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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト2 デカチョーの冒険
34/196

其の一 第四回早食い選手権


「さあ! 本日もやってまいりました! 第4回! 早食い選手権!!」


 御供市東小学校。5年3組の教室。真昼の時刻。

 給食が始まってすぐ、異常なほどの馬鹿騒ぎが繰り広げられていた。

 給食の時間。5人ほどのグループがそれぞれ机をつき合わせて昼食をとる。そのひとつの、男子グループの回りを何人かの男子が興味深そうに見物し、あるいは騒ぎ立てている。

 それを先導するのが、玩具のマイクを手に叫ぶ八重歯の少年。加賀嵩哉である。実況好きの彼は常にそのマイクを手に、あらゆる事象を実況するという癖があった。

 そして今日。5年3組の四回目となる、早食い勝負が繰り広げられる。

 その目的は-----


「本日の景品は『いちごプリン』! 果たして、誰の手に渡るのでしょうか!?」


 つまり、余りものの略奪戦である。

 参加者は3人。


「よおし! 負けへんで!」


 関西弁のパーカー少年。佐久間浩介。通称ナニワ。


「ナハハ! わくわくするなぁ!」


 天然パーマ頭。天元じゆう。通称ジュウ。


「僕も、譲らないよ!」


 そして、ぽっちゃり体型の男子。熊谷宗太郎。

 彼らは給食を前に息巻く。

 献立は、白飯、卵のスープ、スパゲッティ、ポテトサラダ、牛乳。

 デザートを除いたメニューを対象に、


「それでは、よ~い……ドン!!」


 戦いは行われた。

 三人一様に、器の中の食べ物にがっつく。周囲の野次馬が、面白そうに、ガヤガヤと騒ぎ立てた。

 その状況を見過ごせない、一人の少女がいた。


「おい! おまえら静かにしろよ!」


 ある席から立ち上がって叫ぶのは、小学5年生にしてはあまりにも背が高すぎる女子だった。

 太い眉が特徴的な少女。とても女子とは思えない、所々揃えられたボサボサの短髪。ましてや、その言葉遣いは男そのものだった。


「他のクラスにも迷惑だろ! そんなくだらないことはすぐにやめろ!!」 


 彼女は眉間に皺よせ、強気に叫ぶ。

 しかし、それに対し、


「かふぁいことゆーなや! デカチョー!! だまってみへろ!!」


 ナニワは口いっぱいに食べ物をほおばりながら、叫び散らす。少女。デカチョーは、不愉快そうに眉をひそめた。

 本名。武町愛誠(たけまちまなと)がもつデカチョーというあだ名には、三つの意味がある。

 ひとつは、162センチというその長身。つまり、デカイの『デカ』。

 ひとつは、彼女の父親の職業が刑事。通称『デカ』であること。

 そして、彼女の役職。クラス委員長の『チョー』。初めはデカというあだ名だったが、長身を馬鹿にされているようで本人が不満だったため、チョーをつけたしたという。

 彼女のアイデンティティといえるものが、その真っ直ぐな正義感である。

 父親。武町大権の職業である刑事を尊敬してか、違反や反道徳的な事に対して、一切の妥協を許さない。

 正義を貫くことの大前提として、ルールやモラルを守ること。それを第一と考えていて、不要物持込、遅刻、授業妨害などについて、性別や性格、クラスや年齢なども関係なく、あらゆる者に注意・指摘する気概を持ち合わせていた。

 しかしこの時。彼女の注意を受けてもなお、早食い選手権は止まらなかった。男子の半数以上が相手では、分が悪かった。

 デカチョーは額に怒りマークを作るものの、その場は拳を収め、自分の席へと戻った。

 そして戦いの最中。

 ナニワは安堵に胸を撫で下ろす。


(……中止なんてとんでもないで。折角の仕掛けが、無駄になるやろ……)


 彼には、ある思惑があった。

 第2回・第3回の早食い選手権優勝者。熊谷。

 基本的に何でも食べるダークホース。ジュウ。

 彼らを相手に、一位を勝ち取り、いちごプリンを手にする方法を。


「……うっ!?」


 開始5分後。スパゲッティを口に運んだ熊谷が、顔を青ざめた。

 とたん、箸の動きが鈍くなる。


(やっぱり……調べたとおりや……!)


 その様子を見て、ナニワはほくそ笑む。

 熊谷の特技は、その体型によく見合った早食い・大食いではあるが、彼にも嫌いな食べ物はある。

 それはトマト。

 そして、そのスパゲッティにかかるソースは、トマトソースであった。

 外見だけでは気が付きにくく、口にして熊谷は初めて気づいたのである。

 ナニワは彼の嫌いな食べ物を知り、この日、早食い選手権の開催を宣言したのである。

 嫌いなものは簡単に克服できない。その日の献立をよく確かめなかった熊谷にも非があった。

 熊谷はスパゲッティ以外のメニューに移るものの、完食は難しいといえた。

 そして、ナニワは確信する。


(よし……これで、優勝は俺のもんや(・・・・・・・・)……!)


