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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
60/196

其の二十七 ラカスVSデカチョー

 一方。ムラマハド城近辺。


「い、いったい何が起こってんねん……」


 馬車の中でナニワがつぶやく。ルゥンダにより、身体に包帯が巻かれていた。

 今。彼の視線の先では、一人の少女と、一人の青年が戦っている。

 少女が上段回し蹴りを放つと、青年は身体を低く沈めて避ける。と同時に水面蹴りを軸足に放つが、少女は軸足を上げて避け、空中へ。直後、体重をめい一杯かけて肘打ちを仕掛けるが、青年は転がるように移動して回避した。

 デカチョーとラカスの対戦は、息つくひまもなく、激しい攻防を繰り広げていた。

 ナニワはふたりのめまぐるしい攻防に驚く。ルゥンダは、直前まで仲間だったはずの男の思わぬ裏切りに、戸惑いを隠せなかった。

 やがて、二人の距離が離れ、動きが停止する。

 デカチョーが肩で息をしているのに対し、ラカスはなお涼しい表情である。


(………こいつ。強い!)


 デカチョーは心の中で叫ぶ。

 老若男女。耀纏道場であらゆる人と試合をしたが、その中でも特に強いと確信した。彼女の放つ攻撃がまるで当たらず、また彼の攻撃も鋭く、防ぐのが精一杯の状態だった。

 一瞬でも油断すればやられる。そう確信していた。

 しばらくの沈黙が流れる。

 突如。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。その場にいた全員がその音の方向を見る。

 遠く離れた所。大きく砂が盛り上がって、それが次第に迫ってきているのがわかった。

 砂波(モゥシャ)

 この砂漠の至る所で頻繁に起こる謎の現象。それが、デカチョー達に向かってきたのである。


「!? な、なんやあれ!?」

「このままだと飲み込まれる! 早く逃げないと……!」


 ルゥンダはすぐさま馬車前方の操作席へ。アラマドのたずなを握り締める。

 人の足では逃げ切れない。


「デカチョー! 一旦乗れぇ!」


 ナニワが馬車から顔を出して、大声で呼びかける。

 その直後だった。


「…………」


 ラカスがいつのまにか、彼らの乗る馬車の真横まで移動していた。


「! なっ……!」


 思わず息を飲むルゥンダ。

 そして彼は行動を起こす。

 アラマドの胴を思いっきり蹴飛ばしたのだ。


 “ブッ……ブルヒィィン!”


 奇声をあげながら、アラマドは興奮し暴れ出す。ナニワ達を乗せ、行き先もデタラメに走り出した。手綱を操っても、制御しきれない様子だった。


「う、うわぁ!」


 馬車の中はガタガタと激しく揺れて、ナニワが身体を大きく打ち付ける。

 そして、砂波(モゥシャ)が及ぼすであろう範囲外まで去っていった。

 その様子を見て


「ちょ、ちょっと! 何するんですか!」


 デカチョーが鼻息荒く、問い詰める。

 対して、ラカスは静かに言い放つ。


「…………ヌシを、逃がしはしない」


 細い目を、デカチョーに向ける。

 つまり、デカチョーを馬車の中に逃がさないために起こした行動であった。

 砂波(モゥシャ)に襲われながらも、戦いを優先したのである。


「………!」


 絶句するデカチョー。一瞬、背筋が凍る。

 そうこうしている内に、砂波(モゥシャ)はすぐそこまで迫っていた。

 ラカスは無表情のままそれを見た後、視線をあるものに移す。

 戦士達が乗っていた、他の馬車である。アラマドは戦士が乗っていったため、残っていない。

 ラカスはすぐさまそれに向かい、屋根部分に上った。砂波(モゥシャ)の被害を逃れるために、少しでも高い位置に登ったのだ。 

 数秒遅れて、デカチョーもそれに気付き、ラカスと同じ馬車に登る。

 その直後、砂波(モゥシャ)が直撃した。

 

ズシャアアアアアアアアアアア!


 高さ三メートルほどの波が馬車を大きく呑み込む。

 しかし、半分が砂に埋もれたものの、屋根部分は影響を逃れた。大きく盛り上がった砂から半分顔を出した状態で、馬車は砂波(モゥシャ)に巻き込まれ、流される。

 二人は若干バランスを崩すものの、屋根の上から振り落とされることはなかった。

 そして、そのまま戦いが再開した。

 この状況であるにも関わらず、ラカスがいきなり、中段蹴りを放ったのである。


「うわッ!」


 デカチョーは突如放たれた攻撃に驚きながらも、腕で十字をつくってこれをブロック。すかさず、ラカスは猛追をしかける。


(………正気……!?)


 面食らうデカチョー。この状況で戦いを再開すると思わなかった。

 しかし、反撃しなければ砂波(モゥシャ)に叩き落されてしまう。

 狭い足場の中、デカチョーは小刻みに動き回り、彼の攻撃を避け、または突きや肘撃ちを繰り出す。

 馬車は常に揺れ続け、かなり不安定な状態である。まともに姿勢を保つのもやっかいなこの状況で、戦い続けられる彼らのバランス感覚は、超人級といってもよかった。

 しかし、やはりラカスのほうが一枚上手だった。


「うぐっ!」


 ラカスの後ろ蹴りをまともに受け、デカチョーが後方に吹き飛ばされた。

 足が宙に浮く。後方は砂の波の中。

 しかし、デカチョーはすぐに反撃に出た。

 一瞬。視界に入った屋根の縁を両手で掴むと、馬車の中へ身体をもぐりこませる。

 そのまま、遠心力を利用して


「でりゃああああああああ!」


 デカチョーの右足が屋根の中から突き破り、ラカスの右ふくらはぎに直撃した。


「………!」


 ラカスは不意をつかれ、バランスを崩し、外へ投げ出された。

 しかし、砂波(モゥシャ)に巻き込まれることはなかった。放り出されると同時に砂波(モゥシャ)が止み、その動きを止めたのだ。

 ラカスが砂の上で受身をとって着地し、素早く立ち上がる。デカチョーもそれに続いて、馬車から飛び出した。

 再び両者がにらみ合う。

 ふとあたりを見回すと、そこは城下町のすぐ近くだった。

 大型生物避けと、匂い標のためのツノサボテンが周囲に並び、石畳で舗装された道が見える。


(……あそこのほうが、いくぶん戦いやすいか……!)


