虫は……無理だ!!
必死にピコラに謝り、ぐるぐる巻かれたツタから解放されたガバルは、俺に自己紹介をしてくれた。
「オイラはガバル!モグラ・マグラ族の、地下偵察隊だ! 穴掘りなら負けねぇ!」
ガバルは、穴掘り特化の自慢の手を前に突き出しながら、自己紹介をしているが……
「ガバル!ダメだよ!それ、秘密だよ?!」
ピコラは慌てて、ガバルの口を塞ごうとしたけれど……
——ピコラ、今更遅いぞ
「あ、そうだ。しまった! わりぃ、この事は内緒だ!」
ガバルは歯を見せてニヒヒと笑い、自分の言葉を誤魔化している。
——子供は、警戒心がないのか?
見ているこっちがヒヤヒヤする。
「もう!ガバルは迂闊すぎるよ」
ピコラは、ガバルの頬を両手でつねり、一生懸命注意をしている。
「なんだよ、どうせピコラも、コイツにバラしたんだろ?」
ガバルは、顔を引っ張られたまま、ピコラも迂闊だったろと、言い当てた。
すっかりお見通しのようだ。
「……仲良しなんだな?」
迂闊同士の、似たもの同士か……
「うーん、仲良しと言うか、ボクとガバルは小さな頃から、ずっと一緒にいたんだよ」
ピコラは、ガバルから手を離し、口を尖らせたまま、不満そうだ。
「仲良し?違うな。オイラとピコラは兄弟みたいな感じだ。オイラが兄ちゃんだ。な?」
ガバルは胸を張って答えると、ピコラの肩に手を回したが……
「誰が兄ちゃんだよ! ガバルはボクより、ずっとだらしないじゃないか!」
ピコラはバッと離れると、ガバルに対して不満タラタラだ。
「あ?だってよ、お前の片割れの『リコラ』は、オイラを兄ちゃんって呼ぶぞ?」
ガバルは、自分が兄だといい張っている。
ピコラは眉間にギュッと力を入れて、険しい顔をした。
「それは、ガバルがそう呼べって言ったからだよ! リコラは体が弱かったから、ボクよりも大人しいだけだ……」
どうやら『リコラ』は、自主的ではなく、ガバルが兄と呼ばせていただけのようだ。
「リコラって、ピコラの妹か?」
片割れって事は、もしかして双子なのか?
「うん、リコラはボクの双子の妹だよ! リコラはまだ村にいるはずなんだ。いつか、ユージンにも紹介するね!」
ピコラはニコニコしながら、妹の事を教えてくれた。
——妹は、無事みたいだな?
ピコラが暗い顔をするのは、諜報員の時に、何かあったのだろうな……
「ピコラは……いつの間にか、こっちに帰って来たんだな」
ガバルは真顔になると、俺が気にしているピコラの事情に切り込んで話をした。
「うん……ボクは逃げたんだ……」
ニコニコしていたピコラの顔色が、サッと悪くなった。
「なんで……逃げてきたんだよ……」
ガバルは心配だから話を聞き出そうとしているけど、ピコラは今にも泣き出しそうな顔をしている。
——これは、止めた方がいいか?
ピコラが、自分から話せるようになるまでは、あまり刺激しない方がいいような気がしたので、俺はガバルに話を振った。
「ガバル、お前、穴の中で何してたんだ?」
俺から急に話しかけられたので、ガバルはキョトンとした。
「あ?地下を掘って湖に移動してたら、濃い魔素を感じて、嫌な事あったから、丁度いいと思って顔出しただけだぞ」
それが何か変か?と、ガバルは不思議そうにこちらを見た。
「丁度いいって、なんでガバルは、わざわざ魔力酔いするような事するんだ?」
ピコラから意識が外れたのか、ガバルは嬉々として理由を教えてくれた。
「人間は、嫌な時はないのか?頭がグラグラしたら、嫌な事を一瞬忘れられるだろ?」
ガバルは子供の癖に、酔って忘れるサラリーマンみたいな事を言っている。
「忘れたいような嫌な事があるのか?子供でも、そんな辛い事があるんだな」
一体、何があるんだ?
