異世界のキッチンはハイテクか?
俺の手の上には、ピコラによって積まれた、全部で5個の石ころの山がある。
——見た目より結構重いな。
ピコラは、これを食べられると言う。
手渡された石ころが、落ちそうだし、重たいので、1つづつ作業台の上に置いて行く。
ガゴッ、ゴツッ、ゴン、ガン、
「これ、食べ物の放つ音じゃないだろ」
ひとつだけ手元に残し、握ったり、突いたり、臭ったりして確認して見たけど……
――結果『石ころ』確定。
「いやいやピコラさん、これは……石だよ」
昔付き合っていた、彼女の家で飼われていたウサギは、歯の伸び過ぎ防止に、ミネラルストーンをガリガリ齧っていたよな?
もしかしたら、それの代わりなのかな?
「申し訳ない。俺の歯は伸びないんだよ」
ピコラが食材として、わざわざ鞄を探して、渡してくれた気持ちは、ありがたいけどな?
「違うよ、ユージン。それはヴィアジだよ!えっとね、確か人間の食べ物だと、なんだったっけ?芋?」
これが芋、ねぇ?
どう見ても、どう触っても、やっぱり石ころだけど、ピコラ的にはちゃんと芋らしい。
「ピコラ、でもこれ相当硬いし、このままじゃ食べられないよ。どうするの?」
足の上に落としでもしたら、大怪我するくらいの、しっかりと硬くて重い石だ。
料理して食べたくても、皮すら剥けないぞ?
「んとね?ボクたちはいつもなら、このまま齧るんだけど、他の種族は水につけてるよ?」
やっぱり、うさぎはそのまま齧るのか……
水につけると言う事は、乾物みたいに、ふやかす事ができるのだろうか?
「本当に、それで食べれるようになるのか?」
正直、密度がしっかりしているから、柔らかくなるとは思えないが、ピコラは頷いている。
「水につければ、すぐに柔らかくなるし、人間もだけど、魔族は料理してよく食べてるよ」
人間と魔族、味覚に違いはあるのか?
「分かった。水に浸けて、ちょっと試してみるよ。料理をしたいから、火を使っても大丈夫な安全な場所はあるか?」
外で石を積みあげて、サバイバル的に簡易竈を作るしかないかな?
トビ族達は、どこで炊事をしたんだろう?
「そっか、人間の料理人だから、料理するんだよね?じゃあ、荷物持ってこっち来て!」
荷物をまとめると、走っていったピコラの後ろから、俺はゆっくりと歩いてついて行く。
「人間以外の料理人は、料理しないのか?」
——それ、そもそも料理人なのか?
俺はポツリと呟き、謎かけか?と、少し頭を悩ませたが、不思議な世界だ。
気にしたら負けだと思った。
森の中に入ると、ピコラは、俺がついて来ているか、たびたび振り返りながら、
「ユージン、こっち、こっちだよ!」
草間からぴょこぴょこと飛び跳ねては、俺に居場所を教えるために、手を振っている。
――ウサギはいちいち動きが可愛いよな。
あまりにもその姿が微笑ましくて、俺はつい笑顔で手を振り返した。
「向こうだと、こんな事はあり得ないよな」
俺が子供相手に、穏やかに過ごすなんて、想像すら出来ない。
そう思えて、苦笑いをしてしまった。
俺の探索より、さらに森の奥まで行くと、湖のほとりに、立派なログハウスがあった。
「ピコラ、ここは?」
キャンプ地の赤土の小屋と違い、こちらは、水上にまでせり出した、オシャレなデッキが、とても魅力的だ。
——デッキで、釣りが出来そうだな。
「ユージンここはね?前の前の族長が、人間と仲良しだったから、ここで一緒に釣りをしたんだって聞いたよ?」
——獣人と人間は仲が良かったのか?
詳しく知りたいとは思うけど、部外者の俺は、どの程度なら聞いてもいいのだろうな?
「やっぱり、釣り用のデッキか。ここはトビ族にとって、大切な場所じゃないのか。俺なんかが、使っちゃダメだろ」
さすがに、族長に許可なしで、勝手に使うのは気が引ける。
「え?いいよ。だってここ、ボクのだから」
ピコラは、スタスタとアプローチの階段を登り、鞄から鍵を取り出すと、その扉を開けた。
——ボクの?もしかして、自宅なのか?
「ピコラ、ここはお前の家なのか?」
家族は外出中?いや、違うか。
中に入ったピコラは、慣れた手つきで、次々と窓を開けていく。
「うん、ここは成人の祝いに、父さんから貰ったんだ。他の兄弟達は、別の物を貰ってたよ」
――成人? 貰った?
家族の家じゃなくて、個人の物?
ピコラは成人というが、どう見ても、小さいし、俺には子供にしか見えない。
もしかしてトビ族は、大人になっても小さな種族なのか?
「ピコラ、お前、成人してるって幾つだ?」
どう見ても、十歳前後だろ……違うのか?
