【21】ケーキワゴンは倒れ、計画は立ち上がる〜お見合いを壊す一番素敵な方法〜
ロクシーに用意された、豪華な控室。
シャンデリアの光が床に反射し、
控室全体が、淡く揺れて見える。
まるで、空間そのものが、
呼吸しているようだった。
壁紙は、上品なピンク色に可憐な草花が描かれており、
有名な絵画が所狭しと飾られている。
絵画と絵画の隙間すら無駄にされておらず、
視線は自然と、室内を巡らされる。
金色の支柱は、一本一本が均等に配置され、
控室の空気を支えているように見えた。
その存在感は、
装飾以上だった。
そこにいるのは――
イレイナ
ロクシー
ルシアン
アンジュ
のみ。
イレイナのまじないで、
アンジュとロクシーの姿は、一瞬で元に戻った。
と言うべきか――
イレイナは素知らぬ顔で、
アンジュのドレスのデザインの基本はそのままに、
ほんの少し“格”を上げ、
宣伝用に“映える”ドレスにしておいた。
「イレイナさあ〜……」
ロクシーが、
部屋に用意されている最高級の白ワインを、
グビッと飲みながら言う。
「さっき、ルシアンと私の頭に、
勝手に情報送って来たじゃん?
リオのお見合い問題!
その令嬢に化けてるのに、
なんでここにいるの?」
ルシアンも、
イレイナを真剣に見つめている。
アンジュは窓側で、一人。
夜景に照らされながら、
ルシアンの分量を、イレイナが完璧に再現した
アイスチョコレートラテを飲んでいた。
イレイナが余裕たっぷりに、
ホホホと笑う。
「この舞踏会に、
リオの婚約者の令嬢が出席するのよ?
大統領の側近の娘なんて、
名簿にすら載らない舞踏会にね!
つまり!
お見合い話なんて、
相手から下げられるってこと!」
ロクシーが頷く。
「なるほどね!
さすが、イレイナね!
それで、リオはどこ?」
「リオなら、
セレニスの私の館で眠ってるわ」
即答するイレイナに、
ロクシーが目を見開く。
「何で……!?
二人一緒に舞踏会に出席した方が、
良いんじゃない!?」
「あのねえ……」
イレイナが、
ギロリとロクシーを見る。
「リオがいたら?
新たなお見合い話が、来るかもしれない!
それに……
あのリオの性格!
あんたも知ってるでしょ!?」
イレイナが、
ビシッとロクシーに指をさす。
「すくすく育った大根みたいに素直!
でもね……
素直すぎるの!
舞踏会で何をしでかすか、
わからない!
だったら……
眠ってもらう、一択じゃない?」
ロクシーが腕を組むと、
ウンウンと頷く。
「確かに〜!」
すると、
ルシアンが静かに口を開いた。
「イレイナよ。
先ほどの芝居は、何だ?」
イレイナの鋭い視線が、
ルシアンのヘイゼルグリーンの目を射抜く。
「決まってるでしょ!
アンジュの善意の一言が、
アンジュ自身の美しいダンス姿を、
なくす可能性があったからよ!
もし、あの父親が、怒りに任せて、
ルチアーノとロクシーよりも先に、
あんたとアンジュに、
ピアノとハープの二重奏をさせたとしたら……」
ロクシーが、
ナイフより鋭い声で言った。
「あの親父……
プライドが折れまくって、
舞踏会どころじゃなくなるね……!」
イレイナが、
ロクシーにフフッと笑いかける。
「そうよ! ロクシー!
あんたって、本当に有能ね!」
そして、
イレイナがルシアンに視線を戻す。
「アンジュが舞踏会で、
ワルツを踊る姿……!
一番大切な、
一番美しい瞬間の映像を、
私の水晶玉に刻めないでしょうが!
