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大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


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16/19

【16】ピアノは余興、ダンスは30点、地獄に着地。〜それでも舞踏会は成立するらしい〜

そうして――

ヴィラには、グランドピアノが運び込まれた。


さすがは、セレニス州で一番の高級ヴィラ。

音楽ルームまで、最初から備えられている。


そして、ルチアーノの日課は変わった。


競歩と筋肉トレーニングは、これまで通り。

だが、水泳は免除された。


その代わりに――

ピアノレッスンが、容赦なく組み込まれた。


しかも。


ロクシーは、

イレイナから、ハープの演奏方法を“頭に刻まれ”、

わずか二〜三時間の練習で、プロ顔負けの奏者になっていた。


才能の問題ではない。

これは、仕様だ。


一方で、ルチアーノの練習に、

メトロノームは存在しない。


なぜなら――

そこに、ルシアンがいるからだ。


ルシアンは、

一秒未満の遅れも、

一秒未満の躓きも、

一切の感情を挟まず、

正確に指摘してくる。


「今の一音。0.4秒、遅れている」


逃げ道は、どこにもなかった。


そして――

音楽ルームには、新たに防犯カメラが設置された。


室内を360度、死角なし。

音声まで、すべて拾う設計。


理由の説明は、ない。


ロクシーは、ただ、一言だけ言った。


「必要だから」


それだけで、十分だった。


さらに――

ルチアーノは、ピアノの椅子から立った瞬間から、

ワルツのステップで移動しなければならない。


例外は、存在しない。


ルシアンも、付き合ってはくれる。

だが――

なぜか、ルシアンのステップは、ひどく格好よかった。


水面を滑るように。

呼吸と、重心と、音楽が、完全に一致している。


その横で、容赦なく、ロクシーの声が飛ぶ。


「ルチアーノ。

ルシアンと“同じ”ステップを刻んで」


“近い”ではない。

“同じ”だ。


アンジュは、マンゴーパフェを頬張りながら、

無邪気に追い打ちをかけてくる。


「ルチアーノ!

