シュガー・コーヒー(自作)
彼お気に入りのモスグリーンのマグカップ。ホカホカと湯気をたてる焦げ茶色の液体がゆらゆら。
片手にはそのマグカップ。もう片方にはパソコンのキーボード。
一定のリズムで動く彼の両手を、わたしは頬杖ついてぼんやり見てた。
「ね~ぇ、仕事まだ終わんないの?」
仕事で忙しい時期半ば無理に彼の家へ押し掛けて、子供染みたことホントは言いたくないんだけど。あまりにもわたしを相手にしてくれないんだもの。
――仕事とわたし、どっちが大事?
なんて。
不毛だわ。
「ん…あとちょっと」
30分ぐらい前もそんなコト言ってましたケド。
あなたの「ちょっと」って1時間?
1日?
1ヶ月!?
「もお!ちょっとくらいかまってくれてもイイじゃんバカッ」
可愛らしくぷくっと頬風船。
…全然こっち見てないし。
あったまきた!わたしは彼の片手から、口に運ぼうとしていたマグカップを奪い取った。
「お、おい…」
流石に不意を突かれてビックリしたのか彼はわたしに視点を合わせる。
わたしはそのままマグカップの中の焦げ茶色の液体を一気に煽った。
「…にっが~い!?」
半分くらいイッキ飲みしたところで、わたしはあまりの苦さにむせ込んでしまった。決まり悪い顔をしたわたしの背中を、彼は大きな手で擦ってくれた。
その手は微かに震えている…ような気がするが。
「苦手なら飲むなよ、コーヒー」
笑いを堪えているのか彼は、口元に手を当ててわたしを覗き込んだ。
「だって…全然かまってくれないんだもん」
火照った顔を彼に見られたくなくてそっぽを向いたわたしを、彼は片手で引き戻した。
「しゃーないなぁ。それじゃ…」
言うなり彼は少し残ったコーヒーを一口含んでから、わたしにキスをした。
じんわりとほろ苦い。
口の中に残るコーヒーの味。
でもだんだん。
何だか。
甘い。
甘くて蕩けそう。
身体の芯がジンジンして、くずおれるように背中から床に転がった。
それを追いかけるようにして彼もわたしの身体に覆い被さる。
「ねぇ。仕事は?」
いいの?
聴いてるのか聴いてないのか彼は、悪戯っ子のような顔をしていて。
「美味しそうなお茶うけがあったから」
とか何とか言って、またキスをするのだ。
甘くて苦い、キス。
わたしはコーヒーのお茶うけですか。なんてモゴモゴ言ってみては彼の首に腕を絡めたり。
湯気が冷めないうちに完食してね。
ごちそうさまて感じですか。
関係ないですが作者はかなりのコーヒー党で、毎朝欠かさず粉ドリップしてます。
砂糖入りミルク無しのモカブレンドなんて最高!モーニングショットで一日中ご機嫌ですね。