タイムマシンの秋
「あ~、やっちゃった~…。どうしよ。あたし何やってんだろ。凡ミスだ~」
機体には、行き先の年月が【1981年10月】となっている。
(はあ…。本当は8月に行きたかったんだよなー。あたし何焦ってんだろ。)
遠くには、山々が見え、風は涼しく…ではなく若干肌寒く、ふもとには村を望んだ。
タイムマシンの充電には、太陽の光が必要。8月の強い日差しなら、一週間で十分満たされる。
が、今は10月…。おそらく二週間は必要だろう…。用意した水着も無駄になった…。
あたしは、マシンから這い出て、背中をあずけると、地面に座り込んでしまった。
と、目の前に、少年が立っていた。ここは林の中。
あたし「こんちは~」
少年「…」
「初めまして~。あたし、リョーコっていうの!君は何ていうの?」
「…ゴロー…」
「ゴロー君、おとなしいな~。そうだ!ちょっと驚いちゃう?あたし、どっから来たと思う?
なんと!20年後の2001年から来たのです!ただし遊びに!」
「…」
「驚けよ」
山道を下る、あたしとゴロー。
「あたしは高校2年。夏休みの旅行で来たんだ。ゴロー君は…ていうか、ゴローは何年生?」
「…小学3年生…。リョーコさんは、なんで、ここに…?」
「リョー姉でいいよ!うちの父さんがさー、なんていうか、造っちゃったんだよね。さっきのアレを。趣味で。でさー、つまんないことばっかのために使って…。少しはあたしも使いたいじゃん?せっかくの夏休みなんだからさー、どっかイイとこ行きたいじゃん?そんで、夏休みの間だけ、頼んで使わせてもらったんだ!」
「…」
「行くんだったら、あたしのまだ生まれてない年代…ちょうど20年前が丁度いいかな?って感じ。けど、あたしが(失敗)やっちゃって、行き先が8月のところを10月にしちゃって~!もう、サイアクだよ~。山ん中だし~。行く前に、水着も買ったのに~!」
「…」
「マシンの充電には、二週間かかるし~。そ・こ・で!リョー姉からゴローに頼みがあるんだ!二週間泊めさせて!ダメ?」
「…家族に訊いてからね…」
「ありがとう!かわいいゴロー君!」
ゴローは、やれやれといった顔をしたが、内心は照れくさかった。
ほんの少しだけ、打ち解けてもいいかな、とも感じていたから。
-
ゴローの家の前で待つあたし。
田舎だからなのか、家がでかい…。庭から伸びる柿は、まだ実が青いか。
事前にゴローには、言ってある。
「あたしが、20年後から来たってのは、黙っててね!」
玄関を開けて、ゴローがやってくる。
「いいって」
「オッケー!ありがとう!」
それから、二週間、あたしとゴローは生活をともにしました。
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「ゴロー、紅葉見に行こ!紅葉!」
「まだ早いよ…」
「いいから行こ!」
-
「何?宿題やってんの?リョー姉が見てあげる!…(あ、あれ?この時代の小学生ってこんな難しいのやってるの?)ま、まあ、自分でやんなさい自分で!」
「あはは…」
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ゴローの母「さーさ、栗ご飯おあがりなさい」
「おいし~!もう、行き先間違えたの帳消し!」
「食べ物で帳消し…」
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「リョー姉。虫の音がきれいだね」
「うん」
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帰宅前日。山の上。
「マシンの充電オッケー!明日、2001年へ帰るんだな!…本当に…明日帰るんだな…」
今夜も栗ご飯。今夜は、ゆっくり味わって食べよう。
帰宅日。
ゴローの母「これ、梨と葡萄と栗。お家に着いたらお食べなさい。」
「うわああ!ありがとう!お母さん!二週間お世話になりました!ゴロー、駅まで送ってくれる?」
「…(コクッ)」
家から、山の上まで、話すことはなかった。山から下るときは、リョーコもあんなに話していたのに。
タイムマシン前。
リョーコ「じゃあね、ゴロー。楽しかったよ。この季節もわるくないわね。…?ゴロー…?」
ゴローの顔がくしゃくしゃになってゆく。
「うああ…!リョ、リョー姉…うっ、うっ…いっ行か…ないで…」
この子が泣き虫なのは、出会って数日で知っていた。静かに、深く、抱きしめてあげました。
「男の子が泣かないの。将来、良い男になりなさいよ」
あたしの胸の中で、まだ少年は鼻をすすっている。そっと、少年から離れる。マシンに入るあたし。
「んじゃあねえ!ゴロー!」
ゴローは、目を真っ赤にしながら、あたしから目をそらすことはありませんでした。
「…さよなら…リョー姉…」
-
2001年9月。登校初日。
「リョーコ、元気ないね。どうしたの?」
「携帯なくした…。絶対あのときだ…。絶対1981年で落としたんだ…。おかげで、新しい携帯買うはめになったし…」
「よ、よく分かんないけど、大変だね…」
-
翌月10月。
あたしが家に帰ると、荷物が届いていました。あたし宛てだ。
開けると、ボロッボロの携帯が入っていた。きたなっ!けど、確かにあたしの携帯だ。
それと、梨と葡萄と栗も。ああ、あの泣き虫君。手紙も添えてあったけど、夕飯のあとにしよう。
栗ご飯のあとに。
あたしは、秋を二回楽しみます。タイムマシンの秋。
父さん、今度は冬休みにマシン使わせてよ!スノボー!