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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
32/196

間2

 アルミ張りの角ばった机。その上にあらゆるものが乱雑に散らかっていた。

 インスタント食品の空容器。割り箸。吸殻。タバコ。そして、捜査資料。何十枚も無作為に、一メートル四方の机の上に散らばっている。片付いているのは、奥の棚にファイルが二つ立てかけられているだけである。

 その見るに耐えない机を前に、一人の男が安っぽいキャスタ付椅子によりかかり、両手を頭の後ろに、ひざを組む。片手に煙草を持ち、白い煙を吐いていた。


「……まぁた遺失届かよ」


 会計課の女警察官が大量の紙を抱えて廊下を歩く様子を見て、彼はぼやいた。

 色黒の肌と無精ひげ。長身。きっちりと整った角刈りから、『カクさん』という愛称で親しまれている。

 頑固おやじの代名詞。少年少女にとって御供市最恐の男。

 御供市警察署捜査第一課警部。武町大権(たけまちだいげん)である。

 さすがに勤務中はハチマキを外しているようだった。


「どうかしてるぜ、この街は。よっぽどマヌケが多いんだな」


 だれともなく、ぼそりと呟いた。

 御供市の警察署に届けられる遺失届は、全国から見て比較的多いことで知られている。といっても、平均をわずかに上回る程度で驚くほどの量ではない。

 驚くべきは届出に記入される失くした状況項目であった。

『数秒だけ目を離しただけなのになくなった』

『手に持っていたはずなのにいつのまにかなくなっていた』

 といった、いたずらめいたことが書かれており、遺失届が受理されない場合も多い。

 この現象は今から約10年前から続いている。


「仕方がないですよ。御供市七大不思議のひとつですから」


 と、傍を通りかかった部下、久木杉太が言う。

 痩せ型。釣り目の顔が特徴的な男だった。


「御供市七大不思議? なんだそりゃ?」


 武町は眉をひそめて首をかしげる。


「知らないんですか? 警部。警察たるもの、あらゆる情報に敏感でないと」

「うるせぇな。いいから話せ」


 とすごむと、杉太がおっかなびっくり。コホンとひとつ咳払いをする。


「御供市にはですね。実は数多くの不可思議な現象が至る所で起こるんですよ。そのうち、特に有名で顕著な七つの現象を、御供市七大不思議と呼ぶんです。そのうちの一つがあれです。警部も知っているでしょう?」


 と言って、杉太が窓の向こうにみえる山を指す。

 この街に住む者ならだれでも知っている。

 その山。まんなか山には誰であろうとも立ち入ることができない事は。

 山に向かったはずが、いつのまにか元の地点に戻っているという、奇妙奇天烈な現象。かつて、その原因を突き止めようという企画でTV番組が報道されたことがあったが、結局解決することはなかった。番組に出演した学者達は最終的に『山中の特殊な植物による幻覚効果、催眠効果によるもの』という説に至ったが、山に入ることができない以上確かめようもない。

 街の住民にとっては恐怖の対象でしかない山であったが、その番組が全国的に話題を呼び、結果、街の大きな宣伝となり多くの利益を与えているのは、皮肉な話であった。


「山に入ろうとしても入れない。その現象は『まやかし天狗』っていう名前で呼ばれてるんです。なんでも、山の中に天狗が住んでいて、人を立ち入らせないよう、まやかしの術をかけてるっていう話です。」

「……ふん。くだらねぇ」


 鼻で笑って、手に持った煙草を灰皿に押し付ける。


「まぁ誰かが作った都市伝説みたいなもんすからね」

「んで? この落し物事件はなんて呼ばれてんだ?」


 武町がさほど興味なさそうに尋ねる。


「『乞食妖精』です。目に見えない貧しい妖精が、人々からいろんな物をくすねるっていう話です」


 そこで大権は、「ハーハッハ!」 と声をあげて笑う。


「なんだそりゃ? どこのファンタジーだ? 最高のネーミングセンスだな!」


 杉太もつられて笑った。


「あと、『般若の袖引き』っていうのもあります。なんでも忽然と人が消えるっていう………あっ!」


 と笑い半分に話しかけて、

 武町の顔が険しいものになっていた。

 彼は目を合わせない。気まずい空気が流れた。


「す、すいません……」


 杉太は申し訳なさそうに顔を落とす。


「……いや。気にすんな」


 低い声でそう言うと、大権は椅子から立ち上がり、壁にかけられた針時計を見る。午後6時丁度を指していた。


「……うし。定時だ。おい久木。今夜飲みにいくぞ」


 と杉太の肩に腕を回し、明るい調子で話す。


「だ、だめですよ。娘さんがかわいそうじゃないですか」

「残念。今日は合宿で家にいねぇんだ。それに、昨日のクソガキの騒ぎでストレスたまってることだしよ。黙ってつきあえ!」


 と脅すように言って、杉太は肩を落とす。


「(警部……酒に酔うとタチが悪いんだよなぁ………)」

「あぁ? なんか言ったか?」

「い、いいえ! 何も !!」


 首を激しく左右に振る杉太。帰り支度をうながしてから、武町はやや悲痛な表情を落とした。

 そして、心の中で呟く。


(いったいどこいきやがったんだ……正義………!)


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