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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
57/196

其の二十四 木戸VSイャンクッド

 同時刻。

 木戸尭は、城の地下。牢屋の中にいた。

 最も静かで集中できる場所を探したら、自然と牢屋に行き着いたのだ。地上では、正面扉の喧騒が鳴り響いているが、地下までは届かない。

 彼の目の前には、水を満杯まで満たせた、大きなプラスチック製の盥がある。彼は正座で座り、手には玩具の水鉄砲を持っている。

 この2つが、彼の使う想具(アテラ)だった。

 盥の想具(アテラ)。【明鏡止水】(はねみず)

 一定の範囲内にある鏡。もしくは、鏡のようにモノを映すものと、空間を越えて繋げることができる。盥に水を張っていることが条件だが、範囲内にあるものなら、何個でも空間をつなげることができる。

 彼ら三人が砂漠で遭難した際に生き延びたのは、まさしくこれのおかげである。近くの水を求め、いちかばちか全員の飲み水を盥に張って地下水の水溜りと空間を繋ぐことで、地下へと移動することができ、飲み水を確保することができたのだ。

 もうひとつ。水鉄砲の想具(アテラ)。【水遊戯】(ブルーフール)

 能力は単純。仕込んだ液体を、まるで拳銃のように、超高速で撃ち出すことができる。

 元々、稲原が持ち道具として使用していたが、【王様遊戯】(キングローリー)を手に入れてから不必要となり、木戸に与えていたものである。そのみすぼらしく、明らかに安物に見えるその外見から、『愚か(フール)』という名を含んではいるものの、その威力は驚異的であり、人体を貫くのも容易である。水鉄砲ではあるが、中に含めるのは液体ならばどんなものでも適用できる。

 現在、木戸が拳銃に仕込んでいるのは、ある果物の樹液だった。

 木戸はその銃口を、【明鏡止水】(はねみず)に張った水へと向ける。

 現在、噴水の水と空間がつながっていて、画面は魚眼レンズのように、中心が大きく、端(横から後ろに至るまでの範囲)が小さく表示されている。彼はそこに人差し指を触れて、まるでアイパッドのタッチパネルのように指を左右に移動すると、カメラの表示角度が変わり、画面が横に移動する仕組みになっている。

 彼は撃ち出したい方向。すなわち、イャンクッドが見えるように画面を中心まで移動させた。

 そして、引き金を引いた。



 バシュッ!

 再び噴水から透明な液体が飛び出した。イャンクッドが間一髪でそれを盾で防ぐ。

 まるで見えない敵からの攻撃に、イャンクッドは少なからず、恐怖を覚え始めていた。

 しかし、さっきから繰り出す攻撃は、全て噴水から-----鏡のように反射している水の膜からである。目をそらさずにいれば、防いだり避けたりするのは難しくない。



(……と、思っているでしょうね。想定済みです)

 

 木戸は慌てず、水遊戯(ブルーフール)に液体を補充する。

 そして、



 バシュッ!

 再び液体の弾が撃ち出される。

 しかし、それは噴水からのものではなかった。


「ぐっ……あああ!!」


 イャンクッドが苦痛の叫びを上げ、わき腹に手を添えた。そこからは血がドクドクと湧き出している。


(? ……い、一体、何が……?)


 何が起こったか分からず、半ば混乱状態になるイャンクッド。その様子を見て


 《ふむ。やはりこちらだけ情報を開示しないというのは、いささか不公平ですかね》


 噴水越しに、木戸が声かける。


 《よろしい。私の想具(アテラ)の能力をお教えしましょう。私は二つの想具(アテラ)を使用しています。詳細は省いて端的に申しますと、『鏡のようにものを映す場所と空間をつなげて攻撃します』》


 聞いて、イャンクッドはハッと気付き、手元を見た。

 右手にもつ大きな盾。

 その裏は、傷はひとつもなく、金属光沢で輝いていて、まるで鏡のように彼の身体を映していた。

 凹面鏡のように少し歪んではいるが、まさしくそれは、イャンクッドの右わき腹を正確に映していたのである。


「く、くそぉ!」


 イャンクッドは歯噛みして、盾を放り投げようとするが、思いとどまる。

 右足が負傷している今、盾なしで噴水からの攻撃を防ぐのは至難の業である。盾を捨てることはすなわち、自殺行為に近いと判断した。


(それなら……こうッス!)


 すると、イャンクッドは盾を裏返して、表面を身体に向ける形で構えた。

 当然、持ち手はないため、盾の縁を持つ形である。表と裏で盾の硬度はあまり変わらない。裏面で防御しても、なんら問題ないと判断した。

 しかし、


 《それも、想定済みです》


 噴水から木戸の声が聞こえると同時。再び【水遊戯】(ブルーフール)の攻撃がイャンクッドを襲った。

 しかし、それは噴水からでも、ましてや盾の裏からでもない。



 盾の表が、まるで鏡のように彼を映し出していて、そこから液体の弾が撃ちだされたのだ。



「が、あぁあああああ!!」


 弾はイャンクッドの左肩に命中し、激しく血潮が噴出た。

 激しい痛みから、イャンクッドは今度こそ、盾を放り投げた。

 ゴトンッと重厚な音を立てて床に落ちる。左肩を押さえながら息を絶え絶えに、イャンクッドは改めて盾を見た。

 表面には装飾が施されており、複雑な凹凸があるために、本来、鏡のような役割は果たさない。

 しかし現在。盾にある液体がこびりついていて、それが鏡のようにモノを映し出していた。


(………ま、まさか…?)


