六個目・・・お使い、ですよ
忙しくてマイペース投稿がかなり崩れてしまいました…
「盗品の運搬は向こうにいるはずのエグゼスに任せます」
「了解!…くぅぅ、盗品を盗むって発想もゲームだからだよなぁ!」
「本来ならゲームといえど盗みが横行してる事は間違っていますが。蔓延っているのならソレはソレ、利用させていただきましょう」
「オラ、すっごくわくわくしてきたぞ!」
「どこの戦闘民族ですか……あくまで反撃だけですよ、認めるのは?」
「大丈夫大丈夫!イチコが隣にいりゃ絶好のカモだと思われるって」
「……其処は否定しませんが、私がエグゼスと合流するまで派手に暴れまわらないようにしてください」
「派手に暴れても逃げ切れるって楽勝楽勝!」
「…エグゼスは<ラウ・ハーツ>の出身でしょう?刺激するのではないですか」
「否、生まれはあそこでも思い入れが無い、そして恨みの方が深い、きっと俺に合わせて暴れる!!」
「一人でも私では止めようがないんですから自重しなさい。…しかし里帰りのつもりでエグゼスに気軽に頼んでいましたが、コレからは見直す必要が有りそうですね」
皆さんこんにちは、ただいま絶体絶命なイチコです…ノリノリで危険(と自分で言ってた)な場所に連れて行こうとしている鬼がいます。…何気にルシアさんも用意し始めてる気がします。…あの、ルシアさんが行くのなら帰っちゃダメですか?
「ところでシド、アイテムだけ取捨選択して斬らずにいることは出来ますか?」
「あー、ちっと厳しいな。家とか建物も大きく分けるとアイテムに入ってっからよ」
「取捨選択自体は可能ですね?それならば逆に人だけ切れば十分です。…しかし家を斬るとは、自分も生き埋めになるつもりですか」
「埋まっても完全に斬り潰せば何とかなるからな!」
「自分だけは、ですね。よく分かるのですよ」
「お嬢、言わずとも分かることは言うもんじゃないぜ!」
すごく…先行き不安です。私はこの先生きのこれるのでしょうか?
* * *
「今度の移動は船なんですね?」
そんなこんなで一悶着終えて移動用のゲートを潜り抜け、ただいま空とぶ船に揺られてます。
船と言っても小池で乗るような数人用の小さなボートですけど。
さっきはよく見ることが出来ませんでしたが、今度は流れに乗るようにすいすいと船が進んでいくので周りの景色を見る余裕もあります。
「えぇ、さすがにバブル特急には負けますが快適さと速さの兼ね合いを考えるとこれが一番ですからね」
「……二度と泡はゴメンなのですよ」
「世界間を渡り慣れてる人間ならもう一つ良い物があるが、アレは自分で操縦するもんだからなぁ」
「私はアレ、嫌いですけどね。髪も服も乱れてしまいますから」
「アレ…ですか?」
「あぁ、アレ」
「イチコ、貴方はマテリアルの開放できるレベルが2以上有りますか?」
「え、はい?一応全て4か2でそれ以上いってますけど…何か関係でも」
「関係大有りだ。よーし、知らないなら帰りに見せてやろう、多分落ち着いてゲートから逃げられねぇだろうから逃走用にうってつけだ」
「アレは人によってもだいぶ違いますから…どんなものが出るでしょうね」
「あの、土壇場で大丈夫ですか、アレって」
「「……多分?」」
「また行き当たりばったりデスカ……」
あの、本当に私はこの先まで生き残れますよね?出来なかったら見捨てて言ったりしませんよね?
……用済みだと言ってそのまま危険区域に放置されませんよね?
