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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
23/196

其の二十二 大好きなこと


「………… !!」


 ジュウが振りむく間もなく。

 管理人(ラカス)が右手で彼の頭を横から鷲掴みにして、近くの木に叩きつけた。右手は炎化されていなかったものの、衝突でジュウの額から血が流れた。

 管理人(ラカス)は血管を浮き彫りに、わずかに口角を上げて言う。


「カッカッカ………ここまでくると笑えるぜ。ずいぶん飛ばしてくれたじゃねぇか」


 幹に顔の右側面を押し付けられ、半分宙に浮いた状態のジュウ。管理人(ラカス)の指が、ジュウの頭に食い込む。

 ジュウはわずかにうめき声を上げて


「な……なんで……?」


 訊ねる。確かに、管理人(ラカス)を箱の中に入れたはずだった。

 その言葉の意味を汲んで、答えた。


「フレイムビートの起動方法や、楽園(プリズン)の使い方。よく覚えていたもんだぜ。大した観察力だ。だけどな、爪が甘いぜ。俺はちゃんと言ったぜ? 『出たいと思えば普通に出れるぜ!』……ってよぉ」

「………… !!」


 管理人(ラカス)が意地悪な笑みを浮べる。

 ジュウは大事な点を忘れていた。

 楽園(プリズン)はロック装置を起動して、初めて閉じ込められる。かつて、管理人(ラカス)がジュウを村に連れて行く道中、たしかにそのようなことを言っていた。

 ジュウがフレイムビートを投げ飛ばした時、おそらく、ロック装置は解除したままだった。ぶん投げる前。あるいは直後、管理人(ラカス)は単に「出たい」と思い、脱出。 そして、ジュウの背後に回ったのだ。


「さぁて。じゃぁそろそろ、片付けるか。現人(レウディス)はすべて捕まえる決まりだが、てめぇは例外だ(・・・・・・・)


 そう言い放ち、体中の炎の出力を上げた。

 ジュウがそれを背中越しに、熱気によって感じる。肌が焼きつくかと思うほどだった。

 それはすでに『熱い』ではなく『痛い』

 その炎は、管理人(ラカス)の腕をゆっくりと、ジワジワと伝っていく。ジュウの髪の先が、火の粉によってチリチリと音を立てて燃えた。

 ジュウは歯をギリリと食いしばる。

 その時、彼の心に渦巻く感情は、恐怖ではなく、怒り。

 仲間を救えない自分のふがいなさに。自分で自分に腹が立っていた。


「畜生! 放せぇぇ !!」


 手足をばたつかせ振りほどこうとするが、管理人(ラカス)の握力はすさまじく、頭は微動だにしなかった。その間も確実に炎はジュウの頭に迫る。

 その時、


「…………!」


 ある音がジュウの耳に飛び込んだ。

 木に押し付けられた右耳から、何かが聞こえる。


「それにしても、前言撤回。おまえ、ついてねぇぜ。よりによって、このオレに捕まって、ケシクズになっちまうとはなぁ。まだ地下にいたほうが、助かったかもしれねぇぜ」


カッカッカッカ!と、邪悪で下劣に、高らかに笑う管理人(ラカス)。炎はすでに、ジュウの側頭部のすぐ手前まで迫っていた。

 チリチリと、左頬に激しい痛みを感じる。


「………じゃぁな。天パ野郎」


 冷徹な目でそう言い放つ管理人(ラカス)。炎の勢いがそこで、最高潮に達した。

 赤く、高く燃え上がる。

 そして


「…………オレが、ついてねぇって?」


 熱気で視界が揺らめく中。ジュウが微笑みを見せる。

 彼の中に、ひとつの確信があった。

 故に、言い放つ。


「ウソつけ……!!」


 直後。

 ジュウは右手に持っていた竹筒を振り上げる。

 フレイムビートを起動させるために持ってきた、小屋の部品の一部。それを思いきり、自分が押し付けられているその木に突き刺した。

 次の瞬間。



 竹筒の中から、まるで蛇口をひねったかのように、膨大な水が流れ出てきた。



「!! なっ!?」


 その水は、管理人(ラカス)の視界を埋め尽くすと同時に、全身にふりそそぐ。ジュウゥと、黒い煙が立ち込めた。


「ぐぅああああああああああぁぁ !?」


 なにが起きたのかわからないまま、もだえ苦しむ管理人(ラカス)。素早くジュウの頭を放し、水の降りかかる範囲から逃れた。  

 それでもダメージは相当大きかったらしく、彼は痛みに叫び続けた。もろに水が覆いかぶさった顔面を両手でおさえる。

 ジュウは解放され、ニヤリと微笑んだ。

 彼が押し付けられた木の名は、『リヒスの水樹』。

 樹の中に、人間の血管のように膨大な地下水が循環している樹である。ラマッカ族が、普段から水分補給に使っている樹である。

 デコも同じように水分補給している場面を、ジュウは覚えていた。だから、ジュウが幹に押しつけられた時、幹の中から聞こえる音が、地下水が流れている音であることは、容易に想像できた。


「水に濡れれば、火は燃えねぇだろ」


 足取りを不安定に、悶え苦しむ管理人(ラカス)に、ジュウが悠然と近づく。

 そして


「……俺の大好きなことも、教えてやる」


 右手を大きく振りかぶる。

 管理人(ラカス)がハッと気づくが、

 もう遅い。



「ワクワクの、冒険だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 咆哮。それと共に、ジュウの渾身の一撃が管理人ラカスの右頬に直撃した。

 水に濡れたためか、ひるんだ隙だったためか。彼は炎化することもかなわず、勢いよく吹き飛ばされた。

 木々をぶち折りながら、宙を舞う管理人(ラカス)。そして、一回・二回と地面にバウンドして、50メートル先の大岩に叩きつけられた。

 ドゴン!という音と共に岩が一部砕け散り、体がめり込んだ。


「………… っ!!」


 そして、彼は叫び声を発することもなく、頭を垂れた。

 ジュウは殴った姿勢をそのままに、肩で息を整える。管理人(ラカス)はぐったりとして、ピクリとも動かなかった。

 ジュウはそれを確認して構えを解き、遠くを見据えた。


「……急がなきゃ」


 勝利の感動も歓喜もなく、ただ一言言い残して駆け出す。

 ボナが蛇に飲み込まれて、大分時間が経っていた。早く助けないと、消化されてしまうかもしれない。

 地面に残った、バイクによるわずかな焦げを頼りに、彼は村の方へと走り出した。



 しばらくして、岩に減り込んだ管理人(ラカス)の真っ赤にはれ上がった頬から炎が発する。

 ボボボと小さな炎が燃えたかと思うと、瞬時に消えて、腫れが引き、もとの正常な顔が再現された。

 そして


「………カッカッカッカ……」


 声を低めに笑う。


「面白ぇ……やっぱ、こうでなくちゃなぁ……生き残り(・・・・)よぉ………!」


 カッカッカッカと、不気味な笑い声が、暗い森の中にこだました。


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