表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/18

【15】大天使並みに踊って弾けと言われました。〜無理であります〜

そうして――

ルチアーノとロクシー、アンジュとルシアンが揃い、

メインリビングのテーブルの上で、深紅のシルクの布が、静かに開かれた。


現れたのは、赤い蝋印を押された封筒。


その紋章を目にした瞬間、ルチアーノは、反射的に叫んでいた。


「……やはり……お父様からだ……!!」


声は掠れ、喉の奥がひくりと鳴る。


その瞬間――

ロクシーが、何のためらいもなく、テーブルの上にペーパーナイフを滑らせた。


銀色の刃は、まっすぐルチアーノの前で止まる。


「当たり前でしょ!?」


鋭い声。


「前回、地獄経由で届いた封筒と、まったく同じよ。

蝋印も、紙質も、折り方も――全部ね」


一拍。


「迷ってる暇はない。

早く、開けなさい」


「で、でも……!

絶対に舞踏会案件であります……ッ……!」


ルチアーノの弱音に、ロクシーの声が、低く沈む。


「当然のことを、わざわざ言わない」


視線が、逃げ道を塞ぐ。


「それとも……

私が、代わりに開けようか?」


その一言で、選択肢は消えた。


ルチアーノは、ブルブルと手を震わせながらペーパーナイフを掴み、封筒を切り裂いた。


中から現れたのは、古式ゆかしい便箋。


紙は分厚く、文字は異様なほど整っている。

感情の起伏を、最初から許さない書体だった。


ルチアーノは、唾を飲み込みながら読み上げる。


「……『我が息子、ルチアーノよ。

そなたと婚約者ロクシー殿のお披露目の為の舞踏会は、

一ヶ月後に決定した。

そなたの親友、ルシアン殿と、

婚約者アンジュ殿にも、伝えるように』……」


内容は、簡素。


だが――

そこに書かれているのは、要請ではない。

命令だけだった。


ルチアーノの顔色が、一気に失われる。


「……一ヶ月……!?

それじゃあ……俺様のダンスが仕上がらない……!」


必死に言葉を並べる。


「ロクシー先生とアンジュちゃんのドレスを、

数種類オーダーメイドで作らせて……!

アクセサリーも、靴も新調して……!

