魔物食堂始めました?
みんなで払ってしまったので、俺はとりあえず、蜘蛛と蝶を歓迎するために、唐揚げとスムージーを作ることにした。
「いや、意味が分からん……」
ピコラやガバルは人に近いからなんとなく理解できるが、アルプやエリソンも話ができる動物だ。
「ギリギリ、動物なら納得はできる」
でも、俺は今から昆虫が好む?食事を作る。
鞄から鶏肉を取り出し、手早く解体しながら、ももと胸を一口大に切っていく。
「巨大ミミズは食材なのに、蜘蛛と蝶は食べる側なんだよな……」
何だか混乱してきたが、手は勝手に動くので、既に3匹目の解体中だ。
「あ、でも、アルプは本来食材……」
手元の解体された鶏肉を見て、複雑な気持ちになった。
――余計なことを考えるのはやめておこう。
「とりあえず、ニンニクと、酒と、塩胡椒のシンプルな唐揚げにするか」
肉に下味を揉み込んで放置する間に、スムージーの準備をする。
「見た目が違っても、感情があって会話ができて、俺の料理を食べてくれるなら、大事なお客様だよな」
何とか気持ちに折り合いをつけて、鞄から、ランバグラスとレモン果汁を取り出した。
「初めて使う食材は、念のため確認だよな」
リンゴは、鞄から出す前に鑑定をする。
▪️アプフェル(赤リンゴに類似)
薄茶(梨に類似)
緑(青リンゴ)
黄(黄リンゴ)
赤(赤リンゴ)へと変化する。
◻︎使い方
生でも、煮ても、焼いても、絞っても、何をしても良い。
*備考
皮を剥くと、一気に乾燥して粉になるので、必ず皮付きで調理する。
果汁が欲しい場合は、魔法で皮ごと粉砕すれば絞れる。
「皮付きなら問題ないんだな……」
俺は、スムージーの食材を一度に魔法で粉砕するために、空中に浮かせた。
「ミキサーをイメージする感じだ」
目の前に浮かぶ玉の中で、それぞれが粉砕してぐるぐる混ざっていく。
「……グリーンスムージーだけでいいか?」
新しく作った金属のカップに、スムージーを注ぎ、余りは鍋に入れておく。
鞄からさらに、アプフェルと赤パミドルを取り出し、ラシモルートを鑑定した。
▪️ラシモルート(にんじんに類似)
房状に数珠つなぎに連なっている。
一粒が大きくなるほど甘くなる。
小さい粒はパリパリ。
粒が大きくなるとサクサク。
◻︎使い方
生でも、煮ても、焼いても美味。
加熱するとさらに甘くなる。
*備考
水魔法で包みながら房をバラバラにする。
空気に触れたままバラすと爆発する。
必ず一粒、土へ返さなければ消えてしまう。
「相変わらず、扱いを間違えると、爆発するか消えるんだな」
さっと処理して、キッチンを出ると、さっき俺に葉を刈られ、土に潜ったシュクレルートの隣に一粒埋める。
「仲良くするんだぞ?」
何となく、俺はシュクレルートに声を掛けてしまった。
「……よし、やるか」
キッチンに戻り、ラシモルートとパミドルにアプフェルを足し、粉砕してジュースにした。
鍋に油を入れて、温まる間に肉に粉を手早くまぶしていく。
「そろそろいいな」
温度を見ながら、次々と肉を油に入れる。
ジャッ ジュワァァ
たくさんの唐揚げを作るために、油の大鍋は2つにした。
ジュワジュワジュワ
時間で程よく色づいてきたので、一旦引き上げ休ませる間に、油の温度を上げていく。
「蝶も唐揚げ食べるのかな?」
肉食の蝶か……
何だかちょっと嫌だな。
使い終わった鍋を洗浄して鞄に戻し、待つのは面倒なため、唐揚げに時間経過をする。
「よし、仕上げだ」
ジャワワワァ ジャワージャワー
高温になった油に、休ませた唐揚げを入れていき、表面をカリッと仕上げる。
「いい感じにカリッとしたな」
次々引き上げ、網の上で油を切り、熱々のうちにさらに盛り、鞄に入れた。
「ユージン、ただいま!連れてきたぞ」
油はねを掃除していたら、ガバルが紡糸スパイダーとシルク蝶と一緒に戻ってきた。
「大体、あなたのセンスは古くさいのよ、湖畔の新しい店ならオシャレなのがいいに決まってるわ!」
「バカもん!見た目ばかりに拘れば事故に遭うこともあるんだ!服飾は機能美が大事なんだ。お前はそんなことすらわからんのか!」
来客はなぜか怒鳴り合いながらやって来た。
「ガバルおかえり……って、なんか、お客様が揉めてないか?」
シルク蝶と紡糸スパイダーは、さっきから明らかに口喧嘩している。
「なあ、ユージンはどんな服がいいと思う?さっきから、あの2人、自分のデザインが最高だって、聞かないんだよ」
ガバルはうんざりした顔で、俺に助けを求めてきた。
――ガバル、お前の知り合いだよな?
