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異世界リストランテ『ピッコラ』〜宮廷料理人?だが断る〜  作者: 黒砂 無糖
移る。そして出会う。

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一緒に店をやらないか?

第一部最終話

 俺は慌てて、皆に背を向けて、ボロボロとこぼれ落ちてくる涙を、腕で顔を押さえつけることで隠した。



 ——くそっ、涙、止まらないな



 皆が明らかに戸惑っているのが、背中越しに感じられる。



 いい大人なのに、ボロ泣きかよ……



 いくら嬉しかったからって、こんなみっともなくて情けない姿を晒すわけにもいかず、振り返れない。



「ユージン……どっか痛いの?」


 ピコラは、不安そうに声を掛けてきたが、今、声を出すと、余計に嗚咽をあげる事になりそうで、返事すらうまく出来ない。



「グッ……だ、大丈夫———」


 子供が心配しているのだから、無視する訳にもいかず、何とか声を出そうとしたら



「そうだ!ピコラ畑は?フリーゲンと作った畑はどうなったんだ?」


 マハトが、俺の気持ちを汲んだのか、大きな声でピコラに話を振り、泣いている俺から気を逸らせてくれた。



「そうよぉ〜、ピコラもフリーゲンも、さっきまでずーっといなかったじゃない?どこで何していたのよぉ〜」


 ジェリコもマハトと一緒に参戦し、俺が気持ちを立て直す時間を作ってくれている。



 ——気持ちがありがたいな。



「え?あ、えっと、畑をね、すごく大きくしたよ!今までの畑3個分増やしたんだ!フリーゲンが焼いてくれたから、いい畑だよ」


 俺から意識が逸れたピコラは、作っていた畑の説明をはじめた。


 畑を作るのに、フリーゲンは大活躍だったと、ピコラは一生懸命伝えている。



 今のうちに、落ち着かなければ……



 流れ落ちてくる涙をゴシゴシ袖口で拭っていたら、クイクイっと服の裾が引かれた。


 ふと、目線を下げて腰の辺りを見たら



「これ、使ってください。何があったかは分かりませんが、そんな時もありますよね」


 アルプが、ハンカチと、鞄からお茶を取り出し、労いの言葉と共に俺に渡してきた。



「……あ、ありがとう」


 俺が受け取ると、アルプは何事もなかったようにくるっと踵を返し、席に戻って行った。



「ピコラ、畑もいいですが、動物は飼わないのですか?ミルク飲み放題になりますよ?」


 さっさと俺の元から離れたアルプは、しれっと皆の話に参加している。



 ——アルプにも気を使わせてしまった。



 俺は、ありがたさと恥ずかしさが混ざった気持ちを、はぁーっと深く息を吐く事で自分の中から追い出した。



「よし、切り替えだ」



 俺はアルプに貰った温かいお茶を、グイッと一気に飲み干した。



 ——泣いたら、ちょっとスッキリしたな


 俺は、張り詰めていた気持ちに、ゆとりが生まれたような感覚になっていた。



「……ユージン、なんだ、まあ、色々思う事もあるよな。もう平気か?」


 いつの間にかマハトは、アルプに代わりカウンターキッチンの内側に入って来ていた。



 ——マハト……なんか皆、優しいな



 マハトは話しかけながら、魔法でササッと、使った食器の後片付けをしてくれている。


 口調は軽いが、急に泣き出した事が心配なのか、まだ俺の様子を伺っていた。



「マハトありがとう。心配かけたよな。もう大丈夫だ」


 マハトは涙の止まった俺をみて、フッと苦笑いをすると、パチンと指を鳴らし、俺に魔法を発動した。



「何だ?」


 急に目元がスッキリして、泣いて詰まった鼻の通りも良くなった。



「……普通の顔に戻ったから、大丈夫だ」


 どうやらマハトは、涙の影響を受けていた目や鼻を元に戻してくれたらしい。



「はは、サンキュー助かるよ。後片付けもやってくれてありがとう。よし!」


 俺は腕を上げてグッと伸びをして気持ちを切り替え、その勢いのまま振り返った。


 すると、俺に集中していたそれぞれの視線は、慌ててササッと目を逸らした。



「ははっ……いや、心配かけてすまなかった。久しぶりの賛辞に感動しただけだ。気を使わせてごめん。ありがとうな」


 余りにもわざとらしい目の逸らし方に、俺は思わず笑った。


 俺が偽りなく気持ちを話したので、皆安心したのか、穏やかな顔でこちらを見た。



「んも〜っ!ユーちゃんの男泣きなんて見たら、アタシ、キュンキュンしちゃうわよぉ。今度見たら、抱きしめちゃうわぁ〜♡」


 ジェリコがわざと戯けて、短い腕で自分を抱きしめ、クネクネしながら笑っている。



「今後は気をつけるよ。抱擁は……全力で遠慮しておく」


 俺は笑ってお断りした。


 ジェリコの抱擁だけは、勘弁願いたい。



「ユージン!あのね?裏の畑にいっぱい野菜植えたよ!後から見に行こうね!」


 ピコラが、元気になった俺を見てホッとしたのか、嬉しそうに畑に誘ってくれた。



「おー、そうだな。畑はかなり広くなったんだよな?楽しみだ。あ、そうだ、マハト達はこの後は、もう帰るんだよな?」


 本当なら、この後に料理を好き勝手に食べれるように準備していたけど、俺が泣いたせいで頓挫してしまった。



 ——時間ないのに、申し訳なかったな



 さすがに今から、もう一度食べる気分じゃないよな。



「ああ、そろそろ帰らないと……アルプ、さすがにまずいよな?」


 マハトは、この後の予定を思い出したのか、恐る恐るアルプに尋ねた。