とっても不安なのですが……
「まぁ、はぐれても大丈夫なようにこれから軽くレクチャーしておいてやるからよ~く聞けよ?」
「どんなマテリアルもちゃんと攻撃に使えるスキルがありますからね、安心してください」
「あ、私にも一応単体技だけありますけど…」
「単体だけか…囲まれたらアウトかもな」
「あとは戦わないのでなにが使えるかよく分からないのですよ…」
船に揺られて戦闘講義開始、です…おかしいですよね、こんなことさせる位ならそもそも連れて行かないという選択肢が欲しかったのですが。
* * *
ひらけーごまー、といいつつ<ラウ・ハーツ>の世界間移動用のドアを開けると同時に私の横を風が二つ走り抜けました。
えぇ、暴風が二つ、です。
「早速着たなっ!!」
「いつも通り、出迎えだけは早いようですね」
ドアの外には黒尽くめな服装をした人が集団でこちらを捕まえようと張っていたようで……開けた途端に二人とも私の横を通って集団をなぎ払いました。こんな入り口から集中攻撃されるってどれだけ危険な地域ですか、此処は。あと、お二人はいつから戦闘準備を始めてましたか?もうこんな襲撃なんてあって当たり前ですか。むしろ用意して無いなんてありえないと?…………言ってくれませんか、そう言うことは。
「サムライソウル レベル4 マテリアル解放!」
「生命礼賛 同調位相1→5 |聖天・降臨(マテリアル解放)」
「あ!は、ハーブクリエイト&ソイルチャージレベル4解放!!」
囲んできている敵を殴って後ろに下がらせながら二人がスキルを発動します。あ、私も急ぎ合わせて解放しました。…間違えて斬られても自分で回復してね★とかいわれましたから、回復草一杯作って鎧代わりに纏っていましょう。ずもももっと。ルシアさんの戦闘状態は初見ですが……双剣士さんの戦闘は悪夢でしたし、ソレを上回るお人は如何程なのでしょう。私は草に埋もれながら生温く見守っておくのですよ~。
戦場となり始めたゲート前広場には黒尽くめ集団とルシア&シドのペアが相対する。
手に手に刀剣類、銃器、爆弾に黒い瘴気などで武装した黒尽くめ達の様子と放つ殺気からあからさまに目的は強奪ではなく侵入者の排除だと窺える。しかし周りを完全に囲まれて逃げ場など無いこの状況ですら相対する者は意に介さぬように静かにイチコの前に立ちはだかり、飄々と微笑む。堂々たる態度こそが強者の証であるといわんばかりに。
森の時とは違い、シドの周りには張り詰めるほどの殺意と多数の大剣が展開。そのパートナーであるルシアもまた光り輝く純白のヴェールを纏いながら集団を一瞥する。一色即発の空気の中、交わされる会話は―――
「あっちから仕掛けてきてるんだからもう良いよな?殺るぜー…超殺るぜ~?」
「いいですか、あくまでも反撃に限る上、やり過ぎないように…ですからね?」
「まだダメ?」
「どんなにはやくてもカウンターが最初です」
「あのー…本当に帰っちゃダメですか、私」
「そうだな(そうですね)、少し離れてろ(いてください)」
「ですよねぇ……!」
……緊張感と言うものが欠片もなかった。
しかしそんなとぼけたやり取りを見ても囲む集団からの反応は皆無であり、静かに三人、いや二人を見続けるのみ。その視線は、初撃が外れたならば通さぬ事こそが使命と、度々己の庭を荒らしてきた二人の侵入者を捕らえて離さない。……こちらの方がまじめに戦闘に対して取り組んでいるはずなのに第三者から見ると少しばかり滑稽に見えるのは、相手の緊張感の無さが原因である。
「しかし、囲んできた割には仕掛けてこないな?」
「私には【スキル:絶対防御】、貴方には【領域:戦ヶ原】がありますからね。これで三度目の来訪ですし学習したんでしょう。初見で飛び込まない子は懸命ですが」
「あのー…りょういきとは~?また新しいワードが……」
「マテリアルが4レベルになった時に運営からのメール通知が着ませんでしたか?『4まで来たらこんなことが出来るぞ!』と言う件名で」
「……全く見覚えが無いのですよー?」
「そうですか、帰ったら初心者に接するつもりで教育してあげますね。一から」
「覚えるのは苦手なんですけどね~…」
「自分の戦闘力を自覚しなさい。本気を出した時、無為に殺してしまいますよ」
「はいぃ…」
あ、ぶつぶつとスケジュールの調整を呟き始めました。敵前でそんなことしていいんでしょうか、襲撃とかされる元になるのでは…とにかく、お二人が牽制|(?)している間に離れておきましょうか。
