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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
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 ………体が、動かない。

 全身筋肉痛だ。

 毎日ゲーム三昧だったから、当然の結果だ。

 それでも、俺は死ぬ気の思いでベットから這い出した。まるで自分の体じゃないみたいだった。

 時刻は午前八時。……学校、間に合わねえじゃん。

 つーか、さすがにこの体じゃ無理だろ。

 でもなあ……おととい、あんなに怒られて、また休むのもなあ……

 ……はあ。本当に、ひどい目にあった。

 それにしても、いろんな意味でスゴイやつと友達になってしまった……



 あの後、俺たちは無事に(ゲート)に到達し、現実世界に戻ることができた。

 そして、驚いた。


「………なんでや? なんでまだ昼間なんや?」


 俺は、ポカポカと暖かい日差しを受けながら、いつもどおりの流暢な関西弁を口にした。

 太陽が真上で、サンサンと輝いていた。

 虚想世界(ガルニディア)にいたのは、体感にして約9時間程。真昼から夜に移り変わり、真っ暗な闇に包まれていた。

 そのはずだ。

 俺は空家を出て、近くに見える公園まで走った。

 中央に立つ柱時計。確認すると、

 午後11時40分だった。

 つまり、俺たちが芝草の中に入ってから、1時間半ほどしか経っていないことになる。

 言葉を失った。そんな俺の横で、


「なんか、あっちとこっちで時間が違うみてぇなんだよな」


 天元じゆう。ジュウがあっけからんと言いのけた。

 どうやら、現実世界の1時間が、虚想世界(ガルニディア)の5時間に相当するらしい。約5倍、時間の流れが違うというのだ。

 改めて、別世界にいたことを確認した。

 ……まじかよ。

 でもまあ、そこはポジティブに考えた。


「ははっ……まぁ、ラッキーやな。門限過ぎて怒られずにすんだわ」


 そのことが分かっていれば、ボナの両親が提案したとおり、村に泊まっても良かったなとも思ったが、今の体の疲労状況を感じると、そうも言っていられなかった。

 体全体が鉛のように重く、足の筋肉は悲鳴を上げていた。


「じゃぁ、また学校でな! ナニワ! しっかり休め!」


 さすがにジュウも俺の疲労具合を伺ってくれたようで、その場で別れた。

 ……思えば、あいつは、現実世界で一時間半しか経過していないのを理解していたはず。それでも、俺の懇願を聞いてくれたということは、あいつもあいつなりに、思いやりの心はあるらしい。

 ただの自己中でもないらしい。

 そんなふうに思いながら、ジュウの駆け出す背中を眺める。

 ………つーか、足速!

 疲れゼロか!

 全く疲労感が無い。底なしの体力のようだ。

 おそらくあの後も、まんなか山か街中か。探検しに行ったのだろうか?

 そんなことを考えながら、頼りない足取りで、俺は帰路に着いたのだった。



 着いたのだった……はいいけど。

 その後の記憶が、無いんだよなあ……

 というわけで、筋肉痛に苛まれる体を無理やり引っ張って、家に着いた後の俺の動向を母ちゃんに聞こうと、食卓へ向かった。この時間帯なら、食卓で朝飯が並んでるはずだ。

 予想通り、部屋を出ると、リビングからおいしそうな匂いが漂ってきた。

 俺は顔を出すなり、挨拶もせず聞く。

「なあ母ちゃん。俺きのう……」

 だけど、声が詰まった。

 鬼のような形相で仁王立ちする母ちゃんの姿を見つけたからだ。

 散々怒られた。もう、一生分くらい怒られた。

 話を聞く限り、俺は玄関で爆睡していたらしい。帰宅してきた母親は心臓が止まりそうになるほど驚いたという。

 ああ、思い出した。

 ドアを開けた途端。もうスイッチが切れたみたいに意識がなくなったんだっけ……

 本当に限界だったんだなあ……と思いながら、母ちゃんの怒号を聞き続ける。

 なんでかっていうと、俺の体に痛々しい生傷がたくさんあるからで、つまりは、家の中で安静にしていなかったことがばれたからだ。

 まあでも、部屋の中まで運んでくれた分、感謝しておこう。



 怒りの嵐の中、朝食を食べ終えて時刻八時半。完全に遅刻だ。

 もう遅れることは分かりきってるのに、母ちゃんはしかめっ面で急き立てる。俺はうんざりしながら、時間割もしていないランドセルを背負って、玄関まで辿りついた。

 そんな俺を見て苛ついてか、母ちゃんが背中に向かって蹴りを飛ばした。

 ちょっ! やめろよ! 足が生まれたてのバンビなんだよ、こちとら!

