其の二十七 道を踏み外した者
「………… !!」
誰しも、開いた口がふさがらなかった。
ラマッカ族は、『なぜこの男が今ここに現れたのか?』という疑問に。ナニワとデコは、人が燃えてなお平気でいられるというその現象に。目を皿のように丸くする。
「しぶとい奴だなぁおまえ !! またなんかやる気か !?」
ジュウは腕をまくって振り回して喧嘩腰だった。
「まぁ落ち着け。おまえにゃ用はねぇよ」
管理人は手の平を向けて制止した。しかし、ジュウの鼻息は荒い。
「用があるのはこっちだ」
と、彼は再びヨミに向き直った。
ヨミは顔面蒼白でうつむき、目を合わせようとしなかった。
管理人は小馬鹿にしたような微笑を浮べ続ける。
すると、彼は中指を立て、それを天高く掲げた。直後、薄暗い空間の中、豆粒ほどの小さく赤い光がどこからともなく現れ、その中指に吸い込まれるように移動した。
虫のような透明な羽が生えている、小さな球だった。遠目では蠅にしか見えない。
それは無音で、管理人の中指の指輪の中へと吸い込まれるように移動。そして、一同に見えるように掲げた。
「コレで全部、見させてもらったぜ。」
カッカッカ、と笑う。
管理人が、ナニワの言葉やジュウの行動などを知ることができたのは、彼らが秘宝殿に侵入する前に、彼が放った、その監視装置『フライアイ』によるものだった。
ジュウ達が地下を進む間、フライアイが彼らの周囲を飛び交い、監視していたのである。その様子を、管理人は楽しそうに地上で見ていたのだ。
「楽しい惨劇を見せてくれた礼に、俺もいいモノ見せてやるよ」
と言い放ち、右腕を高く上げる。
すると、天井の穴から再び炎の塊がひとつ、落ちてきた。
しかし、それは歪な長方形の形をしていて、炎の塊ではなく、何かが炎に包まれているという事が遠くからでも分かった。
落下。管理人ラカスの横にドシン!と大きな音を立ててそれは着地した。床を砕いて減り込み、直立すると同時に、纏っていた炎が霧散した。
それはラマッカ族の石碑だった。ヨミが内乱勃発の日に見せたものである
「…………… !!」
ヨミはそれを見た途端、気持ち悪いほど大量の冷や汗を流し始めた。
口を、肩を震わせ、呼吸も不規則になる。激しい動悸。すでに『神』と名のつく威厳は微塵も感じられなかった。
それを見て、管理人は嬉しそうに話す。
「祠をさらけ出して、わざと目立つようにしたのはまぁ許すぜ。敵の目標を集中させるっていうのは、悪くねぇ策だしな。でもよぉ、いくら30人の現人を捕まえるためたぁいえ、ズルはダメだよなぁ?」
と、バンバンと石碑を叩く。
ヨミの顔色はなお悪くなるばかりである。
「30人の現人? なんじゃてそれは? どこからその数字が出てきおった?」
イジムが怪訝な表情で尋ねる。
「……実はな。俺とババァでもうひとつ、裏取引をしてたんだよ」
と言って、彼はあらましを話し始めた。
◆
それは、ヨミと管理人が初めて遭遇した時から、すでに決まったことだった。
『武器と知識を提供する代わりに、捕まえた現人レウディスを一人残らず明け渡せ』という取引を交わした直後、アデムが激昂して怒鳴り散らす間。
管理人は心の声で、いわゆるテレパシーというもので、ヨミに話しかけていたのだ。
《もうひとつ、あんたにとって良い条件だ。『10年のうちに、現人を30人以上引き渡すこと』ができれば、あんたをこことは違う、もっといいとこに連れてってやるよ》
ヨミがそのテレパシー能力と、提示した条件に驚愕する。
開きかけた口を慌てて閉じた。
管理人は続けて、
《スゲー能力持ってるにもかかわらず、こんなちっぽけな村のしょぼい連中従わせて、てめぇは満足してんのか? もっと多くの、何千人もの人間を従えらせるのも、夢じゃねぇ。そうだろ? 俺にはそういう環境を提供できる力がある》
そう伝えきった所で、アデムが不満を叫び終わった。
ヨミは、くだらないといった様子で呆れ顔をする。
確かに、現状に不満を感じることや、逃げ出したい気持ちはあった。
一生を小さな村で過ごし、現人の奇襲に怯え、夜も眠れない生活を過ごし、死んでいく。
考えるほどにうんざりだった。
村人は自分の予知があるから、少しは安心して眠れるだろうが、自分はそういうわけにはいかない。神経を張り巡らせながらでないと、予知は成功しないのだ。こんな少人数の人間を守るために一生を費やすなど、考えるだけで絶望すら覚えた。
前代の先神様。つまり彼女の母は、村人達をこよなく愛し、身を削り、精神を削りながら必死に予知能力を使って、幸せそうな顔で天寿を全うしたが、彼女は違う。
己の幸せのために生きずに、何のための人生だ?
