バリバリハリネズミ
「こぉら、二人ともぉ、お外で余計な話はしちゃだめでしょう?」
ジェリコは2人に注意しながら、ちらっと俺を見た。
「あ、人間……」
エリソンは、俺を見て顔を青くし、ガバルはしまったと肩をすくめた。
——やっぱり聞いちゃ不味かったのか
今更聞こえないふりはできないか……
「ジェリたん、ごめんなさい」
ピコラは、ジェリコに近づくと耳を伏せて頭を下げて謝っている。
「いい子ね?子供だから仕方がないけど、人間の前で余計なことを言ってはダメよぉ。相手がユーちゃんで良かったわぁ」
ジェリコは俺を見て、バチンとウインクをして、聞いたのが俺なら問題ないと言う。
「はい……」
「ごめんなさい」
エリソンとピコラは反省しているのか、ただでさえ小さな身体を、さらにコンパクトにしてうずくまっている。
「なあ、ジェリコ、オスクーロの街は……」
ガバルは怒られたのも構わずに、ジェリコに質問を投げかけている。
「ガバル、ちょっとこっちにいらっしゃい」
ジェリコは、大きくため息を吐いて、ガバルを連れて離れていくと、何か話をしている。
「……ユージンごめんね」
ピコラが、俺に気を使い、申し訳なさそうに話してきた。
「いや、大丈夫だ。それより、エリソンって言ったか?お前、腹減ってないか?」
ピコラ同様なら、きっと飲まず食わずで逃げてきたのではないだろうか?
クーキュルル
「あ……」
エリソンは、俺に腹の音で返事をし、慌ててお腹を押さえている。
「ほら、とりあえずこれでも食え」
俺は、昼食の余りの包み焼きを鞄から出してエリソンに渡した。
「あ!ピコラも食べたい!エリソン、これサクサクトロトロだよ!」
ピコラは、さっき食べたばかりなのに、エリソンの包み焼きを見ると食べたがる。
「程々にしろよ」
ピコラにも包み焼きを渡し、エリソンを見ると、相当腹を空かせていたのか、勢いよく食べている。
「おい!ユージン、オイラも食いたい!」
ジェリコとの話の途中なのに、二人が食べている姿を見て、ガバルは慌ててこっちに走ってきた。
「ちょっと、ガバル!ちゃんと聞きなさいよぉ、もう、仕方がないわねぇ」
ジェリコは呆れながらも、3人を見るとフッと笑った。
——ジェリコは、いい奴だよな
包み焼きを皿に出してやると、小さな三人は、わちゃわちゃしながら包み焼きを仲良くほおばっている。
「話の途中だったろ?なんかスマン」
俺は、ジェリコに近づき、話の腰を折ってしまった事に謝罪をした。
「いいのよぉ。見てみなさい、あの笑顔、子供らしくていいわねぇ」
ジェリコは、子供達を優しく見つめながらそう言った後に、スッと厳しい目をして
「そもそも、こんな子供たちが、争いの仕事をさせられるのがおかしいのよ……」
ドスのきいた、地面に響くような低い声で、呟いた。
マハトも、ジェリコも、何か思う事があるのは理解しているが、俺には何も出来ない。
「……ジェリコも食うか?」
俺は、ジェリコのために除けておいた包み焼きを取り出して手渡した。
「あらぁ、いいのぉ?もう、ユーちゃんってば、優しい~」
ジェリコもこれ以上は話す気はないだろう。
気持ちを切り替えると、パッと笑顔になって、包み焼きを一口で食べてしまった。
「一口かよ?!」
俺は、とりあえず突っ込む事で、話をうやむやにした。
「まぁ!これ、ピコラの言う通り、サクサクトロトロねぇ♡さすがユーちゃん」
今は、まだこのままでいい。
でも、いつかは知る事になるんだろうな。
「気に入ったみたいだな。今度、食材が来たら、エビやカニで作ってやろうか?」
ジェリコに取り置きしていた3個の包み焼きは、あっという間に消えてなくなった。
「嬉しいわぁ。でも、食材が来たらって、ユーちゃんの食材、足りなくなってるの?」
ジェリコは、小首を傾げて尋ねてくる。
「まあ、魚と野菜はあるけど、調味料や粉類が、もうほとんどないな。調子に乗って、粉を使いすぎただけだよ」
パスタにしろ、包み焼きにしろ、大量の粉を使っていた。
——楽しかったんだ。仕方がないよな
「そう、わかったわ。ちょっと待っててね」
ジェリコは、にっこり微笑むと、片手を耳に当てた。
「おい羊、食われたくなかったら、今すぐ片っ端から食材かき集めて、すぐに来い。あ? すぐって言ったらすぐだ。お前に選ぶ権利があると思うな」
重たい圧力があり、断りの言葉も質問も許さない、そんな勢いで、ジェリコは強引な命令をしている……
「お、おい、ジェリコさん?」
食材の話で羊、きっと相手はアルプだ。
——脅すのは可哀想だから、やめてくれ
「今から来るって言っていたわよぉ〜。良かったわねぇ」
ジェリコはにっこり微笑んでいるけれど、彼女の後ろで楽しく食べていた子供達が、カチコチに固まってしまった。
「ジェリコ、子供が怯えてるぞ……」
ジェリコの後ろを指して伝えると
「あん、いやぁだ、冗談よぉ!あれは秘密のやり取り用だから、違うのよぉ〜」
くるくる回りながら子供達の元へ行き、クネクネしながら言い訳をしている。
その動きが、子供にとってはおかしかったのか、キャハキャハ笑い出し、皆で真似してクネクネし始めた。
「子供は単純だなぁ……アルプ、可哀想に」
