ピコラとリコラ
俺に、フィアールとソワからの食材を渡すと、ピコラは再び走って室内に戻って行った。
きっと、畑のことしか考えていないだろう。
「これ、使わなきゃダメだよな……」
わざわざ俺に渡したくらいだから、きっと好物なんだろう。
「……鑑定するか」
渋々だが、フィアールから貰った『丸い虫』を鑑定する。
▪️リッチビートル (ライチに類似)
硬い外骨格に覆われている。
通常は樹液や果実を食べ、白くてぷりぷりとした蜜肉を腹に溜め込んでいる。
◻︎使い方
腹部を外して果肉だけ利用する。
人間が食す場合、浄化すれば生食可能。
調理法は基本的に果物と同様の扱い。
*備考
雷魔法を流せば、気絶して外骨格が開く。
噛みつかれると、外れなくなるので注意。
腹部を外した後、放置すれば目覚め次第、勝手に飛んでいく。
「……ライチ?これ、虫じゃないのか?」
体の割に小さいけど、触覚も足もあるぞ?
頭を触らないように注意しながら、袋から一匹取り出し、雷魔法を発動した。
ビビッ、バリッ!
感電したのか、バッと羽が開くと、辺り一面にライチの甘く上品な香りが広がった。
「うわ、本当にライチだ。おっと、簡単に取れたな」
丸い腹部は触ると、ポロンと簡単に外れた。
蜜肉を外した体は、一旦作業台の上にそっと置いておく。
「……浄化」
種のない果肉にしか見えない……
「これなら、食べられそうだな」
俺はナイフで薄く削り、口に含んでみた。
「マジか……本当にライチを濃縮したみたいな味と香りだな?」
とても虫だと思えないぞ?
「これならデザートに使っても良さそうだ」
……もしかして、他の虫も美味いのか?
ちょっと巨大ミミズとユムシに好奇心が湧いたが、アレは見た目的にまだちょっと抵抗感があるので、自分の中で却下した。
「比べてソワの花蜜は、抵抗感はないな」
どんな味がするんだろう?
▪️花蜜 (ローズシロップ)
芳醇な薔薇の花から集められた蜜。
甘くて濃厚な香り。
香りは強いが、控えめな優しい甘さで後味はスッキリしている。
◻︎使い方
飲料に混ぜたり、ソースの香り付けに使う。
そのままだと、香りがかなり強いので人によっては気分を悪くする。
*備考
花蜜はそのままだと揮発性があるので、水分のある物で希釈するか、しっかり蓋をしないと、あっという間になくなって消えてしまう。
「バニラエッセンスみたいな扱いだな」
そっと花蜜の瓶の蓋をずらしてみると、ふわりと辺り一面が『薔薇の庭園』になったみたいに華やかな香りが広がった。
「これは……かなり強いな」
しっかり希釈して使わないと、香り酔いを起こしそうだ。
俺は、香りが飛ばないように花蜜の瓶の蓋をしっかり閉めて、鞄にしまった。
——さて、何か作ろうか?
食材があるから、作り溜めをしてもいいと、食材を眺めていたら……
「わぁ、薔薇の香り!この辺り、すごくいい香りがするね」
俺の真後ろからピコラの声がした。
「ん?ピコラ、いつの間に外に出たんだ?」
振り返るとそこには、白くてピコラよりも一回り小さなウサギの獣人がいた。
「おじさんが料理人のユージン?ピコラは一緒にいないの?」
白うさぎの獣人は俺を名を知っていて、こてんと首を傾げ、可愛らしく尋ねてきた。
顔立ちはピコラにそっくりだ……違いと言えば、色と髪の長さか?
「もしかして、ピコラの双子か?」
名前は……なんだったかな?
「うん、私はリコラ。ピコラの妹よ。ねえ、おじさん、ピコラは?」
おぉ、久しぶりにおじさん呼びされたな。
ピコラも最初はおじさん呼びだったな……
ちょっと悲しくなったけど、リコラの質問には答えなければならない。
「ピコラは今、家の中にいるぞ。ガバルとフィアールとソワも一緒だ」
ピコラの妹なら、きっとみんな知り合いなはずだよな?
「わぁ、みんな来てたんだ?!ねぇ、おじさんは、なんでも作れる料理人なんでしょ?」
リコラは目をウルウルキラキラしながら、俺を見つめている。
ピコラとそっくりだな……
「リコラは、何が好きなんだ?」
何か俺に作って欲しいんだよな?
「あのね?リコラはね、ラシモルートとアプフェルが大好きなの!何かお料理できる?」
リコラはピコラよりも甘い物が好きで、女の子らしい趣向のようだ。
「リコラは甘いのが好きか?」
なら、乙女の鉄板。りんごとニンジンのふわふわパンケーキとか、どうだろうか?
