表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

五個目 診察のお時間、ですよ


ベットの上に、少女が二人。

一人は身体のラインが浮き出るほどにピッタリとした薄布だけを纏い、もう一人は何も身につけておらずその裸体を惜し気もなく月光の元にさらけ出していた。意識が無いのか、抵抗する気が無いのか。片割れの少女の為すがままとなっている。


薄布の少女は彼女の白い裸体の隅々まで指を這わせ、その傷一つ無い滑らかな肌に羨望を覚えつつも頬を撫で、首筋をなぞって未成熟な胸元を通り、一度背中を経由して腰。ヘソから下腹部、片足を掴んで根元から爪先まで顔を寄せ―――


「蛭みたいな小動物でも、斬り傷から毒液が入った訳でもなさそうですね。体温が高いので動物の毒かと思いましたが」


何となく雰囲気がいかがわしいですがただの診察中なんですよ?

皆さんこんばんは、薬草師のイチコです。服自体はライミーさんが脱がせていきましたので身体に傷が無いか血眼になって見つめたりペタペタ触ったり、なでまわしたりしてましたけど。ただの治療行為ですからね?


「……辱められた」

「ドーベルマンに喉笛噛まれたと思って我慢してくださいね~」

「おのれ、この恨み晴らさずでおくべきか……っ!」

「おくべきです。後は森の毒草なのかを調べますから、せめて終わるまでは静かにしててくださいね~?」


あ、途中で妹さんも眠りから覚めました。元々浅い眠りを繰り返していたそうですし当然と言えば当然ですが。脅されても血を見て倒れるような子なら怖くは無いのですよ~。


「まぁ、調べるとは言えどの辺りで倒れたのか。近くにどんな植物が有ったか等を効くだけですけどね。さぁ、キリキリ吐きなさいです!」

「そう言われてもな、私は引きずり回されてただけだから、その…よく場所は分からん」

「この役立たずー…じゃぁ出てきたモンスターの姿でいいですから、さぁ!」

「ん~…あれは確か」



Side ルシア


―――仕置き完了。


廊下の隅で横たわって気絶しているシド(双剣士)を空き部屋に放り込み終え、溜息を一つ。

さて、では私も少し仕事をいたしましょうか。スミカのために少し時間を使いすぎましたし、書類も溜まってるでしょうね。ギルドへの依頼の選別や斡旋、各種備品の注文やらギルド内の金銭の流れをチェックしたり、色々ありますから人任せにできないのが辛い所です。このゲーム、一部分リアリティを追及し過ぎて逆に不便なんですよね。

防具を直すにもいちいち防具屋に預けてハイオシマイとはいかず、材料の調達と修理期間が掛かるんです…ふぅ、せめてもう少し書類の山を築く原因が静かになってくれればよいのですが。


「後で<ラウ・ハーツ>にお使いに行ってもらいますか。エグゼスも先に調達に行ってますし、合流すれば簡単でしょう。何より、あそこなら暴れられても問題は有りませんし」

「人の迷惑ならいいんだとか、場所がお使いで頼むレベルじゃないと思うとか言いたい事は色々あるけど。とりあえずただいま、ルシア」

「おや、顔を見せないと思えば…ここに居たのですか」


階段の影から現れたメイズ(ガンマン)に一瞥をくれてそのまま一階の執務室へ歩きながら話を聞くことにします、時間も無いですから。何も言わずとも報告のために彼女は後ろから付き従ってきてくれるイイコでからね、主人の意を汲む従者は好きですよ。書類生産機の馬鹿と違って。これで気が荒くなければシドの見張り役から私の雑務の手伝いをしてもらうんですが、如何せん少し戦闘向きである為か喧嘩っぱやい所だけが玉に瑕です。