 もうひとりの相手。ジュウが残っているにもかかわらず、彼はほくそ笑む。

 すでに、ジュウに対しての対策は終えていた。心配だったのは、熊谷のトマト嫌いがソースまで及ぶかどうかだけだった。

 あとは落ち着いて、自分のペースで食事を進めるだけである。

 なぜなら、放っておいてもいずれ、ジュウの食事のペースも落ちるからである。

 すでに半分の量をたいらげているジュウを横目に、ナニワは余裕の表情を浮かべる。

 その時だった。


「……やっぱ、これじゃ調子でねえなぁ……」


 突然。ジュウはそう言って器を置くと、立ち上がった。

 そして、ある場所に歩を進める。


「? おおっと? ジュウ選手。一体何をするつもりだ?」


 実況。加賀が首をかしげる。他生徒も不思議そうに、彼の動向に視線を移していた。

 ジュウが向かった先は、クラス全員分の給食が入っていた金属トレイだった。

 スパゲッティが入っていた、今は空っぽのトレイ。それを持ち運び、彼は自分の席へと戻る。

 直後。驚くべき行動をとった。

 残った食べ物を全て(・・・・・・・・・)トレイの中に(・・・・・・)入れたのである(・・・・・・・)


「…………!?」


 ナニワも驚き、思わず、箸の動きを止める。


「!! な、なんとぉ!! これは一体、どういうことだぁ!? ジュウ選手。残りの食材全てをぐちゃまぜにしているぅ!!」


 加賀が実況する通り、ジュウは入れた献立全てを、箸でぐちゃぐちゃにかき混ぜていた。

 卵スープと白飯とスパゲッティとポテトサラダと牛乳。

 黄色と白と赤と緑が混ざりに混ざり。

 即席の残飯が、出来上がった。

 食べ残した給食が混ざり合ってできるもの。それに似たものが目の前にあった。

 一同は思わず、気持ち悪さに口を手で押さえる。


「ま、まさか……おまえ……!」


 ナニワは予感する。


(それを全部……まとめてたいらげるってゆうんか!?)


 器をいちいち持ち変えるのは面倒であり、時間のロス。だから、全てを一つの器にまとめてしまおうという発想である。

 あまりにも大胆で、ワイルドな考え方。いかにもジュウらしいといえた。

 そして、デカチョーもその異常な状況に気づいていた。


「いいかげんにしろ! 食べ物を粗末にするな!!」


 さすがに我慢の限界だった。ドシドシと怒りに歩を踏みしめて、ジュウにつっかかる。

 だがその時。


「やれぇ! ジュウ!!」

「おまえなら食える!!」


 ジュウに対し、男子生徒の声援があがっていた。

 罰ゲームを受ける直前にも似た一種の高揚。ジュウは自ら、その罰を受け入れ、勝利を手にするつもりである。

 彼らの興奮は収まらない。その様子に、彼女の怒りの矛先は別の人物に向けられた。


雨下(あました)先生! ちょっとは男子達を注意してくださいよ!」


 教壇の上で、ゆっくりと箸を動かして食事をする女の先生に向かって、吼えるように叫ぶ。

 その先生は、ワンテンポ遅れて箸を止めると、ゆっくりと顔を上げて、キョトンと首をかしげた。なぜ話しかけられたのか分からないらしい。

 彼女はイライラした様子で、


「これですよ! これ! 絶対食べられないですよ! どうせ残しちゃうに決まってます!」


 ビシっと器の中身を指差す。余った絵具をぐちゃぐちゃに混ぜたような異色。とても形容できないような異臭。人の食べるモノではない。

 それを見て、先生が立ち上がり近づく。

 器の中身を覘くと、


「まぁ。おいしそう!」


 両手を顔の横に合わせて、上品そうににっこりと微笑んだ。


「正気かあんた!!?」


 デカチョーは目を剥かせて、思わずため口でツッコんだ。


「安心しろよデカチョー。無駄にはしねぇ」


 ジュウがニヤリと笑みを向けて言い放った。デカチョーが眉をひそめる。

 そしてジュウが、その即席残飯が入ったトレイを掴む。


「ゲテモノスープが相手だろうと………」


 持ち上げて、


「俺の冒険は、終わらねぇ!!」


 勢いよく、口に流し込んだ。

 男子生徒の大きな歓声が教室中に響く。

 デカチョーはあきれて肩をすくめた。



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