 本気で嫌がるオレ。母ちゃんはけりだす足を引っ込めると、

 その表情が、一変。穏やかになった。


「……でも母ちゃん。ちょっと嬉しかったよ」


 いきなり優しげな声を出した。


「……なんや。気持ち悪いなあ」


 家族の前でも関西弁を貫き通すのがこの俺だった。


「だって、あんた家にこもってゲームばっかで、外で遊ぶことなんてほとんどなかったじゃない」

「…………」

「一昨日は、悪い友達にそそのかされたのかと思ったけど……うん。やっぱ子供はこうでなくっちゃ。その子に感謝しなきゃね」


 ……感謝……か。


「……いってきまーす」


 俺はそのことについては何も答えず、扉を開けた。


 目の前に、ジュウがいた。


「よっす!」


 ジュウは昨日のように、手を掲げて挨拶をする。

 …………なんでココニイル?


「あら。確か、天元君だっけ? 迎えに来てくれたの?」


 母ちゃんはどうやら本当に恨みつらみはないようで、ニッコリと笑って手を振った。

 ジュウは「おお!」とだけ答えると、


「ありがとね。これからも、浩介をよろしくね」


 と、母ちゃんは言って、扉を閉めた。

 ……ん? 待てよ?


「……いつから待ってたんや?」


 俺は訝しげに聞く。待ち合わせなんかしていない。


「んん? 七時ごろから?」


 疑問形で返して来た。

 七時? 一時間半かよ!

 妙なところで、忍耐力のあるやつだ。


「暇だったから、町内一周してきたけどな。ナハハハ!」

「待ってた意味ないやん!」


 伝家宝刀のツッコミを入れた。

 全く、ほんと、俺も妙なヤツに好かれたもんだ。


「でもまあ。待ってたかいがあった! 今日は休みかなーとか思ってたからな!」


 ……だから、それ待ってたことになんねーって。

 さすがに二回はつっこまない。

 すると、ジュウは踵を返し、元気良く歩き出した。いちいちアクションが大きいのが、彼の特徴だ。

 そして、


「よし! じゃあナニワ! 学校行くまでの間、街探検でもするか!」

「………はあ?」


 耳を疑うようなことを言った。


「なして街探検やねん。もう学校始まっとる時間やぞ?」

「だっておまえ、転校してきたばかりだろ? いろいろ案内するぞ!」


 と、笑顔を振りまいた。


「だからって……なんで今からやねん。それに、俺、全身筋肉痛で、動くのもしんどいんねんけど」

「だーいじょーぶだって! なんとかなるって!」


 ジュウはあくまで、根拠の無い、自分勝手なポジティブシンキングだった。


「ほら行くぞ! ほらほらほら!」


 と、俺の背中を押す。

 だからやめろって! 足が地震警報だから!

 ……まあでも、こいつのことだ。

 案内なんて、ただの口実に決まってる。

 街探検にかこつけて、他の(ゲート)を探しに行くに違いない。

 つまりは、普通の道なんか通りもしないだろう。そう、顔に書いてある。

 ……はあ。ほんと、変なヤツ。

 こんなやつに、『感謝』だって?

 冗談じゃない。

 無理やり変な所連れられて、意味不明な民族に捕まって、殺されかけて

 ある子供と友達になって、ゲームを具現化したりして、ヒーローとして感謝されて

 ………綺麗な花火を見た。

 ………………

 ほんと、余計なことしてくれる。

 いいぜ。付き合ってやるよ。その冒険ごっこ。

 こいつの思い通りになるのは癪だけどな。

 全く……ゲーム時間が減ってしまうだろ。

 ……でも、まあいいか。

 いい加減、RPGにも飽きてきたところだ。

 本物の『冒険』をするのも、悪くはない。


「しゃあないなあ……」


 しぶしぶと、俺は歩き始めた。

 ジュウは「ナハハ」と笑って、走り始めた。

 おいおい、だから足が……

 まったく……

 俺も、走り始めた。

 おそらく、学校に着くのは昼前になるだろう。そして、また母ちゃんに怒られたりするだろう。

 なんてことは、考えなかった。

 朝日が照りつける道の中、思うことはただひとつだった。


  今度は、どんな冒険が待ってるんだ !?


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