二個目 未知との邂逅、ですよ
深い森の中にて
夕暮れ特有の湿気をはらんだなまぬるい風、鬱蒼と生い茂った木々の葉によって昼間よりなお暗い森の奥で……人間なんて丸呑みできそうなおっきな狼さんと心温まらないふれあい体験中です。
基本的にエルフに優しい森ワールドですけどあくまでエルフとハイエルフの方々だけなんですよね。私は混ざり者なので強いNPCだと効果がなかったり…あぁ、コレがハーフの宿命と言うものなんですか!
と言うわけでとても大きい狼の群(一、二匹じゃ有りませんよ?桁が違います、桁が)から逃げ回りながらですが、皆さんこんにちは。
何故追い回されてるかといいますと~、お恥かしい事ですがこのゲームを始めて半年、未だに森の中で迷子になることがありまして…
今日もその稀な事態なうえ既に日も暮れ始めて急ぎ集落に戻ろうとしたのですが、途中の穴倉からちょうど狩りに出かけようとしていたGウルフ、今追いかけてきているでっかい狼達と鉢合わせてしまいました。とっさに匂いのキツイ薬草をクリエイトして爆発させなかったら今頃お腹の中でとろとろになっていたでしょうね。
しばらく鼻は使えないようにしましたが、耳は健在の為あまり近づかれないようにこそこそと木の枝を伝って移動中です。この木の上だって必ずしも安全じゃないので誰でも良いから助けが欲しいのですが叫んで助けを呼べば狼だけでなくこの森の肉食動物がわんさか集まってくるでしょうからソレは却下。
戦闘用のスキルを持ってる人が近くに居ればこんなにコソコソしなくても良いんですけどね…流石にこの時間に森を渡る人は少ないですし。エルフの人も動物達を尊重して家に引っ込んじゃって、役には立ちませんしこのままじゃ夜明けまでに狼たちのお腹の中に入ることは確実です。
あぁ、美少女は薄幸なのですね~、なんてふざけて現実逃避してしまいたいぐらいに最悪な状態ですよ。
もう私が上に居る事に気付いていそうな狼も居ますしそろそろ逃げ出さないと。
正直なところ私一人でこんな時間まで外に居るのは自殺行為以外の何物でも無いんですよね~。
故意にしろ事故にしろ、「俺たち、生きて帰れるのかなぁ……」状態なのですよ。
あ、何処かから遠吠えが? え、下の一匹も返すように遠吠えを…あれ、なんだか森中が騒がしくなってきましたね…こう、なんていうか軽く地響きが感じられるくらいに!
一緒に枝も揺れに、揺れて、きて……!!ちょ、まってまってっまって!!今落ちたら食べられちゃいますって!半ば地震のような揺れの中で生き残るために必死に枝を抱きしめて耐え忍びます。忍べなくとも凌いでみせます…あんなのに食べられたら痛いですから!!!
しかし、どんなに力を入れていても止まらない地鳴りの前には徐々に身体が滑ってしまいますよ。
うぅぅ・・・ついでに遠くから木々が薙ぎ倒されてるのが見えます、もっとでかいモンスターでしょうか。
あぁ、こんなことなら遠吠えする前に毒草塗りこんだ矢でも打ち込んでしまうべきでした!
Side A
久しぶりに森のワールドへやってきた。
いや、来る気はなかったんだけど来ないといけない用事が出来ちまったというか。現実での関係の性で手伝ってやらないといけない空気だったというか。…街のワールドの仲間に行って来いとひたすら頼み込まれたというか。それに合わせてリーダーもなにが「私達じゃ流石に夜の森は危ないんですから、男が行くものですよね?」だ!
