頼むから金で払ってくれ。
キッチンをリセットした後、食材の鞄をゆっくり確認すると、何種類かパンが入っていた。
「ちゃんと柔らかいパンもある……意外だな」
一部の魔族は、ちゃんとした料理を食べているのかもしれない。
「本来なら、人間との取引が頻繁にあったのかもな」
俺は鞄から、楕円形の表面が硬いパンを取り出してみた。
「米もあるし、天然酵母を起こすか迷うところだな。パンは安定して手に入るのか、後でアルプに聞いてみよう」
パンをスライスすると、思った通り、中が詰まったズッシリと重たいパンだった。
「唐揚げを沢山作ったし、マハト用には唐揚げサンドにするか」
マハトが片手で食べられるように、唐揚げでサンドイッチを作ることにした。
「野菜は……お、これにするか」
▪️モルビドグラス (キャベツに類似)
甘みがあり、加熱するとコクが増す。
シャキシャキした歯触り。
煮込むとトロッとする。
◻︎使い方
生でも、煮ても、焼いても美味い。
*備考
10秒以上光に当たると、外側の葉を使って羽ばたいて飛んで行く。
真っ二つに切るか、使う分だけ1枚ずつ剥ぎ取るようにする。
「飛ぶ……シュクレルートの仲間か?」
ちょっとだけ興味が湧いたので、中心部を残して葉を剥ぎ取り、作業台に放置してみた。
すると、モルビドグラスは、ピクピクっと動くと、一番外側の葉をペロンと広げ、ふわふわと羽ばたいて飛んでいった。
「……どこまで行くんだ?」
剥いた葉を一旦鞄に入れて、俺は空飛ぶキャベツについて行く。
半分以上剥がれたキャベツは、体力がないのかヨロヨロしながら飛んでいくと、家の裏の畑に着地してモゾモゾと尻を据えている。
「……お前、ここが畑だと分かるんだな?」
そこは、ピコラが育てているモルビドグラスの畑だった。
着地したキャベツを見届けた俺は、足早に湖畔に戻ると、シュクレルートと、埋めたばかりのラシモルートを掘り出した。
「お前達も、ちゃんと畑で休もうな」
ジタバタするシュクレルートを抱え、ピコラの畑へ向かい、シュクレルートの植えてある畑の側へ下ろしてやった。
「はは、迷ってるのか?」
シュクレルートは、より良い場所を選んでいるのか、他のシュクレルートを覗いて様子を見るように歩いている。
一箇所、隙間があるのを見つけると、ウキウキしながら穴を掘り、シュクレルートは満足げに土に収まった。
「……全部抜いたら、一斉に潜るのかな?」
ちょっと、シュクレルートにイタズラしてみたい気持ちになったが、食材はオモチャにしちゃダメだと、俺は考えを改めた。
「この畑、ラシモルートもあるのかな?」
俺にはよく分からなかったので、一旦、隣の畑の片隅に埋めておく。
違ったらピコラが何とかするだろう。
俺は、気分が良くなりキッチンに戻ると、剥ぎ取ったキャベツを手早く千切りにした。
「卵があるし、サンドイッチにするならマヨネーズも必要だよな」
エリソンの卵は新鮮だけど、菌が怖いから、浄化は必須だな。
「唐揚げサンドだから、全卵のマヨネーズでいいか」
あっさりするし、ちょうどいいよな。
器に全卵と酢と塩を入れて混ぜ、オイルをゆっくり垂らしながら攪拌していく。
「これ、魔法でできないか?」
素手でやるのはちょっと面倒だ。
俺は試しに、器に材料を出して、手を振ってイメージしながら魔法を発動してみる。
「えい!」
掛け声がかなり間抜けだが、魔法はどうやらうまくいったみたいだ。
「工程がしっかり分かっていたら、イメージすれば何でもできそうだな」
薄く切ったパンに、バターを塗り、キャベツと唐揚げを敷き詰めて、マヨネーズをかけてギュッと挟む。
「残りは、魔法で……えい!」
準備してあった食材の全てが、ざっと、完成した唐揚げサンドになって皿に並んだ。
「……っと、これ以上はマズいか。頭がクラクラしてきたぞ」
魔力切れは……危ない。
俺は、二度と同じ目には遭いたくない。
「……あれは、気のせいだ」
一瞬、思い出したくない記憶がよぎる
「クソッ、何が楽しくて、マハトに抱きしめられ、至近距離で見つめられた記憶を思い出さなきゃならない」
頭を振り、なかったことにした。
「ちゃんと、魔力を把握しとかなきゃな」
アルプの知識曰く、新しい事は魔力を沢山使うらしいし、気をつけなきゃな。
「でも、ちょこちょこ、色々なことに魔法は使った方が、出来る事は増えるよな」
毎日、少しずつ、新しいことをしてみよう。
俺は、キッチンの中にある丸椅子に座り、鞄から唐揚げをひとつつまみ、カップに入っているグリーンスムージーを飲み干した。
「あ、本当に魔力が回復した……」
以前、マハトが食材に魔素が含まれているから、食べると魔力が増えていくと言っていた。
食事でも、魔力は少し回復するみたいだ。
食べたら、目眩が治った。
「これ、食材の魔力を理解したら、ポーションみたいにならないかな?」
ポーション飲むほどじゃない時とかに、良くないかな?