「なぁ、ルシア?」
「なんです、今イチコのお勉強のセッティングを考えている所ですが」
「相手が動かないんだがこの場合俺から先制攻撃したら処罰?」
「……既に一撃貰いましたし。どうせ動いたら掛かってきそうですから制限変更です。私の演説後はこちらから近寄って反撃を受けに行くのはよし、あと得物だけ斬って良し」
「ウィ、了解」
「イチコ、これから少し荒れますから先に市場を回っておいて下さい。ものの5分程度で追いつきます」
「は、はいですよ~……叫んだら助けてくれますよね?」
「無論、大丈夫ですよ 多分」
「今多分っていいました!?保証は一体何処に……!!」
「はいはい、大丈夫ですよ。すぐに片付けて追いつきますからね?」
「じゃ、とりあえず…連れが通るから少しだけ道、開けろや」
「言っておきますが…私達より先にその子に手を出した場合は、それはもう凄いことをしてしまいますよ?……シドが」
「俺だけかい!」
「えぇ、貴方だけです。私は不殺がマテリアルの発動条件ですからね…そんなに酷いことが出来ないでしょう?」
「拷問まで俺にさせる気か?人使い荒いな、オイ」
「生きたままいつまで生きていられますかねぇ…まぁ、開けなければ私が撃ちこむだけですから倒れたうえ、後でシドにいたぶられたい方はそのままの位置でどうぞ」
しばし沈黙した後に囲いの一部が開き、「通れ」と誰かが言い放つ。
「どうぞお通り下さいイチコ様、だろ?」
「こんな時に挑発はいりませんから!!?」
「ほら、はやくお行きなさいイチコ」
薬草の塊となったイチコを集団の外に無理やり押し出すと、黒尽くめの集団は再び360度の囲いに戻る。
薬草ごと走って行く彼女を追いかけるものは幸いにも皆無。…居たところで二人の餌食となるだけだが。
「まとめて斬っていいならすぐにでも行くんだけどな?」
「緊急事態であればそれでも良いですが。いつも言っています、私の前では基本的に不殺を心がけなさい」
「此処の人間なら全員PKなんだから問題無いだろ?」
「ただのPKであればまだ更正の余地アリです」
「俺は無駄だと思うがね」
「私はそうは思いませんから、ここに実例もありますし」
「……こんだけ群れてりゃ無理だろ、俺やエグゼスとは場合が違う」
「いいですか?」
「あ?」
「こういう事はやるだけやる、です」
「けっ、好きにしろ。ただし失敗したらすぐに斬るからな」
「えぇ失敗するまでは大人しくお願いします」
その言葉に対しシドは剣気を纏ったまま待機状態に入った。
素直に大人しくなったシドを見た後、ルシアは一人前に歩み出て宣告する。
「我ら冒険者ギルドは貴方達でも受け入れる用意がある!」
「・・・でも毎回説得失敗してるよな」
「外界に合わず、ただ流れてきただけの者が居るのなら我がギルドが迎えよう!」
「一応俺のギルドなんですけどー?」
「人と相容れぬ故、此処に流れてきたものよ。喜べ!我がギルドもまた異端の雑多なり」
「ハッハッハ、ギルドマスターからしてこうやって盗みに来てるからな」
「迫害を受けし者よ。我らがその比護の盾となろう!我らが爪を、牙を与えよう!」
「ただしある程度まではスパルタだぜ★」
「私は虚偽を許さん!望まずに此処に送られたもの、悪事を償う覚悟のあるもの達こそ我が下へ来い!」
「あ、虚偽が発覚したら俺のマテリアルの錆にするぞ」
「生きる為に悪事を犯している者、全て我等が面倒を見てやる。我が手足となれ!」
「お前らー、聞き飽きたなら止めないとコイツずっと喋り続けるぞ~?」
「今日はイチコのためにすぐに終えますよ。 最後に、我らに牙を向くのであれば我らは容赦をせん」
「あ、俺は歯向かってきてくれると嬉しいな。そして俺に大量に斬らせてくれ!」
…最後の言葉にざわつく集団。なお、どちらの最後の言葉にざわついたのかはご想像にお任せする。
「5分で追いつくといいましたし…3分だけ待ちましょうか」
「一秒でも過ぎたら…Kill」
「流石にこの人数だぜ、軽く勝てるんじゃね?」「コレまでの三倍以上だもんな」「勝てるかな?」「でもいつも秒でボこられてるじゃん」「何者だよあの二人」「この人数より強かったらいっても良いかもしれない」「ホントに守ってくれるのかな?」「少なくとも馬鹿強いなら此処にいるより平穏じゃね」「仕事の斡旋さえあればこんな所からおさらばするのに」「でも奴隷みたいに働けーとか言われたりしたら逆らえないんじゃ」「「其処はちょっと怖いな」」