サイズ的にはアルプもピコラ達と変わらないのに、あまりにも扱いが雑なので、何だか酷く不憫だ。
俺はキッチンに向かうと、水にガバルから貰ったハチミツと、レモン果汁を入れてハチミツレモンを作り、皆の元へ戻った。
「ほら、包み焼きは喉乾いたろ?これ飲むとサッパリするぞ」
コップに注いで、それぞれに配ると、疑いもせず、早速口にしたピコラは
「スッパあまーい!おいしー!ユージン、もっとちょうだい!」
パァァと、花が咲き誇るような笑顔を見せ、おかわりをせがみコップを渡してきた。
釣られて飲み干したガバルと、エリソンは遠慮があるのか、羨ましそうにピコラの様子を伺っている。
「お前達も飲むか?」
俺が声を掛けてやると、2人ともキラキラした目をしながら、コップを渡してきた。
横から、スッとジェリコのコップも出て来たので、それぞれのコップに注ぎ入れた。
「プハァ!もう、ユーちゃんの作る物は、飲み物まで美味しいのねぇ。ご馳走様♡」
ジェリコはおかわりのハチミツレモンを、酒場でビールを煽るかのように飲み干した。
「ガバルからハチミツを貰ったんだ。丁度良かったな。ありがとう」
俺が礼を言うと、ガバルはえへへと笑った。
「ユーちゃん、アタシ一度戻るわぁ。またすぐ戻るから、寂しがらないでねぇ♡」
ジェリコは、投げキッスをすると、子供達を気遣うように静かに水中に戻って行った。
「ジェリたん忙しそうだねぇ……」
「ジェリコが忙しいのは……仕方がないよな」
ガバルとピコラは、水中を覗きながら、ジェリコに手を振っている。エリソンは自分のポーチから、瓶を取り出すと
「あの、これお礼。良かったら使って」
そう言って鞄から、山盛りの卵を取り出して俺に渡そうとした。
「こんなに沢山? 悪いよ」
さすがに貰いすぎだと思い、遠慮したら、エリソンは困った顔のまま、卵を掲げている。
「貰っとけよ。エリソンは本当なら、たまご屋の後継者だ。だから卵は沢山持ってるぞ」
ガバルはそう言って、エリソンから卵を受け取り、俺に押し付けてきた。
「エリソンはたまご屋なのか?」
ハリネズミのたまご屋が気になり、うっかりガバルから卵を受け取ってしまった。
「はい、我が家は本来なら、代々たまご屋をやっています。僕は皆より能力がちょっと強かったので、外に出る事になりました」
卵を渡してホッとしたのか、エリソンは少しだけ話をしてくれた。
「ユージン、エリソンの能力はね、すごいんだよ!バリバリのビリビリなんだ」
「コイツ、こんな見た目なのに、めちゃくちゃ強いんだ!すごいだろ?」
ピコラとガバルは、一生懸命俺にエリソンは凄いんだと伝えているが、2人とも興奮しているので、どう凄いのか分からない。
「あー、とりあえずエリソンは強いんだな?ずいぶん優秀なんだな」
俺は、しゃがみ込んで足元にいるエリソンに話しかけ褒めてみた。
エリソンは俺の知るハリネズミより大きいが、所詮小型犬サイズだ。かなり小さい。
「優秀と言うか、ちょっと特殊みたいです」
エリソンはそう言って、自分の身体から針をピッと抜くと
ビビビビリビリジジジバリバリ
針から、細かい雷のような電流が弾けているのが見える。
「それは……雷か?」
さっきから、雷は色々な色をしている。
「雷針ショックと、幻覚と、結界です」
そう言って、エリソンは針を地面にサクッと突き刺した。
「え? いなくなった?」
目の前にいたはずのエリソンが消えた。
「ユージン、エリソンの結界と幻影だよ」
「かくれんぼでやられた時は、絶対に見つからなかったよな」
ピコラとガバルは、エリソンの能力をよく理解しているのか、気にもしていない。
「お母さんの一族の、優秀な叔父と同じ能力らしくて……でも、僕は、本当はたまご屋さんになりたかったんです」
エリソンは、そう言って姿を現すと、しょぼんとした。
一族の中では能力がかなり高くて、家業が継げなかったようだ。
「……そうか。エリソンの家のたまご屋さんはどんな仕事なんだ?」
逃げてきたなら、新しくたまご屋をやれないのだろうか?
「卵を孵して、逃げないように環境を整えて、鶏の世話をして、卵を毎日回収します。鶏は懐くと可愛いです」
エリソンは、嬉しそうに話してくれる。
「でもさー、その可愛い鶏も、結局は食うんだよな?」
ガバルは微妙な顔をしながら、エリソンの話に口を出した。
「ガバル、エリソンは前にも言ったよ!食べるのは、卵を産まない老齢の鶏で、思い出も一緒にありがたく頂くんだよ」
ピコラは、ガバルの言い方が気に入らないようで、言い返している。
エリソンは、自分の事で言い争うピコラとガバルを、困ったように見つめている。
「エリソンは素晴らしいな。命の循環やありがたさをちゃんと理解した上で、感謝しながら食事をしているんだな」
そう声を掛けてやると、幸せそうに目を細め、小さな手を口元に当てて
「はい、鶏達のおかげで、僕たち家族は生かされてるんです。感謝しかありません」
エリソンは、本当にたまご屋が好きなのか、誇らしげに笑っている。
俺は、そんなたまご屋さんの卵を貰えた事が、嬉しくてたまらなかった。
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