第五話
評価と感想orz
「イメージせよ! 物質がどんどん硬くなっていくさまを!!」
開口一番、ヴァン○ードのキャッチコピーのようなアドバイスをサラ先輩から受けていた。
どうやら、俺の能力はあらゆる物体や物質を硬化させることができる、という能力なのだそうだ。
俺は雑魚っ!? っと思ったが、使いようによっては化ける能力らしいので、まずは物を硬化する練習から始めている。
「といっても...俺がこのプラスチックの箱を鉄以上の強度にできる力があるなんて...信じられませんよ」
「あら、本人がそう思っていたらそりゃあできないでしょうね。何? 私の胸を揉みたくないの?」
「イメージせよ! 俺の息子がどんどん堅くなっていくさまを!!」
「...最低」
あ、黒咲さんからゴミを見るような目で見られた。
実際、やわらかいものがどんどん硬くなっていってる。
やはり、俺には物質硬化の能力があったのだろう。
「あ、ほら。箱の硬度が上がってるわよ」
「え!? 今ので!?」
本当に、プラスチックの箱を、鉄のような物質が箱を包みこんでいた。
「あれ...この物質硬化って能力は、物質の原子がくっついて強度を上げるというよりは、鉄の膜が物質全体を包むって意味での能力なんですかね」
「さあ? 神クラスの能力は主人ですら把握できないのよ。まあ、電気を通さなかったり、耐熱性があったり、強度はダイアモンド以上であったりと、と鉄ではないみたいだけれどもね」
なるほど。息子が硬くなるイメージで、物全体を包む、という感じか。
「さて、ひとつ鋼くんに問題よ。この物質硬化という能力をどういう風に使えば戦闘に活かせるでしょうか?」
「いや、体全体を硬化して鎧みたいにするとか、拳を覆って殴ったり...とか?」
「まあ、たしかにそんな使い方があっているでしょうね。常人の1000倍ほどの身体能力の鋼くんが、ダイアモンド以上の強度を誇る膜で拳を包んで殴ったら、相手はもの凄い衝撃を受けるでしょうね」
いや、まあそうだろ。
さっきのおっさんのパンチの拳がもっと鋭く硬い拳だったらと思うと、震えが止まらない。
「でもね、普通の吸血鬼人は全力で人を殴れないのよ。いくらかセーブをしなくてはならないの」
「え、それはどうしてですか?」
あのおっさんは、あれでもセーブしていたのか。
「吸血鬼人は元人間だから、体の作り自体は人と同じなの。それに1000倍の負担を拳にかけたら、拳が壊れてしまうでしょう? 吸血鬼の血が流れてるから、自己再生能力は人間の非じゃないけれどね」
ははあ、と俺は首を振る。
「でも、鋼くんの場合は、拳自体を硬化することができるから反動がゼロ。つまり、ありったけの力でパンチを放てる+拳の硬さを上げれるというメリットがあるのよ」
「なるほど。ただ殴るだけでもとんでもなく強そうですね」
「まあ、鋼くんの能力は開花したけれど、この能力の強さをどこまで引き出せるかは貴方次第よ」
「うー、なるほどなぁ...」
それに、硬化作業に集中しても、まだ小さな箱ひとつ分しか硬化できない。
体をコーティングするように硬化させることなどできるのだろうか。
まあ、帰って一から練習しよう。少しでもこの人たちに追いつくために。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「ふうー。面倒くさいですよー」
私、姫野実花はとてつもない面倒くさがり屋だ。
一緒に半吸血鬼人を撲滅するために、主人であるサラの眷属をやっている。
他の主人は、眷属に乱暴したりするのが当たり前だが、サラはむしろ友達のように接してくれる。
今日はその主人であるサラに、新しい眷属である八条くんを尾行し、家に帰るまでの安全を見届けろというミッションを出されている。
「特に襲われることもないと思うんですけどねー...」
私は、愚痴を言いながら帰路につく八条くんを見届ける。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「はあ、今日も色々訳分からんことだらけだったなぁ...」
ようやく、能力を引き出す修行が終わり、家に帰してもらえることになった。
こっから家までの帰路は、昨日吸血鬼のおっさんに襲われたばかりなので多少トラウマがあった。
サラ先輩に送ってもらえるチャンスかと思って、送ってくださいと言ったら、男の子なんだから一人で帰りなさいよ。何? 死にたいの? と言われたので諦めた。
「ん、霧か? この時期に珍しいな」
今の季節は春だというのに、急に霧が立ち始めた。
その霧は一瞬で俺の周りを囲み、気がつけば霧で目の前が真っ白になっていた。
「くふふふ...貴方が氷の蒼姫の眷属ですか...」
不気味な笑い声と共に、青白い肌のやつれた女の人が俺の前に現れた。
不意に、逃げろ! と肌で感じ取ったが、なぜか俺の足は一歩も動かなかった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
やられた! と、不意に私はそう思った。
「あれは、上位の吸血鬼が使える能力、霧化と魅了ですよ...これはまずいことになってきましたわね」
八条くんを包んでいる霧と、八条くんを動けなくしている魅了。
少なからずとも、2つもの能力を持っている上位吸血鬼が相手であることに間違いはない。
「...死ぬかもしれないですね」
私は、戦闘能力に秀でているわけでも、能力が飛び抜けて強いわけでもない。
しかし、八条くんを襲っている相手はサラと同等かそれ以上、というほどの相手だろう。
「主人は、八条くんにピンチがあったら、迷わず飛び込め、といってましたわね」
私は、何の迷いもなく吹っ切ることができた。
「八条くん、ランクの差だけが強さじゃありません。先輩の強さ、見せてあげますわよ!」
その霧の中に、私は飛び込んだ。