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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
24/196

其の二十三 絶望

 時は少し遡り、地下大空洞の中。


「ほ……ホンマか !?」


 ナニワがデコの突拍子もない話を聴き、おもわず叫ぶ。デコが無言で頷いた。


「ええ。どこにあるのか、これを手にとれば分かる」


 そう言って、彼女は【金成る軌跡(アルテミス)】を握り締める。


「せやけど、ホンマにできるんか? 危険すぎるで!」

「ええ。あなたと私だけじゃ、とても無理。せめてもう一人いないと……」


 と、うつむくデコ。

 その横から


「……あなた達、何をするつもり?」


 ニミナが声をかけた。

 途中から話を聞いていたのだろう。真剣な眼差しで、デコを見つめる。

『ボナを助ける』という目的は同じ。

 その意思を感じて、言うまでもなく、確認するように、デコがニミナの目を見据えて言う。


「………協力して」

「言われなくとも」


 そして、手短に、的確に作戦を伝え始めた。



 その間にも、デコの腕時計の秒針は絶えず動き続ける。

 絶望の瞬間まで、残り五分。

 ナニワは、放置されたブロックの残骸に向けて手をかざし、回収した。それを合図にして、


「じゃあ、いくわよ」


 静かにデコが言って、ニミナと共に山の陰から飛び出した。

 向かう先は、クビノス。彼女は【金成る軌跡(アルテミス)】を手に持ち、躊躇せずに全速力で駆ける。


「な、何をするつもりじゃ?」


 イジムが別の山の影から、訝しげに顔を覘かせた。

 二人が飛び出すと同時。ナニワは再び、ゲーム画面をクビノスに向けて投げつけた。それは2人を追い越し、あっというまに、空間全体を覆い尽くすほどの半透明の画面へと展開される。

 続けて、流れる指さばきで、次々とブロックを落としていく。

 その位置は先刻とは異なっていた。

 クビノスの腹部と頭部を除いた箇所にブロックがはめ込まれていった。数分前のように手ぬるいものではなく、うねうねとくねらせるのも難しいほど、完全に拘束した。

 しかし、


「いくら動きを封じたところで、結局は逃げられる。状況は変わらんじゃて」


 疑問。イジムがつぶやく。

 クビノスは地中を進むために皮膚から潤滑油を分泌する。それを使ったブロックからの脱出方法は、先刻見たばかりだった。

 その時、デコがクビノスの拘束を確認すると、すぐ近くまで近づき、【金成る軌跡(アルテミス)】を真上に掲げた。

 その横で、ニミナが弓を構える。


(待っててボナ……必ず助ける……!)


 ニミナは、その『無謀な作戦』を頭の中で反芻しながら、強く誓った。



「まず、『ここはあなた達の村のすぐ真下の空間』ということを伝えておくわ」

 

 出だしに、デコがそう言い放った。

 一同が目を見開いて驚く。


「そして、あの天井の真上10メートルに、私が撃った岩の弾があるはず。もとはあなた達の罠のひとつ。そして、これは撃ったものを手元に戻す能力を持つの」


 と、デコが【金成る軌跡(アルテミス)】を掲げて見せた。

 ニミナは勘づいた。


「……まさか……!」

「そう……その岩の弾を、あいつの腹にぶち落とす」


 そう言って、デコは目標となるクビノスを遠くに見る。

 クビノスは、大空洞の真ん中で、肥大した腹をひきづりながら、のそのそと歩いていた。


「だけど、問題が二つあるわ」


 デコが指を二本立てて言う。


「一つ目に、あいつの動きを止めておく必要があること。腹に弾を落とすためには、球の真下の位置で蛇の動きを止めて、さらに蛇のすぐ傍で【金成る軌跡(アルテミス)】を発動しなきゃならない。自分の身を守るためにも、完全にあの蛇を拘束する必要があるの。だから、ナニワ。あなたが、例のブロックで、蛇の動きを止めてちょうだい」


