七個目 少年と一緒、ですよ
現状:ダンボールから出現したスク水女に皆唖然としていた。
「あーーーーっ!このバカ女、何処に隠れてやがった!!」
「あ、さっきの姉ちゃん!なんでこんなとこに!?」
「弱いもの苛めは許さないのですよ!!」
「ガキ!もうオメェにゃ用はねぇからさっさとどっかに消えな」
「いやいや、さっきまでだったら受け入れてたけど。今度はボクがあんた達に用が出来た!!」
「私が相手しますから、少年はお逃げなさい!!」
「いやいや、姉ちゃんもなに勘違いしてるか知らないけど逃げるまでも無いから!」
「ついでだ。オメェら、このガキどもまとめて始末したれや!!」
「「「「おぅっ!!」」」」
「やっかましぃぃぃ!!!」
そして少年の叫びと共にその大混乱のまま戦闘へともつれ込む。イチコは先程から戦闘モードに入ったままであり、戦闘準備も万全。そしてギルドの二人から吹き込まれた彼女の通常攻撃とは……危険物の投擲である。
「【ハーブクリエイト:火草】大量召喚、ですよ!!」
ちなみに因縁をつけてきた男たちには先程も食らわせており、怒り心頭になった男たちが追いかけてきていたのだ。攻撃力の調整が上手く行かないのがアイテム攻撃の哀しさである。
「あちぃぃぃっ!!!俺の脚が、燃えるーー!!」「めが、めがぁーー!!」
「潰さなきゃなんてことはねぇ!さっきと同じ手だろうが馬鹿かお前らは!!」
「何物騒なもの使ってるの、この姉ちゃん!?あぁ、もう 4thギア マテリアル始動」
「少しでも減らして逃げるのですよ!」
「ここ、リアルに影響出る領域なのに…無茶するね!」
「どれだけ痛くてもゲームだから大丈夫です!」
「全然大丈夫じゃない!?さてはPLK知らないな、姉ちゃん?」
「なんだか悪者の空間ですよね、それなら知らなくても問題無いですよ!」
「何も知らない馬鹿が一番危険だーー!!」
少年と叫びあいながらひたすら火草を投げ続け、ジリジリと後退して脱出の機会をうかがっています。…一人づつなら時間をかければなんとか倒せるのですが、少年の為にも一気に倒してしまわないと。
「20個くらい火草頂戴!」
「何に、使うんですか!!(ぽいぽいぽいぽい!」
「お姉ちゃんに免じてあいつ等は焼くだけで済ませてきてあげるから、はやく」
「危ないことはだめですよ!?」
「本気出せるなら5秒もあればオレ一人で倒せるんだよ、あのくらい!」
「へぇー、出来なかったら引っ張ってでも逃げますからね!!」
「10秒まってて、【加速領域】発動!!」
請われるままに足元に火草を適当に転がすとソレを掴んで少年の姿がその場から消えました。
…いえ、唐突に集団の中から「ウゲッ!」「クキョッ?!」とか聞こえますから…超スピードで移動中でしょうか?
いきなり背中から発火してますし…凄い速さで火草を放り込み、服の上から叩いて燃やしてますか、彼?
Side ????
このお姉ちゃんに任せてたらきっと僕自身が危ない!
「10秒まってて、【加速領域&ブレイクシュート】発動!!」
まずはPLK領域から逃れる為に自分の領域を発動し、PLK領域特有の嫌な空気を吹き飛ばしながら己の縄張りに書き換えていく。何もかもが遅く、全ての動きが鈍くなる加速の領域に。時間を一人だけ飛び越えていくような風の抵抗と思考の加速感覚に包まれながら火草を拾い、手短な男に走り寄る。
亀よりも遅く動いている|(実際には自分の感覚が加速している為)相手の背中に回って火草を数本まとめて放り込むなど超加速中であれば造作もない。加速を維持したまま更に他の男たちの背中に火草を入れ、ある程度深くまで落ちたところで、流れるようにスキルを纏った強力な蹴りを背中の火草に叩き込んで着火してやる。
「無力化確認、マテリアル停止」
身体を覆う風の重さ、そして加速感覚が一斉に波が引くように減衰していく。
まぁ、格好よく描写しようとした所で背景では背中を燃やしながらおっさんどもが転げまわってるのだが。
Side End
わー…何がおこってたかよくわかりませんでしたが…やっぱり凄いダッシュですか。
良いですね、超加速。何人たりとも俺の前は走らせねぇ!!みたいで憧れますよ!
「はい、お待たせ」
「これは……助けに出るまでもなかったようですね……」
「思いっきり僕からも喧嘩売ってて負けるわけないって。とりあえずここ離れよ?」
「これ、放っておいて良いんですか?」
「平気平気、むしろハゲタカが集まる前に離れとかないともっと闘うことになるから」
「…この世界にもハゲタカいるんですねぇ…あ、段ボール回収してきますから少しお待ちを~」
「……気に入ってんの、ソレ?」
「意外と使い心地がいいですよ?」
「いや、満面の笑みで言うことじゃ……まぁ自分がいいならいいけど」
イチコはカポッと再び段ボールを被って少年の隣を歩き始めた。傍から見るとダンボールを引き連れた少年は無駄に目立ち、何となく見てるだけで可哀想な物を見ている気分にさせる。
「そういや姉ちゃん、なんでこんなとこにそんないかにも襲ってくださいーって格好でいるのさ?」
「ちょっと…色々ありまして、つれて来られたと言いますか」
流石にいえません。まさかアイテムを盗む為に殴りこみにつれて来られたなんて。
「あぁ…まだこのワールドに奴隷商人居たんだ……後でボコっておくからここから出たら一緒にそいつ探そう?」
「奴隷商人…?」
「アレ、違った?てっきり此処の禁制品に引っ掛けられて連れて来られたんだと思ったけど」
「あ、いえいえいえ!ただよく分からないうちに此処に連れられてきましたから」
「そっか…催眠香か何かかな…ま、此処出てから落ち着いたら詳しく話してよ。今はあのおっさん達のせいで心臓バクバクだろうし」
「は、はいですよ~…」
「とりあえず僕は市場に行くけど、ついてくる?見たところそんなに強くないみたいだし、一人だと危ないかもしれないし?」
「……また追いかけられるのもゴメンですから御一緒させて頂きマス」
見知らぬ子供ですが一緒に居たほうが安全確保できますから…それに見た目的に放っておくのも逆に心配ですし…この子が万が一にも人攫いの一味ならどちらにせよ逃げ切れませんしね、市場に行けばきっとルシアさん達も居るでしょう…あの、5分以上経ってますが市場に居なくてお仕置きされませんよね?