 一瞥するデカチョー。

 砂の上では足をとられやすい。ただでさえ手ごわい敵である。

 すぐさま街の入り口まで走りだした。ラカスもそれに並んで走り出す。

 ツノサボテンの群生を抜け、石畳の上へ到達。

 直後。目を合わせるや否や。

 ラカスが猛スピードでデカチョーへと迫ってきた。

 3メートルの距離が一瞬で奪われた。


「………!」


 鋭い踏み込み。体勢は低く、いとも簡単に懐に潜り込まれる。いまだかつて、味わったことのない経験だった。

 驚きに息をするのも忘れる。

 そして、腹部に強烈な肘打ちをくらった。


「………くっ!」


 デカチョーは反射的に後ろへ跳び、ダメージを減らした。

 だが、跳んだ方向が悪かった。

 ドアのない入り口を通って、とある民家の中へ這入りこんでしまったのだ。

 壁に身体を思い切り打ちつけ、寄りかかるように腰をおろした状態になる。


「ひ、ひぃ!」


 中には中年の女性。それに小さな男の子がしがみついていて、畏怖の目を向けていた。


「あ! ごめんなさい!」


 思わず、謝るデカチョー。

 わざとではないにしろ、不法侵入。どこまでもモラルに厳しいのが彼女のアイデンティティだった。

 しかし、それが命取りになる。

 ラカスは彼女達を見据えて、


「……………」


 すかさず、猛追をしかけた。

 民家の中へ飛び込み、正拳をデカチョーの顔に叩き込もうとした。

 彼女は間一髪。転がるようにしてその拳を避けた。

 

ドグァン!


 拳は壁の中に勢い良く減り込み、石の破片を撒き散らした。


「………っ!」


 デカチョーがそのひびが入った壁に思わず声を失う。

 一瞬で間合いをゼロにする瞬発力。壁を粉砕する腕力。

 イャンクッドほどではないにしろ、その膂力には驚ろかざるを得ない。リアルな破壊力だけに、脅威を感じた。

 ふと、デカチョーは、女と子供が怯え震えている事に気付き、盾になるようにラカスの間に立ちふさがった。


「ちょ、ちょっと待ってください! ここでは住民に被害が……」


 一旦戦闘を中止しようとするが、

 彼は待たなかった。


「……………」


 無口。無表情のまま。さながら人形のように。

 彼女の顔めがけて、とび蹴りを放った。

 避けるわけにはいかない。彼女の後ろにはまだ女と子供がいる。直撃すれば怪我はまぬがれない。

 デカチョーは腰をおとし、安定させ、腕でバツの字を作ってとび蹴りを真っ向から受け止めた。

 衝撃が骨を、内臓を、肉を、伝わる。


「ぐぅ……!」


 おもわずうめき声をあげる。ラカスは、後ろに飛び上がってもとの位置に着地した。


「あ、ありがとうございます……!」


 女は礼を言いながら子供を連れ、家の外へと逃げ出す。

 デカチョーは、それに応える余裕もなかった。

 腕が激しくしびれ、指もまともに動かせない。

 その状態で。


「……なんで攻撃をやめてくれなかったんですか…?」


 眉間に皺をよせて、ラカスをギロリと睨みつける。


「………」


 ラカスは喋らない。再び構え直して、対峙するのみ。


「……もしかして、アタシと戦えれば、他の人はどうなってもいいっていうんですか……?」


 そう感じた。

 先ほどから、彼は戦闘のみに集中しているように感じた。砂波(モゥシャ)が襲ってきても、街の中へ移ったときも、民家の中に這入った時でさえ、ラカスの目は彼女を捉えて離さない。

 いわゆる『戦闘狂』。

 戦闘前に言い放った言葉を聞いてから、直感的にそう思った。

 そして、それは確信に変わる。


「……我には関係無い」


 短く、そう言い放った。


「しかし、周囲の者がヌシの気を散らすのも確かである。ならば―――」


 と、後ろを振り返る。

 民家の外。いつのまにか取り囲んでいた野次馬を見回して、


「―――我が排除しておこう」


 拳を添えて構える。

 無表情。無感情。

 ただ淡々と、彼はそう言い放った。

 戦いの邪魔になるものは片付ける。たとえなんであろうと、彼には関係ない。

 そして

 人を人とも思わぬその言葉が、デカチョーの逆鱗に触れた。

 拳を握り締めて、屋外に出ようと進むラカスの前に立ちふさがる。


「……ふざけるなよ……」


 ボソリと、しかしはっきりと。

 目上に対する、丁寧言葉を止めて。


「今、分かった……おまえは悪だ!」


 構える。耀纏道場独自の構え。

 右腕を顎の下に、左腕を左腰の脇に添える。


「鉄拳制裁をくらわしてやる!」


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