唯一隣にいるこいつだけは「僕の責任でもあるから」つってついてきてくれたが。
「なんであのクソガキはこの忙しい時期に変な毒を貰うかねぇ・・・だーりぃ、やってらんね~」
「まだ初心者なんだよ、ゲームだけじゃなく仮想現実にもね。危険物なんて分かる訳無いじゃないか」
「さっさと俺がパーティ組んでレベル上げてやればよかったじゃネェカよ」
「…あの子が戦場に出るだけですぐに倒れてお荷物になるに一票。ゲーム内とは言え血に慣れるまでは時間の無駄だよ。毒を受けたのだって僕がモンスターを代わりに倒した時に気絶した所為だし」
「ほんっとに使えねぇ・・・あの阿呆」
文句しか出ない。本来なら来るはずもなかった此処を訪れた理由、ある日急にねだって自分も遊ばせて欲しいと言い出した『妹』を思い出し、さらに怒りが募る。
「確かにレベルが上がればスキルの中にバッドステータス無効が入る事もあるけど…僕の見立てじゃあの子はそういう能力は持たないよ」
「やっぱアイツがもってるのはスカだよなぁ」
「三つ全部空想固定化のマテリアルだからね。使い方次第で変わる原石みたいなものだよ」
「でこぴん一発で壊れる固定化なんか役に立つかッツーの」
「…其処は、訓練次第だよ」
「……」
「……」
沈黙が包む、いや動物の声はしてるけどよ。
「まぁ、今は解毒薬が先か」
「そうだね、森だけあって夜行性のモンスターが騒がしいぐらいだし」
「確かに…いや、変に騒がしいか。NPCだけでこんなに騒がしくなるもんだっけ?去年一人で来た時だってもっと静かだったぞ」
「ふぅん…意外と他の冒険者が居るのかもしれないね、助けたら道案内してもらえるかも?」
「ずっと騒がしいままってことは・・多分逃げ回ってるんだろうが、ただの迷子かもしれねーなぁ」
「うん?逃げ回ってるなら・・エルフ以外の人かな 時間の無駄だったら、放っておく?」
「…いや、虫の居所が悪いからついでにぶっ飛ばしておこう」
「素直に助けに行くって言わないの?」
「助けるんじゃねーよ、道を知ってりゃ案内させるし知らなけりゃ金を貰うだけだ」
「ふぅ、相変わらず捻れてるね」
「ほっとけ!んなこたぁ良いからさっさと特攻する準備しろ!!」
その叫びに反応したのか謀ったかのようにタイミングよく巨大な狼が目の前に現れる。あぁ、斬り甲斐が有りそうなジャイアント系の的か。あ、遠吠えしやがった。
「おー、でっかいワンちゃん。いきなり仲間呼びやがったよ、腹いせにいくつに切り分けてやろうか?」
「ん…数匹じゃ無い、周りにも何十体か居るね」
「あっはっは、この程度なら群れでも楽勝だろ?ドラゴンの群れでもお前一人で十分だし」
「……森への被害を考えなければ」
「考えんなよ?どうせすぐにポップするって、例え森のオブジェクトでも」
「……焦土に代わったら流石にしばらく修復しないと思うけど?」
「知ったこっちゃねー、ごちゃごちゃしてる森が悪い」
「もうすこし気を配ろうよ…?」
「向こうから襲い掛かってきたんだからしょうがない。これは正当防衛だぜ?
ま、悪いって言うなら俺達が強くなりすぎたのが悪いと言えば悪かったかもな~」
悪びれずに軽口を叩きながら自分のマテリアルを宿す腰の日本刀に手を伸ばし、相棒も呆れながら腰に吊ったリボルバーを構え、戦闘状態へと切り替えるキーワードを口にする。
「サムライソウル レベル5」
「ガンズナイト レベル4」
「「マテリアル開放!!」」
Side End
え?ああ、カメラ帰ってきました?未だにしがみついて頑張ってますよ!
徐々に巨大モンスター|(仮)が近づいて来たためか、なんだか爆音と太刀の音声エフェクトが聞こえ始めました。……ミサイルポッドを背負ったライオンか何かなのでしょうか?初めて半年経ったとは言え流石に木々を薙ぎ倒すようなモンスターは聞いた事が無いですよ…一体何が迫ってきてるんでしょう。
そろそろ一度死んでしまうことを覚悟しておいた方が良いかもしれません、なむなむなむあみだぶつ…
コレだけ騒がしいのならせめて下の狼は逃げて行ってくれないでしょうか?そしたらすぐにでも走って逃げられるのに。……?あら、なにか爆音に紛れて声が?
