おにぎりとご近所付き合い
シャッシャッシャッ シャッシャッシャッ
黙々と大量の米を研ぐ。
「おにぎり、幾つ作れば足りるかな……」
三種類の混ぜ込み用の具材を作る予定だから、米の量は莫大だ。
「おかかとゴマを混ぜたし、焼き鮭はほぐして、ゴマとシソも混ぜたろ? あとは塩茹でした菜葉を刻んだら準備完了だな」
鍋に水を張り、蓋をして吸水のために時間を置いた後、米を炊く。
「はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋とるな……ってね」
火加減を見ながら、混ぜ込み用の鍋を取り出して並べておく。
「並べる皿も必要だな」
皿をスタンバイしたら、あとは待つだけだ。
ふつふつと湯が沸騰したので弱火にし、時間が頃合いになった頃、辺りに米が炊ける優しい香りが漂ってきたので、火を止めて蒸らす。
「米の炊ける香りは、日本人で良かったと思う瞬間だよな」
蒸らし時間が過ぎ、蓋を開けたら、美味しそうなツヤツヤご飯が炊けていた。
「あー、このまま塩おにぎりもありだよな」
俺は、追加でシンプルな『塩おにぎり』も作ることにした。
「ユージン! 終わったよ! 何してるの?」
米を分けて具材を混ぜ込んでいたら、子供達が戻ってきた。
「今から、たくさんのおにぎりを作るぞー」
俺は、おかかと胡麻のおにぎりをひとつ握って、皿に乗せて見せた。
「ピコラも一緒におにぎり作る!」
「オイラもやるぞ!」
「なんだか、卵みたいだね」
三人はキラキラな笑顔になりながら、手伝いたいと言ってきた。
「じゃあ、綺麗に手を洗えよ」
俺が頷くと、仲良くキッチンの中のシンクで手を洗っている。
「やり方は、まあ、見て覚えてくれ」
ささっと作ると、
「えー、わかんないよ」
「アレだ! 魔法でやればいいんだよ」
「やってみます……出来ました!」
俺がせっせと手で握る横で、それぞれ魔法で三角おにぎりを作っていた。
「お前達、器用だな……これ、全部頼むよ」
なんだか腑に落ちないが、まあ、任せてもいいか。
俺は次の、焼き鮭とシソとゴマのおにぎりを作り始めた。
「これも、同じですか?」
いつの間にか近くにいたアルプが、手元を覗きに来ていた。
「あ、ああ、同じだよ」
アルプも手伝うつもりだろうか、と思って見ていたら、
「えい!」
アルプは、掛け声と一緒に、ヒョイと指揮棒を一振りした。
「……全部、終わっただと?」
綺麗に同じ形の鮭おにぎりが完成した。
「魔法はコピーが得意なんですよ」
アルプは満足そうだ。
「……やってみるよ」
俺は、菜飯の前で手をおにぎりを握る形を真似しながら
「ギュッ」
掛け声と共に魔法を発動した。
すると、お皿にちょうどいい形の菜飯おにぎりが並んだ。
「……魔法、便利だな」
ついでに、塩おにぎりもまとめて魔法で握っておいた。
「ユージン、出来たよー」
ピコラ達は、ひとつずつやったようで、時間はかかったが、綺麗なおにぎりになっていた。
「おう、ありがとう」
俺は、四個ずつ十六個のおにぎりを大皿に乗せて、アルプに渡した。
「アルプ、これ、マハト用な」
受け取ったアルプは、じっとおにぎりを見つめて尋ねてきた。
「ユージン、これ、何ですか?」
アルプは、おにぎりを知らなかった……
とりあえず、それぞれ気になるおにぎりを手に、食べながら今後の話をすることにした。
「これから店をやるにしても、カウンター以外に椅子とテーブルも要るよな?」
俺の声掛けに、菜飯のおにぎりを食べていたピコラが頷いた。
「この葉っぱ、シャキシャキ!お米も甘くて幸せな味だぁ〜! 机がお外だと、雨が降ったら出来ないよね?」
ピコラは菜飯にクネクネしながら、現実的な意見を言ってくれた。
