この国、ヤバくないか?
第二部完
「ユージン!!出てきていいよー!」
ピコラから呼ばれたので、俺はやっと終わったかと、玄関から外に顔を出した。
あれから2日ほどで、ログハウスの内外装の増築作業は終わった。
「おー、凄いじゃないか」
外に出ると、ログハウスのウッドデッキは延長されて、アウトドアキッチンをぐるりと囲い全てが一体化していた。
「あっという間に出来たな」
ウッドデッキにはテーブルが配置され、屋根も付いて、テラス席になっていた。
「これ、雨の日対策はしたのか?」
屋根はあるけど、風があると、砂や雨が吹き込むよな?
「ユージン、それは大丈夫よ。ほら、見て」
ソワに促され屋根の縁に近寄ると、キラキラした絹糸のタッセルが、屋根の縁に等間隔についている。
「風雨を弾く結界を張っておいたわ。だから、人が、直接持ち込む物以外は弾くわよ」
そう言って、ソワはテーブルに向かって石ころを投げた。
トン、コロコロコロ……
「本当だ、弾いてる。凄いな?」
言われなければ気づかない。
「うふふ、フィアールと協力したから、強度はバッチリよ。魔法攻撃も弾けるわ」
ソワの発言を聞いて、コルージャが火球を投げつけた。
ボシュン!
火球は、結界に当たると瞬間的に消滅した。
「……安全地帯?」
もしかして、結界なのかな?
「これは、魔法と物理攻撃だけだから、人は弾けないの。エリソン、あなたなら人を選んで弾く結界も出来るわよね?」
急に話を振られたエリソンは、ビクッとした後、そっと近寄ってきた。
「ソワ様、出来なくはないけど、僕は隠蔽の方が得意なんです。念の為、この辺一帯に結界を張る予定ですが、後日でもいいですか?」
エリソンは、困ったような顔で俺に確認してきた。
「エリソンのやりたい時でいいよ。たまご屋さんの準備が先だろ?」
俺は、不安そうに見上げているエリソンの頭を撫でてやると、安心したのか、口元に手を当ててクフクフと笑った。
「おー、そろそろわしの荷物が届くわ」
フィアールが空を見上げると、不意に話し始めた。
「荷物?取りに行かないのか?」
紡糸スパイダーは職人集団みたいだし、族長の世話は部下が担うのか?
「私も、丁度今、若い衆から連絡が来たわ」
若い衆……ソワも、族長だったよな。
どこの世界でも、雑用を任されるのは、やっぱり若者の仕事なんだな。
——職人の世界は厳しそうだ
「フィアール様。お荷物をお持ち致しました」
声がしたので目を向けると、フィアールより、2回りほど小さな蜘蛛が、3匹連なって現れた。
「おお、よく来てくれたな。では、中に入ろうかな。ユージン、よいかな?」
フィアールは、なぜか俺に確認をしてきた。
——ピコラが近くにいないからか?
「ああ、それぞれで大丈夫だ。あ、ソワ、仲間が来たぞ?」
空から、ソワよりも若く小さなシルク蝶が、2匹舞い降りてきた。
「あら、本当。ご苦労様。では、ユージン。私も部屋に参りますわ」
フィアールとソワは、それぞれ部下を連れて部屋に戻って行った。
それぞれの部下達は、俺にペコリと頭を下げて、族長の後に続いた。
「ほっほっほっ、わしもそろそろ……夜には戻りますぞ」
族長達を見送ったコルージャは、バサリと羽を広げ空高く舞い上がった。
「行ってらっしゃい。気をつけろよ」
エリソンと見送っていたら、アルプとフリーゲンが、ガバルと共に現れた。
「エリソン!根っこも掘ったし、アルプが鶏舎作ってくれたから養鶏場できたぞ!今から鶏、探しに行こう!」
ガバルは、エリソンを抱き抱えると、その場で穴を掘り始めた。
「ガバル、待て!掘るなら裏の畑の奥にしろ!あと、弁当持っていけ!」
俺はサンドイッチを2人分、袋に入れてガバルに渡した。
「はーい!ユージン。これ、ありがとう。じゃ、行ってきます!」
ガバルは、受け取るとダッシュで畑の裏まで走って行った。
「なんだか慌ただしいですね。私とフリーゲンも、マハト様からお許しが出ましたので、荷物を取りに行って参ります」
アルプもフリーゲンによじ登りながら、俺に報告をした。
「そうか、良かったな。休暇はマハトもこっちに来るんだよな?」
久しぶりに、マハトの顔も見たいな。
「はい、そのようにお伝えしてあります。先程頂いたマハト様のお食事は、早急に転送陣で送りますね。では、行ってきます」
フワリと音もなく浮き上がると、
「ユージン、マタネ」
フリーゲンは、一気に山の向こうまで飛んでいった。
それをぼーっと見ていたら——
「ユージン!!お願い!リコラにもここに住むように言ってよ!」
ピコラが怒鳴っている。
なんだ?と、振り返ると
「せっかくリコラの部屋も作ったのに、帰るって言うんだ!!」
ピコラは、顔を赤くしながら怒っている。
——喧嘩でもしたのか?
