其の二十八 見たことないもの
周囲では、戦士達が壁に生えた光るコケの採取や、巨大クビノスの肉の収穫などに取り掛かっていた。
光るコケは地上では群生しておらず、また、直径五メートル級のクビノスも存在しないため、貴重な資源だった。改めてクビノスの巨大な体を見て感嘆したり、光るコケの神秘性に目を奪われる者がいた。
「げぇぇ !! あれを食べちゃうわけ !? 絶対ムリ!」
戦士達がクビノスの肉を持ち運ぶ様子を見て、デコが眉をひそめた。
まず、彼らは大胆にも、気絶したクビノスの口の中に入り、真上に大槍を刺すことで脳を破壊し、絶命させた。その後、さらに奥へ侵入し、内部から肉を採取し始めたのである。外部からは鱗により刃が通らないとはいえ、なんとも豪快な方法だった。
ジュウがその肉を見て、涎をだらしなく垂らしていた。
そこで、ナニワが言う。
「ジュウ! 俺たちも帰らな! とっくに日暮れてるで!」
彼らがこの領域に入ってから、九時間が経過していた。一般小学生の門限を軽く超えている。
ナニワは疲労困憊で、一刻も早く家に帰りたい気持ちがあった。
その事実を踏まえて、
「えぇぇ~。俺、もうちょっと遊びてえ」
駄々をこねるジュウ。その会話を聞いていたニミナが、ボナを背負いつつ。
「もし良かったら、私達の家に泊めましょうか? あなた達は私達の大恩人です。歓迎しましょう」
と言う。ジュウが「だろぉ~!」と目を輝かせた。
涎を垂らして、視線はクビノスの肉塊。完全にそれ目当てである。
「いらんこと言わんでええねん! ニミナさん!」
食べる気か! というツッコミを抑えて、
「ジュウ! 俺のこの格好。よぉ見てみぃ!」
青い半そでシャツの所々に土や埃の汚れ。袖はボロボロ。顔や体も傷だらけで、全体的にだるそうな印象がひしひしと伝わってくる。
「服汚すだけでもあかんのに、また遅くまで遊んでたのばれたら、今度こそかあちゃんに殺されてまうで! おまえだって、また拳骨くらいとうないやろ!?」
と、必死の懇願。
その意気に、さすがにジュウも気兼ねしたようで、
「う~ん。しょーがねぇなぁ…………じゃぁ。帰るとすっか!」
顎まで垂れた涎を腕でぬぐって、爽やかな笑顔で言った。
ナニワはほっと、胸を撫で下ろす。
その時、アデムが彼らの前に一歩踏み出る。
「本当に君達には申し訳ないことをした。悔やんでも悔やみきれない。改めて、謝らせてくれ」
再び、深くお辞儀。律儀な人と思いつつ、ナニワは調子に乗ってみる。
「そやでぇ~! 俺ら危うく死ぬとこやったし! 寿命半分縮んだわぁ~!」
おどけた様子で、言い返してみる。
するとアデム。深刻な面持ちで、
「本当にすまない。なんなら、ここで責任を取らせてくれ。妻や子のため、この命を差し出すことはできないが、指の一本や二本なら………!!」
と、ナイフを腰から取り出した。
「わぁぁぁ~ !! 重く受け止めすぎやろ!! あんた、そういうキャラやったんか!」
慌ててナニワが制止した。
律儀で真面目。冗談が通じない性格らしい。実はナニワの苦手なタイプであった。
ナイフを腰蓑のホルダーに収めるのを見届けて、ナニワがほっと一息つく。
そこで、
「だいたい、俺たち。そんな大したことやってねーぞ。友達を助けただけだ。お礼言われる覚えねぇよ」
淡々と、ジュウは言い放つ。アデムとニミナが驚いた顔を見せた。
確かに、友達を助けたかったがための行動。ボナが食われてなければ、恐ろしくて身動きさえ取れなかっただろうとナニワは思う。無意識中に助けた者から感謝されても、喜びこそすれ、どこか気まずい気持ちがある。
「……ああ。そうやな。俺なんか、遠くからブロック落としただけやしな」
こんな能力でなかったら、あの蛇に立ち向かうことすらできず、怯えていたに違いない。
そう思う彼の横で、ニミナは言う。
「それでも、あなた達がいなかったら、大変なことになっていたわ。あのクビノスは村の真下にいたわけだし、近い将来襲われていたかもしれないもの。あなた達は、ラマッカ族の英雄よ!」
「………え、英雄かぁ……」
悪い気はしなかった。
誰かの命を助けるなど、初めての経験。その言葉を聞き、誇らしい気持ちになる。
ふとここで、ポケットに手が触れた。
手のひらサイズの筐体。ジッパーを開けて中身を取り出した。