厄介だとは思ったが、ここは大人の対応をするべきだろうな……
「初めまして、ご挨拶させてください」
俺は、2人?2匹?の前に出て声を掛けた。
「おっと失礼。私は紡糸スパイダー族長、フィアールと申します。この度は揃いの服を御所望と伺いました。ご要望を……」
地に伏していた、丸眼鏡をかけた紡糸スパイダーのフィアールは、後ろ脚で立ち上がると、山高帽を手で持ち上げて挨拶してきた。
――でっかい蜘蛛だな?!
立ち上がると、俺と同じくらいの大きさだ。
「ちょっと、お待ちなさい。私にも挨拶させて頂戴。お初にお目にかかります。私はシルク蝶、紬族の族長、ソワと申します」
シルク蝶のソワは、羽をたたんでいるのか、パッと見が人に近い。
――ジェリコと同じタイプかもしれないな?
ソワはヒラリと袖を翻し挨拶してきた。
2人とも族長なんだな……
随分と偉い人が来てしまったようだ。
「ご丁寧にありがとうございます。この度、この子達とリストランテ『ピッコラ』を開店することになりました。遊人です」
2人とも敵意はまるで感じないので、間違っても驚いたり、怖がってはいけない。
俺は、取引先に挨拶するかのように深く丁寧に頭を下げた。
「オッチャン達さあ、注文がーって焦ってるけど、ユージンは金ないよ?」
カッコつけて頭を下げたのに、ガバルはあっさり俺に金がないことをバラした。
「「え?!」」
見た感じ、取引する気でわざわざ族長がやってきたんだ。2人が驚くのは当然だろう。
「今日は、お店の紹介だよ。服はお金貯まったらって、オイラ言ったじゃないか!」
ガバルはブーっと不貞腐れた。
「あ、おお、そうだったな」
「そ、そう言えば、言っていたわね」
族長2人は、気まずそうにソワソワしている。
「せっかく来て頂いたのに。ご注文することが叶わず申し訳ないです」
俺は、申し訳なくて再び2人に頭を下げた。
「いやはや、こちらこそ申し訳ない」
「そうよ、気にしないで頂戴」
族長2人も慌てて頭を下げてきた。
お互い頭を下げ合うなんて、なんだか、日本にいるみたいだ。
「悪いのは私なので、頭を上げてください。ご挨拶代わりに、歓迎させてください。せっかくなので、味見などいかがですか?」
2人をカウンターに案内して、唐揚げと、緑と赤のスムージー2種類を前に置いた。
「ん、美味そうだな?」
「あら、何かしら?頂いてもいいの?」
2人は料理を見つめた後、俺を見てきた。
「どうぞ、お召し上がりください」
俺が促すとフィアールは唐揚げを、ソワは先ずグリーンスムージーを口にした。
「これは!カリッジュワっと旨みが口いっぱいにほとばしって美味いな!」
「まぁ、なんて爽やかで素敵な味!こちらの赤いのは……んー、こっちも優しい甘さ花開くようで素晴らしいわ」
族長2人も食レポが無駄にうまいタイプだが、初めの一口の後は、食べ終わるまで
「おお」「ああ」「ふぅ」「クウッ」
発した言葉に意味があるかは分からないが、見ていた限り、味は合格のようだ。
俺が安心して2人を見ていたら、家からピコラが出て来た。既に来客がいることに気付いたのか、こちらに近づいてきた。
「お二人とも、もしお好きな食材などがあれば、料理にしますので、今後ともよろしくお願い致します」
族長達の好みを知るには、好きな食材を知るのが早そうだ。
多分、大丈夫だ。食材なら……
フィアールとソワは、食べ終わると満足したのか、うっとりしながら空を見ている。
「こんな美味いものを食べたのは初めてだ。開店祝いに、ぜひ私に、何か布を送らせて貰えないだろうか?」
フィアールが申し出てくれた時、先程戻って来たピコラが、
「フィア爺、ソワ様、ピコラ、ユージンとお揃いの服がいい!」
ぴょこんと2人の間から顔を出して、いきなり強請りはじめた。
「なんだピコラ、いつからいたんだ?お揃いと言うが、どんな服だ?」
族長2人とピコラは顔見知りなのか、ピコラは賢明にコックコートの説明をしていた。
「ピコラ、これのことだろ?」
俺はエプロンを外し、鞄からコックコートを取り出し、まとめてピコラに渡した。
「あ、そう、これだよ!」
フィアールが持ち上げて広げると、ガバルとソワが食い入るように見ている。
「なんか、これ、かっこいいな!」
ガバルは、初めて見るコックコートの見た目が気に入ったらしい。
「でしたら、私が白い方を作りますわ。フィアールは、確か耐水防火のエプロンが得意でしたわよね?」
ソワはサッとコックコートを掴むと取り上げて、フィアールにはエプロンを渡した。
「……まぁいい、じゃあ、私はエプロンだな。ピコラよ、場所を借りてもいいか?」
腑に落ちない気持ちを、飲み込むような間があったが、フィアールは得意分野を任されたことには満足のようだ。
「いいよ!こっちに来て!」
あれよあれよと話が進み、ピコラは、ガバルと族長の2人を連れて、家に入って行った。
……俺には決定権はないみたいだな?
とりあえず、俺の料理は魔物にも通用することは分かったし、
いっそ、魔物食堂始めるか?