「うん!リコラ、甘いのが好き!おじさん甘いの作れるの?」
頬を赤くして、リコラは両手で口元を押さえて、うふふと笑った。
「ああ、ふわふわで甘くて、リコラみたいに可愛らしいのを作るよ」
可愛く飾ってやろう。見た目にこだわるソワも喜びそうだ。
俺は、鞄からパンケーキに使う食材を取り出し、作業台に並べていく。
「魔力は……かなり戻ってるな」
卵を卵黄と卵白に分けていたら、
「おじさん、何してるの?」
リコラは近くに来ると手元をのぞいてきた。
「ふわふわにするために卵白を泡立てるんだよ。こっちは、別の器で卵黄に砂糖・油を加えてよく混ぜるんだ。やるか?」
料理に興味がありそうだったので、魔法で卵白を泡立てながらリコラに尋ねてみた。
「いいの?リコラもやりたい!」
手を伸ばしてきたので、小さめの泡立て器を渡してやった。
リコラが混ぜている間に、にんじんとりんごのすりおろしを魔法で終わらせておいた。
「混ざったら、二つに分けるぞ。分けたら、それぞれにすりおろしを入れて混ぜるんだ」
ニンジンと、りんごのすりおろしをそれぞれ入れてやる。
「あ!アプフェルとラシモルートだ!ペショペショだね?」
リコラはぐるぐる混ぜながら、ピクピク鼻を動かしている。
「混ざったら牛乳も入れて、それもよく混ざったらこの粉を入れて、粉気が消えるまで混ぜるんだ」
ぐるぐる混ぜている器に、次々と俺は追加していく。
「わわ、重たくなってきた!」
それなりに量があるため、重たくなってきたようだ。
「はは、この先はちょっと難しいから、やり方を見てて」
俺は、スフレにする為に、卵白を二回に分けてざっくり混ぜていく。
「わぁ、なんだか雲みたいなふわふわを入れるんだね?」
リコラは卵白を見て目を丸くしていた。
「さあ、後はゆっくり焼くぞ」
鉄板に丸く生地を置いて、蓋をしてじっくり焼いていく。
残りの生地は鞄に入れておけば、ダレる心配がないのでありがたい。
「……ピコラはいーなぁ」
リコラが小さな声で呟いた。
「ん?どうかしたのか?」
俺が声を掛けたら、リコラはハッとして、
「ううん、なんでもない。ピコラは中にいるのよね?呼びに行ってくる!」
ぶんぶんと首を振り、慌てたように家に走って行った。
「俺、なんか余計なこと言ったか?」
まあいいか、と、ふっくらしているパンケーキをひっくり返した。
「飾りは、せっかくだしフィアールから貰ったライチものせるか?」
ハチミツも、花蜜入りと二種類にしようか。
「なら、プレーンのパンケーキも欲しいな」
俺は、鞄から材料を取り出し、手早くプレーン生地を作ると、天板で焼き始めた。
「いっそ、キャラメルソースも作るか。好きにトッピングするのもいいよな」
キャラメルソースは、小鍋に砂糖と水を入れて煮溶かし、茶色くなったら生クリームを入れて、仕上げにバターを混ぜたら完成だ。
パンケーキが焼き上がり次第、次々とパンケーキを焼いていく。
「大量の生クリームの泡立ては、やっぱり魔法だよな」
泡立てに関しては、慣れてきたのか魔力の負担は少なくなった。
お皿に三種類のパンケーキを並べ、クリームを飾り、ライチと飾り切りにしたりんごを添えて、小さな器に三種類のソース。
「まあ、とりあえずこのくらいでいいか?もっと色々果物載せたいけど、食材の無駄遣いはダメだよな」
そう思ったけど、彩りにグリーンが欲しくて、ミントっぽい葉をちぎって、クリームの上に飾った。
引き続き、パンケーキを焼いていたら、
「ユージン!!僕の妹のリコラだよー!ボクも一緒にお手伝いする!」
ピコラはアンテナが付いているのか?と思うほど、タイミングよくパンケーキが仕上がりと同時に外に出てきた。
振り返ると、ピコラはリコラと手を繋ぎ、こちらに走ってきた。
——色違いで可愛いな。
「ピコラ、残念だ。もうできたぞ」
ピコラは間に合わず、軽くショックを受けていたが、キッチンまで来たので、カウンターに座らせ、パンケーキを前に置いてやった。
「ソースはお好みでおかけください。赤い粒が見えるのはアプフェル、オレンジはラシモルート、クリーム色はプレーンです」
ピコラとリコラは、たっぷりのクリームの乗った三色パンケーキを見ると、ポカンとした顔をした。
「え?リコラ、なにこれ?食べられるの?」
「ピコラ、私、ドロドロを混ぜただけよ?」
簡素とはいえ、綺麗に盛り付けられた三色パンケーキは、獣人には馴染みがないらしい。
「これと、これはリコラが混ぜてくれたやつだぞ。量が多いから、半分ずつ食べろよ」
俺は、飾り切りのリンゴとライチを、盛り付けてあった逆サイドにも追加してやった。
「わぁ!ピコラ、一個ずつだね!」
リコラは気付いて喜んだが、ピコラはなんだか落ち着かなさそうだ。
「ピコラ?どうかしたか?」
ちょっと困り顔のピコラが気になって話しかけたら、
「うん、なんか綺麗で可愛くて、食べて崩れるのが勿体ないなって……」
ピコラは悲しそうな顔をした。
その顔を見た時、ふと、俺の料理の写真を夢中で撮っていたお客さん達を思い出した。
——あの人達も最初は、ピコラと同じ気持ちだったんだろうな。
「ピコラ、いつだって作ってやるから、出来立ての一番美味い時に食べてやってくれよ」
俺は、気持ちを素直にピコラに伝えた。
「はっ、そうか!ごめんリコラ、美味しい時に早く食べよう!」
「うん、ピコラ、どれから食べる?」
二匹の可愛いウサギ獣人が、戯れながら見た目に可愛いパンケーキを、仲良く分け合って食べている姿は……
「……なんか、幸せだな」
口周りに生クリームをつけたまま、ピコラとリコラは俺に満面の笑みで、
「「美味し〜い!幸せ〜!!」」
さすがは双子だ、動きとコメントがシンクロしている。
クネクネするのも同じらしい。
「はは、ありがとう。またいつでも作るけど、とりあえずご飯はちゃんと食べろよ?」
俺は、気分が良くなり、リンゴでウサギを二匹作り、そっと皿の上に乗せてやった。




