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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
19/196

其の十八 夕日と炎


「それにしても、なんで能力が使えへんかったんやろ?」


 走りながら、ナニワは疑問を投げかけた。

 逃げる道の中、確かに彼はGBNの画面を手に置いたはずだった。そして、バリケードとなるブロックを強くイメージしたはずだった。

 しかし、それは失敗した。

 彼にとってはゆゆしき事態。己の安全のためにも、その理由を追及する必要があった。


「……たぶん、発動条件があるのよ。私の【金成る軌跡(アルテミス)】が人工物じゃないと弾にできないように、そのゲームにも、それ相応の、そうせざるを得ない条件があるはず。きっとね」


 デコは経験上、そう答えた。

 仮に彼女の想具(アテラ)がどんなものでも弾にできるというのなら、それは無敵に近い能力である。人でも自然でも、あらゆるものを操ることができる。そんな力のバランスを崩しかねない強大な能力を想具(アテラ)は持ち合わせていないと、デコは考えていた。

 自分の持つ武器も万能でないこと知り、ナニワに不安が襲い掛かった。

 やがて、部屋の奥の壁までたどりつき、彼らは足を止めた。

 否、壁ではない。

 そこには巨大な扉があった。

 形は入り口のものと似ているが、大きさはその比ではない。

 高さ50メートル、幅30メートル、厚さ10メートルの巨大な直方体の岩が二つ並んでいた。全貌を把握するために顔を上げなければならないほどの大きさ。部屋の端まで溝があることから、やはり構造は同じ、引き戸のようだ。

 また同様に、扉の手前に二つの赤色の石畳が埋め込まれている。両間隔10メートル程。四辺1メートルの大きさ。

 異なるのは、表面に詳細な絵が刻印されていることである。

 右の石畳には槍、左の石畳には盾が刻まれている。ナニワがその絵の意味に首をかしげた。


「ここよ! きっとこの奥に想具(アテラ)があるんだわ!」


 デコが嬉しそうに両手を広げた。

 確かに、その可能性は高い。これほどの巨大で頑強な扉。人が通る前提としての道がこの先にあるとは考えにくい。

 扉の大きさがすなわち、その場の威厳性と、その奥の重要性を意味する。扉一つを隔てて、想具(アテラ)があると考えるには十分な要素だった。


「それじゃナニワ! 位置について! 一緒に踏むわよ!」


 デコが色違いの石畳へ駆け出す。ナニワも続いて動き出した。

 祠の入口と同様に、二人が同時に畳を踏むことで発動する仕掛けと推測したのは、二人とも同じだった。デコが盾の石畳。ナニワが槍の石畳の前へ立つ。

 両者が顔を見合わせて頷く。ボナが緊張した面持ちで、生唾を飲み込んだ。


「「いっせーの !!」」


 声を揃えて両足跳びに踏み出す。石畳がガコッと音を立てて凹んだ。

 しかし、

 目の前の巨大扉は何の反応も示さなかった。


「えぇ !? なんでなんで !? 入り口のと同じじゃないの !?」


 デコが頭を抱えて叫ぶ。

 意外な事実ではあったが、よく考えてみると、二人一緒に石畳を踏むといった単純な仕掛けでは、秘宝を守るには不十分だろうということにナニワは気付いた。ましてや、入り口に続いて二回目である。同じ錠前の扉を二つ用意するようなもので、全く意味がないようにも思えた。


