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【完結】大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


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13/25

【13】努力を楽しもうとしただけなのに、宇宙に消えました。〜香水の名は伊達じゃない〜

そうして――

ルチアーノとルシアンは、協力し合い、香水作りを始めた。


逃げるためではない。

努力を“最大限に引き出す”ためだ。


ただ頑張るだけでは足りない。

努力を、楽しめなければ――

自分という存在は、最後まで走り切れない。


それを、ルチアーノは知っていた。



ヴィラの部屋で事を起こせば、ロクシーの目を誤魔化すことは不可能だ。


時間。

動線。

心拍数。

疲労の残り方。


あの脚本家は、それらすべてを把握している。


ならば選択肢は一つ――

“日常の延長”にしか見えない場所。


トレーニングルームの、シャワールーム。


監視カメラは出入り口のみ。

滞在理由は、誰が見ても自然。


ルチアーノは、こっそり支配人に交渉し、

シャワールームの一室を貸し切る了承を取り付けた。


そして――

地獄の側近である悪魔たちに器具を運ばせ、狭い空間を、即席の調香実験場へと作り替える。


完成したシャワールームを見て、無表情のルシアンが、ほんのわずかに目を見張った。


「無駄な空間が存在しない。

……ルチアーノ、君はやはり香水の調香に秀でている」


ルチアーノは、フフッと余裕の笑みを浮かべる。


「ズッ友よ……俺様のことは、

“香水の魔術師”と呼んでくれて構わない」


胸を張り、宣言した。


「さあ――ここからだ!」


それから。


ルチアーノは、頑張った。


競歩では、ロクシーの設定したタイムを一秒も落とさぬよう、歯を食いしばり、時計と呼吸だけを見つめて歩き続けた。


水泳では、ルシアンの指示を受け、クロールから、より負荷の高いバタフライへと切り替えた。


筋肉トレーニングも、ロクシーのメニューを一つ残らず、やり通した。


そして――

許された、ほんの僅かなシャワータイムを、すべて香水作りに費やした。


ルシアンも、常に併走していた。


競歩も。

水泳も。

筋肉トレーニングも。


何も言わず、当たり前のように、毎回、隣にいた。


やがて――


調香台の上で、一本のボトルが静かに置かれる。


ルチアーノは、その完成を確信し、小さく息を吐いた。


「……出来たな」


ルシアンが頷く。


「ああ。完成だ」


新作香水――


『コスモより無限大、ブラックホールよ、どんと来い!

――俺様とズッ友の初恋、ブリリアントなステップカット――』


それは、努力を“楽しむ”ために生まれた、悪魔と天使の、秘密兵器だった。





そうして、ルチアーノはウキウキした気持ちを必死に押し殺し、ルシアンと共にヴィラへ戻った。


香水を付けたいーー!

今すぐ付けたいーー!!

だが、今は絶対に無理……!


明日の筋力トレーニングの後ならどうだ?

そのあとシャワーで流せば、ロクシー先生にも気づかれないはずだ。


そう確信した、その瞬間――


カチ。


暗闇だったメインリビングの照明が、一斉に灯った。


そこにいたのは、ソファに腰掛けたロクシーと、少し眠たそうに瞬きをするアンジュ。


アンジュは二人を見ると、何の疑いもなく、美しく微笑んだ。


「二人とも、お疲れ様!

今日も、よく頑張っているな!」


その声は、どこまでも澄んでいる。


「ロクシーから聞いたぞ。

ルチアーノが、私にサプライズをしてくれると!」


ルシアンは、一瞬だけルチアーノを見た。

そして――迷いなく、その場に跪く。


「アンジュさま。恐れ入ります」


ルチアーノは、状況が理解できず、ただ呆然とロクシーを見ていた。


ロクシーの口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「……私が」


一拍。


「あんたのしてることに、気づかないとでも思ってた?」


絶対零度の視線。


ルチアーノの顔から、血の気が引く。


「……ま、まさか……!」


「あんたがダイエットメニューを、完璧にこなしてたから、

“今までは”見逃してあげてただけ」


「……ヒィ……ッ……!」


声にならない悲鳴を上げるルチアーノ。


その横で、アンジュがソファから立ち上がった。


「ルチアーノ。

私も分かっておるぞ!」


一歩、近づく。


「サプライズと言えば――

あの父親からの招待状の写真を、見せてくれるのであろう?」


ルチアーノは、反射的に一歩下がり、そして、叫んだ。


「ち、違う!!

アンジュちゃん!!

写真じゃなくて、こっちだ!!」


胸元に手を伸ばし、取り出したのは――

毒々しい色彩でギラつく、香水の瓶。


「俺様のダイエット成功の鍵が、

ついに完成したんだ……!!」


アンジュは、興味深そうに瓶を覗き込む。


「ほう……?これは……?」


――その瞬間。


ルシアンが、音もなく動いた。


(アンジュさまは、今は人の身――

未知の香料は、危険物……)


判断は、0.3秒にも満たない。


次の瞬間。


香水の瓶は――

粒子レベルで分解され、

中身ごと、まるで吸い込まれるように消失した。


宇宙の彼方へ。


――香水の名の通りに。


一瞬。


何が起きたのか、ルチアーノの脳が理解するまで、ほんの一拍の空白があった。


そして。


膝から、崩れ落ちる。


「……な、なんで……?」


かすれた声。


そこへ、容赦なく落ちる、ロクシーの軍師の声。


「目、覚めた?」


感情はない。

ただ、事実だけ。


「あんたの香水は、ダイエットには役に立たない」


一拍。


「理由は簡単。

それは“依存を生む”」


さらに、冷たく言い切る。


「それどころか、バイオハザード級の危険物よ」


追い打ちのように、続けた。


「そして――

完成したものを、こうやって“ズッ友”に破壊される」


一瞬、視線がルシアンへ向く。


「これ以上に、目が覚める体験って、なかなか無いでしょ?」


「理にかなっているな」


ルシアンの、あまりにも冷静な追撃。


ルチアーノは、白目を剥いて、その場にパタンと倒れた。


すると、アンジュが小首を傾げる。


「……ルチアーノ?どうしたのだ?」


少し考え、閃いたように言った。


「香水が駄目なら、写真を見せてくれても良いぞ?」


「それはなりません」


ルシアンが、即座に遮った。


「アンジュさまの目が汚れます」


そう言い切り、続ける。


「それよりも――

十四種類のフルーツが入ったロールケーキをお持ちします」


アンジュの瞳が、ぱっと輝く。


「なんと!!

ルシアン、それは素晴らしいな!」


純粋な喜び。

一切の迷いも、疑いもない。


床に倒れたままのルチアーノは、白目を剥いたまま、かすかに呟いた。


「……な、なんで……?」


そして――


その一部始終を、水晶玉越しに、一言も発さず見ていたイレイナが、小さくため息をついて言った。


「……馬鹿なの?」

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