「ボクらトビ族は、七歳で成人なんだよ。七歳になる頃には、能力が固定されるんだ。ちなみにボクは、10歳だよ」
ピコラは見たままの年齢だったようだ。
良かった、俺の目に狂いはなかった。
「成人するのが、随分早いな……成人すると、もしかして、すぐに働くのか?」
ピコラは話をしながら、室内を使えるように整えている。
俺は、埃除けのために、家具にかけられている布を、順番に取り払っては畳んでいる。
「ユージンには、さっき秘密を言っちゃったから話すけど、ボク達トビ族の使命は、諜報活動だから……」
それ、本当に俺が聞いて大丈夫?
「成人したらすぐ、指示された場所に、ひとりで派遣されて、潜伏するんだ」
ピコラは話しながら、何か思い出したのか、フッと顔色が陰った。
「……確か逃げて来たんだよな?なら、その時の事は、色々と思い出したくはないだろ?言わなくていいよ」
ピコラは下を見たまま、小さく頷いた。
相手を油断させるために、子供の方が、潜伏しやすいから、成人が早いのかもしれない。
——決まりとはいえ、辛かったよな。
こんなに小さな時から、自力で生きていくなんて、トビ族はかなり厳しいと思う。
「ピコラ、炊事場はあるか?」
俺は、話を切り替えるために、少し強引だけど話題を変えようと、炊事場の場所を聞いた。
ピコラは顔を上げると、俺を指差し、
「炊事場は、ユージンの後ろだよ」
ピコラに言われ後ろを振り返ると、布が掛かっている家具が、まだ残っていた。
すっかり見落としていたな。
「あ、見えてなかったわ」
かけている布を取り払うと、カラフルなモザイクタイルで出来た、可愛らしいシンクだ。
「……なんか、オシャレだな」
シンクの隣には大理石の作業台と、黒い艶のある石板が付いた台が並んでいる。
石板の上には、IHコンロのように、円形の模様が刻印されている。
——これ、コンロだよな?
刻印は文字が連なっている。
円形の模様は、魔法陣かもしれない。
「ピコラ、これはどうやって使うの?」
手前にスライドするスイッチあるし、見たまま使うのだろう。
でも、違ったら困るから聞いてみた。
「それは、スイッチを動かすだけだよ!」
ピコラは部屋を移動して、何か他の作業をしているのか、ガタガタと奥から音がしている。
「やっぱり、見たままか……」
物は試しだと、スライドスイッチをゆっくり横に動かしてみた。
すると、見た目はIHコンロなのに、魔法陣のの中心に、ボワっと炎が立ち上がった。
石板が発熱するのではなくて、直火だ。
「どうやって火がついたんだ?」
ガスや薪などの、燃料もなく燃えている。
火が付く仕組みは、全く分からない。
「魔法というのは、不思議だな?」
スイッチを最大に寄せたら、炎の勢いはぐんと大きくなった。
「おぉ、結構火力が強いな」
五徳が無いから、気をつけなきゃ焦がすな。
シンクには、金属の蛇口がある。でも、水量調整するためのハンドルもレバーもない。
「どうやって使うんだ、これ?」
もしやと思って、蛇口の下に手をかざしたら
ジャージャージャー
ショッピングモールや、サービスエリアの洗面台のように、自動流水だった。
俺は、何度か出したり止めたりしてみた。
——反応がかなり良いな。
自動流水はタイムラグなく、稼働している。
「こっちの世界の方が、発展してるのか?」
凄いなと思いながら、ついでに、シンクの中にあったタライに水を張り、預かった石芋をゴロゴロと水に浸けた。
「ユージン!ちょっと来て!」
ピコラが、焦ったように俺を呼んだので、急いで奥の部屋に向かうと、
「ちょっと、これ、とって!」
ピコラは、2段ベッドの中段で、なぜか布に巻き取られている。
「何だ?何がしたいんだよ」
もごもごと動いているピコラに近づき、被った布を外してやると、
「ぷぁ!助かった!ベッドに布団を運ぼうとしたら巻きついちゃった」
言われてみれば、俺の手にしているのは、布ではなくて薄い上掛けのような物だ。
「二段ベッドだから、階段登る時にバランス崩して頭から被ったのか……」
でも、普通は巻き付かんだろ。
「ピコラ、お前鈍臭いな。貸して。上段は俺がやるよ」
俺からしたら、上段は胸の辺りの高さだ。そう高くも無い。
「むーっ、ユージンは背が高くていいなぁ」
ピコラは、不満に口を尖らせながら、俺の身長が羨ましいのか、作業する姿を、下から見上げている。
「ピコラも、そのうち大きくなるさ」
作業を終わらせた俺は、見上げているピコラの頭を気休めに撫でた。
「なれるかな?」
ピコラは、大きくなった自身を想像したのか耳をぴこぴこさせながら尋ねてきた。
「どうかな?」
トビ族の成長など分からないから、俺はとりあえず首を傾げておいた。
「そこは、大人なら『大丈夫だよ』とか言ってくれるものじゃないの?!」
ピコラは、ぷーっと頬を膨らませて、むくれている。
その姿は、どっから見てもちびっ子だ。
「ハハッ、ピコラが、ここに滞在する事を許してくれたおかげで、しばらくは人間らしい生活ができそうだよ。ありがとう」
俺は正直、ちょっとホッとしていた。