「何か、別の方法があるんやろか……?」


 腕を組み、ナニワがつぶやく。

 踏み方や必要重量、もしくは踏む順序など、考えられる要素はある。

 ヒントらしきものとして、畳に描かれた盾と矛の絵があった。しかし、ナニワはそれだけでは、検討がつかなかった。

 ナニワとデコが扉の前で首をひねって考える。ボナも腕を組みながら、じっと石畳を見つめていた。

 その時。


……ボコリッ


 後方から、土と石が跳ね上がるような音が聞こえた。

 続いて、扉に巨大な影が映る。


「………………!?」


 ナニワとデコは、背中に悪寒が走るのを感じた。

 まんなか山での恐怖の記憶が、ナニワの中でよみがえる。

 タチの悪いデジャビュだった。悪い予感しかしなかった。

 彼らは恐る恐る振り返る。

 その影の正体は、ボナのすぐ背後にいた。



 地面から10メートルほど頭を突き出した巨大な蛇が、口から涎をたらしてボナの頭を凝視していた。



「「…………!! !?」」


 鳴き声ひとつ立てない無音である。ボナは石畳の絵に夢中でいまだ気づかない。


「ボ……ボ、ボナァァァ !!」


 あまりの衝撃に数秒遅れて、声を震わせつつナニワが叫ぶ。震える足に鞭を打って、ただがむしゃらにボナの元へ駆け出した。

 ボナがようやく異変に気づき、顔をあげる。

 しかし、それを合図にしてか、大蛇が大きな口を開けて、ボナの頭上から襲い掛かった。


ガシャリ!


 間一髪。蛇が突っ込むのと同時、ナニワがすれ違い様にボナを抱え込んでそれを避ける。直後転倒するが、急いで体勢を立て直して蛇から逃げた。

 デコも急いで駆けつけ、三人は近くの山の陰へ隠れた。


「な、なんやねん。一体……!!」


 ナニワは声を震わせながら、おそるおそる、陰からその怪物の姿を確認した。

 怪物の真下。つまり、ボナがいた場所の地面が、大きくくぼんでいるのを見た。どうやら、ガシャリ、という音は、大蛇がボナの真下の大地を飲み込んだ音だったらしい。

 当然、彼らは大蛇が飲み込んだ大地を吐き出すと思った。しかし


「……………!?」


 なんと、喉を蠕動運動させて腹へと流し込んでいた。地面を食べているのである。

 口の隙間から大量の土砂や石が、ガラガラと音を立てて落ちる。三人が目を剥かせて、顔をひきつらせた。

 だが、驚くのはそれだけでは無かった。

 蛇は穴からズルズルと這い出すと、その巨躯を露にし始めた。ズルズルズルと、ヌメヌメした体をこれでもかと這わせ続ける。

 そして、尻尾が完全に穴から出て、その全貌を露わにした。



 全長50メートル、直径5メートルほどの巨大な緑色の蛇が、その場に現れた。



 目は赤く、大きくくぼんでいる。口は顔の半分を占めるほど巨大。流線型の頭の先に小さな鼻孔が二つある。

 そして、蛇は蛇であって蛇でなかった。突然、胴体の一部から手足が生えたのである。

 まるで亀が首を縮めて甲羅の中に収めるように、胴体の肉の中に手足を隠していたのだ。

 その姿はまるで胴体の長い巨大なトカゲだった。


「「「…………………… !!」」」


 三人は言葉を失う。恐怖で顔は真っ青。揃えて体を震えさせる。


「な……な……何よあれ !?」


 デコがとうとう、こらえきらずに口を開いた。

 その問いに答えられる者がいないことは明らかだった。ただ沈黙が恐ろしく感じて発した言葉だった。ナニワもその場にいるだけで、何かに飲み込まれそうな感覚を覚えた。

 だが以外にも、その問いに返答があった。


「……もしかして、クビノスかも……?」


 ボナが振り絞るような声を出した。


「クビノス?」


 とナニワがボナに聞き返したその時。

 ボナがクビノスと呼称したその怪物は、鼻孔を広げて辺りを見回すと、ナニワ達の隠れている山の方へ視線を向けた。

 人の匂いをかぎ分けたのだ。


「! やばい! こっちに気がついた !!」


 デコが恐怖に顔を引きつらせて叫ぶ。

 三人は、まさに、蛇ににらまれた蛙のごとく、その場を動くことができないでいた。

 そして、クビノスが前足を動かし始めたその時。


ドガァン!


 部屋の入り口から巨大な破壊音が響いた。

 アデムが巨大な斧でタイルバリケードを壊した音だった。

 クビノスが異変に気づき、首先を入り口へ向ける。そこには、額に血を流して佇む男の姿があった。


「ボナァァァ! どこだぁ! ボナァァァ !!」


 声を限りにアデムが叫ぶ。その次にニミナ、イジムがその空間へと足を踏み入れた。三人がそれぞれ、ボナの名を叫ぶが、それはすぐに止んだ。 

 はるか遠くに、巨大な影を見つけたからだ。


「な、なんだあれは…… !?」


 アデムが驚愕に目を見開く間。その後ろからは次々と戦士達がなだれ込んでくる。

 そして、その影。クビノスが動きだした。

 前足、後ろ足をバタバタとせわしなく動かして、まっすぐにアデム達に向かって駆け出した。蛇のノロノロとした動きではない。その足の駆動力を最大限に生かして、あっという間にアデム達の下へ到達する。