「本当は僕も一緒に報告に行くべきだと思ったんだけどさ…ライミー、居たみたいだから」

「そう言えば貴方は彼女が苦手でしたね。いつも逃げ回っているようですが何故かしら?」

「…………」

「言い難いようであれば無理に追求はしませんが…仲間内で何か諍いがあるのなら出来る限り解消しておきたいので素直に教えなさいな。秘密は守りますよ」


急に黙り込んで足を止めたため、喧嘩でもしているのかしらと振り返って顔を見やる。

あら真っ青ですね?よっぽど言いづらいことなのでしょうか。

しばし待ち、喋れないことなのかともう一度歩きはじめた所、ポツリと一言が。


「……僕を見ると必ず揉んでいくからさ」


「分かりました。何を、とは聞かずとも分かりますから其処までで」

「…アイツ、軟体で銃弾も効かない上に変に手馴れてて気持ち悪いし、本気で暴れるわけにもいかないからライミーがいそうな所に寄らない様にしてたんだ」

「素直に聞くとは思えませんが、あとで一応注意しておきましょう。これからは余り一人にならないようにしてくださいね」

「…お願いしとくね」

「大抵の所には侵入できますからね、あの身体は。情報収集させるときは有効なのですが」

「ただの覗き魔と言ったほうが正しい気がするよ、アレ」


…思った以上にくだらないことですが仕事一つ追加です。可愛い部下のためなら少しくらいの無茶は聞いてやるべきだとは思うのですが、ライミーもそこそこ使える子なんですよね。まぁ、誰もいないところ以外では禁止する。とでも言っておきましょう。


「あ、ルシア…もうひとつ言っとかないといけない事が」

「あら他にも誰かがセクハラしてきていますか?貴方はからかい甲斐が有りそうですからね」

「…君が僕にどういう評価を下しているかは横においておくとして、またドアが壊れたよ」

「……壊した本人に修理させなさい」

「………いつも通り、シドが触って」

「アイツ、一度海のワールドに沈めてあげましょうか?」


前方の件の破壊されたドアを見ると、先程のお仕置きではまだまだ足りなかったと痛感しますね。

お使いだけではなくほかにも何か押し付けておきましょう。


Side End



えぇっと、カメラ戻ってきました?はい……散々薬草のサンプルを見せて、ようやく原因が判明しました。今ライミーさんに双剣士さんとルシアさんに伝えに行ってもらいましたが病気でも毒物でも無く…ただの薬草の過剰摂取です。雪山に挑む時に使うような身体がぽかぽかするホッカイロ的な薬草の。

群生してる所は普通、中々侵入できないテリトリーなのですが…まぁガンマンさんの強さなら侵入も出来そうですね。その辺りにポップしてくる子化けの巨人は、子供の姿で油断させて近づいた瞬間丸呑みにしてくる割と凶悪なモンスターですがガンマンさん見た目子供でも全く容赦無さそうですし。あら……なんだか何処からともなく殺気を感じるような?

えー、さて、寝込んでいる原因は分かりましたが一つ問題があります。


治し方を知らないわけでは無いのですが薬の材料に問題があるといいますか。

材料自体は手に入らない物でも無いのですが、少しばかりお値段が掛かるんですよ…このまま雪山に放って自然に効果が切れるまで待ってもいいですが、流石に危険ですし。


「おぉーいってぇ。いつも通りとは言え、ほんっとに容赦ねぇわ」

「あ、原因が分かり、まし、た…よ?」

「ようやくわかったか、なんか結構掛かってた気がするが」

「毒物から探してましたから中々見つからなかっただけですー。…それより何でそんなにボロボロなんですか」

「いや、お仕置きに抵抗したら更にプラスされてこうなった」

「…ルシアさんがやったんですか?」

「ソイツ以外に俺をここまでボコボコに出来る人間はうちにはいねぇよ」


ルシアさん……想像以上に強いのかもしれませんね、絶対に怒らせないようにしましょう。


「ソレはまぁいつもの事だからほっとけ、結局毒じゃなかったのか?」

「ただの薬草の過剰摂取でしたよ。身体を温める効果のある奴ですね」

「薬草にしちゃぁ効果が凶悪すぎねぇか…?ずっと寝込んでるみたいだが」

「元々寒いところで身体が冷えないように肌に一滴垂らして塗りこむのが正しい使い方ですから」


コレに限りませんが使わない人には分かり辛いんですよね、薬草の効果って。と言うわけで実際に使ってあげましょう。植物に限って言えば私の知識にあるものであればすぐに作れますし。