この能力は、この村にふさわしくない。この村は、自分にはふさわしくない。
やがて、そう考えるようになった。こんなちっぽけな村で人生を終えるために生まれたわけじゃない。
そんな想いを見抜かれて驚きを隠しえなかった彼女ではあるが、それでも、その条件はくだらない絵空事で、侮蔑すべき考えであると結論した。
この村の外の世界など、考えたことはなかったし、なにより、目の前の小さな少年が、自分の願いを満たすほどの力を持っているとは信じられなかったのだ。
だが、次の瞬間。その考えは一転する。
少年。管理人が、腕に炎を纏わせた。
そして、振った腕で、
家や木々を燃やし、なぎ倒した。
――――っ!?
「悪い条件じゃねぇだろ?」
自信に満ち溢れた笑みで、彼は言い放った。
それは脅迫と同時に、圧倒的な力を誇示するものだった。
その言葉は全員に、特にヨミに向けられたものだったのだ。
ヨミの考えが揺らぐ。
実現できるかどうかはともかく、ただの少年でないことは分かった。少なくとも、この悲惨な現状から自分を救い出せる、圧倒的な力を持つことを直感した。
この村から自力で逃げ出して新天地を求めようにも、十中八九捕まることは予想できたし、何より彼女は、村の外で生き抜く術を持たない。
一か八か。信用できるかどうかも分からない少年に、すがりたくなってくる気持ちに駆られる。
深くて、ごく短い時間での思案。
そして、決意した。
アデムの激昂を抑え、管理人の目を見据えて一言。
「分かった」
取引は成立した。
結局の所、自分は一生檻の中。
もがいてやる。例え相手が悪魔だろうが死神だろうが、この檻をぶち壊してくれるならば、誰でも構わない。
彼女の中に、ひとつの野心が生まれた瞬間だった。
◇
「でも、10年で30人はきつかったみてぇだな? マジでレベル低すぎだろオイ」
管理人が小馬鹿に笑う。戦士達はその裏取引の内容に驚きを隠しえなかった。
「今年で10年目。しかし、捕まえた現人はたった10人程度。焦ったおめぇは現人をおびき寄せようと祠を作る策を施すが、あまり効果はなかった」
「な……なぜ、それを……?」
ニミナが横から、恐る恐る尋ねる。ヨミは未だ顔面蒼白でうつむき、一言も発さなかった。
「なぁに。上の親切な奴から教えてもらっただけさ」
と言って、管理人は、天井の穴から除く村人達を指して言った。
彼はラマッカ族にとって、いまだ得体の知れない者。武器と知識を与えてくれたとはいえ、簡単に心を許せる者ではない。どちらかといえば敵に近い。村の事情を親切に教える者など、ラマッカ族の中にいるはずもない。
圧倒的な力で脅迫して、聞き出したということが容易に想像できた。
戦士達は彼を睨みつける。しかし、彼は意にも介さず、薄く笑う。
「ここからは俺の推測だ。とうとう時間がなくなり始めたてめぇに、一つの幸運が転がり込む。石碑の発見だ。そして、無謀とも思える策を思いついた」
管理人がヨミを指差す。まるで探偵と犯人の構図のようだった。
「わざと内乱を起こさせて村内を分割することで、戦力を弱体化させることだ。その隙をついて多くの現人が襲ってくると、てめぇは考えた」
石碑公表の日。
ヨミは確かに言った。
(「よかろう、従う気がないなら実力行使じゃ! 保守派以外の者! 全員武器をとり、保守派を追いだすのじゃ !!」)
危険な賭けではあった。
今のままでも追い出すのが精一杯。それを、怪我だらけの戦士達。しかも半数程の数で、捕獲することなど至難の業。
それでも、襲ってくる現人の絶対量が少なすぎた。発見は月に一回あるかないかの頻度。彼らがどこからやってきて、何の目的で秘宝を狙うのか分からない以上、油断を誘う方法しか思いつかなかったのである。
下手すれば、秘宝が奪われてしまうかもしれない。しかし、ヨミにとって、それはすでにどうでも良いことだった。