 イャンクッドは、それに見覚えがあった。


 《見覚えはあるでしょう? そしてご存知のはず。先ほどから撃ち出していたのは水ではなく、『サィキハの果汁』です》


 言われるまでもなかった。

 サィキハ。砂漠の辺境にわずかに生える木に、またわずかに実る果物である。

 バナナのように細長い形をしていて色はオレンジ。芳醇な香りをひきたて、その味は舌がとろけるほどの絶品である。

 しかし、最も特徴的なのは、その果汁であった。

 一見、透明な液体で、普通の果汁となんら遜色はない。しかし、これに強い衝撃を与えると、まるでボンドのような粘り気が生じ、さらに表面が鏡のように反射されるのだ。王国では、豪華な装飾や高級な鏡に使用されることが多い。

 木戸は【水遊戯】(ブルーフール)によりこれを撃ちだし、わざと盾に当てることで衝撃を与え、『鏡』を作り出したのだ。盾の裏から攻撃したのも、能力を開示したのも、このための布石だった。



「ふふふ……面白いようにひっかかってくれますね」


 牢屋の中で、木戸は一人ほくそ笑む。

 現在、【明鏡止水】(はねみず)には、中心から右上、左上、下にそれぞれ、扇形の画面がある。右上は噴水。左上は盾の裏面。下が盾の表面。計三つの『鏡』の映像を映している。

 いわゆる『選択画面』。そのうちひとつの『鏡』をタッチすると、その画面が盥の水全体に拡大して、『鏡画面』となり、空間がつながる仕組みになっている。

 先刻。木戸はイャンクッドが盾を裏返すことを想定し、下の画面を選択。盾の表面の『鏡』がイャンクッドを映すその瞬間を待ち構えていたのだ。



「………………っ!」


 イャンクッドは、痛みに耐える。

 右足と右わき腹、左肩からドクドクと血は流れ続け、イャンクッドの顔から血の気が引きつつあった。

 虚ろな瞳で、しかし、眉間にはっきりと皺をよせる。

 激しい痛みと、怒りを感じていた。


「さ、砂漠の宝石ともいわれる『サィキハ』を……こんなことに使うなんて……」


 年に十個収穫できれば、豊作のほうである。幻ともいわれる貴重な果物をこんなことに-----ましてや、余所者の占領者に使われることは、ひどく国民を侮辱しているようにも思えた。


 《ああ、数量の点につきましてはご心配なく。我々、魔神さんの魔法によって、何百個も生成させてもらいましたので、この遊びで尽きるということはありません》


 イャンクッドの怒りの理由を知ってか知らずか。木戸は飄々と言いのける。


「遊び……だと? ふざ、けるなッス!」


 声を絶え絶えに、噴水をキリッと睨みつける。


 《ふざけてなどいません。これでも真剣に遊んでいるつもりです。そしてあなたは、遊ばれる玩具です》


 そう言って、再び噴水から弾が撃ちだされた。

 イャンクッドは、それを巨大な槍で振り払った。サィキハの果汁がはじけ跳び、辺りに散らばる。

 このように、鋭い斬撃をもって防ぐならば、果汁は槍にこびりつくことはなく、新たな『鏡』が作られることはない。

 続けて数回、攻撃が繰り出されるが、焦点の定まらない視点で、イャンクッドは懸命に槍を振るい続けた。

 しかし


 《……それも想定済みです》


 声が聞こえた直後、再び弾が撃ち出されるが、それはイャンクッドから大きく逸れて、後方へ。


(?……! まさか……!)


 通り過ぎて一瞬の後。イャンクッドの思惑に気付き、背後を振り向くが、すでに遅かった。

 イャンクッドの後方には壁があった。そこに果汁がこびりつき、新たな『鏡』が作り出されていた。そして直後、彼めがけて液体の弾が襲い掛かる。

 イャンクッドは大きく身を捻って回避しようとするが、それは左のわき腹をかすめた。


「ぐっ……!」


 痛みにわずかにひるむが、木戸は猶予を与えない。

 続けて噴水から、弾を数発打ち出した。イャンクッドへと向かうものではなく、全てが周囲の壁に直撃している。

 計6箇所の『鏡』が新たに作られた。


「…………!!」


 絶句。イャンクッドはこれから迫り来るであろう脅威を想像し、戦慄した。

 そして


 《さあ、踊り狂いなさい》


 身も凍えるような言葉の後、惨劇が始まった。

 あらゆる方向から次々と、イャンクッドに向かって弾が襲い掛かった。

 彼は槍を振り回したり、身を捻ったりするものの、迫り来る弾の方向は予想がつかず、次第に回避率は減っていった。

 何発もの弾が直撃し、反動に身体が弾かれるように動く。まさしくそれは、踊るような光景だった。


 《たよりの盾は失われ、すでに私の武器のひとつ。防御の要の『銀』を奪われて、どこからくるか予想のつかない『桂馬』の攻撃を! その手にかまえた『香車』で! 精一杯足掻いてみなさい! ハハハハハ!》


 木戸が興奮して言い放ち、声高く笑った。

 これが、木戸の戦法だった。

 【明鏡止水】(はねみず)と【水遊戯】(ブルーフール)をうまく連携して使い、自分は安全な所から攻撃する。相手の考えの先の先を読み、翻弄していく。

 木戸は【明鏡止水】(はねみず)の上で指をせわしなく動かして、選択画面と鏡画面を交互に切り替え、そのたびに【水遊戯】(ブルーフール)の引き金を引き続ける。

 イャンクッドはただ、血飛沫をあげて踊り狂った。


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