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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト1 ナニワの冒険
16/196

其の十五 罠の間

 その後、興奮収まらぬナニワをなんとかなだめ、全員で床へ到達するための方法を考え始めた。

 予測通り、食人植物が占めていた床のある一点に、先へと続く通り道が見えていた。それは、小さな縦穴のように見えた。祠の入り口のものと同程度の大きさである。

 議論の結果。再びナニワのGBNの能力を使うことになった。ブロックを積み重ね、下まで到達する巨大な階段を作るという方法である。

 ブロックで階段を作る。

 言葉で言うのは簡単だが、少し考えれば、非常に難易度の高い技術であることが分かる。普通のテトリスでさえ、並の人間ならブロックを揃えることで精一杯で、何かに似せるように組み合わせることなど、到底できないだろう。

 それをナニワはわずか五分ほど。しかも三次元でやってのけた。

 難易度は二次元時の数倍に跳ね上がる。階段をきっちり一段ずつにするため、長さが間に合うように直方体の空間の中で、らせん状に組み合わせなければならないのだから。

 ゲーム画面上(二次元)では攻略できなかったのは、ナニワの脳内立体化能力が足りなかったためである。その他テトリスに必要な先読み能力、構成力などは、確実に常人レベルを逸脱していると言ってもよかった。

 作った後は、一部の箇所でブロックを天井まで積み上げて、わざとゲームオーバーにし、操作しなくても良いようにする。しかし、ブロック一つが一辺十メートル程もあるため、飛び降りる訳にはいかず、ボナが持っていた蔓をつたいながら、一段ずつ降りなければならなかった。ブロックを一つ下りるのに早くて三分ほどかかり、かなりの時間をロスした。

 蔓の固定はジュウの役割。ナニワ達3人の体重を、鼻くそをほじりながら片腕で支えていた。


「てゆーか。なんでいきなり使い方が分かったわけ?」


 デコが蔓に捕まり降りながら、頭上のナニワに尋ねる。


「ん~……自分でもようわからへんわ。なんとなく、そんな気がしただけやなぁ……」


 不思議な感覚である。まるで、GBNが教えてくれたように感じたのだ。


「しかし、たいした能力ね。『ゲームを実現化する能力』。画面上のデータをコピーして、その後のプレイを三次元上で行えるといったところかしら。たぶん、他のソフトに入れ替えれば、それも実現化できるでしょうし、かなり応用力はありそう。一体どのくらいの価値かしら。………十万以上は確実ね」


 デコがナニワの持つGBNを見ると、ペロリと舌なめずりをした。


「こ、これは奪わせへんで! 俺の生命線や!」


 ナニワが顔を青ざめて拒否する。


「安心しなさい。そんな泥棒みたいなマネ、私はしないわ。正攻法でガッポリ稼ぐのが私のモットーなの」


 と言うデコ。

 しかし現在、ラマッカ族から大切な秘宝を泥棒しようとしている最中である。説得力はない。



 ブロックを降り始めて約三十分後。四人はようやく床まで到達することができた。

 安全柵の無い階段を下ることによる精神の負担と肉体的負担があり、ジュウ以外の三人は完全に疲労しきっていた。特にナニワは前日の騒動に続いて二日連続の冒険である。軽い眩暈さえ感じられた。


「だいぶ時間くったわ。とっくにバリケード壊してるだろうし、そろそろ追いつかれるかもしれない。急がないと。ナニワ。ブロック消せる?」


 デコが巨大な階段を指差して言う。このまま残せば、敵に塩を送るようなものだ。できれば避けたい。

 ナニワは単純に右手を天に突き出し、出した時と逆に映像が手に戻ってくるように念じてみる。

 すると、『GAMEOVER』の字がゆがみ、掃除機に吸い込まれるようにナニワの手の元へ吸い寄せられた。あっという間に3次元は2次元に転換され、ナニワの手元に再び透明画面が現れる。