奪われることと引き換えに、残り20人の現人を捕まえることができれば、あとは野となれ山となれ。身の危険も多いが、一度に大人数で襲ってくれば、予知能力を使って一網打尽にする自信が少なからずあった。
まさに、一世一代の賭け。
「だからっておまえ、ズルはよくねぇよなぁ?」
管理人ラカスは再度、言い放つ。
その言葉の真意が分からず、首をかしげる者に、彼はこれみよがしに石碑を見せ付ける。
そしてニヤリと笑い、
「辻褄合わせのために石碑を偽造するとか、許せねぇよなぁ?」
「………… !!」
ヨミの頭から、サァッと血の気が引く。
まともに顔を上げることさえできない。視界がぼやけ始めた。
戦士達はその言葉に驚き、その石碑を確認する。
ニミナが読み上げる。
「『その秘宝、長い鼻と輪状の尾をもつ箱。頭に円形の蓋をもつ。輝くばかりの青き光沢を放ち、クビノスの幼生ほどの大きさ-----』」
この先が、ヨミが言い放った事と違っていた。
「『-----その身に蓄えた水が、我らが友に、あふれるばかりの恵みを与えるだろう』………!?」
「…………… !!」
一同が息を飲む。
真意は理解できないが、それは人に痛みを与えるものでないことは確かだった。
武器でないことは確かだった。
ラマッカ族達は今一度、その部分のヨミの言葉を思い出す。
彼女は確かに証言した。
(「『その蓋を開けしとき、中から巨大な黒雲が開放され天を覆い、我らが敵に神の裁きをその身に降すだろう。』」)
それは、その道具が兵器として利用できるということを示唆した文。
そのはずだった。
「てめぇの家。勝手に調べさせてもらった所、見つけたもんだ。下僕にでも作らせたか? そこのビクビク怯えた奴とかによぉ?」
キキココが肩をビクッと飛び上がらせた。
その顔はヨミ同様、真っ青だった。視線をうろうろ。口をパクパクと開けては閉じて、挙動不振な様子を見せる。
そして、やっとのことで、
「……貴様の、言うとおりじゃ」
ヨミがはっきりと言い放った。
視線を上げ、管理人の目を見据える。何かを悟ったような表情だった。
「……ひとつだけ違うのは、石碑は発見したのではなく、最初からわしが持っていたという点じゃ。先神が代々秘密裏に保管するような決まりになっておる。内輪もめをさせるため、秘宝を武器として表す虚偽の石碑を作らせたのじゃ。つまりは、キキココと共犯ということじゃな」
すでに開き直り。気の動転からか、かすかな笑みさえ浮べていた。
「ついでにいうとじゃ。貴様がこの時、この場所に来て、わらわのたくらみを暴露することは予知能力でわかっておった」
ヨミが人差し指の鋭利な爪を管理人に向けて言う。
「だから一刻も早く、この童女を殺しておきたかったのじゃ……!!」
向けた人指し指を、そのままデコに向けた。
デコが目を剥かせる。ヨミが睨み、
「貴様がその道具を使って、天井に穴を開けることは知っていたからのぉ。貴様さえいなければ、天井に穴さえ開けなければ、管理人が現れることはないと考えたのじゃよ」
と、ヨミは、デコの腰ホルダーの【金成る軌跡】を差して、声を荒げた。
ヨミが始めてデコを見た瞬間。二つの映像が彼女の目に飛び込んできた。
デコが広大な空間の中心で【金成る軌跡】を掲げて、天井に穴を開ける映像と、穴から管理人が落ちてきて、多くのラマッカ族の前で真の石碑をさらす映像である。
ゆえに、彼女を殺すことで、その予知を変えることができたと考えたのだ。
初見で彼女を先に殺すことを命じたのも、この場所に来て、いの一番に彼女を殺すことをアデムに命じたのも、そういうことだった。
「だからわらわが自ら出向く必要があったのじゃ! 貴様を優先的に殺すように命じるため、もしくは他の方法で、予知を変えるためになぁ!」
