐怖をともなったものに変化する。

 顔色が変わった。


「!………まさか !!」


 魔神は言うや否や、超高速でさらに上空へと飛び、あっというまに雲の先へと姿を消した。

 そして再び、その場は正義とデカチョーだけが残される。


「………一体、なんだったんだ?」


 デカチョーは訝しげに上空を見上げる。

 正義はその不可思議もよそに、ただ、呆然としていた。

 そして、


「……嘘だ……嘘だ……!」


 正義は俯いて、ブツブツと呟きながらその場を彷徨うように歩き始めた。

 彼にとっての最後の希望が―――20年分の希望が失われたのだ。精神的なダメージは多大だった。


「し、しっかりしろよ! 兄ちゃん!」


 デカチョーは彼の両肩を両手で掴み、揺さぶる。正義の首がガクンガクンと揺れ、わずかな覇気も感じられない。

 いつもの精悍な正義は、そこにはいなかった。


「……もうだめだ。帰れないよ。……仕方が無い……愛誠」


 かぶりを振る正義。

 真顔で、正義は言った。


「一緒に、ここに住もう」


「!? ……何言ってんだよ。兄ちゃん」


 デカチョーは、動揺しながら、言葉を繋げる。

 正義はわずかに微笑みながら続ける。


「ここなら、水も、食料もたっぷりある。生活する分には、何も困らないぞ! 少し暇かもしれないが、なに、すぐに慣れる-----」

「何言ってんだよ! 兄ちゃん!」


 話を遮るように、デカチョーは叫び、掴まれた両手を無理やり解いた。


「なあ。本当にどうしたんだよ、兄ちゃん! 『仕方が無い』って弱気な事ばかり言って。アタシの知ってる兄ちゃんは、そんな弱い人間じゃないはずだ! こんな所で死ぬまでずっと暮らすなんて……そんなの嫌だ!」


 顔をしかめて、叫ぶ。しかし、正義は未だに真顔だった。


「現実を認めるんだ。愛誠。僕達が生き残るには、もうこの城で暮らすしかない。僕達4人で暮らすしかないんだ」

「! 4人って……アタシ達と、佐久間と天元のことか! なんで4人だけなんだ!?」


 デカチョーは怒りをにじませて吼える。

 そして、正義は言った。

 あまりにも、彼らしくない言葉を。


「仕方が無いだろう? 王様に仕える人や兵士達の分まで食料を分け与えたら、僕達の分が無くなるじゃないか」

「…………!!」


 デカチョーは絶句する。

 それはつまり、


「それじゃ……この城を乗っ取ったあいつらと同じじゃないか!アタシは……アタシはそんなの、許さないぞ!」


 怒りに叫び、デカチョーは正義の胸倉を掴む。今やデカチョーの方が身長がやや高いため、若干見下ろす形になっている。

 正義はその反応にやや驚き、その直後、

 悲しそうに顔を歪めて呟いた。


「おまえまで……おまえまで、僕を裏切るというのか……!」

「………… !?」


 魔神に続いて、妹も、彼の意思を拒んだ。

 彼の意思を、裏切った。


「ち、違う。アタシは、そんなんじゃ……」


 胸倉を掴む手を離して、一歩後退する。

 その時、階段からドタドタと大勢の人間が駆け上るような音が聞こえてきた。

 それは、大門の前で乱戦していた戦士。『正義団』の足音だった。彼らは全員、負傷を負っていて、五体満足な人間は誰もいなかった。


「セイギ!」

「! 王子さん!」


 戦士達の中。王子―――サィッハ=ラフィス三世が正義の姿を視界に収め、デカチョーが応える。


「!? マ、マナト!? どうして大きく……」


 サィッハは大人化したデカチョーの姿に驚く。


「これは、この指輪の能力で……それより、表の魔神は?」

「ああ。急に魔神達が煙のように消えてな。それで、なにかあったのかと思い、ここまで来たのだ」


 と、サィッハ。おそらく、三つ目の願いを叶えた魔神が、能力を解除したためだろう。

 そこで


「………あ!」


 サィッハが、遠くで倒れる稲原の姿を視界に捉える。全員の視線がそこに集中し、勝利したことを確信した。


「や、やった! 稲原を、倒したんだな!」


 全員が喜びに叫び、声を上げる。

 しかし、正義は未だ、ひどく動揺していた。

 戸惑いと、恐怖と、悲しみが混ざったような表情で、彼らから遠ざかるように歩を進めていた。


「? ……どうしたんだ? セイギ?」


 王子と他戦士達が異変に気付き、近寄ろうとする。

 しかし、


「く、来るなぁ !!」


 正義は両手を激しく振り回し、接近を拒否する。

 男達はその変貌に動揺した。彼らもデカチョーと同様に、みたことのない正義に戸惑いを隠せなかった。


「おまえら……おまえらみんなそうなんだ! くそっ! なんで……なんで僕だけ……!」

「? どういうことだ? 一体何があったのだ!?」


 サィッハはなだめるように話しかけ、接近するが、


「近づくなあああぁぁぁぁ!」


 正義はポケットからあるものを取り出し、剣のように目の前に掲げた。

 S極のみ残った青い棒磁石。

 【我侭放題(エゴスティック)】の半身である。


「…………! それは……!」


 王子達は、正義が見て聞いた話を全て記憶している。【我侭放題(エゴスティック)】の能力も、その中に含まれていた。

 そして正義ははっきりと口にした。

 ローマ字で、『S』から始まる単語。彼を含めた、その場の全員が所属するチームの名を。


「……『正義団』…… !!」


 瞬間。強力な斥力が、彼を中心に発生した。

 『正義団』に所属する、その場の全ての人間が、【我侭放題(エゴスティック)】から発せられる磁力によって、逆向きに吹き飛ばされる。   

 それはデカチョーも例外ではなく、あっという間に後ろの吹き抜けのバルコニーに向かって、体が宙へ浮んで飛ばされた。

 その力に耐えられる者はおらず、戦士達が次々と、外へと飛ばされてゆく。


「兄ちゃん! にいちゃぁああああん !!」


 デカチョーは悲壮に叫びながら、無情にもその体は、国の外の砂漠まで飛ばされた。

 王室に残されたのは、稲原の死体と、バルコニーで呆然と佇みながら、外を眺めている正義だけだった。


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