しかも俺様とルシアンの燕尾服も……!」


だが――


ロクシーの眼が、はっきりと“計算を終えた色”に変わった。


「言い訳はいらない」


即断。


「要するに――

あんたが、ルシアン並みに踊れれば、全部解決するの」


理屈は、そこまでで十分だった。


「さあ。

イレイナのダンスホールに行くよ」


逃げ場は、完全に断たれた。


その時――

アンジュが、柔らかく微笑んで言った。


「ルチアーノ。心配するな」


どこまでも澄んだ声。


「私とルシアンが、協力するからな!」


その言葉は、善意に満ちていた。


ルシアンは即座に胸に手を当て、静かに、しかし揺るぎなく答える。


「仰せの通りに」


そして、ルチアーノを真っ直ぐ見て告げた。


「ルチアーノ。

私は、アンジュさまのご指示通り、お前に力を貸そう」


その瞬間――


ルチアーノの頭の中に、はっきりと文字が浮かんだ。


ダンス。

一ヶ月。

ルシアン。

アンジュ。

ロクシー。


すべてを内包した――


“地獄”。


ルチアーノは、乾いた笑みを浮かべる。


「……ああ……」


逃げ場のない、完成された地獄が、また一つ、動き出していた。





そうして、皆で揃ってイレイナのダンスホールへ向かい、父親からの手紙の件を伝えると――

イレイナは、驚くほどあっさりと言った。


「ルチアーノ。

ダンスは“基本”だけでいいわ」


拍子抜けするほど淡々と。


「舞踏会で必要なのは、技術の羅列じゃない。

“象徴”よ。

……あんた、楽器は弾けないの?」


その一言に、ルチアーノは視線を彷徨わせながら、ぼそりと答える。


「……一応……

ピアノは得意だと、お父様には言われております……」


一瞬。


ロクシーが、顎に指を当てたまま黙り込む。

視線が宙を走り、思考が一気に組み上がる。


――勝ち筋、発見。


「……それ、良い!」


勢いではない。

完全に計算された声だった。


「ダンスはワルツをさらっと踊る。

で、ピアノよ。

『久しぶりに、お父様に聴いてほしい』って言えば、あの親父、感動するに決まってる」


一拍置き、さらに畳みかける。


「それに、“婚約者の私にも聴かせたい”って付け足すの。

完璧でしょ」


イレイナの口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「……悪くないわね。

じゃあ――」


水晶玉に視線をやりながら、さらりと言う。


「ロクシーの頭に、何か楽器を刻んでおきましょうか。

二重奏も、映えるわ」


その瞬間。


プリンタルトを口にしていたアンジュが、ぱっと顔を上げた。


「ルチアーノはピアノが弾けるのか!

ならば――」


一切の迷いもなく、続ける。


「ロクシーは、ハープを覚えるのはどうだ?

私はハープが得意だ!」


――一瞬、空気が止まった。


ロクシーが瞬きを忘れ、ルチアーノは口を半開きにしたまま固まる。


そして、イレイナの瞳が――

はっきりと“ドル”の形に変わった。


「……アンジュ。

あなた、ハープが弾けるの?」


「おう!」


即答。


イレイナは、その“資産価値”を瞬時に算出しつつ、

野心を一切表に出さず、優雅に微笑んだ。


「……素敵ね。

じゃあ、ルチアーノのために協力してくれる?

ロクシーに、ハープが合うかどうか……」


アンジュは、美しく微笑み、即座に頷いた。


「よろしい!

ならば、ハープを用意してくれ!」


そして、当然のように続ける。


「ルシアンよ!」


「はい」


静かな返答。


アンジュは、晴れやかな声で宣言した。


「二重奏なら、

ジョン・トーマスの『舞踏会の思い出』にしよう!

ルシアン、ピアノを弾け!」


ルシアンは胸に手を当て、一切の迷いなく答える。


「……御意……!」


そうして始まった二人の演奏は――


最初の一音が鳴った瞬間、ダンスホールの空気が変わった。


ハープの音は柔らかく、水面に光が落ちるように広がり、

そこへピアノが重なり、旋律が天井へと解き放たれていく。


正確で、慈しむようで、そして、どこまでも澄んでいる。


――正に、天国の調べ。


ロクシーとルチアーノは、気付けば言葉を失い、

感動のあまり、目元を押さえていた。


イレイナは無言で水晶玉に手を翳し、そのすべてを、完璧に記録している。


やがて、最後の音が消え――


静寂。


その沈黙を破ったのは、ハープの余韻を思わせる、アンジュの声だった。


「ロクシー、ルチアーノ。

どうだ?

役に立ったか?」


ロクシーは、はっと我に返り、勢いよく頷く。


「ありがとう、アンジュちゃん!」


だが、次の瞬間。

その視線は鋭く、ルチアーノへ向けられた。


「ルチアーノ。

これで感動しない人なんて、いない」


一歩、踏み出す。


「地獄の王の父親?

関係ないわ。

ひれ伏す」


そして、容赦なく宣告した。


「私はイレイナにハープを刻んでもらう。

だから――」


一拍。


「あんたは、ルシアン並みにピアノを弾いて」


静寂。


次の瞬間、

ルチアーノの絶望の叫びが、ダンスホールに響き渡った。


「……無理であります……ッ!!」


その背後で――

イレイナが、水晶玉に残された新たな記録を見ながら、満足気に微笑んだ。


地獄は、

また一段、

完成に近づいた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆

Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪


〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉


【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜


https://ncode.syosetu.com/n5195lb/


【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜


https://ncode.syosetu.com/n2322lc/


【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜


https://ncode.syosetu.com/n7024ld/


【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜


https://ncode.syosetu.com/n5966lg/


【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜


https://ncode.syosetu.com/n9868lk/


【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線〜聖夜の余白の物語〜


https://ncode.syosetu.com/n9097lm/


【完結】地上でいちばん可愛い正月旅行〜天使と悪魔も福来たる、温泉・TOKYO・バタフライ〜


https://ncode.syosetu.com/n5279ln/


を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)


こちら単体でも大丈夫です☆



\外伝の元ネタはこちら✨/


『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