自分と、その他大勢の命を救った、GBNの想具。
「……そういえば、これにまだ名前つけておらんかったな」
デコの【金成る軌跡】然り。ただの『GBN』じゃ格好つかないし、区別もつかない。
ナニワは、少し考えて、
「う~ん……決めた! 名づけて、【臆病な英雄】!」
英雄と言われたこの日を記念して、もしくは、いつかまた英雄と呼ばれることを夢見て。
ナニワは高らかと宣言するも
「そのまんまだな」
横で鼻をほじって、しらけ顔のジュウ。
「うっさいわ!!」
少なくとも、ジュウが名づけるよりはセンスがあると思う。
仕切りなおして、
「とにかく、そんな大層な事じゃねぇよ。お礼っていうなら、コレもらえれば十分だしな」
と、ジュウがラマッカ族の秘宝。青色のジョウロを掲げた。
長年ラマッカ族が守ったものである。これ以上の礼はない気がする。
そこで、
「じゃぁ! 頂戴」
満面の笑みを作り、デコが二人に向かって右手を突き出した。
いきなりの請求に、二人が首をかしげると、
「手に入れた想具は、私にあげるっていったわよね? すぐ頂戴! 今すぐ頂戴! さぁ頂戴 !!」
ズイズイズイッとさらに右手を差し出し、強く請求する。
ナニワは、確かにそんなこと言ったなと記憶を遡る。
そしてジュウはというと。
ニヤ~っと嫌らしく。それも、あの管理人の笑みに匹敵するくらいの嫌な微笑みを浮かべていた。
体中に悪寒が走る。
(………まさか………!)
「逃っげろぉ~!」
180度旋回。背中を向けて、彼は一目散に逃げ出した。
向かう先は、その空間の入口。ナニワ達が通った道に向かって、ジュウはジョウロをわざとらしく高く掲げて見せた。
「なっ………… !!」
少し呆気にとられるデコ。
直後、彼女の顔がみるみる赤くなり、額に血管が浮かび上がる。
ナニワは本能的に危機を察知。彼もジュウに続いて駆け出した。
「こ……こぉの……バカガキイイイイイイィィィィィ !! 待てゴラアアアアァァァ !!」
鬼のような形相で追いかけるデコ。ナニワは後ろを一瞬振り返り、すぐに視線を前に戻した。
怖すぎる。クビノスに追いかけられるより怖いかも。
そんな恐怖体験も露知らず。ジュウは楽しそうな笑顔で後方のアデム達の方を振り向いた。
「またなぁ~! ボナの父ちゃん !! ボナによろしくな~ !!」
右手を大きく振りながら叫ぶ。ナニワはそんなことをする余裕はなく、後方三メートルを走る鬼に追いつかれまいと必死に走っていた。
「君たちのこと、忘れはしない!」
「本当にありがとう!」
「いつでも来るといいじゃて!」
ボナの両親と祖父が手を振りかえす。そしてジュウ達三人は、暗い穴の中に消えていった。
※
三十分後。
戦士達はひととおり、光りゴケとクビノスの肉を獲得して、地上へと続く長い梯子を上り始めていた。
ヨミとキキココの処分については、生き埋めや火あぶりという意見が出たが、
「……もうこれ以上、誰かが傷つくなんてまっぴらごめんだ。それに、ずっと俺達を助けてくれたのは事実だろう? 許してくれないか?」
申し訳なさそうに、自分のことのようにアデムが言う。
押し黙る意見者。
「このことは俺たちだけの秘密にしよう。みんなの不安を煽ることになる」
結局は、そのアデムの意見に、全員が賛同した。
キキココが何度も頭を下げ、礼を言う。気絶したヨミをアデムが背負い、ボナをニミナが背負って梯子を上った。
やがて、地上に到達。大量の肉と光るコケ、気絶したヨミを見て村人が驚き、村のあちこちが焼き焦げている様子を見て、戦士達が驚く。
アデムは『中にいた巨大なクビノスにやられてヨミが気絶した』ということにして説明した。また、地下組の必死の説得により、『過激派』と『保守派』の隔たりを、とりあえずは取り除くことができた。
そして、全員が無事地上に到達し、それぞれの家に帰り始めた頃。
仰向けに寝かされたボナがようやく、目を覚ました。
「……? あれ? ここどこ ??」
眼前にはきれいな夜空と、横で心配そうな表情を浮べる両親と、祖父の顔があった。
「「「ボナッ !!」」」
涙混じりに、歓喜の叫び。ボナが半分働かない脳でムクリと起き上がる。直後、アデムがその小さな体を抱きしめた。
「……すまない。ボナ。俺が間違っていた」
悲痛に顔をゆがめて、ボナの耳の傍でつぶやいた。
