行き倒ればかりだな?
ガバルからハチミツと、巨大なユムシを手渡されてしまい、ユムシを理解したくない俺は目を細め、途方に暮れて遠くを見ていた。
「ガバル、ダメだよ、ここはお店なんだから、ちゃんとユージンにお金を払わなきゃ」
ピコラは、会計をするようにと、ガバルにぐいっと詰め寄った。
「でも、さっきのワームは、オイラが持ってきたやつだぞ?」
確かに、ガバルの言う通り、食材は持参品だし、ハチミツも貰った。
金も貰うのは違うな。
「ピコラありがとう。今回のメイン食材はガバルからの提供だ。ハチミツも貰ったしお金はいいよ。ちょっとユムシに驚いただけだ」
俺の事を考えてくれたピコラに感謝して、金はいらないと説明をしてみたが……
「ガバル、ユージンの労働に対してハチミツだけ?正当な対価を払わなきゃダメだよ!そういうの『やりがい搾取』って言うんだ!」
ピコラは、興奮しているのか、足をタンタンと鳴らしながら怒っている。
「ピコラ、そんな言葉よく知ってたな?」
『やりがい搾取』はあっちの世界の言葉。まさか俺以外にも、同じ時代の転移者がいるのか?
「ボクを助けてくれた商人のおっちゃんが、よく言ってたんだ……」
ピコラは、話しながら泣きそうな顔をし、顔を背けると何かを堪えている。
——ピコラの悲しみは、その商人の事か?
そう感じたけれど、俺は、ピコラにどう声を掛けたらいいのか、正直迷った。
「ピコラの言うことは正しいけど、金を渡してもユージンは人間だ。街中に買い物にも行けないし……そもそもこの辺りじゃ使えないだろ」
ガバルに指摘されて、ピコラはハッとして顔をあげた。
ガバルの言い分を理解したようだ。
「……やっぱり、人間だと色々不味いのか?」
この世界は、そんなに危険なのかと思い、ガバルに尋ねてみた。
「オイラ達は人間が嫌いじゃないけど……支配された奴らは違うから……」
ガバルは、答えにくそうに話すと、気まずそうに目を逸らしてしまった。
「——支配?」
不穏なワードが気になったので、ガバルに聞き返してみたけれど、
「ごめんな、これ以上は言えない」
ガバルは、首をブンブンと振ると、俺を見ることなく回答を拒否した。
「……ユージン、勘違いしないでね、ボク達は巻き込みたくないだけだよ」
ピコラは、ガバルの拒否に俺が気を悪くしないか気にしたのか、耳をぺたんと伏せてガバルのフォローをしてきた。
——しまった、迂闊に踏み込みすぎたな。
「そうか、なんだか気を使わせてスマン。代価は十分だよ。ありがとう」
これ以上はお互いに気まずくなるだけなので、俺はピコラに違う話を提案した。
「なあ、ピコラ、ここで店をやるとしたら、何か必要なものはあると思うか?」
二人の空気が悲しくなっているので、明るい話題がいいかと思い、出店にまつわる話を振ってみた。
「うーん、鍋は足りてる?」
一瞬キョトンとしたピコラは、首を傾げ即座に考えて質問に答えてくれた。
——悲しい顔ではなくなったな
俺は、空気感が変わってホッとしたので、そのまま、自分の要望を答えていく。
「もう少し追加したいな。あと皿とコップが欲しい」
何かと鞄に保存が出来るので、鍋ごとや皿ごと保存するには圧倒的に数が足りない。
「鍋は鉄がないから、今は出来ないけど、皿なら作ればいいよ」
ピコラが俺の欲しい物をメモしていたら、気持ちを切り替えたガバルが参加してきた。
「ガバルが皿を作るのか?」
皿を作るには、形状変化と性質変化かな?
——もしかして、俺にもできるのか?
「木製の皿なら簡単だよ。これはボクが作ったやつだよ」
ピコラは、キッチンにある木の皿を指差し、自分で作ったと報告してくれた。
ここ最近使っていた皿は、ピコラが作った皿だったらしい。
「皿と、カップならオイラ得意だぞ」
ガバルは、そう言って鞄から、皿とカップを取り出した。
「へえ、いい感じだな」
ガバルのカップは、寄木細工のように、色の違う木を使っているのか、オシャレなデザインだった。
「ユージンが気に入ったなら、オイラ、今から料理のお礼に作ってやるよ!」
ガバルはそう言って、森に走って行った。
「じゃあ、お皿とカップはガバルに任せて、ボクは、スプーンとフォークを作るよ」
ピコラもぴょんと跳ねると、急いで森へ走って行った。
「……自給自足には、森は不可欠なんだな」
必要な資源は森の中らしい。
俺は、二人が戻る前に、魔法でガバルから貰ったユムシの下処理をして、ガバルからのリクエスト用に鞄に保存しておいた。
「……使う日が来ませんように」
出来れば忘れてしまいたい……
ガバルとピコラはあっという間に戻ってくると、今はウッドデッキで次々と、器やカトラリーを作成している。
「ピコラ、フォークとスプーン、小さめのも作れるか?」
可能なら、デザート用の小さな物を準備しておきたい。
ピコラは、手元の作業に集中しながら、首だけ頷いて返事をしている。
「ユージン、皿の大きさはこれでいいか?」
ガバルも自分が作っているサイズが気になったのか、俺に確認してきた。
「ああ、可能なら、スープボールと、大小の皿があると助かるな」
希望を伝えてはみたけど、沢山作るのは大変じゃないのだろうか?