「リコラにも帰る理由があるんだろ?ピコラ、わがままは良くないぞ」
許可無く家を出て行くのは、ダメだろう。
「違う!そうじゃないんだ。リコラは自分を犠牲にするつもりなんだ!」
ん?どういうことだ?
「犠牲?そういえば、さっき、リコラがピコラの事を羨ましがっていたよな?」
俺は、しゅんとしているリコラを見た。
「リコラは、見た目がいいから、族長から魔王城で働くように言われたんだ!」
リコラは、手をギュッときつく握ったまま下を向いている。
「従姉妹のお姉ちゃんから、今の魔王は、色狂いだからリコラを行かせたらダメだって、前に手紙をもらっていたんだ」
色狂いの魔王か、嫌な話だな。
ピコラは、涙目になりながら、必死に俺に訴えてくる。
「リコラは体が弱いから、ボクよりも成人を遅らせていたんだ。元気になったから、族長がそろそろ連絡をするって……」
ピコラはリコラの両手をギュッと握った。
「断れないのか?」
既に抗えない契約でもしてるのだろうか?
「族長は、魔王に弱みを握られているから断れないの。能力の低い見目の良い娘がいたら、城に寄越す約束だって……」
リコラが震えながら答えてくれた。
「……今の魔王は嫌いだから、本当は行きたくないの」
そりゃ、誰だって色狂いの魔王の元へ行きたくないよな。
「もしかして魔王は、かなり評判悪いのか?」
今のところ、魔王に好意的な魔族を1人も見ていない。
「悪いなんてもんじゃないわよぉ。魔王リューグナー、王になる前は優秀な魔族のふりをしていたわ。就任した途端に豹変したわぁ」
いつのまにか、ジェリコが話に入ってきた。
「ジェリコ……来ていたのか?」
ジェリコに聞かれても大丈夫だろうか?
俺の表情に警戒を見たジェリコは、バチン♡とウインクをして見せた。
「あのクズ、人材を見抜く力と、上手く立ち回る能力だけは優秀だったわ。実力も、執務能力もまるでなかった。前王は騙されたのよ」
ジェリコは、チッと舌打ちした。
今の魔王の存在は、認めていないようだ。
「大人しくて、断る事が苦手なお人よしばかり狙って、自分の仕事を全て押し付けるのよ?最・低よねぇ?」
それは、最低だな……
「手柄は独り占めなのよぉ?もし失敗したら、ぜーんぶ任せた子に責任なすりつけるのよぉ。もう、引っこ抜いてやりたいわ」
ジェリコはギリギリと奥歯を鳴らしている。
「族長は、いい人だったから……弱みを握られちゃったんだ」
ピコラもリコラも、手を握ったまま首を項垂れている。
——弱み、ねぇ?
「族長の立場が弱いのはわかった。でも、子供のお前達がなんで『大人の尻拭い』をしなきゃならないんだ?」
——俺には全く理解できんな。
2人は、俺の言っている意味がよく分かってないのか、首を傾げている。
「まだ、城に連絡してないんだよな?」
なら、無視で良くないか?
大人なら、自分の事くらいどうにかしろよ。
「まだよ……今度手紙を出すって。その前に族長から言われたの」
リコラは泣き出したピコラを撫でながら、縋るように俺を見た。
「それ、本当に行かなきゃダメなのか?」
俺なら絶対行かないぞ?