ボナは少しばかり呆気にとられる。
そして、涙がこぼれた。
今。この瞬間がまさに、自分が欲して止まなかった状況だったから。
心の底から、幸せな瞬間だったから。
「………うん!」
父の逞しい体を抱きしめる。その腰蓑には無骨な人形がぶらさがっていた。
彼の家族だけでなく、その周りを取り囲む村人達も、幸せそうに笑っていた。
父と、母と、祖父。この幸せを1秒でも長く噛み締めることにした。
※
その後、ボナが食べられた後のあらましをニミナが説明した。
現人達の協力もあって助けることができたこと。その方法。ヨミ達がわざと内乱を起こさせたこと。ついでに、光りゴケとクビノスの肉を手に入れたことなど。
そして、失った時間を取り戻すかのように、家族との会話を楽しんだ。
「母ちゃんの怒りようったら大変だったんだよ! 毎日オイラにあたってくるし。あと、口には出さなかったけど、先神様に『しっと』してるみたいだった。」
「こ……こら! そんなわけないでしょう !?」
ニミナが赤面。アデムが目を剥かせて
「そ、そうなのか? そういえば、俺がヨミ様をおぶった時も、険しい表情してたな」
「基本的に戦士長は先神様に付きっ切りじゃからて。それに良く見れば、ヨミ様は別嬪じゃからのぉ。無理もないわい」
とイジムが笑い混じりに言う。ニミナが過剰に否定した後で、周囲の戦士達も混ざって大笑いした。
「ねえ! ジュウ兄ちゃん達はどうしたの? オイラ、お礼を言いたい!」
ボナが家族に向けて言う。それに対し、気まずそうにニミナが答える。
「……あの子達なら、もう帰っちゃったわ」
「えぇ~ !? そんなぁ !!」
残念そうに、声をあげるボナ。
彼にとって、ジュウ達は命の恩人であり、新しい友人でもあった。きちんとお礼を言いたいし、もっとたくさん遊びたい気持ちがあった。
(今頃、森の中かなぁ……)
ボナは寂しそうに、遠く森の方を見つめた。
今度、いつ会えるかも、果たして会えるかどうかも分からない。生き別れになるかもしれない。
そう考えると、より一層、感謝の意を伝えたい気持ちが強まる。彼らと交わした最後の言葉さえ、よく思い出せないのだ。
そこで
「………そうだ!」
彼は、あるアイデアを思いついた。
祠の中での会話を思い出す。そして、両親と向き合って、言い放った。
「父ちゃん! 母ちゃん! 頼みたいことがあるんだ !!」
*
その頃。ボナの予想通り、ジュウとナニワは森の中を走り回っていた。
彼らは、一度ジュウがそうしたように、クビノスの掘った道を通って、地上へ到達していた。ジュウがランドセルを前にかけ、リュックサックを背負うナニワを後ろにおぶさる形で、縦横無尽に曲がりくねる穴の中を、ジェットコースターのごとく走り抜けたのだ。
その時点でデコを完全に振り切ることはできたが、念のため距離をとろうということで、疲労困憊の体に鞭を打って、今、森の中を走り続けている。
ジュウが約束を破って想具を持ち去ったのは、たんなるモノ欲しさからではない。単純に、鬼ごっこをしたかったためだった。
ナハハハと笑い続けるジュウを後ろから見て、ため息をつくナニワ。
「しっかしおっかねぇなぁデコは! 途中、なんか撃ってこなかったか?」
ジョギングのように走りつつ、ジュウが後方のナニワに話しかける。
「ああ。たぶんパチンコ玉やな。俺のバックに突き刺さりおった………」
顔を青ざめるナニワ。
逃走中、小さな銀色の球が何発も横を通り過ぎていた。さらに、道に放り投げておいたリュックサックを拾って背中にかけた直後。その弾はボスン!という音を立ててバッグに貫通した。
それは、【金成る軌跡】の能力。ラマッカ族を牽制する際にも使った『パチンコ・ガン』である。
パチンコの弾を驚異的なスピードで撃ちだす技。生身の体に当たったらひとたまりもない。
(バックを背負っておらんかったら………)
ナニワは身の毛がゾッとよだった。あまりあの人は怒らせない方がいいと確信した。
とりあえず、先刻の恐怖体験は頭の片隅へ追いやり。
ナニワはある少年の顔を思い浮かべる。
「……やっぱボナに一言、なんか言ってから帰った方がええかったかもなぁ。自分で帰ろ言うといてなんやけど」
一言。一目。
ボナの笑顔を見て、安心して帰りたい気持ちがあった。ボナが目を覚ましてから、残念がるだろうと考えると、胸の痛い気持ちだった。