 もしやと思い、ナニワがそれをゲーム画面に当てると、画面を出す前の状態に戻った。『GAMEOVER』の文字が表示されている。

 ゲーム画面を顕現させる前の状態。そのままの形で戻ったのだ。


「おお! こりゃ便利やな!!」


 ナニワが感心する。ゲームデータが消去されるということはなさそうだ。

 その時。


「お~い! すげぇぜこれ!」


 ジュウとボナはすでに、例の穴の傍に立っていた。ナニワ達に向かって手を招く。


「………けっこう深そうね」


 四人が穴を覗き、デコがつぶやく。真っ暗で何も見えなかった。

 そこでデコが足元にあった小石を掴んで、深さを確かめようとして、穴に投げ込もうとする。

 しかし。


「いっちばーん!」


 ジュウが背負ったランドセルを放り投げ、少しも躊躇せずに穴に飛び込んだ。


「オ、オイラも!」


 と言ってボナが続く。デコとナニワはめをひん剥かせて仰天する。


「ちょ、ちょっと!!」


 ナニワとデコは心配そうに穴を覘いて様子を伺う。すると。


「やっほおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 穴の奥から、ジュウとボナの楽しそうな叫び声が聞こえた。

 二人が首を傾げる。すると、


「おぉい! 二人とも! 大丈夫だぞ! 滑り台になってるから!」


 エコーがかかったジュウの声が、穴の底から聞こえた。


「全く! ホント、バカガキね!」


 デコが憤慨。背負っているリュックサックを穴に落としてから、デコが飛び込む。

 ナニワもひとつため息。ジュウのランドセルと自分のリュックを穴に落としてから、後に続いた。

 中は真っ暗で何も見えない状態。そのトンネルをジェットコースターのごとく猛スピードですべり降りていく。尻が摩擦で熱くなっていくのを感じた。ナニワはあまりの速度に声を失い、じっと耐える。

 しばらくすると、光が差し込むのが見えた。


「いてっ!」


 穴から勢いあまって飛び出すナニワ。宙を泳いで硬い石畳にしりもちをついた。

 尻を摩りながら前を見据えると、さっきと同様の、光輝くコケが群生する細長い道が続いていた。


「全く。少しは後先考えなさいよ。バカガキ! 罠があったらどうすんの !?」


 デコが尻の汚れをはたいて、ジュウを説教していた。ジュウはナハハと相変わらずの笑い声をあげている。

 ナニワも全くの同意見である。

 大体、ジュウは危機管理能力が全くといっていいほど無い。いや、正確には、あるけど使わないだけかもしれない。

 先になにがあるか分からない。だから冒険は面白い。

 まんなか山でジュウが言ったことである。

 だからあえて、後先を考えないのか。それとも、天然でその性格なのか。

 どちらにしろ、いつ死ぬとも分からない、危うい存在であった。今まで助かっているのは、持ち前の身体能力と、強運のおかげだろう。

 この先の冒険に、少し不安を覚えるのだった。



 ピコピコピコピコ

 先に進む道中。ボナがGBNに興味深々のようだったため、遊ばせてあげることにした。ボナのプレイの様子を、後ろからナニワとジュウが覗き込む。


「ああちゃうて。そこ右!」


 ナニワが指示するが、うまく操作できないボナ。ただでさえ難しいゲームである。あっというまにゲームオーバーだ。  

 それでも


「ははは! 面白~い!」


 テレビもラジオも知らない子供である。箱の中で絵が動いたり、音が鳴ったりすること自体、彼にとってすでに面白いことだった。


(まったく……しょせん子供よね)


