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クトゥルフ系

宇宙を進む種子

作者: 蛇月夜

漆黒の宇宙(そら)を飛行する濃緑色の物体があった。


小惑星にも満たない大きさの物体(それ)は、別世界の火星奥地に潜む地の神性、ヴルトゥーム(Vulthoom)が放出した災厄の蕾。


遥か古なる時に火星に降り立った彼女は数百年から数千年に一度、宇宙に自らの欠片を蕾に()め打ち上げる。


宇宙を行くそれもそんな一つだった。


なぜ彼女がそのようなことをするかは分かっておらず、謎に包まれたその行動の真の意味を知るものはいない。


放ったそれが新たなる土地、他の星に落ちた時、それはその星のもっとも栄えている生物に寄生し、学習し、吸収し、(すべ)てを滅ぼし、その星の歴史()を終わらせる。


そんな運命を背負った種子が放たれて、はや幾星霜。


一光年もの距離を百分の一時間で突き進む進む蕾の前には、母の父にして、外なる(TheOuter)(Gods)の福王、ヨグ=(Yog=)ソトース(Sothoth)の影があった。


その姿は絶えず形や大きさを変える虹色の輝く球の集積。惑星ほどある球体もあれば、子供の握りこぶし程度のモノもあり、触手のような光り輝く鱗を持つ蛇が無数の球体に見え隠れしている。


星に着くまで止まることのない蕾は祖父の身体を構成する球体へと進み、その体の中を突き進んだ。


ヨグ=ソトースは時空間の門にして鍵。体そのものが(ゆが)(ひず)み螺子曲がっている。


祖父の身体を通る蕾へ大量のエネルギーが与えられ、時間軸は歪み、空間が螺子曲がる。


本来与えられることのないはずのエネルギーが蕾へと流れ込み、その本質は少し、だが全体としては大幅に変わった。


人間の時間など当てにならない世界を潜り抜け、出た先の目前には青き地球が広がっていた。


引力に引かれ大気圏を突破し、落ちた先は日本の山。


蕾は開き、根を張り花が咲いた。


思わず目を引かれる美しい彩りと、庇護欲を掻き立てる愛くるしい形をした花が咲いた。

しばらく経ち、花は空気を取り込み、根を使い近くの生物を食い散らかし、深く地下水を飲み続けた。


そして、実が成った。


人一人が体を折り畳めば容易に入れる程の巨大な実が成った後も、それは更に一ヶ月の間、栄養を吸収した。


山に住む生物を、山に蓄えられた地下水を、そして近付く人間を。


それは手当たり次第に食い荒らした。


何時しか山は荒廃し、荒れ果てていった。


人が寄り付かなくなった山では、実が遂に熟し、邪神の種が――真の子供が生まれ落ちた――


最初は白と緑の混じった粘液状の液体生物だった。


しあし、次第に盛り上がり、ヒトの姿を模していく。


「お……な、か……、す、いた……な……?」


本来、端末という名の子供が持ち合わせているはずのない、感情という異分子を持って。

それ(・・)は雪のように白くきめ細やかな肌、新芽のように鮮やかな緑の長い髪、愛くるしい顔、慎ましやかな胸、細い手足を兼ね備えた、白い粘液状の液体にまみれた全裸の小学生程度の少女だった。

もしもこの誕生の瞬間が美しく澄んだ湖の上だったならば、さながら精霊(ニンフ)に見えただろう。


だが、その足元には白骨化した人間の骨と元がわからないほど腐り蛆の湧いた肉片が散らばり、血を吸ってどす黒くなった地面が広がっていた。木々が枯れ果てた、死んだ山の中である。


「ま……ち……に、いけ、ば……たべ……もの、あるか、な?」


子供は人里を目指し山の中を歩き出した。


餌である人間を求めて。




その星《地球》の最も栄えている生物《人間》の知らないところで。


この世界の終焉は着実に近づいていた。

随時加筆中。


5/20 加筆

6/1  加筆



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