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【完結】大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


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23/25

【23】夢の二重奏と、恋を認めた悪魔の父。〜ただし、天使がワルツのレッスンを、勝手に開始しています〜

完璧に整えられた豪華なステージが静まり返り、

次の瞬間、ルチアーノのピアノと、ロクシーのハープが重なり合う。


曲目は、

ドビュッシーの『夢』。


ルチアーノの父親は、

バルコニー席から演奏を聞きつつも――

向かいのバルコニーに招待した"サラ"が、

気になってならなかった。


"サラ"は、

古式ゆかしい望遠鏡レンズを使って、

ステージを楽しげに見ては、

チラリと、父親の方を向く。


それは、

気のせいだと分かっている。


場内の照明は最小限に落とされ、

ステージのみが輝いているのだから。


だが、"サラ"の動き――

望遠鏡から手を離すと、

自分を見ていると、思ってしまう。


それを、

心臓が正確に告げてくる。


そうして、

"サラ"から漂った薔薇の香水と、

紫の瞳、

あの甘ったるい声すら、蘇る。


この感情を、

認めるわけにはいかない。


だが――

ルチアーノの父親は、

否応なく、認めざるを得なかった。


なぜなら――

息子の演奏が、

早く終わって欲しいと思っている自分に、

気が付いて。



 


そして、

父親側のバルコニーの一つ上には、

アンジュとルシアンもいた。


ルシアンは、

マナーどおり、アンジュと並んでソファに座っていた。


アンジュは、

美しい笑みを浮かべ、

ルチアーノとロクシーの演奏に、

耳を傾けている。


すると、

アンジュの細く白い指が、

ハープを弾くように動き出した。


ルシアンは、

一瞬で悟る。


それは、

壇上でロクシーが弾いている、

ハープのパートだ。


その美しい指の動きに、

見惚れている自分に気づき、

ルシアンは、

アンジュから1センチ離れた。


すると突然、

アンジュがルシアンの腕を、

パッと引いた。


飛び上がりそうになるのを、

必死に堪えるルシアン。


アンジュが、

扇で口元を隠し、囁く。


「ルシアンよ!

あの時を、思い出すな!」


それだけ言うと、

アンジュは再び、

ルチアーノとロクシーの演奏に、

集中する。


ルシアンは、

"あの時"が、"どの時"なのかを、

思考している――つもりだったが。


記憶を探す沈黙の中で、

顔色だけが、雄弁だった。


マグマのような赤が、広がる。


ルシアンは表情を動かさず、心の奥で神に感謝する。

会場の暗がりが、すべてを隠してくれることに――




 


万雷の拍手のもと、

ルチアーノとロクシーの演奏が終わった。


そして、

壇上の進行者が、

30分の休憩を挟み、

舞踏会の再開を告げる。


アンジュとルシアンが、

バルコニーから出ると、

ルチアーノの父親が、

お供の者を連れて、待ち構えていた。


ルシアンが、

さっと、アンジュを守る、

ベストなポジションを取り、言った。


「何か?」


父親は、

なんとも言えない顔をしていた。


困ったような、

恥ずかしいような――

それでいて、嬉しそうな。


そして、

握り拳を両手で作り、

叫ぶように言った。


「ルシアン殿、アンジュ殿……

わしの非礼を詫びる!

だから、話を聞いてくれんか!?」


アンジュが、

即答する。


「おう!何だ?」


アンジュの柔らかい笑顔に、

父親が、ホッとした顔になる。


「あ、あの……

ケーキワゴンに、倒れて来た令嬢……

サラ殿と、控室で……話をしたかね……?」


おずおずと言う父親に、

アンジュが、キッパリ答える。


「いかにも!

サラは、知り合いだ!」


「本当かね!?」


父親の顔が、

パッと、明るくなる。


「じ、実は……」


そこまで言うと、

父親は、意を決したように、

一気に言った。


「わしは、サラ殿と、

ダンスを踊る約束をしたのだ!

だが、わしは年だし、

ダンスも得意とは言えぬ。

そこを上手く、

サラ殿に伝えてはくれまいか!?」


アンジュは、

にっこり笑う。


「よかろう!

お前は、確かに千歳は越えているしな!

"サラ"は、確かに年下!