「また来ればいいじゃねぇか。今度はおもちゃとか持ってきてよ!」
ジュウが元気よく返す。彼はいつでも前向きだった。
やがて、穴から十分に距離を離したと確信した彼らは、ようやく歩き始めることにした。
その時、はじめて致命的な問題に気付く。
帰り道が全く分からないという事だった。
辺りは真っ暗。幸い今宵は満月で、月明かりに照らされて足元はよく見える状態ではあった。しかし、辺りを見回してみても、そこはジュウも全く通ったことのない場所らしく、しばらく途方に暮れた。
だが、ジュウにとっては問題ないようで、逆に嬉しそうな表情を浮かべていた。先の分からない状況がたまらなく愉しいようだった。
彼らはとりあえず、あてもなく歩き続けた。
すると、唐突に
「やっぱ、親子っていいよなぁ」
ジュウが空を見上げて、うらやましそうに言った。
「オレ、母ちゃんいねぇからよ。父ちゃんも仕事ばっかであんまし家にいないし。うらやましいなぁ」
ほほえましい表情で、つぶやくように言った。
「……………」
ナニワは、心情を察する。
ジュウがボナを助けたかったのは、もしかすると、想具を手に入れるためでもなく、秘宝殿の中を探検するためでもなく、ただ単に、ボナに同情したからなのかもしれない。
同じ寂しい想いを、救いたかったのかもしれない。
もしくはそれら全てが理由なのか。
「……そうやな」
ナニワは一言。言葉を返して、歩き続ける。
例え今回の冒険が、ジュウに振り回された結果だとしても、後悔はなかった。
嫌な気持ちはしなかった。
「お! 丘だ!」
そこでジュウが、木々の隙間から見えるふくらんだ地形を視界に捉えて指を指した。木が一本もない、見渡しのよく開けた場所のようだった。
「高いとこから見渡せば、出口分かるかもしれへんな! 行ってみよか!」
ナニワがそう進言。彼らは走り出した。
数分後、到着。そこは確かに、小さな丘だった。
ゼェゼェ、と手でひざをついて、息切れするナニワ。ジュウが右手を目の上にかざし、遠くを見渡す。
その時だった。
ピュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……
闇夜の中。どこからか甲高い音が響き渡った。
「!? なんだ…… !?」
ジュウは不思議そうに、ナニワは少し警戒しつつ、周囲を見渡した。
ジャングルの猛獣の鳴き声かもしれない。もしくは、デコが弾を撃ちだした音かもしれない。周囲の闇がナニワの恐怖を増長させていた。
だがそれは、全くの杞憂だった。
次の瞬間。
ドカァァァァァァン !!
夜空の中。緑一色の花火が打ち上がった。
「「…………… !!」」
二人は、思わず見上げる。
花火というには、あまりにもみすぼらしく、質素極まりないものだった。花火特有の、空に撃ちあがる光の尾も見えなかった。
しかし、その音と、光が丸く広がる様子は、確かに酷似していた。爆発後の煙まで演出されている。
二人はその光に、見覚えがあった。
緑色の花火は続けて、二発、三発と次々に打ち上げられる。
二人は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。
*
「ねぇ父ちゃん! あれやってよ!」
ラマッカ族のある子供が、空高く打ち上げられた緑の光を見て、父にせがる。父は少し困った顔をすると、「しょうがないなぁ」とぼやき、矢を取り出した。
尻に空気を送ることで甲高い音を出すビビバナの実。砕くと大量の煙がでるキボシの実。そして、地下で採取した緑色に光るコケを大量に袋につめたもの。これらをガジリ草で矢の先にきつくしばりつける。
それを弓矢にたがえて、夜空に向けて空高く打ち上げた。吹きつける風により、ビビバナの実がピュウウウと甲高い音を響かせる。
「アデムの旦那ぁ! 頼むぜ !!」
男が叫ぶと、アデムがその音源方向を察知する。
闇夜の突然の奇襲に備えるため、彼の目は夜目が効く。ましてや、今宵は満月。空高くあげられた弓矢に向けて、最新兵器の空圧弾を当てることなど、アデムにとっては造作もないことだった。
右手を掲げ、左手でトリガーをひねる。空圧弾は空高く飛び上がり、弓矢が最頂点に達した所で、衝突。大気を振るわせる轟音が響き渡り、同時に、キボシの実から出た白い煙と光りゴケが、四方八方に広がった。
