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KIDS! ~小学生達の道草異世界冒険譚~  作者: あぎょう
クエスト3 ビンチの冒険
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其の二十三 反感

 一方。飛羽場率いる三人組一向は、ドワーフの国に到着していた。

 場所は、国の出入り口近く。彼らの足元には、大きな鉄板と、数個の滑車、太いワイヤがある。

 エルフの里に行く前に、あらかじめ準備していたものである。

 それは、川の底に開けられた大穴―――『滝の根』に栓をする仕掛けの為の部品と材料だった。

 四辺10メートルの鉄板を沈めることで穴を防ぎ、元の川の流れに戻す。鉄板にはワイヤを結んでおき、傍らの樹や岩にとりつけた滑車を介して、川辺へと通す。滑車の組み合わせにより、人間一人の力でも鉄板を動かすことができるようにするのである。

 その仕掛けは、戦争終結後に、簡単に栓を外せるように考慮したものである。アーマードでも、流れる川の中で鉄板を外す作業は困難を極めるし、完全防水されてはいないため、川の外から特別な仕掛けを作る事が最善である。


「よし。早速始めるぞ。丘の上まで運びだせ」


 飛羽場の命令に従い、コーリッヒとダーヘンはアーマードを動かし始める。その太い木製の腕で、重たい部品を軽々と持ち運んだ。

 目指すは丘の上。ドワーフの国の真上に位置する『滝の根』である。

 ゆるやかな傾斜。先頭を、飛羽場が進み、その後にダーヘンとコーリッヒが追う。

 その最中。

 コーリッヒは、ある光景を目撃した。


「! これは……!?」


 思わず、コーリッヒはアーマードの足を止める。

 そこは、掘削場だった。

 足元にはいくつもの岩の塊が散乱していて、それは、何物かがここでその岩をえぐりとったことを示している。

 ドワーフ族は彫刻や建設の材料として、度々地上の岩石を掘削して持ち運ぶ。

 しかし、コーリッヒの記憶では、ここにドワーフの掘削場ではないはずだった。

 丘の上まで上らなくても、出口を出てすぐ横に、たくさんの鋼材の材料があるはず。

 さらに不可解なことに、その掘削跡は、ドワーフ族が行うにはあまりにも大規模なものだった。アーマードを使用しても、削り取れないような規模で、えぐられているのだ。

 アーマードの連続使用時間は、ドワーフの体力では1時間が限度。それだけではここまでの作業はできない。それこそ何週間もかけて、あるいは何十体も用意しないと完遂できない作業量であることがうかがえた。

 つまり、この岩をえぐり取ったのは、ドワーフ族以外の何者かであるということだった。

 そして、その何者かは、必然的に絞られる。

 岩をえぐるほどの巨大なパワーを持つ種族。

 トロール族である。


(トロール族が? なぜ、こんなところに……?)


 ここはトロールの谷から遠く離れた所。資材を集めるには不便すぎる。それに、彼らもまた、不用意に他種族の集落へ近づくということはしないはずである。

 まさか、ドワーフの国侵略のための、なんらかの画策だろうか?

 疑念に足を止めていると


「? どうしたのです? 王様」


 ダーヘンが振り返り、声をかける。


「……いや、なんでもない」


 コーリッヒはそう返し、再び歩み出した。

 こうしている間にも、戦争は激化し、戦士たちは傷を負っている。一刻も早く滝を埋めて水攻め作戦を終えないことには、戦士たちに休息は訪れない。今は作戦に集中することが最善だと考えた。

 自分ができることを、考えた。



 やがて、丘の頂点。『滝の根』に到着した。

 幅10メートル程の川の水が、川底に掘られた大穴へめがけて落下していく。ドドドドという音が反響しながら、水しぶきを上げていた。

 コーリッヒとダーヘンは早速、アーマードを操り、持前の器用さで仕掛けを組み立て始める。その様子を、ビンチは地面の上に座り、見守っていた。

 そして、十分後。作業は無事に終了した。

 鉄板に結ばれたワイヤはいくつもの滑車に巻かれて川辺に一端を残した状態。あとは、鉄板を川に沈めるだけで、水攻めが開始される。

 コーリッヒが懐中時計を確認する。

 10時5分。所定時間まであと10分近く残っていた。


「やはり2体の作業だけあって、予想より早く終わりましたな」


 ダーヘンが時計を脇から覗きながらそう述べる。


「だから一体で十分だと言ったんだ。戦場が劣勢だったらどうするつもりだ。大臣。おまえのそのアーマードは、僕の想具(アテラ)まで使って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 飛羽場は厳しい顔をして言う。戦争用に力を発揮するはずのところを、役不足で終わってしまうのが気に入らなかった。


「……問題ありません。戦況がどうであろうと、この水攻めで彼らの住処は奪われます。そうなれば、こちらが圧倒的に有利。小生も参戦して、勝利を手にしてみせますぞ」


 ダーヘンはそう断言し、飛羽場は「フン」と不機嫌な返事をした。

 そして、所定の時刻がやってきた。

 10時13分。今、栓をすれば、丁度11時に水攻めが到達する計算である。アーマードが2体並んで、大きな鉄板の端を持ち上げた状態。


「よし、今だ!」


 飛羽場の号令に従って、鉄板を離す。


 ドォォン!