「ちらほらと声が…一部ギルドメンバーになってくれそうですよ?」
「あんな説得で迷う人間居るんだな」
「「「しかし何よりあの刀もってる奴が怖い」」」
「シド、仲間になってから苛めちゃダメですよ?」
「するか、ド阿呆!!」
「はい、言質とりましたから大丈夫ですよー、迷ってる皆さん」
「此処脱出する条件でちょっと労働と考えれば割に合うんじゃ?」「まぁ待て、まだ交渉が必要かもしれん」「しつもーん!」
「「「「「「「「「「馴れ合ってんじゃねぇぞゴルァ!!」」」」」」」」」」
「ちょ、いだぁぁーーー!」「ナニヲスル、ウワヤメr」「フーコ、愛してたよ…!」「いやぁ、ジョニーーー!!」
「シド、今の子達はまだ交渉できそうです。殴られてる子以外を今すぐに薙ぎ払いなさい」
「お手軽必殺処刑スキル発動ー」
「…まじめに斬りなさい」
「チ、一人でも減らない方が斬れたのに」
文句を言いながらマテリアルでできた腰の剣に手を掛け、剣気を収束させる。刃が狙うは勧誘に反応したもの以外の集団全員。
「我が剣に、弐の太刀無し……レベル3【一撃の美学】発動」
握った刃を抜き放つと、広場が闇に包まれた。
* * *
こっそりこそり、ただいま路地裏潜伏中のイチコです。
先に市場に行っておいて、と言われましたが…正直場所が全く分かりません。集団から逃げたかったからとは言え、ちゃんと聞いておくべきでしたね。探してるうちに人とぶつかって怒らせちゃいました★失敗失敗、です。
「居たか!!」
「こっちはダメだ、ソッチは?」
「いねぇから聞いたんだろが!!テメェん頭は飾りか!」
「んだと!!」
「やめんか、バカども!それよりあのアマ、何処に行きやがった!」
つまり……森のワールドに引き続き、またもや追いかけられてます。
気づいて無いだけで変な運命の糸でも絡まってるのでしょうか、私…
現在、ダンボールを被って移動中です。便利ですね、ダンボール。
……冗談のつもりで被りましたが意外と良い隠れ蓑かもしれません、コレ。
しかし、目の前で動いてるのに気づかないってどういうことですか、この人たち…実は馬鹿なんですかね?
「おぃ、其処のガキ!緑髪のアマを見てねぇか?」
「……」
「無視すんじゃねぇ、其処のお前だ、お前!」
「あぁ?ガキってのはオレのことか、でくの坊」
「テメェ以外にガキはいねぇだろうが」
「……誰に向かって口聞いてんだ、一山幾らの雑魚が」
あら、なんだか口は悪いけれど先ほど聞いたはずの声が聞こえます…?
「あんまり舐めた口聞いてッと痛い目にあわせんぞ。ボクちゃ~ん?」
「無駄口叩いてねぇでかかってこいよ、お前らから仕掛けていいからさ?」
…んー、何処で聞いたんでしょう。森のワールドではこんな子供っぽい声は聞いて無いですし…ギルドの中に居た人は皆青年ぐらいの方でしたし。はて…他に人なんて居ましたかね。
「…おい、オメェら。死体はオレが片付けてやる、今すぐRPLKを使え」
「……いいんですかい?」
「構わん、こんなガキは教育してやるのも大人の役目だろう?」
「ちげぇねぇ!」
「…常識を知らんガキには現実の厳しさを教えてやらんとな。【殺戮領域】発動」
男が発動というと、何かヌメッとした空気が広がるように周囲が嫌な空気に包まれていきます。
ぅー…危ないですけどダンボールの端を上げて男たちとにらみ合う少年に目を向けてみます。いい加減誰か気になりますし、今ならあっちに集中してるようですし…大丈夫でしょう。
「……PLK領域使ってくるなら、ちょっとオレも加減できなくなるんだけど?」
あ、<シェアリング・シティ>ゲートでぶつかった子ですか!?さっき此処に飛んできてたの、聞き間違いじゃなかったんですね。
流石にこんな人数に小さい子供が喧嘩を売られるなんて…コレは、加勢した方がいいでしょうか、微々たるも手伝えそうですし…先程助けてもらいましたし。恩はちゃんと返すのが当然ですよね?
「5分だ、5分d「5分も持つ気で居るんだ?」…今すぐ黙らせてやれ」
「行くぞガキィ!!」
「そうはさせません!!」
「え?」
「は?」
ダンボールを上に放り投げて姿を現したイチコを見て、にらみ合っていた双方が呆然と視線を向ける。
まさか、ダンボールを被ってスク水モドキを着た年頃の娘が潜伏してるとは思わなかったのだろう、完全に呆気にとられた姿で固まっていた。……端的に言うと、彼女はこの場に居る誰よりも怪しく、そして同時に一番滑稽な姿を晒していたのだ。