「あんまり遅いとおいてくよー?」
「ちょ、待ってくださーーい!!?」
早ッ、スキル無しでも走るの速ッ!運び屋って自分自身が速いものですか!?
慌ててダンボールを押しながらさっさと追いつこうと猛ダッシュで追いかけます。
* * *
再び横に並んでしばらく歩いていると喧騒に包まれる大きな通りに差し掛かりました。
まあ、喧騒とは言っても…「あら、コレ盗みたて?」「もってけ泥棒!!」「コイツ、うちの商品盗みやがったな!!」「とろいのが悪いんだよジジィ!」とか、そういう物騒なやり取りですが。
あ、なにやら銃声が聞こえました。意外と近いのに皆さん動じてませんね?
しかし……これはルシアさんを探すだけでも大変そうですね。とにかく皆動き回ってますから、全員の顔を確認できないのですよ。それにこの中にスリも居るようですし……というより今まさに少年がスピードスキル|(少年のマテリアル)をフルに使用して通行人と店の隙を突いて盗みに走ってますし。
「…っと、お待たせ!これだけ有れば元の世界に戻っても不自由しない金額はあると思うよ」
「両手一杯の金貨…なんというスキルの無駄遣い、ですよ」
「奴隷にされてたならお金、持って無いでしょ?これから帰るのにも要るかも知れないし取って来て上げたンだけど……要らなかった?」
「お、お金は確かに無いですが。多分一緒に来た人たちと合流できればどうとでもなるのですよ」
「あ、他にも連れて来られた人がいるんだ…」
「実は連れてきた人といいますか…」
「え?」
「随分物騒な市場ですね~、と。めまぐるしく人と物が移動してますし」
「あぁ、すごいでしょ?盗んだものを売りさばく所なんて此処だけだよ」
「…何でも揃いそうですね…此処は」
「何でも盗んで持ってきて売りつける。ソレが此処の商売だからっ、モノがあって当然、らしいよっと!」
不意に近寄ってきた男(スリの一味)を蹴り上げから踵落としで地面に埋め込みつつのんびりと市場を歩く少年…まだ名前聞いてませんでしたね。
「どんだけ無法地帯ですか、此処は」
「PLK、つまりリアル・プレイヤー・キラーがそこらの路地裏でも展開されるぐらい危険な世界だよ、此処?」
「なにやら物騒な単語が…なぜゲーム内でリアルキラーなんです?ソレこそただのPKでいいと思いますが」
「あ、PKはゲーム内で死ぬだけだけど、PLKだと現実の身体も怪我するから」
「はい?」
「ギルドとかで聞いたこと無いかな、しばらく入ってこれなくなった怪我人の話」
「…半年続けてますけど初耳です」
「知らぬまま……次からPLK領域で戦闘しないで欲しいな」
「ギルドに戻ったらお勉強なのですよ~……みっちりと」
「たまたま僕…いや、オレが見つけたから良かったけど」
一人称言い直しましたね、大人ぶりたいお年頃なのでしょうか?
「そう言えば私は森のワールドですけど、少年はどこの人ですか?街の方でもぶつかりましたし」
「森…<ラビリンス・フォレスト>かな?ん、僕は<シェアリング・シティ>が拠点だよ」
「此処へはお仕事で?」
「ちょっとギルドのサブマスターから頼まれごとをね」
「ふむふむ……何のギルドですか?」
「冒険者ギルドだよ?」
<シェアリング・シティ>の冒険者ギルド、いくつもあるのでしょうか?
確かこの子は運び屋で、ルシアさんが探してたのも運搬出来る人で…
「………………」
「どうかした?」
「失礼ですがお名前を聞かせてもらっても?」
「え、さっきも言ったけどギルドに行ったら<運び屋>で伝わるよ?」
「いえ、本名を知ると状況が変わる気がしまして」
「名前だけで何の状況が変わるのさ?」
「…名前を聞いてからお伝えします」
「まぁいいけど、オレの名前はエグゼス。<運び屋>エグゼス・ライダー」
「……………………」
「お姉ちゃん?」
「……やっぱりあのギルドのメンバーですかーーーーーーーーーーーー!」
大きな喧騒に包まれる市場に、ソレを上回るイチコの叫びが木霊した。
『イチコ、エグゼスと合流』
*その頃のシド&ルシアペア
「店主、ソッチを相手してる間にもっと持っていかれてますよ?」
「放っとけよルシア、巻き込まれたらメンドイ」
「ですが…「お前らもあのこそ泥の仲間かぁ!!」
「ほらな?やっぱり絡んできやがった」
「…すみません」
「盗んだ分の代金、払っていけぇ!!」
……市場の片隅で店主に絡まれていた。