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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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5/5

『ピコラ』と『ピッコラ』


「ぷひーっ」


 ファンドリーは、経口補水液を追加でレードル2杯分飲み干し、満足そうに息を吐いた後、口元をペロリと舐めた。


 ——美味かったんだな。


 元気になった途端にワクワクしながら、レードルを色々な角度から、観察している。


「ねぇ、この器すごいね!キラキラしてるし、ほら、見て!」


「見て!見て!」と、手招きされて、俺は、なんだろう?とベンチに近寄る


「なんだ?何があったか?」


 しゃがむんで、子供に視線を合わせると


「ココ見てて!」


 顔を紅潮させたファンドリーは、レードルの球体部分を指差している。


 その、指先の示した場所を覗き込むと、銀色に輝く球体に、耳長でむにゅんと間延びした、情け無くて、不細工な顔が映り込んだ。


「っプッ」


 あまりに滑稽な不細工具合に、俺は思わず目を逸らして、吹き出していた。


「ね!ね!面白いよね?!」


 興奮したのか、足をパタパタ、耳をピルピルさせながら、楽しそうにしている。


「ははっ、確かに昔はよく遊んだな」


 俺も、幼少期に同じ事をした記憶がある。


 レードルだけでなく、スプーンや水道。ピカピカしたステンレス製品に、ひたすら映り込んでは変顔をして、友達と笑っていたっけ。



「懐かしいな。ちょっと貸してごらん」



 俺はファンドリーからレードルを借りて、自分の顎の下に添えるた。


 記憶にある"丁度いい角度"に調整する。


「コレ。この角度が、かなりやばいんだ。こうすると、鼻がクローズアップされて、頭が小さくなりるんだ」


 俺は、角度を維持したまま。手招きをして、覗くように促した。


 すると、素直に近寄りレードルに顔を寄せ



「きゃー!!っハハ、ハヒッ!ケホケホ」



 レードルに映った、俺の渾身の変顔に、笑いすぎたのか咽せてしまった。


「おい、大丈夫か?」


 体調が良くなったばかりの子供相手に……


 俺は何をやっているんだ。


 なんだか酷く申し訳なくなって、慌てて咽せている小さな子供の背中を、撫でてやった。



「ふーっ、あーおかしかった。おじさん面白いねぇ!人間だから?」



 ファンドリーは、涙目になり、ヒーヒー笑いながら、首をピコッと傾げた。


「なあ、さっきから気になっているんだが、ここには、人間以外もいるのか?」


 水分補給ができて元気になったのなら、色々と、話を聞いても良いだろうか?


「ん?人間以外もいるよ。おじさん、そんな事も知らないの?お勉強しなかったの?」



 う……無垢な瞳で抉るような事を……


 ファンドリーは首を傾げ、くりっとした目を細め、残念な物を見るような目を向けてきた。



「俺は、別の世界から来たみたいなんだ。だから、ここがどこか知らない。なんて国か教えてくれないか?」


 自分の居場所くらい、知りたいんだが……


 ファンドリーは話を聞きながら、時折、耳をピルピル揺らし、目をキョロキョロと動かし、難しい顔になり懸命に考えている。



「俺の状況に、思い当たる事でもあるのか?」



 気になったので俺が尋ねると、発言に嘘がないか、目をしっかり見て観察しながら、



「うーんと、じゃあおじさんは『転移者』なのかな?『勇者』なの?能力は?」


 そう尋ねたファンドリーは、なぜか警戒心をあらわにしていた。



「勇者?それはないだろうな。能力も何もないよ。俺はただの……おじさんだよ」



 そう伝えたら、ホッとしたのか、緊張感は一気に解かれた。




「おじさん、ここは……魔族の国だよ」


 ファンドリーは、ピッっと指を立てて、教えてくれたけれど



 ——魔族の国?



 魔族……だと?なんで、俺が?



「あーっと、魔族の国って」


 この国を収めているのは、もしかして……


「ん?魔王が、魔族、魔物、獣人を率いている国だよ。あっちに人間の国と、こっちにエルフの国と、ドワーフの国もあるよ」


 腕を伸ばして、あちこちを指差しながら、それぞれの国の位置を教えてくれた。




 待て待て待て、なんで魔族の国なんだ?


 普通、転移するなら、人間の国だろう?!




 全く持って、魔族に縁などはない。


 なのに、なぜそんなところに転移したのか?



「因みに人間と魔族は……仲良しなのかな?」


 仲良しなら、とりあえずは問題無し!



 ——どうだ?!



「えっと……今、魔族が侵略中かな?」


 うん、もう、マジで意味わからん!


 誰だよ飛ばした奴、どうするんだよコレ!!



 でも、来ちゃったもんは仕方がないよな……



「そもそも、勇者って本当にいるのか?」


 残念ながら俺は、ただの料理人崩れだ。全く争いとは無関係だろう。


「何度もいたらしいよ。転移して来た勇者もいたみたい。今は知らないけど」


 ファンドリーは、首を振り、耳をパタパタさせながら知らないと言った。


 「何度もいたのか?もしかして勇者の事、何か知ってるのか」


 もしわかるなら、俺の今の状況が、少しはわかるんじゃないか?


