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そして彼は去って行った


あたし今、旅してます。


見た事もない土地で、ただただ歩いてます。


そこで出会った、彼の話を一つ。









「すいませーん! ボール取って下さーい!!」


向こうの公園から、健康的に日焼けした少年が一人かけてきた。

あたしの目の前には、土で薄汚れたサッカーボールが転がっている。


「はいよ、僕っ」


あたしは力一杯、サッカーボールを投げつけてやった。

別に怨みはゴマ粒ほどもないが、

冗談混じり、軽いジョークのつもりで。


「わっ!! いってぇ〜!」


バシっとボールはジャストヒット。

少年はあたしを睨んで


「そんなに強く投げんなって! 手が赤くなっちゃうだろぉ?!」


ありのまま叫んだ。

その姿はとても可愛らしい。


「はは、ごめんね僕w」


手を合わせ、あたしは日本風なおじぎをしてみる。

そしたら少年が


「・・・お姉さん日本人?」


こう問いかけてきた。

あたしは何気ない子供の質問だと思って


「僕は日本に興味があるの?」


質問でかえしてみた。

そして少年は言った。


「ママがニッポン人なんだ・・・」


どこと無く表情が暗い気がしてならなかった。

もしかしたらあたし、いけない事聞いちゃったかな?

でもまずは、この重い空気を何とかしよう。


「あ・・・えっとぉ・・・ママが嫌いなのかな・・・?」


なんのフォローにもなってないあたしっ!

しまったと思いつつ、少年の顔色だけを気にした。

だが少年は顔を上げ、笑顔でこう答えた。


「ううん! ママの事は大好きだよっ!」


正直ほっとした。

だって、本当にまずいと思ったから。

でも一つ疑問。


「じゃぁ、どうしてさっきはあんなに暗そうにしていたの?」


あちゃー。

相変わらずいたい女だ、あたしは。

でも少年は、いぶかしむ事も無く言った。


「ママは滅多に家に帰ってこないんだ、何時も世界のどこかに居るの」


まるであたしのようだと、鳥渡ちょっと共感できた。

けど子供にとってはどうだろう?

お母さんがいなくて、お父さんだけの生活。

きっと寂しいにきまってる。


「でもね」


少年が目を輝かせて言ってきた。


「ママもパパも、僕のことすっごく愛してくれてるんだ!

 だから、ママが自分の好きな事してても、パパも僕も許せるんだよ!」


すごい。

こんなに強い子が、同じ地面に立っていたんだ。

あたしも、こんなたくましい子供が欲しい。


「そっか・・・温かい家族なんだね」


今日、一番優しい笑顔をしたのはこの瞬間だった。


「もちろんさ!!!」


少年もまた、最高の笑顔で答えてくれた。

そんななか、少年が先ほどいた公園から、少年を呼ぶ声がした。


「おっと、もう皆のとこに行かなきゃ! 怒られちゃうからね」


サッカーボールを持ち直し、少年は公園の方を向いた。

あたしも、また歩き出そうとして、公園とは逆の方向に体をやった。

一歩、二歩。

さよならは、出来れば言いたくなかったから。

もう、少年に声をかけようとしなかった。


「あ、そうだ・・・お姉さーん!!」


去ったはずの少年の声に引き止められてしまった。

慌てて振り返り、聞き返した。


「なぁに?」


思ったより遠くに居た少年が、ニコッと笑って


「僕は ジャント・イシカワ・ダウェンポートってんだ! お姉さんは?」


あたしは心地よい風が、足元を通るのが分かった。


「あたしは 寿純じゅんよ!」


少年は―――ジャントは満足そうに微笑んで公園に戻って行った。

あたしは歩き出した。

会う事はもうないと、少し涙を目に溜めながら。

だけど二、三歩歩くうちに、気付いてしまった。


(イシカワ・・・ってあたしの苗字・・・)


そして、ダウェンポートとは―――


「大学の時から付き合ってるじゃない・・・・!!」


彼の苗字。

偶然の産物か、それとも・・・。

急いで振り返った。

そして


「ジャントっ!!」


力の限り叫んだ。

どうしても確かめたかったから。

けれど。

今迄あたしたちが居た場所。

公園も、あの少年も、何一つ無くなっていた。



―――――――――――――――



〜三年後〜



あたし今、旅してます。


見た事もない土地で、ただただ歩いてます。


けれど、前とは違うの。

過去のあたしが、未来の息子に出会えた事。

彼のお陰で、ジャントのお陰で、結婚できた事。


もちろん、息子の名前は―――・




  ジャント・イシカワ・ダウェンポート



きっとあの少年は、過去で、そして未来の


     あたしの愛息子。














こんな長ったらしく身の無い話に付き合ってくださり誠に感謝申し上げます。

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