「ロック、フレイム、ショット」
「あー、あっちーなー。普通のパーンチ」
「ロック、サンダー、ショット」
「あ、静電気がピリッときた。なぜか切れるキーック」
「ロック、スノウ、ショット」
「冬でも無いのに雪が舞う!でっこぴーん★」
「ロック、トリプルバレッツ、ショット」
「それら三つまとめて一斉射!!んで、ざんけーにしょーす!」
「言っとくけど突っ込まないからね?カーブショット」
「ぇー、寂しいこと言うなよな~?猫騙しっ」
…………ぇー、なんでしょう。人の声が聞こえるんですけど、幻聴ですよね?馬鹿が居る気がしますし。
「いちいち突っ込んでたらきりが無い。ロック、ホーミング…チャージ」
「はいはい、どうせ飽きもせずにボケてるよーだ。あ、チョップ」
……キノセイデスヨね、Gウルフって一応強いんですけどね?
戦闘職でもパーティの人数より多い数の時は相手にしないで逃げるんですよ?
それをおそらく二人で森ごと巻き込んで遊びながら相手してきましたか?
あー、姿が見えてきましたね。棺桶を担いで魔女帽とマントつけた性別不祥なガンマンに、白黒ジャンバーを着た現代のバk…若者ッポイ双剣士♂
剣は抜いてませんが何となく近寄るだけで「ズバー★」とかやってきそうなイメージが浮かびますね。さっきまでのやり取りを聞く限りでは!
「そろそろ数も減ってきたし一気に片付ける。間違えてロックしたら危ないから動かないでね」
「言われんでも分かってるっつーの、何年相棒やってると思ってんだ」
「…上にいる要救助者に言ったつもりなんだけどね、相棒」
わーぉ、バレテーラ。で、でも要救助ってことは・・助けに来てくれたんですよね?
どうして助けを求めてる事が分かったのかはともかく!
「はぁ?上?」
「木の枝にしがみついてるよ、耳が長いし…NPCに追いかけられてるならハーフエルフかな」
「木の枝木の枝、よく暗くて分かるな」
「視線を感じたからね。よしチャージ完了、撃つよ?」
双剣士の人はともかく、ガンマンさんなら話が通じそうですね。
双剣士の人の視界に先に入ってたらと思うと怖いですよ…嬉々としてズタズタにされていても不思議じゃ無さそうなオーラ放ってますよ!チャージ後のせいか今はガンマンさんもすごいオーラを放ってますけど!あ、腕を交差させて…
「チェイス・ショット!!」
スキル名の発声と共に両手のリボルバーからおびただしい数の弾丸が森の中に消えていきます。あ、弾丸自体は早くて見えませんが弾丸が光っているので軌跡が残っているので森の中に消えてることが確認できます。一定のリズムで時折光弾が出てませんが、連射中の休憩でしょうか?