 と言って、ナニワを見据える。


「で、でも、どうせすぐに逃げられるで!」

「一分程止めておけば、なんとかするわ」


 と返す。

 そして神妙な顔つきを作る。


「……問題は二つ目よ。岩の弾と一緒に落ちてくる落盤を、どう防ぐか。岩の弾は、土の中を半ば無理やり貫通させて落とすわけだから、落盤は避けられないわ。【金成る軌跡(アルテミス)】は常に触れてなきゃならないから、弾が落ちてくる直前まで、私はその真下にいることになる。弾の落下を確認してから逃げたんじゃ、おそらく無事じゃ済まない。弾か、落盤に押しつぶされる危険があるの。私、まだ死にたくないからね」


 と、彼女は念を押すように言う。

 岩が天井から露出すれば、あとは自重でクビノスの腹部めがけて落ちるだけである。そうなれば、【金成る軌跡(アルテミス)】の能力を解除できる。 

 だが、天井から床まで高さ100メートル程。十分余裕な高さではあるが、それでも落ちてくるまで数秒ほど。さらに、落ちてくる土砂は、弾の直径と高さ10メートル分の体積にはとどまらない。よほど固い地盤でないかぎり、貫通に追従する形で、その倍以上の体積の土砂が降り注ぐことになるだろう。走って逃げて、助かる確率は絶望的だ。


「……つまり、【金成る軌跡(アルテミス)】の能力を解除させへんためにも、デコ姉を死なせへんためにも、誰かがデコ姉に付き添って落盤から守る必要があるっちゅうことか?」


 と、ナニワが解釈。デコがコクンと頷いた。

 そして、彼女はニミナを見据える。

 無言の意思を伝える。


「……分かった。その役目、私にまかせて」


 決して安全ではない。命の危険を伴う役目であった。

 しかし、彼女の決意は揺るがない。

 もう一度、ボナの笑顔を見るためならば、いかなる困難でも屈しない覚悟があった。たとえ、憎き敵であるはずの現人(レウディス)を守る役目であろうとも、構わなかった。

 瞳に強い意思を宿して胸に手をあてるニミナ。それを見て、デコが微笑んだ。



回帰(リターン)!!」


 デコが、【金成る軌跡(アルテミス)】をしっかりと握り締め、宣言する。

 直後、天井からパラパラと埃が落ち始め、天井に一筋の亀裂が走った。

 食人植物の間と同様、フィールドの隅ではブロックが天高くまで積み上げられていて、強制的にゲームが終了されていた。ブロックを操作する必要なく、半永久的にブロックをその場に留めておけるようになっている。


「私の命、あなたに預けるんだから。しっかり守りなさいよ!」


 デコが天井を見上げながら、ニミナに対し叫んだ。


「ええ。やっぱ人の親だもの。現人(レウディス)とはいえ、子供を見殺しにはできないわ」


 カチン。


「私は子供じゃない!!」


 デコが目を血ばらせて怒る。ニミナは言ってる意味が分からず、首をかしげた。

 そうこうしている間にも、一塊の土が傍にドスンと鈍い音を立てて落ち、また、天井の亀裂が縦横無尽に広がっていく。岩の弾が、確実に接近していることを証明していた。

 緊縛な空気が漂う。ニミナが弓をたがえ、真上に構えると、キリキリと音を立てて、弓矢を引く。

 再び、土の塊が天井から落ちた。それはデコの真上だった。

 すると、ニミナがその塊に向かって、勢いよく矢を射る。

 直撃して、塊は空中で砕け散った。それは拳ほどの大きさに分かれて、周囲に爆散した。


「……やるじゃない」


 デコの言葉に、ニミナは自慢げに微笑み返した。

 そして、弓矢を背中のホルダーから取り出し、再び弓矢を真上へ。どんどん落ちてくる塊を、次々と無害なものへ変えていった。

 運命の瞬間まで、残り四分。

 なお激しく、ボコボコと音を立てて、次々と落盤していく天井。その度に、ニミナは矢を射続ける。

 しかしながら、的確点を見抜く高い集中力と、削られる体力によって、ニミナの限界が、だんだんと近づきつつあった。


(くっ……このままだと……… !!)


