王の業
「ダニエル、いよいよ学院も卒業だな」
「はい父上、卒業後は王族として王太子として父上の元で励ませていただきます」
「うむ、良い心がけだ」
そう言って国王は棚からワイングラスを取り出し、既に机に置いてあるワインを開けトクトクと注いだ。
「卒業記念だ、軽く一杯飲もうじゃないか」
「父上、私はまだ未成年ですが」
「なぁに、儂も若い頃は親の目を盗んで飲酒したものだ、まぁ結局バレて怒られたがな」
「父上にもヤンチャな時があったんですね」
「誰にだって『若気の至り』はある、……時にはそれですまされない事もあるがな」
「父上?」
「……少し昔話をしよう、儂がまだ第二王子だった頃の話だ。 儂にはかつて兄がいた」
「え、伯父がいたのですか? 初耳なんですが」
「あぁ、抹消されているからな、記録にも名簿にも残っていない。 だが幼い頃は優秀で将来を期待されていた。 儂も兄上の参謀になる為に勉学に励んでいた。 しかし風向きが変わりはじめたのは学院に入学してからだ」
「学院に入学してから?」
「とある男爵令嬢と出会ってから兄上はおかしくなり始めた。 恋愛にうつつを抜かし勉学やら公務やら疎かになっていった。 儂も先代王や王妃も心配になり色々言っていたが聞きもらえずにいた、徐々にだが距離が置き始めた」
王は悲しそうな目をしながら言った。
「そして、影からある報告が入った。 どうやら卒業記念パーティーの場で当時の婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を一方的に宣言するらしい、と。 しかもありもしない罪を作り上げ断罪する、と。 そんな事をされたら王家と公爵家の関係に明らかに悪い影響が出る。 先代王はある夜に儂を呼び出した。 『お前を王太子にする』と、兄上を切り捨てる決断をした。 その時の父上の苦渋の表情は今でも忘れられん……、そして、王太子としての私の最初の仕事が兄上を処分する事だった」
「えっ、……ち、父上が自ら伯父を」
「いや、私はただ見守るだけだ、既に先代王が手配をしていたからな……、卒業記念パーティーの前夜に使われていない屋敷に兄上やその側近、そして男爵令嬢が運び込まれた。 何らかの方法で眠らせ縛り上げられ猿轡を嵌められていた、床でモゾモゾしている姿を見て儂は悲しくなったよ、尊敬していた兄上のそんな姿を見たくなかった……。 儂は罪状を読み上げ屋敷に油を巻き外に出た。 兄上達は自分達がどうなるかわかったんだろう、体をくねらせ涙目で何かを訴えていた様に見えた。 心臓がギュッと締め付けられそうになった。 そして待機していた兵士に合図を出し火を放った……」
「……」
「ダニエルよ、王とは時に残酷な決断を迫られる時がある、 あの日儂は王太子としての覚悟を決めた、業としてこの胸に刻み国を護っていく、そう決めたのだ。 お前も今後、時に似たような事になるかもしれん、その時は情を捨て決断するのだ」
「……心に刻ませていただきます、ところで伯父の婚約者だった公爵令嬢は?」
「王妃教育を既に終えていたからな、儂と新たに婚約した」
「えっ、じゃあ母上なんですかっ!?」
「そうだ、ただ兄上を深く愛していたからなぁ……、表面上は儂の事をサポートしてくれているが内心はどう思っているのか……、それも業の1つだ」
もしかしたら憎まれているかもしれないし愛されているかもしれない。
兄の事は王妃とは一切話した事が無い。
婚約が決まり改めて挨拶した時もいつもと変わらない笑顔だった。
だが内心はどうなのか、流石に聞いた事は無い、これからも聞く事は無いだろう。
多分、聞く事があるとすればそれはどちらかが死ぬ時だ。
「ダニエルよ、婚約者を大事にするのだぞ」
「はい……」
親子2人の夜は過ぎていった……。




