間1
月明かりに照らされた広い草原の中。悠々と歩く一人の男がいた。
頭の頂点からつま先まで、その身を赤一色に包む少年。
残酷非道にして、純粋無垢。
真紅の少年。管理人。
彼は、村から離れる方向へ、草原の遥か先に向かって歩いていた。
足を炎に変えて空を舞うことは簡単だが、必要以上に体力を消費してしまう。
それに
「たまには夜道の散歩も悪かねぇな……」
だれにでもいうなく呟いて、視界の悪い闇の中を、悠々自適に歩き続けた。
そこで、思い出したように
「……そういやぁ。フレイムビート。回収してねぇな……シチ面どくせぇ」
だるそうにつぶやく。
ジュウに投げ飛ばされたバイク。フレイムビートには、自動倒立機能がある。着地と同時に走り始め、今もこの領域のどこかを走り回っているはずだった。
めんどくさそうに頭をガシガシと掻いていると、
ピー、ピー、ピー、
管理人の親指と小指の指輪の水晶が強く赤い光を放ち、短い電子音を鳴らす。すると、彼は受話器の真似事をするように、親指と小指を立てて耳の傍に構えた。
《おいっすー! エンくん。ご機嫌いかがー?》
親指の指輪から、陽気な声が放たれる。男子とも女子ともとれる、あどけない子供の声だった。
管理人---エンは顔をしかめて
「さっきまではすげぇ機嫌よかったんだけどよぉ。わけあってバイクをなくしちまってよ。だんだん不機嫌モードだぜ」
《それならちょーどいーよー! 今新型バイクが完せーしたとこー! そっちに送るよー!》
「マジか !? さすが仕事はえーな!」
しかめっ面を切り替えて、明るい表情を見せた。
《よーぼーどーり。駆どー音を抑えて、速度も二割増しにしといたからねー》
「おお。ありがてぇぜ。キーンって音。うるさくてしゃぁねぇかったからな。じゃぁよろしくな! フウ!」
と言って構えを解くと、ブツリと音声が途切れ、指輪の光りが消えた。
「廃棄処分もできて一石二鳥だな。ホントちょうどいいぜ」
そう、つぶやいて、さらに歩き続ける。
※
30分後。
ラマッカ族の村から15キロ程離れた所まで到達した。森は地平線の上にわずかな輪郭を残すばかり。『保守派』がこしらえた集落が、豆粒ほどの大きさに見える。
そして、歩みを止めるエン。
「この辺かな」
と言って、片ひざを地面についた。その右手は、真っ赤に燃える炎が灯されていた。
「カッカッカ。それにしても、ホント面白くなってきやがった。まさか、あいつの息子がやってくるとはなぁ………次逢う時が、楽しみだ」
ニヤリと笑って
「それではさらば。ラマッカ族の諸君」
ふざけた様子で言い放ち、右手を大地に打ちつける。
そして、残酷非道にして、純粋無垢な微笑みを浮べた。
「俺という存在、死んでも忘れんな」