「はい……申し上げ難いのですが、ここ数日分のやる事が、かなり溜まっております」


 アルプは、しょぼんとしながら、マハトはこの後かなり忙しくなる事実を告げた。



「そう、だよな……」


 マハトの気落ちした返事に、何となく皆の空気が重たくなった。



「マハト、ジェリコも、さっきの料理は沢山作ったから、持っていかないか?」


 重い空気を一新したくて声を掛けると



「さっきの料理、まだあるのか!?」

「ユーちゃん!本当?!いいの?」


 マハトとジェリコは、カウンターを乗り越えそうなほど身を乗り出してきた。



「はは、勢いがすごいな」



 2人はハッとして、恥ずかしそうにそっと身を引いた。



「ああ、実はかなり沢山作ったんだ。野菜以外の材料は貰った物だ。俺とピコラはまた作ればいい。皆は何が1番欲しい?」


 ——それぞれの好みで分配しよう


 今回のメイン食材はジェリコが持ってきたので、最初にジェリコに目を向けてみた。



「アタシが、また魚を持ってきたら、ユーちゃん作ってくれるかしら?それなら、少しずつでいいわ。後はマハトにあげて♡」


 ジェリコはパチンとウインクをして、料理の大半をマハトに譲るように言ってきた。



 ジェリコのマハトへの気遣いのようだ。



「分かった。魚介類を持ってきてくれたら、いつでも作るよ」


 俺は皿に今日のコース料理を少しだけ多めに盛り付け、ジェリコに渡した。



「あらぁ、こんなに?ありがと♡」


 ジェリコは量が多い事に気付いたのか、嬉しそうに鞄にしまった。



「マハトは、鍋ごとでいいか?そもそも鍋はマハトのだろう?」


 マハトへは、このまま中身入りで鍋ごと返せば丁度いいだろう。



「ああ、そうだったな。ユージン鍋は足りるか?ちょっと待てよ」


 マハトは自分の鞄を漁り始めた。



「ユージン、料理は私が丁重にお預かりいたします。マハト様の鞄はちょっと……」


 アルプがマハトを見て首を振っている。


 マハトの大量の荷物入りの鞄に入ったら最後だと思っているようだ。



「……そうだったな。アルプに任せるよ」


 料理の入った鍋を順番に渡すと、丁寧に鞄にしまっていたアルプがふと手を止めた。



「ユージン、新鮮なミルクは欲しいですか?もし良ければ、その、ミルクをお届けしたら何か、またお料理を下さいませんか?」


 アルプは、俺の作った料理が欲しいのか、交渉をしてきた。



「物々交換か?俺はかなりありがたいけど、アルプは大変じゃないか?」


 ミルクが手に入るし、アルプにも会えるなら、俺には願ってもない事だ。



「ユージン、それなら、必要な物資があれば、都度言ってくれたら、フリーゲンかアルプに届けさせるぞ」


 マハトの提案はかなりありがたい。


 鞄から見つけた鍋を、カウンターに並べながら、笑顔で軽く請け負っているけど……



「料理をするだけで、そこまでして貰うのは、さすがに気が引けるな」


 めちゃくちゃ助かるけれど、マハト達に頼りすぎな気がする。



「ユージン、貴方は我が主人を助けてくださいました。これは、私からのお礼と、美味しいものがまた食べたい私の願望ですよ」


 アルプはそう言いながら、モフッと毛を膨らませた。



「オレモ、タベタイ、キテモイイ?」


 フリーゲンも、配達に来る気満々だ。



「毎回は来れないが、俺もユージンの料理を食べたいから、こいつらが暇な時は、食材と一緒に派遣する。これは、俺の願望だ」



 こんな時だけ、主従でタッグを組むんだよ。



「あら〜良いわねぇ、ユーちゃん、ここお店にしたらぁ?アタシが海産物で、ピコラが野菜、マハトはそれ以外でどう?」



 どう?って、仕入れ先の事か?



「いや、でも仕入れをお願いするにも、俺には金がない……」



 こちらの価値はわからないが、対価が利に合わないだろう?



「ん?料理をくれたらいいぞ?お前の料理には、それだけの価値がある。俺達以外からは金を貰えばいい」


 真剣な表情でマハトに『価値がある』と言われ、思わずドキッとしてしまった。



「……価値、あるかな?」


 だったら、嬉しいぞ。




「ユージン!一緒にお店やろうよ!名前はもちろん『ピッコラ』だよね!」


 ピコラの弾むような声に


 俺は雷に打たれたような衝撃を感じた。



「『ピッコラ』か……」


 いいのだろうか?



「お?なんだ、店の名前か。いい響きだが、何だかピコラに似てるな」


 マハトが、首を捻りピコラを見つめている。



「ピコラとピッコラって、同じような意味なんだって!だから、ユージンのお店と、ピコラは一緒なんだ!ね?ユージン!」


 ピコラは、自慢げに胸を張って、皆に説明している。



「ユージン、どうするんだ?」


 マハトは、どうする?と期待したような目で俺を見つめている。



「ああ……ピコラ、一緒にやるか?」



 俺の願望か……



 ここから、もう一度



『ピッコラ』を復活させてもいいだろうか?





 第一章 終


読んで頂きありがとうございました。


 お話はいかがでしか?一言だけでいいので、コメント頂けたら嬉しいです。

『ピッコラ』は、かなりのんびりと進む話で、他の作品に比べて、1話の文章量もちょっと多かったですよね。


 お時間頂き本当に感謝です。


 一旦、章として区切りますが、引き続きお話は続きます。


 これからも、よろしくお願いします。


 黒砂無糖


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