ヨミが目を剥き出しに叫ぶ。
予知を操作するためには、その場で指示する必要があった。もしデコを殺せない状況でも、穴を開ける作業を阻止すること。また、穴が開く前に秘宝を獲得して目的を果たし、いち早くその場を立ち去ることなど。あらゆる回避方法を促すことを考えた。
しかし、未来は変えられず、最悪の形で収束した。
先神ヨミの目の前で、真実を暴露されるという未来に。
「カッカッカ! 面白ぇことするじゃねえか。ま、失敗したがな。てめぇ一人の力で未来を変えられるとか、ちぃとおこがましいんじゃねえか?」
管理人が嘲笑う。
しばらくの沈黙。そして、
「おのれ……! なんということを……… !!」
イジムが声を震わせつつ、怒りの形相でヨミを睨みつけた。
「貴様の身勝手な欲望のために、多くの村人が傷つき、死んだということか! 命をなんじゃと思っておる !!」
「黙れ! 老いぼれが !! 神にたてつくか !!」
怒りを返すように、ヨミが激昂した。
「貴様らのために予知に精を出す毎日は、もううんざりなのじゃよ! 所詮わらわが守った命。どこで捨てようと、わらわの勝手じゃろうが !! 貴様らはわらわの道具じゃ! わらわの言うことだけを聞いてりゃええんじゃ !! わらわの幸福のために死ねば、本望じゃろうが !!」
「…………… !!」
ヨミは半狂乱の状態で、嘆き、吼えて、叫び、それに戦士達一同は動揺した。
ヨミが予知の結果、最も恐れていたのは、戦士達の反乱である。
自分は全くの非力。屈強な戦士達から怒りの攻撃を受けて、そのダメージに死ぬかもしれない。従順なアデムといえど、それを阻止することは考えにくい。死ぬことはなくとも、なんらかの処刑が行われることは予測できた。
そして、今まさに、予言が現実となった。
もうどうでもよかった。いわゆるヤケクソとなった彼女は、心にしまった全ての感情をさらけ出すことで、心の平穏を保とうとした。
全てを拒否するかのように、爪を鋭利に尖らせた右手を振り回す。
それを遠巻きに見る戦士達。あまりの悲しみに、怒りに、声を失う戦士達。
この感情が果たして名のつくものなのか。それさえ分からなかった。
同情の余地はあった。
だが、
「それでも、あなたのやったことは、許されることではない」
アデムが先頭に言い放った。ヨミがギョロリと睨む。
アデムはその目を、真剣な表情で見据えた。
「……結局、私とあなたは同じ境遇だったわけですね。私はあなたを守るために生まれ、あなたは村人を守るために生まれた。背負う大きさは違えど、決められた道を束縛される点では同じ」
言いながら、彼はヨミへと歩み寄る。
「……だけど、そもそもが間違いだった。私もあなたも、束縛なんてされていない。人が生まれるのに理由などあるものか。他人が勝手に決めた道なら、踏み外せばいいだけだ」
かなぐり捨てるように言う。自分に言い聞かせるように語る。
ヨミが苦い顔で、数歩後ずさりした。
「しかし、あなたは踏み外し方を間違えた。あまりに多くの人を傷つけた。どんな理由だろうと、許されるものではない。心は理解しても……私はあなたに、同情できない!」
強く言い切って、彼はヨミのまん前に立った。
ヨミは思わず見上げ、圧倒された。それを見下ろすアデム。
押し潰されそうな視線に、彼女は言葉を失う。
そこで、彼の纏う雰囲気が、一変した。
「……ところで私、前からあなたに言いたいことがあったのです」
突然の切り替えしに「はぁ?」と首をかしげるヨミ。
そして、次の瞬間。
アデムが右拳を作り、下から突き上げた。
「たまにはちゃんと、背筋伸ばせええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ !!」
ガガゴォン !!