村長が、人生の全てを決めるのか?
「だって……村に迷惑をかけてしまうわ」
迷惑ね、そもそも1番迷惑なのは魔王だろう?
リコラは身体が弱かった分、きっと村では、良い子で過ごしてきたんだろうな。
「ボクとエリソンだって、前線から逃げてきたんだ!だからリコラも逃げようよ!!」
ピコラは、必死にリコラを止めている。
ジェリコはさっきから様子を見ている。
「でも、私が行かなきゃ家族が……」
リコラはそれでも家族のために、自らを犠牲にするつもりのようだ。
——いい子過ぎる。
このままでは、リコラは大人に全てを搾取されてしまう。
——まだ子供だ。守ろう。
「リコラ、魔王はきっと人の把握はしてないぞ。顔を合わせた事はある?」
偉ぶりたいだけの無責任な輩だ、自分で言ったことすら忘れてるだろう。
「……ないわ」
リコラは耳を下げたまま、小さくフルフルと首を振る。
なら、まず大丈夫だな。
どうせ、人事も理解してないだろう。
「リコラがここに来ることを、誰かに話してきたか?」
律儀に話していたら、少し厄介か?
「誰にも話してないわ。ピコラからの手紙を見て、すぐに走ってきたんだもの」
リコラはフルフルと首を振った。
——なら、好都合だな。
「ユーちゃん、ここはもう避難所みたいなものよねぇ? リコラ、あなたこのまま逃げちゃいなさいよぉ」
ジェリコはリコラの状況を把握したのか、逃げる事に賛成のようだ。
「でも、もし、バレたら……みんなが……」
リコラの目から、ポロポロ涙が溢れてきた。
ピコラと2人して涙を流す姿に胸が痛い。
「ジェリコ、マハトは魔王の第一補佐官なんだろ?……大丈夫だよな?」
マハトなら味方してくれるはずだ。そしてジェリコ、お前も協力してくれ。
「ユーちゃん!もぉ当たり前よぉ♡ ——マハトもだが、俺が命に変えても、この子達を守る!あのクソ野郎には、指一本触れさせねぇ!」
ジェリコは話の途中で急に『彼女から彼』に変化した。
「やばそうなら、すぐ俺の拠点に逃げろ。クソ野郎は、俺達ラマンテイーヌ族が苦手だ」
子供の涙を見て、ジェリコは怒りが抑えられないのか、全身から湯気が出ている。
——これは……ヤバい
ジェリコの周りが熱で歪んで見えた。
「ジェリコ、お前の拠点までガバルに地下を繋いで貰ってもいいか?ジェリコが協力してくれるなら、安心なんだが」
俺も怖いから落ち着けと、ジェリコの背中をポンポンと叩いた。
めっちゃ熱くて、なんか……硬かった。
「いやあん、やだぁ〜♡ユーちゃんに雄化を見られちゃったわ。アタシ、恥ずかし〜い」
ジェリコがクネクネしてふざけたことで、ピコラとリコラの緊張感が抜けた。
「リコラ大丈夫だから逃げて来い。村にはもう、帰らなくていい。あとは大人の仕事だ。だから2人とも、もう泣くな」
2人の頭を撫でたら、2人揃ってガッチリと俺に抱きついてきた。
「とりあえず、怪しい奴が来たら、ガバルとエリソンと一緒に地下に逃げろ」
2人とも無言だけど、小さく頷いた。
「地上は俺がなんとかする。ジェリコは地下を頼むよ。みんなで作った『ピッコラ』を守らなきゃな」
小さな2人が、抱きつく腕にギュッと力を入れた。
「ユーちゃんにもアタシが指一本触れさせないわよぉ!だ・か・ら、安心してねん♡」
ジェリコはいつもながらに、チュバッと投げキッスを送ってきた。
ただ、目の奥に怒りの炎が見えた。
しかし、クソな魔王が支配するこの国……
マジでやばいよな。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
40話にて、第二部は終了となります。
第三部からは、魔族の国はちょっと不穏に……
全四部構成になります。
これからもよろしくお願いします。
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