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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
63/196

其の三十 惨劇の始まり

 ムラマハド王国城内。長い黒髪をなびかせながら、長身の女が階段を駆け上っている。

 武町愛誠。通称デカチョー。

 城の正面入り口のすさまじいまでの乱闘を見て、それに突っ込むほど彼女は愚かではなかった。

 今、倒すべきは悪の元締め。兄が言う三人の現人(レウディス)である。

 正面では『人ならざるもの』達と『正義団』が戦っているのみで、それらしき人はいない。

 ならば、目指すは城内のみ。

 目の前で傷つき倒れていく者達を見据え、戸惑いながらも、彼女は踵を返して城内に入る他の入り口を探し、城の周りを走った。

 そして、正面入り口の反対方向に、裏口を見つけた。

 正面入り口とは対称的に、奥へと凹む形の壁に、人間二人分の幅ほどしかない小さな扉が、目立たないようにひっそりと設けられていた。ナニワが香川に、窮地に追い込まれた場所である。

 幸い、見張りは一人もいなかった。そして、戦闘することなく、現在、二階へと続く階段を登っている。

 元の小学生に戻る方法について少し考えたが、自分でもどうして変身したのか分からなかったし、どうしたら元に戻るのかも分からなかった。しかし、今の状態の方が、ダメージを負った身体であっても、戦闘に多少有利であると判断して、後でどうにかなるだろうという楽観的思考の上、模索を諦めていた。

 今はとにかく、打倒稲原。ボロボロの身体に鞭を入れながら、正義の灯火を燃やす。

 そして三階。

 豪華絢爛な王室が、視界に飛び込んだ。

 そこには、二人の男がいた。

 武町正義と、稲原犀。

 二人の男がいて、

 そして、もうすぐ一人(・・・・・・)になろうとしている(・・・・・・・・・)


「……愛誠……か…?」


 兄。正義が驚きに目を剥きながら、デカチョーを凝視する。

 デカチョーは答えない。


「……ハハッ! 驚いたなぁ! どうしたんだい。その姿! ああ、もしかして、僕が渡した想具(アテラ)の能力かな? 大人に変身する能力だったんだね。それにしても、背が高いなぁ」


 デカチョーは答えない。

 陽気に喋る兄の言葉は、頭に入っていなかった。

 まるで真っ白だった。

 何も考えられなかった。

 目を背けたかった。本気で帰りたかった。昨日に戻りたかった。いっそ消えてしまいたかった。

 ただ呆然と。目の前の現実を処理することに精一杯で、呼吸をするのも難しかった。

 そんな彼女の反応にかまわず、彼は満面の笑みを浮べている。


「そうだ。喜べ、愛誠! これでみんなも、僕達も助かるぞ!」


 歓喜一杯に言い放つ。

 その手には剣が握られていた。

 刃渡り60センチの血塗られた刀剣。

 血塗られたまま、それ(・・)を貫通して、床に突き刺さっていた。


 稲原犀が、心臓を突き刺されて倒れていた。


 血がドクドクと流れ、赤いカーペットが、その血でさらに真っ赤に染まっていた。

 身体を小刻みに痙攣させながら、助けを請うように、デカチョーに向けて手を伸ばしていた。その眼はうつろで、すでに顔に血の気がない。

 誰が見てもわかるように、彼は瀕死の状態で、そして助からない。

 正義が、犀を殺す。


「……ってんだよ。兄ちゃん」


 デカチョーはやっとのことで、苦しそうに声を絞り出した。

 震えた声で、身体全体を震えさせて、もう一度叫ぶ。


「何やってんだよっ!? 兄ちゃんっ!!」


 怒りと、嘆きと、驚きと、悲しみと。

 様々な感情と思考が入り乱れる中、力の限り叫んだ。

 それでも、彼には伝わらない。彼女の意思は伝わらない。

 そして正義は、剣から手を放し、彼女を迎え入れるように手を広げた。

 満面の笑顔。瞳の奥がドス黒く濁っているように見えた。

 これは始まりに過ぎなかった。

 一握りの幸せもなく、救いもなく、思い起こすことすら苦痛となる、悲劇と惨劇の始まりに過ぎなかった。


「……やっと、殺せた!」


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