 そして、トンネルのように巨大な口を広げて襲いかかってきた。


「 !! 散れっ !!」


 アデムの号令と共に、戦士達がバラバラに散開した。アデムはヨミとキキココを抱えて跳躍。部屋の隅まで移動する。 

 二人を地面に下ろすとキキココが言った。


「あれは……間違いないですねぇ! 『クビノス』ですねぇ!」

「 !? なんだと !? 馬鹿な! あんな巨大なものは、見たことがないぞ!」


 アデムが目を剥かせて驚く。


「大昔、野生のクビノスは我々ラマッカ族が全て捕獲したはずですが、どうやら生き残りがいたようですねぇ。年齢に比例して巨大化することはわかっていましたが、まさかここまでとは………ざっと百歳というところ。途中の道や周囲にある大量の土砂の山や大きな穴は、こいつのおかげらしいですねぇ……」


 クビノスとは、ラマッカ族で畜産されている爬虫類の肉食動物である。

 その生態の大きな特徴は、獲物の捕食にある。彼らは主に地中の微生物や昆虫などを捕食するが、この時、その周りの土ごと食べるという習性を持つ。その土砂は後に口から排出される。この時に土の山ができるのだ。

 不自然に広げられた凹凸の道は、クビノスが捕食しながらできた通り道ということだろう。百年以上の間、目の前にいるその怪物は、この祠を根城に生きていたのだ。

 クビノスはなお、獲物を探してうろついていた。戦士達がバラバラに散って山陰に隠れているため未だ見つかってはいないが、クビノスには鋭い嗅覚がある。時間の問題だ。

 その時


「…………?」


 アデムが、目の前の土の山に、何か紐のようなものがはみ出しているのを見つけた。

 高さ二メートル程の位置。アデムが立ち上がり手を伸ばして、その紐を引っ張ってみる。

 すると、全貌が明らかになった。

 それは、布製の袋だった。

 肩にかけるナップサックのようなもの。ボナが持つものより少し大きい。一部分が、色の異なる布片で補修されていて、長く愛用されていることがわかる。

 アデムはそれに見覚えがあった。

 先遣隊の持っていた袋だ。


「も……もしや、それは……?」


 キキココもそれに気付いたらしく、声を震わせて怯える。

 つまり、一つの事実にたどり着く。

 先遣隊が長く帰還しなかった理由。それは   


「……全員。食べられてしまったのか………!」


 声を落としてアデムがつぶやく。キキココの顔が青ざめた。

 山の中から発見されたということは、無事、腹の中の『選別』が終わって、持ち主である人間が消化されたということ。それは、クビノスが人間の味を覚えてしまった事を意味する。 

 おそらく、クビノスは久しぶりの獲物を見つけて、喜んでいることだろう。

 アデムはそう推測し、戦慄を覚える。

 しかし、その時。


「とうとうここまで来てしまった…… !! 早く……早く、不安要素を消さねば……! それだけは防がねば……!」


 アデムの傍らでヨミが何やらぶつぶつと呟いていた。

 何かに怯えているように、表情を強張らせている。それは、目の前の怪物に対するモノではないように思えた。


「…………?」 


 アデムが怪訝な表情。すると、


「ア、アデム」


 彼女は動揺ながらも重たい声で、はっきりと呼び、


現人(レウディス)の……あの娘を殺せ! 今すぐじゃ!」


 そう命じた。

 疑問に思わざるを得なかった。

 確かに、現人(レウディス)の秘宝奪還を阻止するには、殺すことが最も手っ取り早い方法である。

 しかし、


(なぜ、その少女ばかり執拗に………?)


 先刻。村でも、先にデコを殺せと命じていた。

 アデムがその場を離れれば、非力なヨミの命の危険は増すはずである。にもかかわらず、彼女はこの状況で、デコの命を狙っている。

 現状はひとまず、目の前の巨大なクビノスから逃げる事を最優先とするのが、自然な判断である。


(秘宝奪還阻止の理由だけではなく、何か別の……少女を殺さなければならない理由があるのだろうか……?)