先ほどのピアノ、とても素晴らしかったぞ!」


満面の笑み。


「ルシアンと連弾でもして、

少し気分転換してはどうだ?」


ルシアンは、その言葉を聞いた瞬間、

即座に跪き、胸に手を当てる。


「御意」


地獄。


否――


理解してしまった。

これは、“逃げ場の無い完成形”なのだと。


そして、舞踏会の準備。


それすらも――

ロクシーの一言で、消えた。


「イレイナの自家用ジェットで、隣の州へ行く。

ルシアンの恩寵を使えば、準備は一瞬で終わるわ」


当然のように。


ルシアンの返答は、いつも通りだ。


「理にかなっているな」


結果――


往復、三時間。


アンジュとロクシーのドレス、アクセサリー。

ルシアンとルチアーノの燕尾服、靴に至るまで。


頭のてっぺんから、爪先まで。

すべてが、完璧に揃えられていた。


時間も、余白も、言い訳も――

何一つ、残されていない。


ルチアーノは、悟った。


逃げ道なんて、最初から、存在しなかったのだと。


そうして――

身体が覚え、指が覚え、

音楽とステップが、思考を追い越した。





そして、モナコでの舞踏会開催、五日前。


四人は、イレイナの館にあるダンスホールに、集まっていた。


当然のように置かれている、

グランドピアノとハープが、

静かに、だが確実に、ルチアーノの神経を削っていく。


その様子を一瞥すると、

イレイナが、パンパンと乾いた音を立てて手を叩いた。


「まずはダンスからよ」


声は淡々としている。

だがそこには、“成果を確認する”者特有の厳しさがあった。


曲目は――

ヨハン・シュトラウス二世の『美しく青きドナウ』。


ルチアーノとロクシーは、

本番さながらの衣装に身を包み、

これまで、散々叩き込まれてきた、

定番中の定番のワルツを踊り始める。


フロアの端では、

アンジュとルシアンが並んでソファに腰掛け、

静かに、その様子を見守っていた。


やがて、曲が終わる。


二人が、ふわりと一礼した、

その瞬間――


「……はぁ」


ロクシーの口から、短く、鋭い息が漏れた。


盛大な舌打ち。

だが、それは、感情の爆発ではない。


「……あんたね。

何回、私の足を踏んだと思ってるの?」


完全に、“プロの声”だった。


ルチアーノは、一瞬だけ口を開きかけ――

何か、言い訳を探すように、

視線を彷徨わせる。


だが、すぐにそれを飲み込み、

深く頭を下げた。


「……申し訳ございませんッ……!!」


その様子を見て、

イレイナが淡々と口を挟む。


「ロクシー。

その点は、大丈夫よ」


ロクシーが、イレイナに視線を向ける。


「ルチアーノの父親の宮殿は、

魔術で溢れている場所だもの。

私のまじないを重ねたところで、まず、見破れない」


さらりと、続ける。


「足を踏まれても、

一切ダメージが残らない程度の防護くらい、掛けてあげる。

ドレスで、隠れるしね」


そして、数値を突き付ける。


「それに――

今のルチアーノのダンス、

ウィーン舞踏会基準で言えば、

100点満点中、30点」


ルチアーノの肩が、びくりと跳ねた。


「……正直、出来は悪いわ」


だが、そこで切らない。


「ただし。

“条件付き”なら、誤魔化せる」


イレイナの視線が、鋭くなる。


「立ち居振る舞い。ピアノ。場の流れ。

全部が噛み合えば、ね」


ロクシーは、その言葉を聞くと、

パチンと軽くウィンクした。


「十分よ。

イレイナ、ありがとう!」


イレイナは、静かに頷き、

次に、ルチアーノを見据える。


「……じゃあ」


ほんの一瞬の、“間”。


「次は、ピアノね」


その一言で、空気が変わった。


ルチアーノの喉が、ごくりと鳴る。


退路は、完全に断たれた。


その空気を和らげるように――

アンジュが、ホワイトチョコチップラテを手に、

にっこりと微笑んだ。


「ルチアーノ! ロクシー!

二人とも、頑張れ!」


その笑顔は、どこまでも、無垢だ。


その横で、ルシアンが、すっと立ち上がり、

アンジュに向かって、静かに跪く。


「では私は、お二人の演奏の、最終確認をして参ります」


声音は、低く、揺るぎない。


地獄は、次の段階へと、進んだ。





ルチアーノとロクシーが弾くのは、

ドビュッシーの『夢』。


原曲は難易度が高いが、

優しく整えられたアレンジが存在する。

それを、選んだ。


元々、知名度も高く、

舞踏会で演奏しても映える曲だ。


――二人の演奏が終わる。


静寂。


ほんの一拍、

音が完全に消えたその空間で――


イレイナが、淡々と口を開いた。


「ルシアン、どう?」


視線が、向けられる。


ルシアンは、珍しく、ほんの一瞬だけ、間を置いた。


そして――

感情を交えず、静かに告げる。


「ロクシーは、間違えてはいない。

ルチアーノは……98箇所、間違っていた」


「……ヒィ……ッ……!」


ルチアーノが、喉の奥で潰れた悲鳴を漏らす。


ルシアンは、一歩前に出て、静かに続けた。


「致命的ではない。

だが、“正確に言えば間違っていた”だけだ」


「……つまり?」


イレイナの瞳が、

獲物を捉えたように、細くなる。


ルシアンは、いつも通りの冷静さで答えた。


「ルチアーノのピアノは、

時間的にも、技術的にも、

これ以上の修正は不可能だ。

だが――

舞踏会で“余興”として弾くのなら、問題はない」


「よ、余興……!?」


ルチアーノが、

信じられない、というように声を上げる。


「俺様が……!

『久しぶりに、お父様に聞いてほしい』って言うんだぞ!?

しかも、婚約者のロクシー先生との二重奏だ!!

舞踏会が静まり返る中で、弾くんだぞ!?」


その空気を、

地を這うような声が切り裂いた。


「グダグダ言わない」


ロクシーだった。


「いい?

私の“完璧なハープ”が、

あんたのピアノを、補うの」


一歩も譲らない声。


「主役は、演出。

音楽は、その一部でいい。

余興で、十分よ」


そして、静かに言い切る。


「それでも――

あの親父は、必ず感動する」


イレイナも、あっさりと続けた。


「そうね。

あんた、父親の前では、猫を被れるし、

立ち振る舞いも、問題ない」


肩をすくめる。


「この構成で、行きましょ」


アンジュが、美しく微笑む。


「良かったな、ルチアーノ!」


――ガラガラガラ……。


ルチアーノの中で、何かが、音を立てて崩れていく。


だが。


誰も、止めない。

誰も、間違っていない。


全員が、最善だと、信じている。


だからこそ――


ルチアーノの意思とは関係なく、

地獄は、静かに、そして確実に――

着地した。

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