「【ハーブクリエイト:火草】ですよー」

「ひぐさ?その唐辛子もどきか?」

「薬草の名前ですよ~、ちょっと実演して見せた方が速いかと」


両手を合わせて開くと手のひらに作成された件の薬草が乗っています。双剣士さんが言ったとおり見た目は青い唐辛子なんですよね、コレ。


「本来は蔦を少し切って絞り取った果汁、と言うより液ですね。ソレを塗りこむのですよ」

「……で、実際にそんなものを出してどうする気だ?」

「妹さんの辛さが全く伝わってなさそうですから、実際に使ってあげるのです」

「ふむ?まぁ確かにソレがそんなにヤバイ代物には見えんが」

「でしょうね、私も知らなければ雑に扱ってしまうでしょうし…はい、まずは蔦から一滴ですね」

「……よくわからんが、何となく暖かい…のか?」

「双剣士さんの体質がおかしくなければ直にカイロぐらいまでは暖まりますですよ~」

「あ、暖かい暖かい。でも此処の気温だとむしろ不快だな、これ」

「覚えておいて下さいね~、蔦でこれですから」

「…蔦『で』?」

「えぇ、『で』ですよ」


はい、ではすぐに洗い落とせるように水をバケツに入れて…厚手の手袋を二重三重にして最後にゴム手袋を、コレで準備OKです。


「実を潰して浴びるとこうなります」


有言実行ですから、恨まないでほしいのですが。双剣士さんの腕に火草の絞りたて果汁をポタリと垂らすと右腕が炎に包まれました・・・・・・・・


「何じゃこりゃぁぁぁっ!!!?」

「実の部分は温度上昇が著しいのですよ~、ぶっちゃけ可燃物に振りまけば火がつくぐらいには凶悪です」


握り潰した残骸ごと右腕をバケツの中につけながら双剣士さんの慌てっぷりを見て楽し「斬ッ!!」あ、炎だけ斬り飛ばし(?)ました。非実体まで切れるんですね、割と便利な戦闘スキルみたいです。


