表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

【18】六十億円の指輪と、千円でお釣りが出る玩具。〜理解不能の王は、すやすや眠っている者に負けました〜

その瞬間――

ルシアンの恩寵が、静かに満ちた。


風呂上がりでバスローブ姿だったルチアーノの装いが、

音もなく、切り替わる。


いつもの真っ黒なスーツの上下。

胸元には、深紅の薔薇のコサージュ。

同じ色のネクタイが、寸分の狂いもなく、整えられている。


――間に合う。


ルチアーノは、それだけを確認した。


同時に、

ショートパンツにキャミソール、

髪をバスタオルで巻いたまま、歯を磨いていたロクシーの姿も、変わる。


艶やかな黒髪が、背にさらりと流れ落ち、

薄紫色のワンピースが、その身に馴染む。


化粧は薄く、だが、隙はない。


アンジュもまた、バルコニーに立ったまま、

恩寵の余波を受けていた。


少し乱れていた髪は整い、

白いワンピースは、皺一つ残さず、美しく落ち着く。


四人は、何も言わない。


ロクシーとルシアンが、一瞬だけ視線を交わす。


――問題なし。


その合図を受け取ったルチアーノは、

小さく咳払いを一つして、“当主の顔”で、ペントハウスの扉へと向かった。


半歩後ろには、ロクシー。


扉を開けた瞬間、

ルチアーノは満面の笑みを浮かべ、深く一礼する。


「これは……お父様。

前触れもなく、お越しになるとは……!」


父親は、フンと鼻で笑った。


「我が息子が、わしの地に来た。

喜びで、飛んで来たのが、間違いだとでも、思うか?」


「いえいえ。

お父様自ら、お越しいただけるとは――

このルチアーノ、喜びに、堪えません」


ルチアーノとロクシーが、揃って頭を下げる。


父親は満足そうに、白い髭を撫でた。


「よろしい」


その目が、わずかに細まる。


「……ところで。

親友と、婚約者殿は?」


その瞬間――

父親の視線が、鋭く光った。


ロクシーは、見逃さない。


――突然の訪問。

――粗探し。

――想定内。

――対処可能。


ルチアーノは、しおらしく答える。


「もちろん、一緒に泊まっております。

ルシアンは、モナコは、初めてでして」


「なんと!」


父親は、勝ち誇ったように笑った。

――だが、その笑いは、ほんの少しだけ、早い。


「モナコに、来たことが無いと!? 哀れな!」


「はい。

ですが――」


ルチアーノは、にこやかに続ける。


「玄関先では、お父様に、ふさわしくございません。

どうぞ、リビングへ」


くるりと掌を返し、廊下の奥を示す。


その動作には、迎え入れる“息子”ではなく、

場を預かる“主”の落ち着きがあった。


ロクシーは、半歩後ろで、静かに微笑む。


舞踏会、三日前。


だが、この夜――

すでに、前哨戦は始まっていた。





メインリビングでは、

ソファの後ろに、ルシアンとアンジュが並んで立っていた。


二人の姿が視界に入った瞬間、

父親の胸に、言いようのない苛立ちが走る。


――なんと、美しきこと!