これがボナのアイデア。
遠く離れた友達に気持ちを伝えたくて、貴重な財産を粉々に破壊して作る擬似花火だった。
その提案に、アデムを含めたラマッカ族達は躊躇しなかった。地下で戦った戦士達が率先して、何発も何発も打ち上げた。それに便乗して、他の戦士達も加わる。
「やれやれ。これでは、せっかく集めた貴重な資源が全部なくなるじゃて。また集めんとな」
夜空を見上げ、微笑みながらつぶやくイジム。
空からは、緑色の粉。大量のコケの残骸が、雪のように舞い落ちていた。
「じゃぁ~ねぇ~ !! 皆ぁ~ !! また会おうねぇ~ !!」
届くはずのない言葉を、声を大にして叫ぶボナ。
ニミナが再度、一際天高く矢を放ち、アデムが空圧弾を放った。
*
次々と打ち上がる緑色の花火を遠くに眺め続ける二人。最も高く上がる花火を見て、ニミナが放ったものだと直感的に悟った。
やがて、ナニワが微笑み
「ハハハ……なんちゅうしょぼい花火や……」
と一言。
その顔は嬉しさで満ち溢れていた。
「でもよ。ナニワ」
目線を花火に固定しつつ、ジュウは言い放つ。
いつか言った言葉を、繰り返す。
「見たことないもの。見れただろ?」
「…………… !!」
ナニワは、すでに遥か昔のように思える記憶を呼び覚ます。
(「確かに、今回みたいな冒険を続けたら、いつか大怪我をするかもしれない。下手したら死ぬかもしれない。それでも、その先に見たことのないものを見たり、感じたことのないことを感じたり、知らないことを知ったりするとしたら、命をかける価値が、オレは、あると思う」)
まんなか山での帰り際。ジュウが言い放った言葉。
今思えば、こんなに充実した一日が、かつてあっただろうか。
ナニワは追想する。
驚き、怖がり、怒り、笑い。
いろんな感情と、いろんな現象。
大岩に追いかけられた。蔓に縛られて殺されそうになったりもした。そして、友達のために化物と戦った。
この臆病な自分が、ゲームしか取りえのない自分が。
絶対に日常では体験できない。学校の授業なんかでは、絶対に得ることのできないものが、今、確かにナニワの中にあった。
「どうだ? ナニワ。冒険も、悪いもんじゃねえだろ?」
ジュウが横から、覘くように顔を見合わせる。
少し不安げに。確認するように。
ナニワがそれを見て、
「アホか。ふざけんやないで」
眉をひそめて、答える。
何度も死にそうになった。強運で生き残ったといっても過言ではない。とても正気の沙汰じゃない。
眉をひそめて、直後。
笑った。
「めっちゃワクワクや! 絶対に、また行くで !!」
はじけんばかりに笑う。それを見て、ジュウも満面の笑みを返した。
そして、二人はしばらく、小さくてみすぼらしい、見たことのない花火を見つめ続けた。
やがて、
「バカガキィィィィィ !! どぉこいったぁぁぁぁ !?」
鬼の怒号が、森の奥から聞こえた。
どすの利いた口調ながら、その幼い声はデコのものだった。
「うわっ! もう追いついてきた! もしかして、あの穴の中を通ってきたのか !?」
さすがのジュウも驚きを隠しえない。
あの穴。つまり、クビノスが作った穴は、起伏が少なく、手や足の置く場所がほとんどない。しかも、縦横無尽にくねくねと曲がりくねっていて、それが100メートル以上続いている。並のクライマーでも難しいはずだった。
「な、なんちゅう金への執念や……」
思わず絶句。根性で通ったのか、想具でも使ったのか。いずれにせよ、並の執念ではない。
「おいナニワ! あっちだ!」
ジュウが遠くを指差す。
真っ暗な空間。だが、月明かりに照らされて、ジャングルの木々が茂る波の形状が、境界線のように広がっているのがわずかに見えた。
「きっとあれ。平原と森の境だ! あそこに向かって森伝いに行けば、帰れるぞ!」
「おお! そうやな!」
入り口は化物級に長い草。いくら真っ暗でも、目の前にあれば分かるだろう。相当歩かなければならないが、この際仕方がない。
「どぉぉぉぉこぉぉぉぉだぁぁぁぁぁ !!」
「あかん! もうすぐそこまで近づいてきてるで!」
「よぉし! 逃げるぞ !!」
楽しそうに、再び駆け出すジュウ。ボロボロの体でヨレヨレになりながらも、ナニワは笑い、その後を追った。
遠くの空でまた一つ、緑色の『花火』が輝いた。




