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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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3/5

ここ……どこ?

毎週土曜日19:00投稿ですが、

祝日なので、追加投稿してみました。




 俺は……どうなったんだ?




 よくわからない歪な板が広がった時、ぐわっと脳と身体がが揺れて、強烈な目眩を覚えた。


 視界が揺れるので目を閉じて、とにかく鍋を落とさないように、しっかりと抱きしめていたんだけど……




「あれ……俺の店は?……何で外?」




 目眩が治ったので、目を開けて、店は平気かと自分の周りを見てみたら……




 なぜか視界に広がるのは、乾いた土と小石が転がる一面の荒野だった。




「はあ?なんだよここ……どこだよ!!」




 叫んだ所で、俺の声は全て風が攫って行った。全く意味がわからん。


 誰か、説明しろよ……


 そう思ったが、周り一面が荒野であることに変わりはない。


 ——何が起こった?


 数秒前の出来事なのに、意味がわからん。



「……俺、まさか落雷で死んだのか?」


 思い出されるのは、一面の白い光。


「落雷の時に、ステンレスの鍋を持っていたのが不味かったのか?」


 まさか室内で、雷に感電して死んだのか?


 そんなバカな……嘘だろ?




 ——良く思い出せ!




「……いや、落雷じゃない」


 落雷後に、よくわからない、見た事もない、得体の知れない、



 板があったんだ。



「あの、歪んだ板が原因?」


 そもそもあれは何だ?本当に板だったのか?



 「てか、ここ……どこだ?」


 俺は、混乱しつつ、緊張感と鍋を持ったままで、その場から一歩も動かずに、周りをキョロキョロと首だけ回して見渡してみた。


 何度遠くを見ても、荒野だ。



「何もない……だと?」



 ただ、俺の足元には、多分、棚やストックだったであろう物が、散乱している。


 整理棚は全てひしゃげて、置いてあった調味料のストックは、潰れてぐちゃぐちゃになって溢れて、土にシミを作っていた。


「これ……手前のストック棚か?」


 調味料達は、割れたり潰されたりしたせいで、あたりには醤油やソースとトマトケチャップの混ざって匂いが漂っていた。



「まさか、街ごと店が消し飛んだのか?」


 だとしたら、廃材が少な過ぎる。落ちているゴミを見た限り、店の棚のごく一部しかない。



「棚は潰れたのに、俺は無事なんだよ……」



 足元の残骸を見る。



 もしかしたら、一歩違えば足元の残骸は俺だったのかもしれない。



 そんな事を考えながら、地面を赤黒く染めているシミ(調味料)に意味深な目を向け、つい余計な事を想像してしまった。



「……怖っ」


 ちがう、赤黒いアレは『調味料』だ!



 どうしよう。マ ジ で どうしよう。



 ……俺、一旦落ち着け


 とりあえず、広すぎてここは落ち着かない。


 どこか、身を隠せる場所に行きたい。



 足元に落ちている物の事も、これからの事も、俺は、考えるのを一旦放棄した。


 

 とりあえず、どこかに落ち着きたい。



 野良猫が、いつも軒下や車の下にいる気持ちがよくわかってしまい、俺の頭の中では野良猫が「にゃーん」と鳴いた。


 今はどこでもいいから、屋根のある場所で、腰を据えてゆっくり考えたいと俺は思った。


「どこに向かえばいい?」


 何もわからない。


 今、周りにあるのは、荒野と太陽のみだ。


「太陽は少しだけ傾いてるか?」


 自分の影を見る限り、少し影は斜めに伸びている。


「店を閉めたのは11時前だったよな?」


 正解はわからないけど、太陽が昇るのは東からだし、東に向かうか?


 太陽の位置から、なんとなく東を目指すことにして、屋根を求めて彷徨いつつ、時間潰しのために、これからの自分の店のことを考えた。



 ——このままだと、俺の店は潰れる。



 現状、いつ戻れるかすら分からないし、たとえすぐに戻ったとして、炎上時にあちこちに写真が投稿されて顔バレをしてしまったんだ。


「今更店名を変えたとしても、まともに営業するのは、多分無理だな」



 ——いっそ、戻ったら全く違う店にするか?



 全く違う店にすれば、無駄に詮索さえされなければ、何とかなるかもしれないけど……



 今の店は、まだ2年しか使っていないから、内装も外装もまだ新しい。



 ——勿体無いよな。



 出ない答えを探しながら、結構な時間を掛けて、俺はひたすら東に向かって歩いている。



「なんだかなぁ……俺、今、どこに向かってるんだろうな」


 普段から14〜16時間は仕込みや準備で立ち仕事をしている。だから歩くことは気にもならないけど……


 ここまで、どれだけ歩いたかもわからない。


 今日は、朝から何もせず、ずっとカウンターに座ってただけだ。


 身体もすっかり固まっていたので、しっかり歩けて却ってスッキリした。


 体感的に5.6時間は歩いただろうか?


