黒いシミー2
2
廊下の床の冷たさが
紺色ハイソックスを通じて私の足を凍えさせる。
「さむっ…」
制服の上から黒のコートを羽織り、さらに赤い星柄のマフラーを首に巻きつける。
そしてやっとこさ
玄関で私を待つ焦げ茶色のローファーにたどり着いた。
冷えた足を滑り込ませ、トントンっと軽くつま先で床を鳴らす。
自転車の鍵を取り出し玄関の扉に手をかけた瞬間
ピンポーン、と
タイミングよくチャイムがなった。
「はいはーい…今行きますー」
ガチャっと戸を開け出迎えてくれたのは、同じ学校の制服を着て黒い自転車に乗った
黒い短髪の少年。
門の向う側から
「おはよー今日も寒いね。」
と、白い息を吐き笑顔で私を迎えてくれる。
そんな綺麗な笑顔につられて
思わず私の寒さで固まった表情も緩む。
「おはよー!待って、自転車とってくる!」
「おー早くな、寒くて俺凍ちゃいそう」
「はいはい」
そう言って少し早足で
裏に置いてある赤い自転車をとりにいく。
彼は近所に住む一歳年上の
幼馴染の翔
物心ついた時から幼稚園も小学校、中学校もずっと一緒だ。
そして今も同じ高校に通っている。
彼は知らないだろうが中学校に入った頃だっただろうか、私の心には彼に対して淡い恋心が生まれていた。
しかし今、彼には同じクラスの河井亜紀という彼女がいることも知っている。
彼女はとても美人といわけではないが私と違い、大人しい感じの可愛らしい女の子だ。
私にも凄く優しく接してくれる。
「おまたせー!」
「遅い!俺が凍ったらだれが解凍してくれるんや!」
「知らん。」
「あ、お前が抱きしめて俺を暖めてくれるんか?」
「は?なに言ってんの!彼女がいる人が言っていい台詞ではありません!」
「あーお前照れてんの?」
「だっ誰が!」
くくくっと意地悪そうに笑いながら私の頭をくしゃっと撫でる。
「もーすぐそうやって子供扱いするんだから!」
「だって子どもだろ?」
「うっさい。」
「反抗期かお前は。お父さんは悲しいぞーっ。」
「もーいいから早く行くよ!遅刻しちゃうじゃん!」
「はいはいー。」
私の後に続いてのろのろと走り出す翔。
これも毎日の日課。
家の近い私達は毎朝一緒に自転車で登校する。
他愛のない会話をして笑いあって、なんの変哲もない日々。
「早く早くー!」
いつまでたってもスピードをあげない翔に私は振り向きながら大声でせかす。
「えー。だってスピード出したら寒いんだもん。」
「我慢しなさい!それよりも外に長くいるほうが寒いよ!早く学校ついて暖まろうよー!」
「学校も寒いもん。」
「外よりはまし!」
「んー…それにー」
「それに、なに?」
「学校着いたらお前と一緒にいれねーもん。」
「え?なんて?声が小さくてよく聞こえない!」
急に小さくなった翔の声は耳元で鳴るバタバタ、という風の音に掻き消される。
「なんでもねーよ!」
そう言って彼は誤魔化すように
スピードをあげて私の赤い自転車を追い越していった。
「ちょっと待ってよーー!」
「早くこーい!遅刻すんぞ!」
「もー!!」
喉元まで出かかった、今までのろのろと運転してたのは誰よ!という言葉をのみ込み私もスピードをあげて翔を追う。