食べるのか?石だぞ?
しかし、魔族の国か、考えたくないな……
なんでまた、人間と魔族との争いの真っ只中の、よりによって、魔族の国に転移なんかして来たんだよ。
この際、100歩譲って転移はいいよ。
でも、せめて飛ばすなら人間の国だろ?
「チェンジで!!」
俺は考えがぐるぐるした後、投げやりな気持ちになって、心の底から、転移先の変更を望んで叫んでしまった。
隣でニコニコと話をしていたピコラは、ビクッとして、その場でぴょこんと飛び跳ねた。
「ああ、驚かせたか?すまんな」
とりあえず、ピコラの頭を、ポンと撫でた。
——せめて、人間の国が良かったんだ。
人生、踏んだり蹴ったりとは、正にこの事じゃないだろうか?
「おじさん、チェンジって、何を替えるつもりなの?とりあえず。この国の話だけど聞く?」
ピコラは、自分の頭の上の俺の手を掴んで固定したまま、こちらをチラッと見た。
——まだ撫でて欲しいのか?
「ああ、教えてくれるか?」
ピコラの要望に応えて、引き続き話をする間、頭を撫でてやった。
「ここは、魔王の統治する魔族の国 『ドゥンクラー』だよ」
当然、聞いた事すらない国だ。
「侵略中って言ったけど、侵略したいのは魔王だけだ。皆、本当は戦いを望んでないんだよ」
ピコラは、ただでさえ垂れた耳を、ペタンと伏せて、辛く悲しそうな顔をしている。
「当然だよな、争いなんか望まないよな」
もしかしたら、ピコラは争いで、大切な人が傷付いたのかもしれない。
知り合ったばかりの子供だし、これ以上争いの事は、掘り下げて聞がない方がいいな。
俺は、ピコラの頭をポンポンと弾ませて、
「……ピコラは、ウサギの獣人なのか?」
俺は話を変えるために、見たままわかる事だけど、敢えてピコラの種族を尋ねてみた。
「そうだよ!ボクは、トビ族の諜報役なんだ。なんたって耳がいい。しかも、賢いって言われてるんだよ!」
ピコラは話が変わると、元気よく、そして、勢いよく自分の種族と立場を教えてくれた。
ピコラ……おバカさんかな?
「諜報役って、それ、言っていいのか?」
マジか、普通、秘密だよな?
あっさり喋っているけど、コイツ俺が敵だったら、どうするつもりなんだ。
「あ……しまった。今のナシ」
だよな?やっぱりダメだよな。
全く、危なっかしいな……
「これからは気をつけるんだぞ?」
うっかり自分で秘密を話してしまい、ピコラは失敗に凹み落ち込んだ。
仕方なく、ふわふわな頭を撫でてやった。
「そう言えばおじさん、なんでここに来たの?ここは僕たち、トビ族のキャンプ地だよ?」
ピコラの素朴な質問に、俺はどう答えれば良いのか分からなくて、思わず天を仰いだ。
——むしろ、俺が知りたいよ
「何でだろうな?俺にも分からないんだ。気がついたらこっちにいて、とりあえず、ひたすら歩いていたら、ここを見つけたんだよ」
よくわからないまま『日が上る東が良い』となんとなく歩いたまでだ。
「俺はここで、ピコラに会えて助かったよ」
ここは、綺麗な水源の水辺も近い、少しの間なら、なんとか凌げる。
「俺がここにたどり着けたのは、かなり運が良かったかもしれない」
水があるからトビ族は、この場所をキャンプ地に選んだのだろうな。
「そっか、いきなり知らないところに来たなら、おじさんも大変なんだね?」
ピコラから同情されているようだ。
ピコラは耳をハタハタしながら、うんうんと、首を縦に振っている。
「ピコラも大変そうだったけど、ここには、何しにきたんだ?」
飲まず食わずで走って、行倒れになるなんて、余程の事情があったのだろう。
大切な用事があったのではないのか?
「ボク?ボクは……逃げて来たんだ……」
ピコラは、何かを思い出したのか、両耳を押さえてプルプル震え出した。
しまった、厄介ごとだったか?!
「そ、そうか、ここにいて大丈夫なのか?」
まさか……ヤバい追っ手でも来るのか?
残念ながら、俺は戦えないぞ?
「ここまで来れば大丈夫だよ。このキャンプ地は人間の国に近いから『魔王の支配』は届きにくいんだ」
——魔王の支配?
俺の頭の中で「フハハハハ」と笑いながら、大きな魔王がうさぎ達を虐げる姿を想像した。
——違う、そうじゃない。
正直、怖い。だからといって、根掘り葉掘り聞くのは、残酷だし、逃げて来た子供に無理をさせるのは違うよな。
「ここが、お前達のキャンプ地なら、少しの間ここを借りてもいいか?俺には目的も、行くあてもないんだ」
俺の言葉に、ピコラの耳が反応して、きゅっと持ち上がり、目を大きく見開くと
「ここにいていいよ!それと、ボクもおじさんと一緒にいていい?」
ピコラは全身から期待と喜びを溢れ出し、キラキラした眼差しで、見つめられてしまった。
——不安だったんだな。
俺は大人だし、子供は縋りたくもなるよな
「もちろん構わないよ。俺はこの世界を知らないし、ピコラがいてくれるなら助かるよ」
どうせ俺はひとりじゃ何もわからない。丁度良いから、この世界の事を、ピコラにいろいろ教えて貰わなきゃな。
「本当?いやったぁ!!」
ピコラは、一緒にいられる事が嬉しいのか、ぴょんぴょんと俺の周りを飛び跳ねている。
跳ね方が……ご機嫌なウサギだ。
共にいるだけで喜ばれるなんて、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「そうだ、ピコラ、お腹空かないか?食材があれば、何かメシ作るぞ?」
俺は、ご機嫌なピコラを、もっと喜ばせてやりたくなったから、料理を作ってやりたい。
「いいの?おじさん料理人なんだよね?うわぁ鞄に何かあるかな……」
ピコラは嬉しくて興奮しているのか、鼻をヒクヒクさせて鞄を漁っている。
まだ空は明るいけど、今は何時なんだろう?もうそろそろ、陽が暮れるのだろうか?
