【1】 大天使、恩寵を封じられてハリウッドへ降臨したけど!?護衛・悪魔・魔女・恋の予兆まで同時発生している件
地獄の王は、お見合いを断りたいだけだった。
それなのに――なぜか大天使に婚約者が爆誕した。
千年前の価値観で暴走する悪魔の父。
脚本と演出で全てを操ろうとする脚本家。
初恋に憧れる地獄の王の“ズッ友自慢”。
その結果、
恋愛偏差値ゼロの大天使が
「結婚前提の恋人役」を引き受けることに。
逃げ場なし。後戻り不可。
お見合い阻止から始まる、
完全想定外ラブコメディ、開幕。
お正月も過ぎ、静寂に包まれた天界の中心で――
大天使ガブリエルは、今日も変わらず聖務に勤しんでいた。
「うーん! 絶好調! 流石は私、大天使ガブリエル♪」
満足げに書類を閉じた、その瞬間。
眩い光が降り注ぎ――次の瞬間、ガブリエルは神の玉座の前に跪いていた。
無窮の光の中から、神は穏やかに告げる。
「地上にて、人間の役に立て。
その為、そなたの恩寵は消す。」
「御意。」
ガブリエルは大天使として即座に恭順を示す。
だが――その胸の内では、静かに悲鳴を上げていた。
……人間の役に立て!?
大天使として、既に役に立っているのでは……!?
地上……!? それは世界なのでは……!?
恩寵を封じる必要性!!
何をどうすればいいのーーー!?
もちろん、神へ問い返すなど大天使として論外。
ガブリエルは完璧な姿勢を崩さず、心の混乱だけを押し殺す。
神の御言葉は、さらに続いた。
「だが、恩寵を消したそなたを地上に降ろすのは忍びない。
大天使ルシアンよ。ガブリエルの警護の為に、お前の恩寵は残す。
ルシアン、良き働きをせよ。」
ガブリエルが顔を上げると、
そこには――既に跪いているルシアンの姿があった。
その瞳は、いつも通り理知的で……それでいて、“誇り”だけではない輝きを宿していた。
「御意。」
神の光が、一層まばゆく輝く。
ガブリエルは――目に見えぬほどの速さで、ほんの一瞬だけ心の中で叫んだ。
ど・こ・がーーーッ!?
一方その頃――
地獄の王ルチアーノは、何度掛けても繋がらないロクシーのスマホへ、ついに101回目の電話を掛けていた。
だが、やはりコール音が鳴り続けるだけで、無情にも切れてしまう。
そこでルチアーノは、水晶玉に手を翳した。
映し出されたのは、ハワイの海辺。
ビーチベッドに寝転び、ラップトップ片手で完全リラックスモードのロクシーの姿。
「ロクシー!!」
大音量が響き渡り、ロクシーが何もない空間をギロッと睨む。
「……ルチアーノ……。
あんた、私の貴重な休暇を邪魔する気……?」
ロクシーはカゴバッグから――空間を飛び越える悪魔撃退スプレーを、静かに取り出した。
「ち、違う!
ロクシーが電話に出てくれないからっ……!
俺様、大変なのだ! 話を聞いてくれ!」
「い・や!
あと水晶玉を使ってまで追って来んな!」
「ロクシー……!!
一時間、一万ドルではどうですか!?」
ロクシーがパッとサングラスを外す。
「オッケー! 前払いね!」
そして、カリフォルニア州にあるアーチボルトの邸宅では――
リオが頭を抱えていた。
「どうしよう……どうしよう……。
政略結婚なんて……そんなの……兄貴に嫌われる……。
もう口を聞いてくれないどころか……俺の送るオーガニック野菜も送り返されるんだ……。
いや……ゴミだ……即ゴミになるんだ……。」
アーチボルトがリオの目の前に、ドンッと炭酸水を置き、眉間を揉む。
「ここは教会の懺悔室ではない!
もう、止めんか!
それより、このお見合いを回避する方法を考えねば……!」
「……でもっ!!」
リオがガバっと立ち上がる。
「大統領側近の議員のお嬢様だよ!?
どうやって“俺を断ってくれ”って言えば良いの!?
俺のエージェントなんて、逆に乗り気なんだよ!?」
アーチボルトがゆっくりと自慢の髭を撫でる。
「リオよ……。
人間で無理ならば……人間ならざる者の手を借りるのも有りだぞ。」
「……は?」
キョトンと目を見開くリオに、アーチボルトがフフフとほくそ笑む。
「わしらには知り合いがおる!
そう!
……地球最強魔女イレイナだ!」
目を開いた瞬間、そこは見慣れた豪華な部屋の中。
――そう、大天使ガブリエルの器、"アンジュ"のハリウッドにある自宅リビングだ。
ガブリエルは一瞬で、地上に置いてある化身の"アンジュ"と同化する。
「ルシアンよ……」
アンジュが振り返る。
ルシアンは柔らかな光がふわりと舞い上がる錯覚を覚えた。
ルシアンが即座に跪く。
「はい!」
「……ここは私の器の家だ。
どこに行けばいいのだ?」
「行き先を問わず、お供いたします……!」
一言一言が明瞭でいて重い、迷いのない、誓いのような返事。
アンジュのこめかみがピクピクと震える。
「〜〜〜……!!
そういう事ではないッ!!」
アンジュがそう言った、その瞬間ルシアンが立ち上がり、呟く。
「……ルチアーノ?」
アンジュが青い瞳を見開く。
「ルチアーノがどうかしたか?」
「……何やら、私にメッセージを送って来ております。
特殊な水晶玉を使っているようです……。
いつもの彼ならば、突然現れるのに。
それにこの水晶玉からのメッセージは、悪魔を遮断しています。」
「悪魔を遮断……?
ルチアーノは地獄の王ではないか……!
なぜ、そんなことを!
それで、なんと言って来ているのだ!?」
ルシアンは眉一つ動かさず、冷静に答える。
「『H・E・L・P』を繰り返しております。
助けてくれ、と」
「スマホで電話をしてみよう!
緊急事態なのかもしれない!」
アンジュの言葉にルシアンがジャケットのポケットから、スマホをさっと取り出した。
だが、何度かけてもルチアーノに電話がつながることはなかった――
そうして、ルチアーノからのメッセージも途絶えた。
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