「なら、屋根も作るか?」
キッチンとカウンターには屋根があるけど、テーブル席を作るなら、屋根をつけるべきかもしれない。
「どうせなら壁も作れば?オイラも手伝うよ。それより、この茶色いおにぎり美味いなぁ」
ガバルは、おかかとゴマのおにぎりが気に入ったようだ。
「みんなで、お揃いの服も欲しいよね」
ピコラは、次のおにぎりを鮭とシソとゴマにしたようだ。
ピコラは、緑色に惹かれるのだろう。
「準備しても、お客が来なければお店じゃないです。ユージン、この卵に似た白いおにぎり、何でこんなに美味しいのですか?」
エリソンは、卵に似ているから塩おにぎりを選んだみたいだ。
「それは、塩おにぎりだよ。お米の甘味を感じるよな」
エリソンは、うんうんと頷いている。
「アルプ、フリーゲン、どうだ?」
大人しく食べている二人に目を向けたら、アルプは鮭とシソとゴマ、フリーゲンは菜飯を手にしていた。
「素晴らしいです。きっとこれならマハト様も合間に食べてくれます」
アルプは満足そうにおにぎりを頬張った。
「ユージン、コレ、スキ」
フリーゲンは小さな体で、シャキシャキと菜飯を噛み砕いている。
「気に入ったなら良かった。帰るまでに、また追加で作っておくよ」
おにぎりは腹持ちがいいから、きっとマハトにピッタリだろう。
「なあユージン、客なら、近くに丁度いい奴らがいるから呼んでこようか?」
ガバルは、お客を紹介してくれるらしい。
「近くには、誰がいるんだ?」
怖い魔族じゃないなら嬉しいが。
「ご馳走様でした! 近くの森に、紡糸スパイダーの集落があるから、オイラ、ここの店を教えに行ってくるよ」
そう言って、ガバルは椅子から降りた。
「スパイダーって、蜘蛛か?」
それ、怖くないのか?
「ご馳走様でした。うん、蜘蛛だよ。あいつらは、すごく丈夫な糸を紡ぐし、きっと服の相談も出来るよ」
食べ終わったピコラが、ガバルの代わりに教えてくれた。
「そうか……蜘蛛か」
蜘蛛の糸か……ベタベタしないのかな。
「オイラ、行ってくるよ」
既に、半身土に埋まったガバルは、すぐにでも知らせに行くつもりだ。
「ガバル、これを持って行け」
俺は、とりあえずガバルに、名刺代わりにおにぎりを数個渡した。
「あ、ガバル! 西の森なら、シルク蝶もいるはずだから、声掛けしてみて!」
ピコラはついでに、他の種族にも声をかけるようにガバルに伝えた。
「おう、すぐ戻る!」
あっという間に、ガバルは見えなくなった。
「ピコラ、シルク蝶って、蝶だよな?」
蜘蛛に蝶か……虫だな。
「うん、シルク蝶も服が作れるから、どうせならどちらにも声掛けをした方がいいよ」
ピコラは、半端になった皿のおにぎりをひとまとめにしている。
「なあ、蜘蛛に蝶なんだよな?」
俺は……どうしたらいいんだ?
「うん、そうだよ。どうかした?」
ピコラは不思議そうに俺を見た。
「……そいつら、何食べるんだ?」
そもそも、蝶は蜘蛛に食われないのか?
「んー、なんだろう? 聞いたことないや」
ピコラは、さすがに他の種族のことまでは知らないらしい。
「それに、食物連鎖的に蝶と蜘蛛を一緒に呼んでもいいのか?」
出会い頭にバトル発生しないだろうな?
「大丈夫だよ。多分……」
ピコラは、スッと目を逸らした。
蝶と蜘蛛のパワーバランスに、なにかあるのかもしれない。
「多分って……」
不安でしかない……
「紡糸スパイダーは、基本的に肉が好きですが、なんでも食べますよ。シルク蝶は、基本的には果物と葉物野菜が好きなはずです」
横からアルプが補足説明をしてくれた。
「そうか、種族的に食べられない物なんかはあるかな?」
お腹いっぱいにしたら、襲わないかな?