 その楽しそうな様子を、デコが後ろからあきれた様子で見ていた


「ナニワ兄ちゃん達の住むところだと、こういうのがいっぱいあるの !? オイラ行って見たい!」


 ボナが画面もそっちのけで、キラキラと瞳を輝かせてナニワを見つめる。


「ははは! ほな、ここを無事に出られたらな!」

「やったぁぁぁ!」


 ボナが両手を万歳して喜ぶ。しかし、


「無理よ」


 デコがきっぱりと言いはなつ。他三人が首をかしげる。


虚想世界(ガルニディア)の物や人は、想具(アテラ)以外は全て現実世界に持っていけないのよ。(ゲート)を抜けたとたん、消えてなくなっちゃうの」

「な、なんやて !?」


 ナニワが残念そうな声を返す。無事帰れたら、色々珍しいものを採集していこうかなと考えていたところであった。

 ボナはその話についてゆけないらしく、頭にはてなマークを浮べる。ナニワが分かりやすく説明すると、シュンと肩を落としてうつむいた。


「ナハハハ! 大丈夫だぜボナ! 俺たちから会いに行くから、その時にもっと珍しいもの持ってきてやるよ!」


 ジュウがそう言うと、一変して顔を明るくするボナ。

 ナニワは不安で押しつぶされそうなこの状況で、その笑顔が唯一の精神的支えとなりつつあった。

 こんな調子でその道を二十分ほど歩き続けると、再びまばゆい光が先に見えた。

 そこに到達すると、


「うわっ……」


 ナニワが思わず声を上げる。

 その先は今までの荒く削り取られて造られた道と異なり、正確に角が見える、舗装された横長の道が百メートルほど続いていた。

 道幅10メートル。石畳はタイルと呼称してよいほど磨き上げられている。天井と床、左右の壁四つの長方形のタイルで四面が構成されていて、50センチ程の間隔で何枚も敷き詰められている。それら全ての面が光り輝くコケでびっしり埋まっていた。

 つまり、光輝くタイル以外は何もない道。無骨な道からいきなり不自然に変わる道。

 なにかあると思わない方がおかしい。

 だが、そのおかしい者が約一名。


「おぉ! なんか歩きやすくなったな!」


 ジュウが第一歩を踏み出す。と同時、足元のタイルがガコンと音を立てて沈んだ。


「あ、あほ !!」


 背後にいたナニワが慌ててジュウの襟首を掴み、手前に引き戻す。次の瞬間。


 シャリン!


 ジュウの目の前を独特の金属音を立てて、巨大な大鎌が降り下ろされた。


「うわ !?」


 思わず後ろにとびのくジュウ。勢いあまってしりもちをついた。

 罠があると予想はしていたものの、ナニワも目を見開かせて驚く。

 壁を見ると、細長い穴が床から天井にかけて開いていて、そこから床を支点に大鎌が飛び出していた。さっきまではなかったものである。

 明確なほどの罠だった。

 大鎌は床のタイルに深く突き刺さっていた。ナニワが止めなければ、ジュウの脳天に突き刺さっていただろう。


「だから言ったじゃないの! 後先考えなさいって!」


 デコがあきれ果てて進み寄る。

 ジュウはいまだ腰を下ろしたまま、口をポカンと開け、唖然としていた。

 デコはそれを見て意外そうに驚き、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。


「あら。さすがのジュウくんも、びびっちゃったみたいね。手貸そうか?」


 いままでの奇想天外な行動にさんざん驚かされたからだろうか。ジュウの驚愕の表情を見るのが嬉しいらしい。デコが手を差し伸べようとした。

 しかし、

 ジュウがピョンと飛び上がり、勢い余って浮かびあがる。

 その目は爛々と輝いていた。

 もちろんそれとセットに、満面の笑み。

 そして、


「お……おもしれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ !!」


 通路に反響する歓喜の叫び。次の瞬間、ジュウが罠の道へと飛び出した。


「お、おい !!」


 ナニワが再び止めようとするが、それは叶わなかった。

 停止状態からいきなり乗用車並のスピードで走り出したのだ。加速なぞあったものじゃない。ナニワが掴もうとした襟は、すでにはるか先にあった。

 あるタイルを踏むことで発動する罠の道。

 しかし、ジュウはナハハハと笑いながら、その道を陽気に走り続けていた

 なぜなら、罠がジュウの(・・・・・)スピードに(・・・・・)追いつけて(・・・・・)いないからだ(・・・・・・)

 罠が発動してから効果を発揮するまでの間-----罠が襲い掛かるまでの間に、すでにジュウの体は遥か先に到達しているのだ。その足の速さは、光るコケが疾風で剥げるほどだった。

 さらに、床では飽き足らないのか、勢い余った結果なのか。壁に足をかけ、そのまま体を水平に傾け、続けて天井へと足を運ぶ。その調子で重力を無視し、罠の嵐を螺旋状に駆け抜けていったのである。