その感情を抱いた自分自身が、何よりも、許せなかった。


ルシアンは、白いニットに、グレーのジャケット。

アンジュは、清楚な白いワンピース。


飾り立てているわけでも、威圧しているわけでもない。


ただ、“そこに立っている”だけで、

場の空気が、静かに塗り替えられていく。


それが、腹立たしい。


父親が、どっかりとソファに腰を下ろす。


その動作に合わせるように、ルシアンが口を開いた。


「お久しぶりです。

再びお会いできて、嬉しく思います」


それだけだった。


感情は、見えない。

媚びもない。

緊張も、恐れも、感じられない。


父親は、内心で、舌打ちする。


――礼儀正しすぎる。

――不気味なほどに。


アンジュは、お辞儀すらせず、ただ、にこりと微笑んでいる。


それがまた、癪に障った。


父親が、パチンと指を鳴らす。


すると、付き従っていた者の一人が、さっと、テーブルの上に箱状の物を置いた。


「お父様、お飲みものは、何をお持ちしましょうか?」


丁寧に問いかけるルチアーノに、父親は鼻で笑う。


「こんなホテルに、わしが、口にできる酒が、あるとでも、思っとるのか?」


そう言って、顎で合図をした。


「持参したわ」


箱が、開かれる。


中に収められていたのは、一本のシャンパン。


『グー・ド・ディアンモンズ/

テイスト・オブ・ダイヤモンズ』


価格は、2億2千万円から、2億9千万円。


ボトルには、19カラットのダイヤモンドと、

18金のホワイトゴールドが、惜しげもなく、施されている。


――見せびらかすための酒。


だが。


ルシアンとアンジュは、それを目にしても、

一切、表情を変えなかった。


驚きも、羨望も、評価すら、ない。


ただ、“そこにあるもの”として、受け止めている。


父親の口元が、わずかに歪む。


――効かぬ、か。


ルチアーノは、動じることなく父親の正面に座り、


「流石は、お父様です」


とだけ言って、

そっと、ロクシーへ、視線を送った。


ロクシーは、一拍遅れて、ルチアーノの隣に腰を下ろす。


距離は、わずかに取って。


ルシアンとアンジュは、依然として立ったままだ。


その時――


バルコニーから、ふわりと風が吹き込んだ。


ただの、そよ風。


アンジュは、その風を受け止めるように、

静かに目を伏せ、右手で髪を押さえた。


その仕草に――


父親が、突然、笑い出した。


「……お父様?」


訝しげに呼びかけるルチアーノ。


父親は、腹を抱え、ひとしきり笑った後、

目元をハンカチで押さえながら言う。


「面白い……!

実に、面白いわ……!」


パシリと、ハンカチをテーブルに叩きつける。


「アンジュ殿。

六十億円もする婚約指輪を嵌めながら、

その右手の“玩具”は、何じゃ?」


笑みを歪める。


「その、くすんだ銀色の、ホースシューリング。

純銀ですら、あるまい」


短く、吐き捨てる。


「笑止」


さらに、畳みかける。


「本性、見たり、だな。

そなた、上流階級の者では、あるまい?

さては、その美貌で、ルシアン殿を誑かしたか?」


そして、嘲るように続けた。


「ルシアン殿も……

見る目が、無いのう!」


「お父様……!

それは、あまりに、無礼です!」


ルチアーノが声を荒げた、その瞬間――


澄んだ声が、静かに響いた。


アンジュだった。


アンジュは、変わらぬ無邪気な微笑みを浮かべたまま、

穏やかに言う。


「そなたは、

千年以上も、生きてきて――

野に咲く、一輪の花にも、

風雪に耐える枯れ木にも、

心を動かされたことは、無いのか?」


父親の笑みが、消える。


「この指輪は、そういうものなのだ」


それ以上の説明は、ない。


父親は言葉を失い、歯ぎしりをした。


理解できない。


価値に換算できない。

序列に落とし込めない。


だから、何も言い返せない。


そして――


アンジュの隣に立つルシアンは、

顔が赤く染まり、やがて、それは、

赤を通り越して――


まるで、火山のマグマのように、真っ赤になった。





そうして――


ほんの十分ほどで、

ルチアーノの父親は、その場を後にした。


扉が閉じる音は、小さく、

だが確かに、この夜の“前哨戦の終了”を告げていた。


午前二時――。


ロクシーが、ソファに深く腰を沈め、

無造作にビール缶を傾けながら言った。


――スコットランド製。

「スネークヴェノム」。

アルコール度数、67.5%。


常人なら、一口で終わる代物を、一息で飲み干す。


「ルシアン、

まだ泳いでんの?」


缶を置き、視線をバルコニーに移す。


「通報されない?」


その言葉通り――

ルシアンは、父親が帰るや否や、モナコの海へ飛び込み、

ただ黙々と、バタフライで泳ぎ続けていた。


夜の海を裂く水音が、遠くから、かすかに届く。


ルチアーノは、望遠鏡から目を離さないまま、

目をうるませて答えた。


「ルシアンなら……

大丈夫でありますッ!

アンジュちゃんの言葉に、感動したんでありますッ!

純情! ラブ❤️」


拳を握りしめ、どこか、誇らしげに。


「でもさ」


ロクシーは、スネークヴェノムをもう一缶開け、静かに言った。


「あんたの父親……

本気になったね。

完全に」


その言葉に、ルチアーノは、望遠鏡越しに海を見据えたまま、

迷いなく言い切る。


「望むところでありますッ!」


水面を裂く影――

ひたすら、泳ぎ続けるルシアンの姿が、視界の中心にある。


「正面から来るなら、正面で、受けるだけでありますッ!」


その声には、先ほどまでの怯えはない。


ただ、覚悟だけが、あった。


そして――


アンジュは。


そのすべてを知らぬまま、

もう数時間前から、静かに眠っていた。


嵐の中心で、何ひとつ乱されることなく。


それこそが、この夜における、

何よりの“勝利”だった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆

Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪


〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉


【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜


https://ncode.syosetu.com/n5195lb/


【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜


https://ncode.syosetu.com/n2322lc/


【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜


https://ncode.syosetu.com/n7024ld/


【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜


https://ncode.syosetu.com/n5966lg/


【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜


https://ncode.syosetu.com/n9868lk/


【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線〜聖夜の余白の物語〜


https://ncode.syosetu.com/n9097lm/


【完結】地上でいちばん可愛い正月旅行〜天使と悪魔も福来たる、温泉・TOKYO・バタフライ〜


https://ncode.syosetu.com/n5279ln/


を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)


こちら単体でも大丈夫です☆



\外伝の元ネタはこちら✨/


『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