 そして、それは起きた。

 痛恨のミス。ホルダーから矢を取り損ねて、地面に落としてしまったのだ。

 慌てて拾おうとしたその時、

 ニミナの頭上めがけて、巨大な土塊が迫った。


「………… !!」


 叫ぶ間もない。弓矢をたがえる時間もない。思わず目をつぶるデコ。

 直後。


ドガァン!


 ニミナの頭上で、激しい衝撃音が劈いた。

 目を開けるデコ。その瞬間、見えたのは、土塊が砕け散り、四散していた光景だった。

 そして彼女の傍らに、

 両手に小斧を携えた義父。イジムの姿があった。


「イジム様!」


 ニミナが驚いて声を上げる。イジムが目を見据えて、


「何の目論見か知らぬが、おまえが必死になってするのならば、それはボナを助けるためなのじゃて」


 悟ったように、そう言う。

 その間も、次々と土塊が襲い掛かる。

 しかし、それら全てが次々と破壊された。

 いつのまにか、周囲には戦士達数人が、槍、斧、棍棒を構えて集まっていた。

 皆が天井から迫る土塊に集中して、単身で、あるいは複数人で、次々とデコに降りかかる災厄を破壊していく。


「みんな………!」


 ニミナが辺りを見回し、戦士達それぞれの顔を確認する。『過激派』の戦士達も、その中にいた。

 嬉しさに笑顔がほころぶ。


「ワシも何かせねば、気が気でないのじゃて。まずは、降りかかる塊から、この少女を守るのじゃろう。おやすい御用じゃて!」


 すでに齢60近い老体。全盛期に比べて一回り細くなった腕。枯渇した体力。

 そんなことは、イジムにとってなんの足かせにもならない。


「だから! 少女ってなによ !?」


 というデコの怒号を背に、ニミナが無言で頷く。

 ある者は半ば体ごと激突するように、小斧でもって土の塊を破壊する。

 ある者はクビノスを拘束するブロックに上り、高い位置から棍棒で破壊する。

 ある者は弓矢で急所をつき破壊する。

 ラマッカ族の仲間、ボナを助けるために、名も知らない現人(レウディス)を守る光景が、そこにあった。

 降り注ぐ土塊の中、必死の防戦が続いた。

 その様子をヨミが遠くから眺めて、顔を青ざめていた。

 周囲には、キキココと側近の戦士二人がいた。

 味方のはずの『過激派』の戦士達は全員、『保守派』の子供を助けるための救助活動中。アデムも気絶。ヨミの味方は、すでにこの三人しかいなかった。


「おのれ……! このままでは……予知の通りに…… !!」


 ヨミは額の皺を寄せて、唇を噛み締める。


(秘宝を入手してこの場を去るか、もしくは、あの女を殺さねば……!)