その不安は、理解できる!

ルシアンよ!」


「はい」


ルシアンが、

さっと跪く。


「ルチアーノの父親に、

ダンスを教えてやれ!

この休憩時間中に!」


ルシアンが、

胸に手を当て、

誓うように答える。


「……御意……!」


途端に、

父親は、目を丸くする。


「……えっ……!?えぇ……!?

いや……伝えてくれるだけで……」


だが、

その言葉は、

最後まで言えずに終わった。


ルシアンの、

真剣な眼に、射抜かれて。


「アンジュさまのご命令です。

行きましょう」


その揺るぎない決意に満ちた声は、

父親に、選択肢はないと告げていた。


そして、

ルシアンに引きずられるように、

父親は、アンジュの前から去っていった。




ロクシーの豪華すぎる控え室では――

大型テレビから、

妥協を許さないルシアンの声と動きが、

途切れることなく映し出されている。


「背筋を伸ばして、胸を張る!」


「それは"伸ばしている"とは言えない!」


「胸をお忘れですか!?」


「足は滑らせるように!」


「違う!あくまでも優しく滑らかに!」


「体幹を安定させて!」


「ホールドの位置が10.5センチ低い!」


「力任せはワルツではありません!」


「だから、背筋!足の筋肉も意識して!」


テレビを見据えたまま、

アンジュは、

フレッシュ苺ジュースを一口飲み、

「よろしい!」と、何度か頷いている。


ロクシーは、

映像から目を離し、

隣のイレイナへと、視線を送る。


「イレイナ。

ルチアーノの親父、マジだよ、マジ!

本当に踊るの?」


イレイナ――"サラ"――が、

素っ気なく答える。


「私が踊るわけないでしょ」


そして、

どこからともなく、

水晶玉を取り出す。


「アンジュがワルツを踊る、

美しい瞬間を、

1秒残らず完璧に記録するんだから……!」


イレイナの瞳が、

"ドル"の形を帯び、

鋭く水晶玉を見つめる。


ロクシーが、

「だよね〜!」と頷くと、

ルチアーノが、焦った声を出した。


「でっ……でも……!

"サラ"と踊れなくなったら……

お父様が荒れるのでは!?

あんなに努力しているのに……!」


すると、

ロクシーが、ニヤリと笑った。


それを合図に、

ルチアーノの背中を、

悪寒が駆け抜ける。


「大丈夫。

あんたの親父の夢は壊さない。

その辺は、イレイナがちゃんとやってくれる。

それに、この、あんたの父親の努力で――」


ロクシーの言葉に、

ルチアーノが、乾いた声を出す。


「ど、努力で……?」


「そうよ。

自分が努力したぶん、

あんたと私のワルツの欠点よりも、

プラス面を見る!」


「……なんと!」


今度は、

感嘆の声を漏らすルチアーノへ、

ロクシーが、一歩踏み出す。


「それだけじゃないよ?

偉い人って、怒られなくなるでしょ?

そうなるとね、

逆に怒られたくなるのよ。

孤独な立場にいるからこそ、

対等に接してくる相手がいると……

安心感や充実感を、得られるわけ!」


そして、また一歩。


ルチアーノは、

瞬きも忘れたまま、

ロクシーを見つめて固まっている。


「だから、

こんなに厳しくレッスンしてくれるルシアンに、

感謝こそすれ、もう敵対心はない!

ダンスレッスンのきっかけを、

作ってくれたアンジュちゃんにもね……!」


次の瞬間、

ルチアーノは、

深紅のハンカチを取り出し、

そっと目頭に当てた。


「さすが……ズッ友ルシアン!

そして、

ルシアンの初恋相手のアンジュちゃん……!

俺様のリリカルな感性……

震えておりますッ!」


ロクシーは、

白ワインをグラスに注ぎながら、

感情を挟まずに答える。


「震えようが逆立ちしようが、

何してもいいけど。

あんた、

自分のお見合いを断ることを、

忘れてない?」


ルチアーノが、

ガバッと顔を上げる。


「では……

修整された脚本が……!?」


白ワインを飲み干した直後、

ロクシーの手は、

もう紙の束に伸びていた。


「今の流れで作り直したわ。

記憶して」

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