だ・か・ら。
ああやって、
ケーキワゴンごと、
アンジュとロクシーに倒れ込んで、
あの場を立て直してあげたの。
分かった?」
「……なるほど。理解した」
ルシアンが、
チラリとアンジュに視線を向ける。
アイスチョコレートラテを、
幸せそうに飲んでいる、
アンジュの美しい横顔。
ルシアンが、
再び口を開く。
「それで、これからどうする?」
ルチアーノが、
ご機嫌で自身のピアノについて、
延々と語り続ける父親を相手に、
流れるような相槌を打ち、
その審美眼を称え続けながら、
ロクシーを待っていると――
「先ほどは、
大変失礼いたしました」
鈴の音のような声がした。
ルチアーノと父親が揃って、
その声の主に目をやる。
そこには、
ケーキワゴンに向かって倒れた令嬢が立っていた。
倒れた時は、
赤いシフォンのイブニングドレスだったが、
今は、
シルバーのイブニングドレスに着替えている。
その美しさに、
周りから感嘆の声が上がる。
「私……
イギリス公爵家に連なる者で……
サラと申します」
はにかみながら告げる、
真っ白な頬は薔薇色に染まり――
美しい紫色の瞳と、
寸分の狂いなく巻き上げられた金色の髪が、
輝いていた。
ルチアーノが、
思わず見惚れていると、
ルチアーノの視界が、一瞬、暗転する。
そして、
弾けるような、光。
――イレイナだ……!!
リオの婚約者役を、やってる……!?
……ロクシーを迎えに行け!?――
ルチアーノは、
コホンと咳払いをした。
「サラ殿、お気になさらず。
ロクシーは、どうしていますか?」
落ち着き払った声に、
"サラ"が柔らかく微笑む。
「ルチアーノ様のお迎えを、
待っております。
――レディらしく」
父親が大きく頷き、
自慢げに大声を上げる。
「ロクシー殿は、
さすがレディの中のレディじゃな!
ルチアーノよ!
早く迎えに行かんか!」
「はい、お父様。
では失礼します」
ルチアーノが、
しおらしく言って席を立つ。
その瞬間、
父親と"サラ"の目が合った。
"サラ"の紫色の瞳は、怪しく光り、
父親の心臓が、勝手にドクンと跳ねる。
「……まあ、伯爵。
どうかなさいました?」
"サラ"の甘い声が、
耳を溶かし、
父親の脳まで痺れさせる。
「サ、サラ殿……。
気付けに、
白ワインでもどうかな?」
"サラ"が、
優美に微笑む。
「素敵なお誘いですわね」
そうして、
"サラ"は、
ルチアーノの父親の前に、
ふわりと座った。
静まり返った控室に、
ドアが開くより先に、
勢いだけが控室へ雪崩れ込んできた。
次の瞬間、
その正体がルチアーノだと分かる。
「ロ、ロクシー先生!
イレイナが……!!」
ロクシーが、
「まあ、落ち着きなよ」と言うと、
ソファを指さす。
ルチアーノが、
ヘナヘナとソファに座る。
すると、
ロクシーが再び口を開いた。
「もう、イレイナから、
頭に直接、事情は聞かされたでしょ?
イレイナは味方よ」
「で……でも……!!
俺様の口を、
勝手に動かしてましたよ!?」
「それは、
あんたが紳士らしく席を立たないと、
計画が台無しになるから!」
ルチアーノの喉が、
ゴクリと鳴る。
「……け、計画!?」
掠れた声で訊くと、
ロクシーが窓際に目をやった。
ルチアーノも、
その視線の先を辿る。
すると――
そこには、
アンジュの座るソファのすぐ横に立つ、
ルシアンの姿があった。
ルシアンは微動だにせず、
完璧な位置取りで、
アンジュを守っている。
アンジュは、
全く、気づいていない。
だが、
ルシアンの視線は、
一瞬たりとも逸れることなく、
ただ、ひたすらに、
アンジュを見つめていた。
まるで、
この空間に存在する、すべてが、
アンジュを中心に配置されているかのように。
「大天使だって、恋に落ちる……。
だったら、
地獄の王の父親は……?」
ロクシーの、
独り言のような問いかけに、
ルチアーノは真っ青になる。
そして、
叫んだ。
「まさか……
イレイナ……
"サラ"に、お父様が!?」
ロクシーが、
フフフと含み笑いをする。
まさに、軍師の笑い。
「どうなるか……。
相手は、イレイナよ?」
その一言は、小さい。
だが、
ルチアーノには、まるで、
ジャパンの太鼓が、
耳元で鳴ったような気がした。
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