「これで……標的残数激減…かな」
「たかがでけぇだけの狼相手にえげつねぇ弾丸撃つなよ…」
「明るくてよく見えるから頑張れば逃げ切れるさ、しつこく追い続けはするけどただの弾だしね」
「……詳細は分からんが何発か光らないの使っただろ」
「さ、それより救助者が先だよ」
「強引すぎる話題転換だな!!」
「男は細かいことを気にしちゃいけないんだよ?」
あ、会話してる間にも森のあちこちで爆音が……あぁ、森が、私たちの森がボロボロにぃ…襲われてたとはいえ、ちょっと可哀そうな気もします…色々と。
「そこの君―!生きてるかーい!!」
「死んでたら返事しろ―身ぐるみ剥いで金にするかr いでっ!」
「アンタはとりあえず相手が怖がるから色々話が終わるまで近寄らないで」
「ひでーよA・I・BO!」
「はいはい相棒相棒。あの子がこっちに呆れてるから後でね」
…助けられたはずなのに人買いの前に姿を見せるようですごく怖いですね。
まぁ逃げたところで背中から撃たれるのがオチでしょうし、諦めて出て行きましょうか。
優しい人ならいいですけど…あ、ちょうど真下にいますし受け止めてもらえばいいですね。急に撃たれないためにも。
「え、えーと…今から飛び降りますから、受け止めてくださーい!!」
「ぁー、んじゃ俺は無理だな。頼んだ相棒」
「僕もあんまり受け止める自信がないんだけど……?」
「受け止められる「かも」しれんだろ?俺がやったら確実に惨殺死体になるって」
「あのー……大丈夫でしょうか~?」
「失礼、僕が受け止めるからこっちに降りてきて!!」
「間違えても俺の方にくんなよー、死ぬぞー」
なんだかめちゃくちゃ怖いんですけど…ここまできたら女は度胸ですよね!せ―ので、ダイブ!!
風を切りながらつかの間の落下を肌で感じ、ガンマンさんの腕の中に着地……あら、なんだか柔らかい腕してますね。あんなに軽々と銃を扱ってましたからもっと筋肉でかたいものかと。
「やっぱり女の子だったね。」
「え、まじで?俺には黒い塊にしか見えなかったのになんでそこまでわかる」
「僕のマテリアルの副次スキルだよ。暗視ゴーグル無しでも見渡せるのさ」
「女の……子?」
「うん?あれ、胸に詰め物とかして実は女装趣味があるだけのだった?」
「いえ…私じゃなくて」
まだるっこしいので腕の中からおろしてもらい、マントで隠れた胸元をギュッとつかんでみます。
あら、むにゅっと柔らかいです。
「ひっ!やぁぁぁぁーーー!!?」
「おーかわいいひめいー」
「あ、あんなに強いのに女の子ですかーー!!!?」
「おう、相棒は女だぜ?護身術として鍛えてたら強くなりすぎたンだとー」
「僕とかこんな無骨な棺桶担いで平然としてたりとか、男の子だと思ってましたよ!!?」
双剣士さんだけは一人楽しそうにけらけら笑ってますがガンマンさんは耳まで真っ赤に染めてその場にへたり込んでしまいました。
「うぅぅ………だからって普通揉む?」
「いや手っ取り早くわかると思うぞ、ぺったんこでもなければ」
「はー…さっきの乱れ撃ちより驚きですよ~…」
「まず言葉で確認しようよ……」
あ。ちょっと泣いてる姿がキュートです。強くて危険人物かと思いましたが、意外と普通の人なのでしょうか?驚いて少し選択を間違えたかもしれませんね、ついぎゅっとしてしまいましたが。
「だからわかりやすい格好しときゃいいのによぉ、出会いがしらで揉まれるとかそうそうねぇだろ」
「指差すな、笑うな、むしろもう死ね!!」
「ぇーとー・・・色々失礼しました、です」
「ん?あぁ、俺はかなり笑わせてもらったからもういいけどな」
膝叩きながら盛大に笑ってましたからね、この双剣士さん。あ、ガンマンさん睨まないで、つい好奇心に負けてしまったんです!!え、ちょっとその銃はさっきの…
「お礼とお詫びを兼ねて家に招待しますから機嫌を直してください~~!」
「だから弱い人にその銃向けるなって」
「離せ、まずはあの人の記憶を消さないと!!」
「ほんとにごめんなさいですよ~~!!」
双剣士さんがガンマンさんを羽交い絞めにしながら逃げる私を追ってきます。これでも私全力で逃げてるんですが…全然距離が離れてくれません。いえ、おうちに呼ぶので問題ないと言えばないのですけど…かなり怖いです、一人担いでこのスピードって一体…
こうして絶体絶命タイムは終りを告げました。ガンマンさんがまだ睨んできてますけど!