「分かった!オイラに任せろ。ピコラ、今日ここに泊まっていいか?」
ガバルは張り切っているのか、泊まりがけで作業をするつもりらしい。
子供に頼りすぎだよな……
「ガバルの予定がないならいいよ」
ピコラは手元のフォークに集中している。
とりあえず、ガバルは今日宿泊する事が決まったようだ。
「ガバル、作ってくれるのは嬉しいけど、そんなに頑張らなくても……」
ガバルに無理をさせたくなくて、俺が話しかけたとき——
ドパーン!!
「ブッハァーん!」
盛大な水飛沫と雄叫びをあげて、水中から勢いよく、ジェリコの巨体が現れた。
俺は、急に訪れた恐怖に思わず固まった。
「あらぁ、ユーちゃん外にいたのねぇ。ちょうどいいわぁ、この子ちょーっと預かってくれないかしら?」
ジェリコは、固まった俺の顔を見るなり、俺の前にゴロンと玉のような物を転がした。
「……なんだこのトゲトゲ、ハリネズミ?」
コロリと転がされた後、目を回したのか、くてっと横たわったのは、小玉スイカサイズのハリネズミだった。
「エリソン!!」
ガバルは、ハリネズミを見ると慌てて近寄り、様子を見ている。
「あら、ガバルじゃない。ピコラ知り合い?それよりも、この子、モグラ穴から落ちてきたけど、逃げて来たのかしら?」
ガバルの穴は、ジェリコの洞窟に繋がっているようだ。
ジェリコは以前、逃げてきた仲間を匿っていると言っていたよな……
「ジェリたん、ガバルはボクの幼馴染だよ」
ピコラも、エリソンに近寄ると心配そうに膝をついて眺めている。
「そうだったのね。ガバルの穴から落ちて来たんだけど、あなたたち。3人とも知り合いだったみたいね」
ジェリコは、思う事があるのか、ふう、とため息をついた。
「なんか、最近行倒ればかりだな。そいつ、エリソンは大丈夫なのか?」
エリソンはぐったりしたままだ。
「……ダメだ、ピコラ、ポーション飲ますから手伝って」
ガバルとピコラは協力して、ポーションを、強引に飲ませはじめた。
「エリソン!起きろ!しっかりしろ!」
ガバルが両手でエリソンを掴み、ピコラが口の中にポーションを捩じ込むと、ガバルは上下に勢いよく振り始めた。
「ちょ、そんな乱暴な……」
エリソンは、まるでシェイカーを振るようにシャカシャカとガバルに振られている。
「ふぁ?ガバル?ちょ、怖っ!!」
ポーションを飲んで目覚めたエリソンは、振り回されている事に慄いている。
「……ハリネズミも話すんだな?」
人型のピコラやガバルと違って、エリソンは見た目はハリネズミそのものだから、ちょっと不思議な気がする。
「あの子は、アタシや、アルプと同じ獣魔族だから、可愛くて知性があるのよぉ〜」
ジェリコが、俺の言葉に反応して、種族説明をしてくれた。
ジェリコと同じ……?
「そうか……同じか」
ジェリコの説明した言葉を、俺は本能的に認めたくなくて軽く流した。
——アルプと同じタイプだな。
ジェリコより、アルプの方が想像しやすい
「あ!よかったぁ、エリソン、いったいどうしたんだよ?」
エリソンの目覚めに気付いたガバルは、手を止めると、抱えたまま尋ねている。
「あ、ああ、ちょっとしくじって……逃げて来たんだ」
エリソンは、悲しそうにガバルに伝えると、キュッと丸くなってしまった。
——逃げてきたって、ピコラと一緒だな?
行倒れは、ガバルを除けば3人目だ……
「エリソンは、もしかして城下町にいたの?」
ピコラは、エリソンの滞在していた場所を訪ねているが、城下町と言われる場所は、危険な地域なのだろうか?
「え?まさかピコラ城下町にいたのか?」
ガバルとエリソンは、ギョッとしてピコラを見つめている。
一方ジェリコは、さっきから黙ったまま、じっと3人の様子を伺っている。
「うん、ボク……」
ピコラは話しかけて、ハッと俺を見て話すのをやめ下を向いた。
——俺には聞かれたくないか。
「僕は南にいたんだ。でも、大人が皆おかしくなってきたし、急に拘束も強くなってきたから、ガバルの穴を使って逃げたんだ」
エリソンは、黙って俯いたピコラの代わりに話し始めた。
逃げたピコラも同じなのだろうか?
——拘束っていったい何だ?
俺、この話、このまま聞いてもいいのか?