こちらは陽が長いのか、それとも転移時に、時間がズレたのか分からないな。
俺が転移してから、かなり時間が過ぎたはずなのに、外はまだ明るい。
「ピコラ、まだ、陽が暮れないなら、森の中の湖で水を汲みたいんだ。今から行けるかな?」
料理をするには、水が必要だ。ピコラに森の中に、水汲みに行きたい事を相談したら
「ん?おじさん、中央の小屋に、水瓶があったのは見なかったの?こっちだよ」
俺はピコラに連れられ、先程一度覗いた、空の水瓶のある小屋までついて行った。
「ピコラ、水、入ってないよ?」
水がない事はしっていたけど、念のため、再び水瓶の中を覗き込んで見ても、中はやっぱり空っぽだ。
「え?ああ、抜いてあったのか」
ピコラは、棚板に置いてあった、柄杓を手にして水瓶に近付くと、柄杓の底で——
コンコンコン
三度、水瓶の淵を叩くと、水瓶の中はキラッと光り、瞬きをする間に、水瓶の中は綺麗な水で一杯になった。
「……凄いな」
魔法、だよな?初めて見た。
俺は、こちらに来てから初めて見た不思議体験に感動していた。
——ウサ耳?それは可愛いから気にしない。
ある意味、不思議ではあるけれど。
「そう言えば、おじさんの名前って何?ボク、聞いてなかったよね?」
俺はピコラに名前を聞かれて、自分の名を言ってなかったことに、今更気付いた
「俺は、倉持遊人だよ。よろしくなピコラ」
握手をするために、俺は右手を差し出した。
その時ふと、俺は店の開店日を思い出した。
『俺は、倉持遊人だ、
——これからよろしくな「ピッコラ」』
と、自分の店に挨拶をしたんだよな。
かつての光景を思い出していたら、不意に手をきゅっと握られ、ピコラと挨拶の途中だったので、小さなその手を握り返した。
「よろしくな!ユージン!」
ピコラを見ると、左手に、いつのまにか小さな鍋が握られている。
——どこかに、置いてあったのか?
「ああ、よろしく。ところでピコラ、手に持っている鍋は、何処にしまってあったんだ?」
小屋の中をくるりと見渡すけど、棚は勿論、物を収納してある場所はないはずだ。
「これ?空間魔法の鞄だよ。そっか、ユージンは知らないんだね」
どうやら俺は、おじさん呼びから、ユージンに昇格したらしい
ピコラは、肩から斜めにかけている鞄を、ポンポンと叩いてみせた。
「特別なつくり方の、魔法の鞄なのか?だとしたら値段はすごく高そうだな」
空間魔法の鞄。ゲームのインベントリみたいな物だろうか?
——面白そうだな。
「どうかな?、作り方は知らないし、安くはないけど、外に出る時は、中の大きさは違うけど、大人はみんな持ってるよ」
ピコラは得意げに、大人だと言っているが、大人はわざわざ、自分が大人だとは言わないぞ。
魔法世界は、知らない物が沢山ありそうだ。
「日用品なのか?なら。俺もいつか使えるのかな?だとしたら、楽しみが増えるな」
いつか、魔法も使えるのだろうか?
でも、俺の能力は『準備中』だしな
魔法——俺も、いつか使ってみたいな
「余分な鞄があれば良かったけど、ボクも今は一個しかないから、また今度貸してあげるね」
ピコラは、俺と話をしながら、さっきからずっと、鞄の中をゴソゴソと何かを探している。
——あの鞄、中はどうなってるんだ?
考えても想像しかできないな。
鞄の中がめちゃくちゃ気になるけど、大人だから今は我慢するか。
「空間魔法なんて、本当にあるんだな。俺は、魔法関係は、一切何もしらないぞ?」
この世界の魔法は、どんな感じなんだ?
「そなの?また今度、色々教えてあげる!」
ピコラは下を向いて、得意げに返事をしながら、複数の鞄のポケットを、ひとつずつ順番に漁っている。
次のポケットに手を入れると、ピコラの耳の根本が、ぴょこんと立ち上がった。
「あった!ヴィアジみっけ!あー、カロティは無いや。残念」
ピコラはいそいそと、鞄から取り出した物を、ひとつひとつ俺の手に渡してきた。
渡された物は、ずしっと、中々の重量感だ。
「ユージン、はい、コレで何か作って!!」
俺の手に、重なって積まれた物を見る。
「ピコラ、石は——俺は食った事ないぞ」
それは、俺の拳より一回りほど大きい
——石ころだった