 アデムは考える。

 だが直後、無用な詮索と言い聞かせた。

 今は迅速な判断と行動が命を守る鍵。そう考えて、真っ当な意見を提案する。


「先神様。今は逃げることが先決です。身の安全を確保しなければ-----」


 と言いかけたところで、ふと思う。

 本当に身の安全を確保しなければならないのは誰だ?

 自分が助けなければならないのは――――!!


「そうだ! ボナ !!」


 アデムが思いたって立ち上がる。その様子に、ヨミが困惑した。

 子供の足では逃げ切れるはずもない。今すぐ助けに向かいたい気持ちがアデムの中に湧き上がったが、傍には先神様がいる。戦士長の立場としては、先神様を保護するべき。

 

 ―――しかし

 ―――いや、そんなことを考えている場合ではない!

 

アデムは心に決めた。


「キキココ! 先神様を頼んだ !!」


 アデムが叫び、走り出した。


「えぇえ !? 無理ですねぇ! 私、戦えないですねぇ!!」


 困惑するキキココをよそに、アデムは広大な部屋の中を駆け巡り、ボナを探し始めた。


「待て! アデム! わらわの命に従わないつもりか!?」


 後ろからヨミの怒鳴り声が聞こえるが、今は耳に蓋をすることにした。


(死んでもいい。先神様を守れなくてもいい。ただ………ボナが死ぬのだけは、絶対に耐えられない!)


 アデムは戦士長の職に就いてから初めて、ヨミの命に背いた。

 絶対危機的状況で、本当に、心の底から大事なモノに、気づいたから。


「ボナ……おまえを死なせはしない……!」



 一方。地上では、ジュウが未だにジャングルの中を駆け回っていた。

 途中、ラマッカ族が仕掛けた槍や石、斧が襲い掛かるが、彼にとっては無意味なものだった。あるものは避け、あるものは破壊し、あたりに土ぼこりを巻き上げながら進んでいく。