 大きな水しぶきがあがる。重量1トン以上の重みによって、鉄板は沈み、見事穴を塞いだ。

 丁度良い大きさの『栓』。そして、『滝』は『川』へと変化する。

 大きな水流が、あるべき姿へと変わり、通常の川の景色を露わにした。

 ゴウゴウと勢いよく、水が流れている。


「……うまくいきましたね」


 それを見て、淡々とコーリッヒが言う。


「よし。では、戦場へ急ぐぞ。水がちゃんと流れているか確認もかねて、川に沿って移動だ」


 元の流れに戻したが、途中に川の流れの妨げになるものがあるかどうかは確認していない。もしそうならば、急いでそれを排除する必要がある。また、先刻ダーヘンが言ったように、生き残ったトロールを駆逐するために、重要な戦力であるアーマードも戦場に向かう必要があった。

 川に沿って歩み始める飛羽場。そこで、


「……お待ちくだされ」


 ダーヘンが進言した。


「戦場に多くの武器や兵器を持ち運びましたが、不足してるかもしれませぬ。国に残っている残りの武器も持ち運びながら移動してはいかがでしょう?」

「……確かに、用意周到に越したことはありません。アーマードなら多くの武器を持ち運べますしね」


 コーリッヒが肯定した。


「……分かった。急いで済ませろ」


 飛羽場も同意。二人に顎で指示した。

 国はすぐ真下。準備に時間はかからないだろう。


「はい。それでは……」


 と、コーリッヒとダーヘンはアーマードに乗ったまま、丘の下へ。国の出入口に向かって移動する。

 しかし。

 同じく向かったはずのダーヘン。それが一分もたたずに飛羽場の元へ戻ってきた。


「どうした? 大臣」

「…………」


 ダーヘンは答えない。

 飛羽場はイライラした様子で、


「トロールが多く生き残っていた場合、戦況が劣勢の可能性もあるんだ。完璧な作戦としては、急いで戦場に向かう必要がある。残りの武器を運びたいならさっさとしろ。グズ」


 あくまで彼は強気の姿勢で、見下すように命ずる。

 それに対しダーヘンは、しばらく無表情のままでいると、薄く笑った。


「……ええ。そうしますぞ………貴下を消してからね(・・・・・・・・・)……!」


「!?……なっ……!?」


 身構える暇もなかった。

 ダーヘンはアーマードの腕を大きく横殴りに動かすと、素早く飛羽場の胴体を手で掴んだ。そして、自分の目の高さまでかかげ、飛羽場と顔を合わせる。


「な、なんのつもりだ……!?」


 飛羽場は苦痛に顔をゆがませる。


「……困るんだよ。どこから来たかもわからないようなヤツに、偉そうに指揮をとられては」


 ダーヘンは一変。普段の丁寧なものごしを消して言う。


「何様のつもりだ貴下は。少しばかり頭脳が優れるだけで、小生らの国を支配する権利は無い。この国の王はコーリッヒ様だ! 貴下は邪魔なのだよ!」


 強い口調で言い放つ。飛羽場はもがくも、そのアーマードの手から逃れられないでいた。


「ふざけるな! 手先が器用なだけのおまえらで、ここまでできたか!? 僕は必要な存在だ!」

「いや。もう不要だ。この水攻めが終われば、貴下は用無しだよ」


 ダーヘンは冷たく言い放つと、歩き出す。

 その先は、川辺。


「しかし、こういう機会をくれた点には感謝するぞ。エルフ族やトロール族を支配する、良い機会だ。小生も常々、ドワーフ族は土の底で怯えているべき存在ではないと思っていたのだ。コーリッヒ様は全ての頂点に立つべきお方。貴下ではない……!」


 ダーヘンは腕を前に出す。倣って、飛羽場を掴むアーマードの腕も前へ。

 その真下には、猛スピードで流れる川がある。


「この激流にのまれれば、おそらく生きてはおれまい。死体で発見されても、事故で片づけられるだろう」


 これが、ダーヘンの狙いだった。

 エルフの里で、作戦を進めた時からの狙いだった。自分が同行を希望したのも、先刻、国に予備の武器を取るように促したのも、すべてはこの瞬間のためだった。

 飛羽場識人を消すための行いだった。

 自分にわずかな疑いもかけられるのを嫌った彼としては、飛羽場を消息不明にするのが一番都合がよかった。そこで、川に突き落とし、事故に見せかけることにした。

 作戦途中、過って川に転落。ありがちな事故に。


「このド低能が! なぜわからない! 知力こそが全てなんだ! 僕が居なければ何もできないはずの、チビ共が!! 離せ! 離せええ!!」


 飛羽場は額に汗を流し、もがき続けるが、到底適わない。

 そして、透明装甲越しに、ダーヘンは言い放つ。


「さらばだ。飛羽場少年。身の程知らずの、哀れな少年よ」


 そして、その手を開いた。

 同時に、飛羽場が落ちる。なすすべもなく、彼の体は激流の川へと流されてしまった。


「!!……が……はぁ……!!」


 抵抗するも、無駄だった。服が水を吸い思うように動けず、流れに逆らって手足を動かしてもどうにもならない。

 なにより、飛羽場は泳げなかった。

 遠く、川に流されて、飛羽場はダーヘンの視界から姿を消していった。


「? ダーヘン。どうしました?」


 その時。後ろからコーリッヒがやってきた。両手に武器が入った大きな袋を持っている。


「……いえ。飛羽場殿に呼び止められまして。なんでも、エルフの里に忘れ物があるから、取りに戻るそうですぞ。作戦通り進めてくれとのことでした」


 あらかじめ用意していた嘘だった。

 取りに戻る途中に、川に転落したというシナリオにするつもりだった。


「そうですか……分かりました。それでは、急いで向かいましょう。武器はこれで十分でしょう」

「申し訳ありません。王に雑用を任せてしまい……」

「いえ。気にしないでください」


 と、コーリッヒは優しく返し、その歩みを、川辺に沿って進めた。

 ダーヘンもそれに続く。

 その顔に、わずかな笑みを浮べて。


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