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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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8/21

それ、腐ってるよな?

 石芋をタライの水につけている間に、ピコラは魔法を使って、寝室の隣の、ゲストルームの掃除をしている。


 あちこち綺麗にしているが、俺には魔法が使えないので暇だ。


「ピコラ、棚の中は見てもいいのか?」


 生活に必要な、物品の把握をしたいので、ゲストルームに向かって声を掛けた。


「勝手に見ていいし、使っていーよー!」


 俺は今、リビングと繋がるダイニングキッチンにいるので、ピコラは大声で返事してきた。


「魔法が使えないと、まるで役立たずだな。とりあえず、キッチン周りの棚の中から見るか」


 壁際に食器棚らしき収納を見つけたので、早速、扉を開けて確認してみる。


「上段には皿、カップと、深めのボウル。下段にはフライパンかな?鍋か?」


 鍋とも、フライパンとも言えそうな、深型の

物が大中小と入っている。


「間の引き出しには、カトラリーと、小さめの調理器具か……大概の物が揃っているな」



 食器棚の隣のチェストの開き戸を開けると、中にはごちゃごちゃしている。


「見たことがないな。怪しい色や形の草木や、石や岩がゴロゴロしてるけど……」


 子供特有の『宝物』だろうか?


「俺も、引き出しいっぱいにどんぐりと、丸い石を詰めた事あったよな……」


 遠い日の記憶だ。ただ、目の前の石には見覚えがある。


「これ、石芋に似てるよな」


 石を手にとって確認したけど、俺には石と石芋の区別がつかない。


 「この棚にあるのが石芋なら、もしかしたら、絡み合っているこの草も食材か?」


 よくよく観察すると、奥には、袋に入っている物もある。


「明らかに腐敗している、色がおかしな塊もあるな……さすがに食材とは認めたくないぞ」


 怖くなり、そっと棚な扉を後ろ手に閉めた。

 


 ピコラは、玄関の反対にあるトイレの掃除を終わらせ、俺を見て話しかけてきた。


「あ、ユージン!もしかして、食材庫になにかいい物あった?」


 棚を調べていた姿を、ピコラに見つかってしまい、ウキウキしながら近づいてくる。


「食材庫?食材って、それは俺の知ってる食材と一緒の意味か?」


 さっき見た物を、食材とは思いたくないな。


「何言ってるの?一緒だよ。ユージン変なの」


 ピコラは呆れた目を向けてくるが……


 俺は、食中毒で死にたくない。


「ぐちゃぐちゃに入っているし、見た事もないから、何がなんだか分からなかったんだよ」


 ピコラの食を否定するつもりはない。


「わからない物ばかりなら、仕方がないよね」


 俺は、色々見たような気もするが、余計なことは言わないようにした。


「アレはやっぱり、食材だったのか……」


 知りたくなかった事実を知ってしまい、俺はどうにも複雑な気持ちになる。


「でも、ぐちゃぐちゃって、ちょっと見せて」


 ピコラは、棚の近くに置いてある踏み台を、持ち上げて持ってくると、その上に乗り、躊躇なく扉を開けて、中に顔を突っ込んだ。



 ――今度、腐ったのは内緒で始末しよう。



 俺はそう心に決めて、腐った食材に落ち込むであろうピコラを、慰める言葉を探していた。


「ユージン! 魔豚の燻製があったよ!ぐちゃぐちゃに見えたのは、香草と、僕の好きなランバグラスが絡んでいたからだね」


 そう言って振り返ったピコラは、長い草を口元からペロンと垂らしている。


 草を咥えたまま、しゃくしゃくとリズミカルに咀嚼していた。


「おい、やめておけ、腹壊すぞ。それにその燻製?腐ってるだろ、色がかなりヤバいぞ」


 ピコラによって作業台の上にに取り出された燻製とやらは、なんていうか……


 全体的に暗い紫色で、ところどころ濃いピンクが見え隠れしている。


 ——絶対腐ってる!


「え、大丈夫だよ?いつも通りだよ?」


 ピコラはスンスンと鼻を鳴らして、燻製を嗅いでいるが、どう見ても明らかに腐ってる。


 乾いているとはいえ、臭くないのだろうか?


「ピコラ、ここに来るのは何日ぶりだ?」


 どうにかして、腐敗した肉だけは諦めさせるべきだと思い、ピコラに尋ねた。


「傷んだ肉を食うのは、かなりヤバい。マジでシャレにならん」


 子供だから、簡単に命を落としかねない。


 ピコラは指を折りながら、放置していた時間を数えている。


「ここ?どうだったかな、一年ぶりくらいじゃないかな?」


 一年か……


「確かに燻製は保存が効くが、その色はさすがに無理だ。自然放置だし、絶対に腐ってるぞ」


 ピコラの食に対する呑気さに、俺は突っ込まずにいられない。


 よく今まで平気だったな。


「自然放置?あ、そっか。ユージン、この棚ね『状態保存』の棚だから腐らないんだよ!」


 ピコラの言葉に、こちらが驚く事になった。


「状態保存?腐らない?どういうことだ」


 真空パックや冷凍保存だって、消費期限は長くなるけど、限度があるんだぞ?