 これで何度目だろう。ナニワ達がポカンと口を開けて唖然とする。

 あっというまにジュウが通路の奥へと姿を消していった。彼が通った後は、天井から落ちた巨大な岩や、壁に突き刺さった矢。鋭いトゲが突き出た床など、あらゆる罠が無残にその結果を残していた。


「……嬉しすぎて言葉を失っていたのね」


 デコが汗をタラリと流して一言。

 おもしろいと言うくらいだから、彼にとってそれが遊園地のアトラクションにでも見えたのだろうか。

 末恐ろしい存在だった。


「……ちゅうか、あいつ。俺達置いていきよったで」


 なぜか彼は、罠の道を抜けた後も、さらに続く道を突っ走っていったのである。ナニワ達の存在を忘れるほど嬉しかったのだろうか。

 するといきなり、ボナが通路に踏み出し始めた。

 ある程度ジュウが罠を発動してくれたとはいえ、油断はできない。罠がまだ残っているかもしれない。うかつには踏み出せない。


「お、おいボナ! 危ないで!」


 先刻と同じようにジュウの真似をしようとしている。そう思ったナニワが止めようと肩をつかもうとした。

 しかし、ボナがその場にしゃがみこんだため、手が空を切った。

 ボナは床のタイルをじっと観察していた。入り口から二つ目のタイルである。


「………もしかして………」


 ボナがぼそりと独り言。するとタイルの右端に移動し、両手で押し始めた。


「ばっ!……やめ----」


 デコが叫んだ直後。


ズドン!


 鈍い音と共に、床の一部が目にもとまらぬ速さで天井まで突きあがった。しかし、ボナは無傷。突きあがったのは真ん中のみで、端にいたボナは助かったのである。


「い、いきなり何するんや !? 危ないやろ!」


 ナニワが思わず駆け寄る。するとボナは振り向き


「これ………オイラ達の罠だ」


 と断言した。


「『オイラ達の罠』って……確かに、昔のラマッカ族が作ったものなんでしょうけど……」

「そういうことじゃないよ。この道にある罠。全部おいら達が森にしかけた罠とそっくりなんだ」


 ボナが二人の顔を見上げて、さらに話す。


「おいら達ラマッカ族は自分が仕掛けた罠にかからないように、罠が発動する場所に目印をつけるんだ。さっきおいらが見たのがそれさ。コケで分かりにくかったけど、『黒の花びら』の印が見えたんだ。地面から石柱が突きあがる罠だよ。おいら達はよく、洞窟の中に仕掛けたりするんだけどね。他にも、木陰から弓矢が飛び出す罠とか、底に針を仕込んだ落とし穴とかいろいろあって、足元の紐にひっかかったり、くぼみを押したりすることで発動するんだけど、ここにあるのは全部、タイルを踏むことで反応するみたいだね」


 ナニワが罠の内容を聞き背筋をこわばらせる。


「おいら達は目印と罠の内容は全部覚えてるから、目印を見れば、それがどんな方向から、どんな種類の罠が飛び出すかが分かるんだ。石柱の罠はマークの示す場所だけが突き上がるから、おいらは端に避けたんだよ」


 ボナがその先に続く罠を見据えて言う。


「まだ罠が残ってるかもしれない。おいらが先頭になって、ひとつずつ調べていくから、付いて来て!」


 頼もしそうに胸を張って、ボナがさらに足を踏み出す。三つめのタイルの上下左右を念入りに観察しつつ進み始めた。 

 さっきまで楽しそうに遊んでいた時と打って変わって、真剣な表情である。


(……そういえば、ボナは今、仲間に追われてるんやな……)


 再認識するナニワ。同時に、両親の仲を取り戻すためとはいえ、成功する根拠もないジュウの作戦によく賛同したものだと、疑問に思う。

 見込みもないうえ、一族を裏切ってまでの作戦。

 幼い子供とはいえ、どれだけ危険な賭けか分かっているはずである。ここでナニワ達を足止めして、後からやってくる仲間に『脅された』とでも言って助けてもらうという手もあったはずだ。

 そんな疑問に感づいてか。先頭を歩くボナがぼそりとつぶやいた。


「父ちゃんと母ちゃんの仲直り。絶対成功させたいからね」


 その瞳には、確かな強い意思が宿っていた



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