「……勇者がいる時は、人間は、いつも魔族の敵になるから、詳しくは分かんない」


 質問が気に入らなかったのか、鼻先に皺が出来るほど、明らかに嫌そうな顔をした。


 ——しまった。ここは魔族の国だった。


 魔族と人間が、争っている真っ只中だと、今聞いたばかりだったのに……


「そうだよな。ごめんな? そうだ、魔法はどんな魔法があるんだ?」


 俺は気まずくて、やっぱり話をすり替えた。



「能力調べればわかるよ。調べて見る?」


 ファンドリーは話が変わる事で、普通の顔に戻っていた。



 ——元に戻って良かった。



「俺にも、何か能力があるんだろうか?」


 能力の確認方法があるなら、自分で把握くらいはしたい。



 もしあるなら……教えて欲しいよ……


 俺の店はまだ、始まったばかりだったんだ。


 開店2年で、閑古鳥が鳴いていては、胸を張って、料理人と言う事すらできない。



 何となく胸の中が、ピリピリした。



「人間は、あんまり自分で能力を見ないらしいけど、他の種族はみんな自分でやるんだよ」


 人間は、なぜ自分で見ないのだろう?


「あんまりって事は、自分で見る事自体はできるんだよな、やり方が難しいのか?」


 やり方を聞いたら、ファンドリーはブンブンと首振ったが、毎度、耳が邪魔そうだ。


 「んとね、慣れない間は、ここに指置いてね、目を閉じて、頭の中を探すの」


 眉間に指を置いて……探す?頭の中を?


 俺は言われるままやってみたが、当然目を閉じているので、視界が暗いだけだ。


「コレで、何を、どうやって、探すんだ?」


 やっぱり人間は、自分で能力を見るのは難しいのかと思い、やり方をたずねたら、


「おじさんバカなの?能力を見るんでしょ?能力を探すに決まってるじゃないか」


 目を閉じているから様子は見えないが、明らかに、見下した目を向けられた気がした。



「お、おぅ。そうだよな」


 大人として、これ以上は聞けない。


 仕方なくもう一度、閉じている目玉を、上下左右に動かして、頭の中を観察した。



「……あ、これか?」


 グリグリと目玉を動かし、頭の奥の方を見ようと頑張っていたら、



 ——何だこれ"空間"がある?



 その中を見ようとしたら、


 急に、グンっと空間が広がった。



 「あっ!!」


 慣れない感覚に、思わず声が出てしまった。



 空間の奥の壁には、いつの間にか設置されている黒板があった。



 ——なんで、頭の中に黒板?



 しかも、そこには……




『準備中』




 と、ど真ん中に書いてあった。



 ——おい!なんだよ?準備中って!?



 これ、俺の能力が『準備中』って事だよな?



 俺は目を開けると、ふぅっと、いつの間にか止めていた息を吐く。



 こちらを、じっと見ていたファンドリーに



「俺の能力……『準備中』らしいわ」


 と、苦笑いしながら伝えた。



「ふぇ?そ、そんな能力があるの?ボク、そんなの聞いた事ないよ?!」


 ファンドリーは困惑したからか、垂れた耳がさらにヘタっと頭に張り付いた。


「で、でも『準備中』なら、多分、そのうち、いつの間にか、新しい能力が増えてくるんだよ!……絶対に、きっと!」


 気まずかったのだろう。子供の癖に、なんとかフォローをしようと健闘中だった。


「多分、そのうち、絶対、きっとって……」


 重なりすぎて、意味不明だろ。


 俺が思わず口にしたら、さらに慌てて、手を上下にパタパタ、瞳はキョロキョロしている。


 必死に、慰めてくれていたつもりらしい。


「そうだよな、きっと、いつかあの黒板に、俺の能力は、書き足されるんだろうな」


 慌てるファンドリーを見ていたら、なんとなく、きっとそうなんだと思えてきた。


「ファンドリー、気にするな。俺は平気だ」


 しかし、なんで頭の中に黒板があったのだろう?なんて考えなが声を掛けたら、


「ちょっと!ファンドリーって誰?!勝手に付けないでよ!ボクの名前は『ピコラ』だよ!」


 ピコラは、足を"タンタン"と踏み鳴らしながらぷりぷりと怒っている。



 ——まんま、怒り方がうさぎと同じだ。



「すまんすまん、そう怒るなって、俺の中で、お前のことがファンドリーで定着しちゃったんだ。名前は『ピコラ』だな?」



 ファンドリー、気に入ってたんだがな……



「もう、なんだよファンドリーって……絶対なんか変な感じだよね?」


 ピコラは眉間に皺を寄せて、フンと鼻を鳴らし、その後、ぶつぶつと文句を言っていた。



「『ピコラ』か……俺の店は『ピッコラ』って店名だったんだ」



 ——これも何かの縁かな?



「まさか、第一村人の名前が、店名と同じ意味で、響きも似てるなんて、不思議なご縁もあるんだな」



 俺が、名を傷つけてしまったんだけど……



 ピコラも、ピッコラも、『小さい・ちっちゃくて可愛い』と言う意味だ。



 店名は、かなり気に入っていたんだ。



「そうなの?おじさんは、何のお店やっていたの?」


 ピコラは、キラキラした目を向けながら、興味深そうにじっと俺を見ている


「あー、なんて言うか、ご飯屋さんかな?」


 創作料理も、イタリアンも、きっとこちらではわからないだろうな。


「すごい!料理人なんだね?うわぁ、いいなぁすごいなぁ。だからボクがさっき飲んだのは『魔法のお水』だったんだね!」



 ピコラはすごいと言い、ハイテンションに手を叩きながら、えらい勢いで褒めてくる。



 ——料理人か……ま、いいか



 『魔法のお水』は経口補水液の事だよな。



 ピコラは脱水症状だったから、効果的面だったんだろう。



 『魔法のお水』素敵な響きだな。


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