「状態保存は、時間が止まるんだよ。だから新鮮なままだよ!燻製の色は、そもそも魔豚の肉がこの色なんだ」


 時間が……止まる? 

 

 マジか!凄いな、新鮮なまま腐らないなら、食材のロスがなくなるじゃないか!


「……でも、その魔豚、本当に人間が食べても平気なのか?どう見てもヤバい色だぞ」


 肉の色が元からなら、尚更怖い。


 俺は恐る恐る、腐ってはいないらしい魔豚の燻製に、恐る恐る手を伸ばした。


「肉の色は焼くとなくなるよ。魔豚は人間の家畜の豚と、元は同じなんだ。魔素を吸収して魔豚になっただけだから、人間も食べてるよ」


 人間も食べているなら、大丈夫か?


 腐っていないと言うピコラの言葉を信じて、俺も意を決して、燻製の匂いを確認してみた。


「お?この香り……胡桃のチップか?」


 見た目の色には馴染めないけれど、胡桃のチップで燻された燻製は、力強くて深いスモークの香りがして、食欲をそそる。


 ――これは、芋に合いそうだな。


「状態保存か、そうなって来ると、他の見た事のない食材も気になってくるな」


 さっきからずっと、俺の側ではしゃくしゃくと軽快な音がする。


 ピコラに齧られている草は、ピロピロ揺れながら口元にどんどん吸い込まれていく。


「ピコラ、その草はなんだ?」


 ピコラは、満足そうにモシャモシャと長い草を食べながら、次の草に手を伸ばし、


「これは、ランバグラスだよ?なんか色々使えるみたいだよ」


 口の中の草がなくなると、手にした長い草を俺に一本渡して、追加でもう一本、口に含んで、またしゃくしゃくと音を立て始めた。


「名前を聞いただけじゃよく分からんが……」


 ピコラから一本貰えたので、味の確認をするために、俺も少しだけかじってみた。


「ん? ほうれん草と小松菜を合わせたような感じの味だな?」


 意外と癖もなく食べやすい。味はほうれん草に近いだろうか?食感が小松菜だな。


 ――燻製と一緒に炒めるか?


「どう? 美味しいでしょう?」


 ピコラは、自分の好物だからか、ワクワクしながら俺の反応を見ている。


「ああ、これ、少し貰っていいか?」


 俺がそう言えば、ピコラはパァっと、嬉しそうな明るい笑顔になり、


「いいよ!あ、裏の畑に生えてるから、ボク、今から持ってくる!」


 ピコラはその場で勢いを付けて、ぴょんと飛び跳ね、俺の言葉も聞かず、外に出て行った。


「共感されたのが、そんなに嬉しかったのか」


 ピコラを見送ると、俺はキッチン中央の、作業台の上に置いた自分の荷物を解いた。


「ピコラの感性が無垢すぎて、なんだか気恥ずかしいよな」


 ニヤけながら、鍋の中から、塩、胡椒と、オリーブオイル、ニンニクを取り出した。


「水につけた芋は、そろそろいいかな?」


 水に浸けておいた、石芋を触ってみたら、ガチガチだった表皮はしっかりと水を含み、ふやけて"ぷよぷよ"になっていた。


「うわぁ、なんか、寒天みたいだな」


 グッと両端を掴んでみたら、プチンと皮が弾けて、中からつるんと真っ白な芋が出てきた。


 皮剥きは楽しく、プチンつるんと五個の芋をすべて剥いてしまった。


「これは……癖になるな」


 石芋の皮剥きの、弾けるような質感で楽しい気分になり、ウキウキとしながら、相棒の包丁で、剥いたばかりの芋を切ってみた。


 サクッとした刃あたりはジャガイモに近い。


「色は里芋っぽいよな。どんな味なんだろ?」


 ランバグラスを洗い、ザクザクと食べやすい適当な長さに切る。


 魔豚の燻製の中から現れた、紫と濃いピンクのグラデーションの断面に、思わずギョッとしながら、柵切りにした。


「こんな鮮やかな色、海外の菓子でしか見た事ないぞ?本当に焼いたら普通になるのか?」


 俺は少しだけ、肉の色の変化に対して、懐疑的な気分になった。


 収納棚の下段から、俺はフライパンみたいな鍋を二つ取り出した。


 それぞれの鍋に、オリーブオイルとニンニクチューブを適量入れて火にかけ、オイルに香りが移ってきた時——


「ユージン、大変だ! 人が倒れてるよ!」


 ピコラが、慌てて部屋に駆け込んできた。


 驚いた俺は、一旦コンロの火を止めて、また外に走り出たピコラについて行く。


「なんだか、トラブルが多いな……」


 子供に呼ばれて、即座に様子を見にいくなんて、今までの俺とは違いすぎだ。



 ログハウスの裏の畑に向かうと、


 そこには、かなり大柄で傷だらけの男が、


 草の上で意識を失っていた。

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― 新着の感想 ―
8話まで拝読しました。 映え重視で炎上→「料理は食べてもらってこそ」という反省から始まる導入が、異世界での“食”とちゃんと地続きで気持ちよかったです。 魔族の国に放り込まれて右も左も分からない状況な…
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