「イチコォ!なんだありゃぁ!!」

「実は主に攻撃用ですね、今言ったとおりとても熱くなりますから」

「薬草がこんな攻撃力を持つか普通!!」

「耳が痛いので余り近くで叫ばないで欲しいのですよ~」


顔をぐっと押して一旦離れます、殴られて惨殺死体とかは御免こうむりたいのです。


「これほど熱くなるので雪山ではちょうどいい感じに身体を暖めてくれるんですよ?」

「……右腕が火葬寸前だったよな、オレ」

「果汁の掛かった表面はこんがりですが中は無事ですよ、きっと。これで危険性が理解していただけましたか?」

「…良くこんなものをくらって生きてるな、スミカ」

「倒れて潰したのなら効果の弱い痛んだ実だと思いますよ?それなら効果が長いのも不良品を使ったから、で説明がつきますし」

「ふむ、病気かとも思って医者を探してたがそっちだと意味なかったか」

「えぇっと、一応熱さましでも大量に飲ませれば元気になるとは思いますが…今度は副作用で死にますね」

「…ちなみに治療法は?」

「①これから三日三晩水風呂に漬け込む」

「ルシアから俺が処刑される、次」

「②雪山に一日放置して効果がなくなるまで待つ」

「今外のワールドに移動させようものならやっぱり処刑される、次」

「③と~~ってもお高いアイテムで熱を逃がす」

「……値段による、いくらだ」

「そうですねぇ、ざっとこのくらいでしょうか」

「何処からそろばんを…あ、ダメだ。俺の持ち金じゃ桁が5個ぐらい足りん。ギルドに溜めてる分を出せば十分足りるが大抵修繕費に回るしなぁ」

「でしょうね。だから勧めにくいのですが、一発ですよ?」

「うぅむ、毒消しとかじゃダメなのか?」

「今の熱は厳密に言えば毒では無いので万能な毒消しではお話になりませんよ~」

「④どっかからそのアイテムを盗んでくる」

「そんな簡単に盗めたら苦労はしないのですよ…希少品ですからあるかどうかもわかりませんし」


「ちなみに何てアイテムだ?そんな馬鹿みたいな金額は聞いたことねぇが」

「…フェンリル印の【氷石】ですよ、これは火草の真反対の性質のアイテムです」

「…フェンリル殺しまくればドロップしねぇ?」

「……友好の証に立ち入り禁止エリアからフェンリルのNPCがとってきてくれるものですよ」

「……つまり?」

「一匹でも殺したらゲット不可能です」


あ、急に頭を抱え込んでうずくまりました。この様子だと、多分レベルアップか何かのために狩ってますね…この人。あ、ノックの音が…誰でしょう?


「遅れてしまいました。原因が分かったそうですが治療の当てはありますか?」

「あ、ルシアさん。すこしアイテムが揃いそうに無いのですが…」

「そうだ、お前なら大丈夫だ!不殺通してきたんだろ?」

「…いきなり何の話です?」

「実はカクカクシカジカ…なのですよ」

「はい、カクカクウマウマ…確かにそれなら頂いた事は有りますが、取りに行くと確か2~3日ほどNPCが戻ってこなかったはずです」

「待て、その時に貰った手持ちは?」

「貴方が壊した物の弁償代を工面する為に売り払いましたよ。中々いい値段でしたから」


あ、今度は崩れ落ちました。双剣士さんは無駄にリアクションが派手ですねぇ?


「…つまり、八方塞りか」

「珍しいものだったんですね、アレは」

「そうなのですよ…普通に過ごすだけならしばらく遊んで暮らせる額なのです」

「ですが珍しいのならば、逆に手が残っていますよ?少し危険ですが」

「……暴れていいなら?」

「④番選ぶのは禁止ですよ!?」

「④番、とは?」

「あぁ、どっかから盗んでくるってさっき選択肢が」

「ならまさに④番でいい感じですね。思う存分に暴れてきてもいいですよ」

「はいぃぃぃ!?」

「少しマテリアルとってくるわ、多分荒事になる」

「やる気満々でいかないで下さいぃぃ!!?」

「イチコ、先程から叫んでばかりですがアイテムの形はわかりますか?」

「へ、資料としてですが一応…」

「シド、彼女を連れて偽物を掴んでこないようにしなさい。刃向う者には容赦など要りません」


な、私も行くこと決定ですか!?ナチュラルに行って当然みたいな流れになってません!?


「おう!喧嘩売られたらぶっ飛ばして良いよな?」

「スミカのためです、ソレにあそこにある場合正規ルートの品では無いでしょうからね」

「ついでに裏も叩き潰してこいってか?」

「なにも叩き潰さなくて良いですよ、少しお勉強させて上げなさい」


ポカーンとしてる間にお二人が悪巧みをしてるようなイイ笑顔を浮かべているのですが…何故でしょう、冷や汗が止まりません。とても危ない目に合わされるような気がします。


「お嬢…?」

「は、はひ!!」

「さっきは会わない方が良いと言ったばかりで舌の根も渇かん内に撤回する事になるが」

「あの、まさか盗みに行く場所とは…」


やっぱり凄く嫌な予感しかしません。いえ、もう大体わかってはいるのですがさっき言われたことを考えると滅茶苦茶信じたくないといいましょうか。あぁ、目の前の二人が凄くイイ顔してますよ。人を地獄に突き落とす鬼みたいな―――


「「勿論、<ラウ・ハーツ>へ」」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