「ん?……森が近くになってきたか?もしかしたら、何かあるかな」


 更に歩くと、遠方に小さな小屋のような、

小さな建物がいくつか見えてきた。


「……まてよ? ここまで歩いたけど、このまま小屋に行っても大丈夫なのか?」


 俺は、未知の土地である事が急に不安になり、点在する小屋の後方にある、平坦な森に向かうことにした。



「もしかして……熊とか出るかな?」


 最近よく見かけていた、SNSで拡散されていたニュースの写真に映った、目つきの悪い熊を思い出し、思わずブルッと背筋が冷えた。


「……とりあえず、やっぱり小屋の観察だな」


 熊は……無理だ。


 一瞬考えてみたけど、どう戦っても勝てる気がしないし、人間が勝てるわけがない。




 森に入るのは諦めて、手前にある1番小さな小屋を覗いて見る事にする。


 俺は、恐る恐る近づいて、入り口から、そっと中を覗き込んだ。


 けど、中には何もなかった。


「……サイズ的に、道具入れかな?」


 それにしても、変わった造りの建物だ。


 木枠に枝を草で縛って、表面に赤土粘土を塗りたくってある。


 建物というか、ほら穴だ。


 ——四角い土のかまくら?


 中も木製の台が片隅に置いてあるだけだ。


 中に入って、一旦、抱えていた鍋を台に置かせてもらい、疲れた腕をぐるぐると回して、腰のエプロンを解いた。


「あー、さすがにうでか疲れたし、暑いな」


歩いたせいでかなり暑かったのでコックコートも脱いで台の上に広げ、その上に鍋を置く。


 エプロンのポケットに入れていた、ガチャガチャした小物を鍋の中に押し込んで、鍋ごとコックコートで縛り上げた。


 さらにエプロンで鍋を覆い、自分の背中に背負い縛り付けた。


 ——まるで、絵に描いたドロボウみたいだ。


「よし、これなら手が使える」


 ずっと鍋を抱えたまま移動していたので、さすがの俺も手が疲れてしまった。


「ちょっと見て回るか?」


 ここが何処なのか分からない事には、どうにもできない。


 何か、めぼしい物はないかと、あちこちに点在する小屋を、順番にひとつずつ見て回った。



「……部族の廃村か、遺跡なのかな?」



 複数の不思議な建物はあるけど、どこを見ても人の生活しているような気配がない。



「そもそも、ここ、日本ですらないよな?」



 さすがに薄々気づいてはいたんだ。

 

 今も、夢であってほしいし、正直、認めたくないが、俺はどこかにワープしたみたいだ。




 ——転生?違うな、転移ってやつか?




「死んでないなら転移だよな? 鍋あるし」


 背中に背負っている鍋が、カタカタと文句を言っているように感じる。



「お前も、まさかカバン代わりにされるなんて思わなかったよな」


 それを言い出したら、コックコートもエプロンだって同じだ。


 複数立っている小屋の、中央に位置する場所にある室内には、水瓶らしき物がある。



 ——やっぱり廃村だろうな



 瓶には水は全くなかったが、近くに柄杓があったから、多分水瓶だろう。



「水か……無いと死ぬよな」


 仕事が忙しい時は、水分すらろくに取らなかったから、今のところは平気だけど……



「森に……探しに行くか」


 俺は、覚悟を決めた目で、小屋の裏にある森を見つめた。


「椰子の木とかあるかな……」


 熊が怖いので念のため、武器の代わりに鍋の中から、出刃包丁を取り出した。


 包丁の刃を剥き出しで持ち歩くのは気が引けたので、布巾で包んだままベルトに挟んだ。




 森の中は、奥へ進むほどヒンヤリと涼しく、感覚的に近くに水がある気がする。


 しゃくしゃくと膝丈ほどの雑草を踏みしめながら奥に進むと、そこには大きな湖があった。


「うん、やっぱり。ついてるね俺」


 水を求めて湖に近づこうとして、ふと鍋以外には入れ物がないことに気付いた。


 腰高の岩を見つけ、背中から鍋を下ろし、一旦、鍋の中身を確認する。


 鍋の中には


 ▪️砂糖

 ▪️塩

 ▪️小麦粉

 ▪️レモン100%果汁

 ▪️ブラックペッパー

 ▪️オリーブオイル

 ▪️ワインビネガー

 ▪️おろしニンニク

 ▪️ホールトマト缶


 無事だったストックはこれだけ。ストック以外の物は、


 レードル

 キッチンハサミ

 ろうそく

 マッチ



 なんと! 鍋の底に、冷凍用の保存袋が一枚下敷きになっていた!!



「ズボラな俺、最高! 水、汲めるぅ!」


 俺はいそいそと、保存袋とレードル以外は鍋の中に戻し、再び鍋を背中に背負い直した。



 仕切り直して湖の淵へ向かう。


 湖は、とても透き通った綺麗な水だった。


 かなり深いため水底は全く見えないが、水面は日の光を反射してキラキラと輝いていた。


 「かなり深いな。魚もいるのか?」


 屈んで水面に向かって俺の腕を伸ばすと、レードルで水を汲み、少しだけ口に含んでみた。


「……雑味なし。なんなら、美味い水だと思うが、煮沸もせずに飲んで腹壊したらまずいし、とりあえず今は少しだけだな」


 しっかり水分補給したいけど、知らない場所でお腹を壊したくないしね。


 水の状態の確認が済んだので、レードルで保存袋に水を入れていく。


「破れたら終わりだから、少しだけにするか」


 保存袋の負荷を減らすために、水の量は半分くらいまでにしてジッパーを閉じた。


 夜の森は、何が出るか分からないので遠慮したい。俺はさっきの小屋まで、可能な限り急いで戻ることにした。



 隆起してない平坦な森だから、迷わずに小屋までたどり着くことが出来たけど……




「あれは……人だよな?」



 俺が借りようと目を付けていた小屋の前に、誰かが倒れていたんだ。

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