これも、みんなに聞いてみよう。
「なんだか、実験みたいだな」
俺は、食材の未知の可能性にワクワクしながら、山盛りの唐揚げサンドを鞄に入れた。
「みんな、今日は泊まりになるよな……」
ピコラ達は作業に夢中だが、きっと、一日で終わる作業じゃない。
「全部マハトの食材だし、皆に振る舞うのはちょっと気が引けるんだよな」
どうしようか……
「あ、魔豚をピコラと狩ったよな!」
思い出したので、自分の鞄を見ると、丸ごと一頭分の魔豚の肉や、ホルモンや骨が大量に入っていた。
「これなら遠慮なく使えるな」
鞄の片隅に、ガバルから渡されたユムシを見つけたが……ユムシはいつかそのうち、使う日が来るまでは保存だ。
「豚肉か、何作ろうかな。きっと、それぞれ好みがあるよな……」
使い勝手が良いからこそ迷うよな。
俺が魔豚肉を見ながらメニューを考えていたら、部屋からピコラが飛び出してきた。
「ユージン!何か作るの?!」
ピコラは飛び跳ねるように、走ってキッチンに来た。
「ん?ああ、ピコラと捕まえた魔豚を料理しようかと思って……服はどうなった?」
参考に持って行った、俺のコックコートとエプロンは無事だろうか?
「あのね、フィア爺って凄いんだよ!火もお水も平気なんだ!」
ピコラは興奮しているので、ちょっと何を言っているのか分からない。
「ピコラ落ち着け、何がどう凄いんだ?」
とりあえず、俺は、ピコラに飲めと、グリーンスムージーの入ったカップを渡した。
「ングッ、ングッ?!ウマー!何これ?!こんなの飲めるなんてボク幸せすぎるよ!」
目をくりくりにして、耳をピコンと立てたピコラが、一気に飲み干した後、大絶賛で俺を見つめてきた。
「それは、ランバグラスとアプフェルのスムージー。こっちは、アプフェルとパミドルとラシモルートのスムージーだ」
俺はピコラの反応が嬉しくて、赤いスムージーも渡してみた。
「え!ラシモルート?ボク、アレちょっと苦手なんだよなぁ……ング!!ふぁ?これがラシモルート?うんまぁ!」
ピコラは、こちらも一気飲みをした。
「ピコラ、お前ウサギの獣人なのに、ニンジン嫌いなのか?」
ニンジン嫌いなウサギとか意外だ……
「嫌いじゃないよ。苦手なの」
ピコラはぷぅと膨れた。
「なんだ、違うのか?」
同じ事だろうが……
「ラシモルートは掘り出す時、面倒くさい」
掘り出し方?!味の事じゃないのか?
「どう面倒なんだ?」
注意事項は、水魔法だけだったぞ?
「掘り出す時に、房が千切れないようにしなきゃ爆発するんだ!ボクはいつも掘り出す時に爆発しちゃって、食べられなかったんだ」
要するに、不器用だったのか……
「食べた事は、なかったのか?」
初めて食べたみたいな反応だったよな?
「ないよ。みんなラシモルートが好物だったから、爆発させたボクはいつも怒られて、食べられなかったんだ」
しゅんとしたピコラは、飲み終わったカップを俺に渡してきた。
「そうか……ピコラ、掘る時に水魔法は使わなかったのか?」
空気に触れなければ、爆発しないだろう?
「水魔法?掘り出す時はいつもツタ魔法で掘ったよ?」
だから爆発したんだな……
「ピコラ、ラシモルートは水魔法で包んでバラバラにするんだ。多分、掘る時水魔法で包めば爆発しないと思うぞ」
俺は、少ない知識だが、ラシモルートの扱いをピコラに伝えた。
「あ……言われてみれば、収穫直後なのにみんなのラシモルートは綺麗になってた……」
大人は効率よくやっていたのだろう。
「きっと、ピコラの家族は魔法を伝え忘れたんじゃないか?」
まあ、きっとピコラは今より小さな子供だったろうし、聞いていなかったんだろう。
「……言っていたような?」
ピコラは可愛らしく首を傾げた。
やっぱり、ピコラは聞いていなかっただけのようだ。
「はは、なら、これからは大丈夫だな。ほら、そのまま齧ってみろ」
俺は鞄から、バラバラにしてあるラシモルートを一粒取り出し、ピコラに渡した。
シャリ……シャリシャリシャリ!
「んまぁ!ユージン!これ、サクサク甘いよ?こんなに美味しかったんだ?!うわぁ、急いで畑に植えなきゃ!」
ピコラは、ちゃんとニンジンが好きなウサギだったようだ。
「シュクレルートの畑の隣に一粒植えたから、そのうち増えるんじゃないか?」
どの位で増えるのかは知らんが……
「本当?なら、後から魔力で育てよう!」
ピコラは今にも畑に行きそうなほどソワソワしている。
「それより、フィアールがどうしたんだ?」
落ち着かせるためにスムージーを出したのに、ピコラが興奮してしまい、本末転倒になってしまった。
「あ、そうだった。あのね?フィア爺の作る布が火も水も弾くんだよ!それでエプロン作ってくれてるの!すごいよね?」
そう言えば、耐水防火と言っていたな。
「すごいな。唐揚げとスムージーだけなのに、立派な布で作ってもらっていいのか?」
ちょっと対価が釣り合わないよな?
「ピコラ、二人に追加で食べたい物があるか聞いて来てくれないか?」
せめて、お礼に好物を食べさせたいよな。
「あ、そうだった。こっちはフィア爺からで、こっちはソワ様から、ユージンに渡すように言われたの」
ピコラは鞄から布袋を二つ取り出した。
「なんだこれ?」
布袋を受け取り中を見てみる。
「ガバルが食材でお礼をした話をしたんだ。そうしたら二人も、ユージンには頑張って欲しいって食材をくれたんだよ!」
ピコラはニコニコしているが……
フィアールの袋は丸くて艶々な『丸い虫』
ソワの袋には『花蜜』が入っていた。
応援してくれる気持ちは素直に嬉しい。
だが頼む、礼なら金を払ってくれないか?