「………… !!」
顎を突き出しているヨミにとって、そのパンチは非常に当たりやすいものだった。
基本のようなアッパー。それがヨミの顎に直撃し、体が宙を舞った。
そして、ドスン!と鈍い音とともに床に倒れる。
意識は刈り取られた。流石に、背筋は伸びている状態だった。
一同沈黙。数時間前までは、信じられない光景だった。
戦士長が、先神様を殴るなど。
そして、気絶する彼女を見下ろして、
「これが『道を踏み外した者』の力だ。……けじめはつけましたよ」
アデムは、言い放った。
直後。キキココはとうとう泣き出し始め、
「す、すいませんでした~ !! 私、無理やり脅されて手伝わされただけです !! ゆ、許してほしいですねぇ~ !!」
と、へたりこむような土下座をした。
頼る糧を失った男の、哀れな姿だった。
その光景に
「カッカッカッカッカ !!」
管理人は、高らかに笑う。最高に上機嫌な様子だった。
「最後まで楽しませてくれるじゃねぇか!」
純真爛漫な笑みを見せる。
ジュウは、バンダナの上から頭をボリボリと掻いて
「……なんだかよくわかんねぇけど、やっぱおまえっていい奴なのか?」
首をかしげて、素朴な疑問をぶつけた。
一連の流れを、例によって把握できない彼ではあったが、少なくとも、管理人の行動によって、『悪い何か』がなくなったことを感じることはできた。
その疑問に、管理人は、
「……さぁな。テメェで判断しろ」
と、適当に返事をした。
そして
「そいじゃぁ俺はこのへんで、おいとまするぜ」
そう言って、足元を炎に変化させる。炎は勢いを増し、さながらロケットのように体を浮かせる。
「あばよ! ヘボ原始人共! 二度と会うこともねぇだろうな! 俺と言う存在、死んでも忘れん
な !! それと、テンパ野郎とその一味!」
ジュウ達を振り向く。彼らが目を合わせると、
「また逢うだろうからよ! そん時はよろしくな!」
爽やかな挨拶をして、管理人は入ってきた穴を通って夜空へ。赤い尾を引いて飛び去っていった。
嵐は去った。一同は、それを黙って見上げていた。
やがて、
「ジュウ! なんやあいつ !! 体中から火ぃ出して! 明らかに人間やあらへんやろ !!」
と、ナニワが慌てて、抑えていた疑問をぶつける。それに対し、
「違う違う。体から火出してんじゃなくて、体が火なんだよ。」
「よけい人間ちゃうわ !!」
手を横に振って否定するジュウに、ツッコむナニワ。
「俺もさっき知りあったばっかだから分かんねぇよ。まぁ細かいこと気にすんな!」
「おまえの細かいっちゅうレベルはいったいどの辺やねん !?」
「『また逢うだろうから』って……どういうこと?」
デコが一言、疑問を投じるが、
「ただのあいさつじゃねーか? まぁ俺は、二度と会いたくねぇけどな」
ジュウが珍しく、不機嫌な様子で顔を膨らませた。ナニワとデコが怪訝に眉をひそめる。
その時、長い梯子が、天井の穴からゆっくりと降りてきた。
二本の蔓を、30センチ間隔で太い枝を何本もつないだものである。
見上げると、穴から数人の村人が覗いて、「お~い」と呼びかけていた。地上にいた村人が、脱出用に下ろしたものらしい。
それを見て、イジムがフゥと、重い荷を解いたように一息。
「けが人もいることだし、わし等も帰るとするじゃて」
と言って、アデムを見る。
「また引越しせねばなるまいじゃて。明朝、手伝ってくれ」
まるで今までのいざこざがなかったかのように、笑顔で言った。アデムに対する怒りは、すでに消えていた。
アデムがそれを聞いて少し驚くと、微笑み返し、
「はい。もちろん」
と、はっきり返事をした。