「どちらも生肉と生魚は苦手と聞きましたが、それ以外は問題なかったはずです」
アルプは詳しかった。
蜘蛛が生食じゃなくて良かった。
「さすがアルプ、色々と詳しいんだな」
アルプ、ちょいちょい有能さを発揮するよな。
「マハト様は、全ての種族と交流されます。手土産など私が準備するので、種族の特性は知識として必要なのです」
マハトもアルプも、ちゃんと仕事をしていたんだな。
俺もちゃんと仕事しなきゃな……
「ご馳走様でした。僕も、お客さん呼んでこようかな」
おにぎりをやっと食べ終わったエリソンが、食後の挨拶をして、ポツリと呟いた。
「エリソンも、この近くに知り合いが住んでいるのか?」
微笑ましく思いながら尋ねてみたら、
「うん、南の森に、コルージャ先生がいるから、彼に声掛けておけば、お店のことが広まるはずです」
コルージャ先生とは、インフルエンサーみたいな人なのだろうか?
「コルージャ先生は、どんな人なんだ?」
そもそも、人ではなさそうだよな。
「長く生きてて、すごく物知りで、頭のいいフクロウの先生ですよ」
フクロウ……確かに賢いイメージかな?
フクロウ……好物はネズミか?
思わずエリソンをじっと見てしまった。
「そうか、フクロウの先生か」
俺、人間以外の味覚はわからんぞ?
今のところ、みんな平気そうだから、気にしなくていいのか?
「コルージャ先生かぁ〜」
俺が悩んでいたら、ピコラが、少し嫌そうな顔をした。
何か不都合でもあるのだろうか?
「ピコラ、どうした。何があるのか?」
フクロウは猛禽類だから、ウサギは狙われるのだろうか?
「……昔、よく怒られたんだ」
ピコラは膨れながら、プイッと横を向いた。
「ふふふ、ピコラは、イタズラしたから先生に怒られたんだよ」
エリソンが、笑いながら教えてくれた。
「だってさぁ……あー、気まずいなぁ」
どうやら、コルージャ先生は、この子達の先生をしていたフクロウみたいだな。
なら、大丈夫だろう。
「先生はずっとピコラのこと心配していたし、気にしなくて大丈夫だよ。僕も、今からちょっと行ってくるね」
エリソンが森に向かおうとしたら、
「あ、エリソン! ちょっと待って!」
ピコラは、慌ててエリソンを止めた。
「いいけど、何?」
エリソンが首を傾げている間に、ピコラはカバンから手紙を取り出して書いていた。
「コルージャ先生に会いに行くなら、ついでにこれ、リコラに渡して!」
ピコラは急いで書き終わった手紙を、エリソンに渡している。
——リコラは、ピコラの妹だったか?
とりあえず俺も、エリソンにも名刺代わりのおにぎりを渡した。
「じゃあ、行ってくるね!」
手を振りながらエリソンは、走ると同時に結界を張ったのか、フッと消えた。
「ピコラは行かなくていいのか?」
リコラ、妹なんだよな?
「うん、みんながここに住むなら、部屋が足りないからログハウスの増築しなきゃだよ」
ピコラは、ふぅ、とため息をついた。
「今から? それより、出来るのか?」
増築なんて、簡単じゃないよな。
「私とフリーゲンが手伝いますから、ユージンはご心配なく」
アルプの言葉と同時に、フリーゲンが大きくなった。
「フリーゲンには、ついでにエリソンのたまご屋さん用に、森を切り開くのを手伝ってもらうんだよ!」
ピコラは、みんなで器を作る時に、色々と計画をしていたようだ。
「俺も手伝うか?」
役に立つかはわからんが。
「ユージンは、みんな来た時のために、お料理でもしてて。あ、器、渡しとくね」
ピコラはカウンターに沢山の器を並べると、アルプとフリーゲンを連れて、さっさと家へ向かって行った。
「どうやら俺は、ピコラから見て、日曜大工には役立たずらしいな……」
あっという間に一人になってしまった。
「蝶と、蜘蛛と、フクロウ……これ、本当に食物連鎖的に大丈夫なんだろうか?」
それに、もしかして、めちゃくちゃデカい?
「エリソンタイプなら、見た目はそのまんまだよな……」
エリソンも、通常のハリネズミよりは、かなりデカい。
「アイツらの知り合いだ。不思議動物ばかりが来るのかもしれない。覚悟しないと」
——俺、接客出来るかな?
とりあえずお近づきの印に、紡糸スパイダーには唐揚げ、シルク蝶にはスムージーでも作るかな。
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