 巨大な石扉と、デコの両方を見比べるヨミ。

 予言を回避する方法は、それ以外ない。

 そして、ヨミは決める。


「貴様ら! あの女を殺せ! 邪魔する者も、全て皆殺しじゃ !!」


 側近の二人に向かって叫んだ。

 クビノスの胴体の傍。【金成る軌跡(アルテミス)】を掲げる女-----デコを指さす。

 味方が少ない以上、それが最も簡単で、てっとり速い、予言の回避方法であった。

 側近は戸惑う。

 殺そうとすれば、当然、他の戦士がデコを守るために立ち向かうだろう。その中には『過激派』の者も含まれる。

 つまり、その命令は、同胞を殺してでも、現人(レウディス)を殺せということだった。


「し、しかし……まずは秘宝の保守が先では……」


 その命令を回避しようと、真っ当な意見を上げる。『過激派』にとって、秘宝殿に進入した目的の半分は、秘宝を持ち帰ることである。

 しかし、


「そんなこと、後からできるわ! つべこべ言わず行かぬかぁ !!」


 大音声に、叩き伏せられた。


「は、はい!」と、二人は怯えながらも返事をして、部屋中央に駆けた。

 そして、ニミナ一同と接触する。

 側近の一人が斧を、他方が棍棒を振り上げ、デコをめがけて襲い掛かった。

 それを、二人の戦士が立ちふさがり、武器で攻撃を受けた。


「なんのつもりだ !? おまえら!」


 一人がキッと睨みつける。

 だが返答はせず、側近の男は何度も武器を振るって、抵抗する戦士を叩き潰そうとした。

 側近とは、戦士長の次に先神様の傍に仕える者である。その忠義心は高く、その強さも並ではない。


「うおおおおあああああああ !!」


 側近は狂った叫びを上げて攻撃する。半ば自暴自棄の精神状態であったが、その攻撃は的確に急所を狙っている。

 イジム率いる戦士達がその猛攻をかろうじて捌き、デコを死守していた。

 上から迫る土塊と側近達の猛攻。『外』と『内』からの襲撃に耐えなければならなくなった。戦士達の負担が大きくなる。


「……あいつら確か、あのヨミっちゅう婆ちゃんの付き添いやろ? なんで邪魔するんや !? 関係あらへんやろ !?」


 ナニワが遠くで疑問につぶやく。

 目的は、秘宝の獲得のはず。そのために巨大扉を開けるように命じていたはずだ。

 彼らにとって優先されるのは、その扉の開放。『ボナが死のうがかまわない』と言っただけであり、必ずしも『死んで欲しい』わけではない。邪魔する理由は見当たらなかった。


(そもそも、こっちの作戦をわかってて邪魔しとるんか? それともただ単に、命令を無視したから、罰を与えるとか、そないな理由なんか?)


 と考えていた時だった。

 クビノスの体から、例の潤滑油が分泌され始めた。頭を腹部を必死に動かして、わずかにその位置をずらしはじめる。

 それに気付き、


「あかん! 出てまう! もう時間ないで !!」


 遠くからナニワが叫ぶ。

 残り時間は三分。


「もう少しよ! あと二メートル!」


 ボコボコッと音を立てて、天井が隆起し始める。

 しかし、無常にも。


 ズル……ズルズルズル


 クビノスの胴体が、ブロックから次々と露になっていく。押し込めた前足を突き出し、続いて腹部、そして後ろ足までもが接地した。

 そして



 茶色い体液をぬっとりと塗りたくった胴体。その全てをさらけ出した。



「あ……ああ………」


 デコは声をうまく出せなかった。

 絶望。

 デコ・ニミナ・イジム・ナニワ。その他の戦士達。全員の脳裏に、その二文字がよぎった。

 さすがに二回もブロックを受けたからか。クビノスは警戒して部屋中央に近寄ろうとしなかった。周囲をキョロキョロと見回しながら、部屋の隅-----山の陰をのしのしと歩き始める。

 あの巨体を。警戒を備えたあの巨体を。どうやって部屋の中央まで、この限られた時間で、移動させろというのか。

 その策を考える時間が、意思が、あまりにも、ない。


「あかん……終わりや……」


 今にも泣き出しそうな顔で、ナニワが両手を側頭部に、頭を抱えた。

 ニミナがガクリと崩れ落ちた。

 怒りと悲しみと後悔の交じり合う感情。顔は蒼白で、わずかに震えている。


「私が……私があの時、ちゃんとボナを捕らえていれば………!!」


 突然駆け出したボナを、一歩遅れて追いかけたニミナ。

 クビノスに弾き飛ばされる前に追いついていれば。それ以前に、ボナから目を離すべきではなかったと、後悔の念が、後から押し寄せる。

 まだなんとかなる。

 そう思い込ませて。それでも、頭では理解していた。


 ―――ボナが………死ぬ。

 

 体を小刻みに震わせて、大粒の涙をこぼすニミナ。

 今一度、息子の名を呼ぶ。


「…………ボナ……!」


 眩いばかりの、太陽のような、無邪気な笑顔が頭の中に浮んだ。


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