ガバルは俺をじっと見つめた後、フイと顔を背け、小さな声で
「……人間には、言えない」
唇を噛み、悔しそうにガバルは呟いた。
小さな背中が、これ以上踏み込む事を拒否していた。
「そうか……」
きっと、人間との争いの事なのだろう。
俺にはまだ、この件に対して口を出す資格はない。
「なんだよ、怒らないのかよ?」
黙って引いた俺を見て、ガバルは驚いた顔をした。
ガバルとピコラにとって、人間の大人は本来なら敵なのかもしれない。
でも、そうなって欲しくないからか、縋るような目で俺を見ているのだろうな。
「立場が違えば、言えない事もあるだろ?」
俺だって、ガバルに言えない事がある。
人間相手に警戒するのは当然だと思って答えたら、二人は安心したのか、顔を見合わせて笑っている。
「ガバル、魔素酔い、ピコラがかなり心配していたぞ」
俺は大人のふりして、つい、ガバルにお節介を焼いてしまった。
「……分かってるよ」
ガバルなりに、身体に良くない事は理解しているのだろう。
でも、コイツらにもきっと、やり切れなくなる時があるんだろう。
こんな小さな子供達が苦しんでいるのは、耐えられないな……
「……ガバルも、一緒に飯食うか?」
俺は、ガバルの頭をワシワシ撫でて、気分を変えて食事に誘った。
「メシー! ガバル、ユージンのご飯、最高だよ!サクサクトロトロウマーだよ!」
ピコラは食事に反応して、ガバルをベシベシ叩いた。
「ああ、もう!ピコラ痛い!! なあ、お前、もしかして料理人なのか?」
ガバルは、ピコラの手を器用に避けながら、俺に質問してきた。
「まあ、そんな感じだな」
俺の答えに、ガバルは目を輝かせた。
「お前、なんでも作れるのか?!」
ガバルは、暴れるピコラを後ろから羽交締めにしたまま、興奮して尋ねてくる。
「とりあえず、食材があれば作るぞ?これからは、湖のほとりで店をやるんだ」
俺は店をやる事をガバルに教えた。
「ガバル、店の名前はね『ピッコラ』だよ」
ピコラは嬉しそうに、ガバルに店名を伝えた。
「ふーん、ピコラと似た名前だな?なあ、食材を持って、後から店に行っていいか?オイラ、食べてみたい物があるんだ」
ガバルはソワソワしながら、俺の返事を待っている。
「ああ、いいよ。待ってる」
俺が来店を了承すると、ガバルは即座に足元に穴を掘って、去っていった。
「あー、ガバル、サクサクトロトロ食べずに行っちゃったね?バカだなー」
ピコラは、そう言って、朝作った包み焼きを美味しそうに頬張った。
二人で簡単に食事を済ませ、残っている苗を鞄に入れて、急いで家に帰る事にした。
「ガバル、どこまで行ったのかなぁ?大丈夫かな……」
帰りの道中も、ピコラはずっとガバルを心配している。
ピコラは、ここに来る前に、一体、何があったんだろうな……
アウトドアキッチンを使うために、軽く掃除をしながらガバルを待っていたら、
「お待たせー!食材、持ってきたぜー」
ガバルは、キッチンの横の土の中から、ポコっと顔を出した。
「おう、来たな。よく、丁度いい所から顔を出せたな?」
ガバルは、近いけど邪魔にならない場所を選んだのだろう。
「オイラは鼻が効くし、振動で色々わかるんだ!狙った場所に失敗はないぞ!」
自慢げに地中から這い出てきたガバルは、身体の洗浄をして、近寄ってきた。
「なあ、お前、本当に何でも作れるのか?」
ガバルは鞄からいそいそと、一冊の本を取り出し、小脇に抱えている。
「そんなに珍しい料理なのか?」
何でも出来ると言いたいが、少し不安だ。
「この本で読んだんだ。一度食べてみたくて。オイラの夢だったんだ」
ガバルは本をギュッと抱きしめた。
「とりあえずやってみるけど、一体どんな料理なんだ?」
本にはレシピが載ってるのだろうか?
「確か、名前は『スパゲチ?』だったはず」
ガバルは本を開き、文字を指差している。
「……スパゲッティか?」
書いてある文字はわからんが、発音的に当たりをつけて、ガバルに尋ねた。
「そう、それ!スパゲチ!」
ガバルは、ティの発音がうまく出来ないようだ。年寄りか?
「スパゲッティなら……」
「これ!俺の好物なんだ!これでスパゲチ、つくってくれよ!」
俺の返事を遮り、ガバルが俺の目前に鍋を突き出してきた。
差し出された鍋には……
ウゴウゴ蠢くミミズの大群が……
「……は?」
ありえない光景に、俺は固まった。
「『モグラの冒険』の本に、ワームの赤玉スパゲチが美味いって、書いてあったんだ!」
ガバルは、ハイテンションで本のイラストを見せてきた。
そこには、ミミズ麺にトマトソースがかかっているイラストが……
「いや、待て……は?」
俺は見間違えたと思って、本を取り上げ、もう一度しっかり観察した。
「ワームは好物だからさ、オイラ、いつか食べてみたかったんだ!」
ガバルは、キラキラと夢見る少年の瞳で、俺を見つめてきた。
——食材なら、鑑定出来るのか?
「……か、鑑定」
俺は恐る恐る、鍋の中にいっぱい入っているミミズを鑑定してみた。
▪️アースワーム(ミミズ)
昆虫食を好む種族が好んで食べている。
貴重なタンパク源で薬効が高い。
味は濃厚なナッツのようだと言われる。
◻︎使い方
焼く、茹でる、燻す。
乾燥させると薬効が高くなる。
*備考
薬効:血流改善や、熱や炎症を抑える。
人間が食する場合には、必ず洗浄と浄化を二度行う。やらないと病に倒れる事になる。
「マジか!これ、食材なのか?!」
さすがにショックだ……
「これ、ここに書いてあるだろ?お前ならできるか?」
ガバルが指差している場所に、レシピらしき物が書いてあるが……
——虫は……無理だ!!
俺は、昆虫食には今のところ興味はない。
絶対無理だと思い、断ろうと思って、レシピから顔を上げたら、
ガバルが純粋無垢で、キラキラ期待した瞳をしているのを見てしまった。
——くそ! 断れない!
「……ガバル、食べられない食材はあるか?」
くっ、俺は……料理人だ!
やるしかないだろう?
食べたいなら、望み通り好みの物を作ってやるのがプロだろう!
「ない!オイラなんでも食べるぞ!」
キラッキラな笑顔に負けて、俺はミミズを調理する覚悟をした。