 その進路はいたって適当。知ってる道に突き当たるまで進もうという考え方である。

 だが、走り始めてから十分。未だ村は見つからない。


「う~ん。おかしいなぁ」


 ジュウが眉間にしわをよせて困り顔。

 その時。

 ジュウの遠く右前方上空に、何かが浮上するのが見えた。

 それは巨大な正方形の、半透明な画面だった。

 チラチラと光る映像を下に向けている。ナニワのもつGBNから飛び出たものに似ていた。


「 ?? ナニワか !? まさか俺と同じで、穴から出ちまったのか? とりあえず行ってみるか!」


 ジュウが足に急ブレーキをかけて方向転換。その画面が見える方向に向かって走る。

 やがて、その全貌が明らかになった。

 そこはラマッカ族の村のど真ん中だった。

 村の上空50メートルに、SFチックな半透明の画面が浮かぶ。村の女性や子供、非戦闘員がみな、怯えた顔でそれを見上げていた。ジュウが遠くから見つけたのもそれだった。

 ジュウは驚き、同様に見あげる。直後、目を疑った。

 巨大な蛇ともトカゲとも似つかない生物が、暗い室内を暴れまわる様子が画面に映しだされていたのだ。大口を開けて、ラマッカ族の戦士達を追いかけ回していた。

 そして、その背景に見慣れた姿がチラリと見えた。

 三人の、友達の姿。


「!? ナニワ !! デコ !! ボナ !!」


 ジュウは思わず叫ぶ。

 画面の中の彼らは、恐怖に顔を強張らせながら、怪物の背後で逃げ惑っていた。


「一体……なんだよコレ……」


 呆然と、その映像を見上げるジュウ。

 その時。

 村人の中に混じって一人。悪意のある笑みを浮かべていた少年が一人。ジュウの存在に気づいた。

 少年は笑みを崩さずに顔だけ傾けて、視線をジュウに向けて言い放つ


「よぉ。また会ったな。テンパ野郎」


 バイク乗りの赤髪少年。管理人(ラカス)だった。


「あ! まっか !!」

「ま、真っ赤じゃねぇ!」


 指さして叫ぶジュウに対し、管理人(ラカス)が怒りマークをつけて吼えた。


「おい! なんだよあれ !? もしかして、今の地下の様子を映してんのか !?」


 ジュウが天を指差し叫ぶ。

 怪物が山を崩す音や、キュララララ!という甲高い鳴き声。戦士たちの咆哮が、なまなましい映像と共に流されている。

 管理人(ラカス)はそれらを見ながら、カッカッカと、笑った。

 そして


「ああそうさ。俺が映した。こんな面白いのひとりじめすんのももったいねぇからなぁ。みんなに見せてあげているのさ。優しいだろ?」


 両手を広げて、にやりと笑った。

 ジュウの眉間に、皺が寄る。


「それに比べて、ひどいなぁおまえは。お仲間さんが地下で必死になってる間。てめぇは勝手に地上に出て、のうのうと助かっていやがる」


 カッカッカッカ!と、馬鹿にするように嘲る。

 時折、空から人の絶叫が聞こえ、それに続き、周囲の村人も叫び声を上げた。

 ジュウがギリリと固く拳を握った。

 自分自身に対する怒りと後悔に、唇を強くかみ締める。自分の楽観的な考えが甘かったことを知る。


「でもまぁ。本当ツイてるぜぇ。おまえ。結果、こうして助かってるわけ-----」

「うるせぇ !!」


 管理人(ラカス)の言葉をさえぎり、ジュウが怒号を上げた。

 そして、ギロリと少年を睨み付ける。彼の心無い言葉に、腹が立っていた。

 しかし、


「おまえに構ってる場合じゃねぇんだ !! 助けに行かねぇと !!」


 優先順位は決まっている。後ろを向いて再び走り出そうとするが、


「ちょっと待った」


 管理人(ラカス)が呼び止めた。ジュウの足が止まる。


「適当に走っといて、出てきた穴をすぐ見つけられんのかよ? ここは初めの予定通り、スタートから行った方が速ぇんじゃねぇのか?」


 全てを把握しているような口ぶりでそう言って、親指を背中後方の祠へ指す。ジュウの動向は、例の小型監視装置『アイサイト』によって知っていた。

 指さす方向を見るジュウ。撤去作業の結果、小屋の残骸が周囲に散らばっていて、祠が露になっていた。


「た、確かにそうだな。ありがとう! やっぱおまえ、いい奴だな!」


 ジュウは彼の意見に同意。彼に対する感情を改めて、微笑んだ。

 そして、管理人(ラカス)の横を走り抜ける。

 その瞬間。

 管理人(ラカス)がニタリと、意地悪な笑みを浮かべた。


「行けたらの話だけどな…………!」

「……!?」


 ジュウがその言葉の意味を理解する間もなく、振り向く間もなく、


ドカッ!


 管理人(ラカス)の後方回し蹴りが、ジュウの背中に直撃した。


「ぐはっ !?」


 一瞬。何が起きたか分からぬまま、ジュウが地面に突っ伏した。

 その様子を見て、カッカッカと、彼は高らかに笑う。

 そして、村の中心に構える大岩-----デコが打ち上げた弾の真上に飛び乗り、足を組んで座る。ジュウが苦悶の表情を浮かべてそれを見上げた。


「てめぇみてぇなチート野郎がでしゃばったら、すぐ終わっちまうだろうが。ここでアホ顔構えて眺めてろよ」


 地面に這い蹲るジュウを見下して言い放ち、なおカッカッカと笑う。


「……ふざけんな!」


 ジュウが叫ぶ。今度こそ完全に、堪忍袋の尾が切れた。

 右拳を地面に叩きつけ、ムクリと起き上がって睨みつける。周囲の村人がその喧騒に気づき、注視し始めた。


「邪魔すんな! ここを通せ !!」


 ジュウが空手家のような、ボクサーのような、中途半端な構えを見せた。

 戦闘の意思。管理人(ラカス)はそれを見て、なおニタリと笑い、


「面白ぇ……力づくでいくか」


 岩の上でスクリと立ち上がる。その背景には、燃えるほど眩しい夕日が照らしだされていた。


「おい。テンパ野郎。俺の大好きな事を教えてやる」


 そう言って、管理人(ラカス)が右手から真っ赤な炎を吹き上がらせる。

 真っ赤な夕日に照らされてできた細長い人影が、ジュウを覆った。


「……楽しく愉快な、演出劇(エンタメ)さ。死んでも忘れんな」


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