表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

プロローグ

4月19日(水)快晴。


しかし、それに反比例するように、気分はどんより雨だ。


受験を乗り越え、新高校生になった俺は、ようやく自由になれるかと思ったら、まったくそんなことはなかった。


むしろ、勉強が難しくなり、中学校のままがいいとすら思える。


「はあーだりぃいいい...」


もうなんなんだ。生物なんて習う必要ないじゃないか。ミトコンドリア先輩の何を知って将来役に立つんだ。


ここ、紫苑しおん高校に入学した俺こと八条鋼はちじょうこうは、この学園に入学したのには理由がある。


...まあ、志望理由無しに高校決めるなんてどうかしてるけど...


要するに、可愛い先輩がいるのだ。


中学校の頃にめちゃめちゃ可愛い先輩が、紫苑高校にいるとSNSが大騒ぎになり、混乱に乗じて、写真を見せてもらったのだが、もうアイドルグループの比ではないほど可愛かったのだ。


サラサラと整った青い髪、キリッとした顔立ち、抜群のスタイル、どれを見ても自分の目線が釘付けになるのに自覚があった。


そして、その先輩と付き合うため!...とそんなに夢を見るほど馬鹿ではない。


ただ、生で見てみたかっただけなのだ。


なのに...


「今現在不登校って...何があったんだろうなぁ...」


そう。その噂の「サラ」先輩は現在不登校なのだそうだ。


サラ先輩以外に、この学校に志望した理由などないので、当然やりたいことなどあるはずもなく、つまらない授業を半ば死にかけた状態で受けている。


「では、ここテストに出るからメモってね。号令~~~」


生物の担当教師ババアがフワフワした声で号令を促す。


こんななんともないようなことでイラッとくる俺は末期なのだろうか。


「何怖い顔してんだよ鋼~?」


悪友の松尾が俺に話しかけてくる。


松尾もサラ先輩目当てでこの高校に入学したが、こいつにはサッカー部というもうひとつの志望理由があったので、俺よかこの学校をenjoyしているみたいだ。


「そういやさ、今日漫画の新刊でるから一緒に本屋行こうぜ。帰りがけ駅で待っててくれ」


そうか。今日は俺の好きな漫画の新刊の発売日だ。


「そういやそうだな。分かった。帰り駅で待ってるわ」


「サンキュー鋼! んじゃあとっとと掃除終わらして帰るか」


あ、今の生物がもう6限目だったのか。ほぼ寝てたから気付かなかった。


明日も学校がある、とふと思ってしまうので金曜日と土曜日以外は大嫌いだ。


これは小学生の頃からの持論だが、みんなそう思ってると思いたい。


「はー。俺は今日は掃除ないし...駅で松尾を待つか...」


松尾を待つ。うん。我ながらすばらしいギャグができたものだ。


人が溢れた駅前の道路を歩き、本屋へと足を進める。


「ねえ。そこの君」


...?


「君よ。八条鋼くん」


...ん、俺が呼ばれていたのか。


こんな学校に離れたところで俺を呼ぶとは、一体誰なんだ?


と、振り返ると、その俺を呼んだ人の顔は、中学校の頃に何時間と写真を眺めたサラ先輩の顔そのものだった。


「...サラ先輩??」


「あら、私のことを知っているの? 嬉しいわ。」


そう言って、サラ先輩が僕を人気のない裏路地に引っ張ってきた。


その瞬間、時間が真っ白になり、心臓がうるさくてたまらなくなった。


何で不登校のはずのサラ先輩が町に居て、しかも俺を知っていて、なおかつ俺に話しかけてくるんだ。


わけが分からない。わけわかめー、だ。


「こ、こんなところで何してんすか?」


「単刀直入に言うとね。貴方に頼みがあって、ずっと貴方と二人になれる時を探ってたのよ」


...俺に頼み? 会ったことないはずの俺にわざわざサラ先輩が頼みを??


こんなこと言われたら嬉しいはずなのに、不気味さが湧き出てくるのを感じた。


「頼みって...な、なんですか?」


「実はね。八条鋼くん。私の眷属になって欲しいの」


...へ?


「...ほぇ? 眷属??」


「そう。知らない?? 眷属のこと」


いや、そういう問題じゃないだろう。


「いや、そういう問題じゃなくてですね。どうして俺なのかというか、眷属になるとかおかしな話というか...」


「まあ細かいことは後で説明するわ。とにかく今は私に従って欲しい」


従って欲しいって...


「な、何すりゃいいんすか...」


「ただ君は黙って目を閉じてて。絶対に声を出してはダメよ」


「は、はぁ...」


とりあえず、言うとおりにすることにした。逆らったらどうなるのか分からないしな...


「ごめんなさいね。少し痛いから我慢して頂戴」


「!?」


ビリッ! っと、首すじに針が刺さるような痛みを覚えた。


「うあっ...!?」


あまりの痛さに声を出しそうになると、サラ先輩が口を抑えた。


「声を出してはダメよ。周りに聞こえちゃうじゃない」


おそるおそる目を開くと、サラ先輩が僕の首すじに噛み付き、ちゅうちゅう、と血を吸っていた。


「あら、貴方の血は最高に美味しいわね。通りで物質硬化の能力を持っているわけだわ」


「サ...サラ先輩...は何を...? 物質...硬化??」


あ、ダメだ。血が足りない...


どんどん暗くなっていく視界。虚ろな意識。


わけの分からないまま俺は意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